変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
変身忍者嵐と変身忍者千恵は、それぞれ変身を解き、ハヤテ、千恵の姿に戻った。
そして変身を解いた二人の前に、直ぐに黒装束姿の千秋が進み出て、その前に立つ。
そして千秋は決意をこめた表情で二人に、まずは挨拶をする。
「ハヤテさん、お久しぶりです。そして、千恵さんですね、初めまして」
千秋は深々と頭を下げる。
「あらためまして、私は伊賀百地組の組頭、百地源太夫の長女、千秋といいます。この度は父、源太夫の使いとして、江戸より一日半かけて、やってまいりました」
ハヤテは驚いた。
江戸からここまでは、おおよそでも約十六里(約63km)の距離がある。
一刻(約2時間)で、二十五里(約百キロ)を余裕で走ることが出来るハヤブサオーの俊足なら、いざ知らず
普通の人の身であれば、どう考えても二日ほどの時間を必要とする距離である。
「千秋さん、余程急を要する何かがあったのか?」
挨拶も抜きに、ハヤテは単刀直入に、そう問いかけた。
「はい!」
キッパリと千秋は答える。
「血車党が、我が江戸在の公儀隠密に対して、直接の挑戦状を叩きつけてきました」
千秋の表情は緊張感に満ちていた。
これは聞き捨てならぬと、千恵も千秋に対して尋ねる。
「千秋さんですね。あらためまして、私は千恵と申します。少し前までは、その血車党にいた人間です」
その千恵に対して、千秋は
「はい!、千恵さん。事情はタツマキさんからの鳩による定期連絡の書状で、既に江戸の伊賀組屋敷の方でも存じています」
「えっ?」
千恵は一瞬驚いたが、同時にやはりとも思った。
千恵だって、タツマキが江戸とのあいだで伝書鳩を通じて連絡を取り合っていたことくらいは知っている。
千秋は続ける。
「そして、私は伊賀百地組の意を千恵さんにお伝えするために、こうして走って参りました」
そこまで言ったあと、千秋は
一昨日の夜、江戸の伊賀組屋敷で起きた『伊賀忍者天馬の自爆による火災事件』の詳細と、伊賀上忍三家、百地、服部、藤林の足並みが乱れていることなどを包み隠さず
目の前のハヤテと千恵に伝えたのだ。
そして、その後ろにいるタツマキ、カスミ、ツムジも、それに聞き入っている。
これは容易ならざることが江戸で起きている
この場の皆がそれを認識するのに時間はかからなかった。
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千秋は続ける。
「父、百地源太夫は一刻も早いハヤテさん、千恵さんの江戸到着を希望しています。そのためには途中で多少の問題があったとしても、それは無視してもいいと!」
そう言って千秋は懐から書状を取り出した。
「私は当地の代官所に到着すると共に、直ぐにこの書状を見せ、代官の河野様と急いで面会をし、此度の出馬をお願いした次第です」
この時代、徳川家天領の代官は大きな武力を持つことを禁じられており、結果として治安のための警察力も十分ではない状態であった。
故にハッキリとした大事が起きなければ、代官も簡単には動けない。
なお、天領における代官に大きな武力を持たせないことは、この後も徳川家の方針として一貫して続く。
「とにかく、この馬入、田村の両渡し場で立ちふさがっていた血車党の一味は、今、壊滅しました」
千秋は強引に結論づける。
そして
「さすがに日没後の今からは無理でも、明日、早朝にでも早速、ハヤテさん、千恵さんには江戸に向けてご出発いただき、明日の昼には江戸四谷の伊賀組屋敷まで行っていただけるよう、お願いしたく存じます」
と言い終わったあと、千秋は再び深々と頭を下げた。
「この先、大きな河川は多摩川くらいであり、ここには御公儀が架けた橋があります。ハヤブサオーの俊足があれば明日の昼までの江戸到着も可能なはず」
それを聞き、思わずハヤテは、簡単に言ってくれるなよ、という表情で千秋を見てしまった。
「あの?、ハヤテさんなら話もわかるんですけど」
千恵が疑問に思って千秋に質問する。
「私も一緒に、ということなんですか?」
千秋は即答する。
「はいっ!」
そして
「千恵さんが術により一度行ったことのある場所であれば、短い時間で移動することが出来るということは、タツマキさんからの報告で、少なくとも父、百地源太夫は知っております。そしてハヤテさんの愛馬、ハヤブサオーなら一刻ほどの時間があれば、十分に江戸に着けるということも」
ハヤテがそこで
「千秋さん!」
と釘を指す。
「それは、あくまでも私が変身忍者嵐となった上で、ハヤブサオーと共に一騎で駆け抜けた場合の話だ。千恵さんが同乗した場合に同じ速度を出すことは出来ないし、危険だ!」
が、千恵はその横から
「ハヤテさん、私なら多少の無理は平気ですよ。言うまでもなく、私もまた、人の身ではありませんから」
と、ハヤテに向かって言った。
「千恵さん‥‥‥‥」
ハヤテは思わず千恵の顔をまじまじと見てしまう。
「大丈夫ですよ、私はハヤブサオーのことは信頼していますから!」
あえて断言する千恵。
そして
「千秋さんは、ハヤテさんと私が江戸に着いた後、直ぐに私だけこちらに戻って、タツマキさん、カスミさん、ツムジさん、そして千秋さんと一緒にもう一回江戸に行ってほしい、こう希望しているわけですね」
と千秋に聞き返す。
「はい。そして、それは父の希望でもあります」
千秋は、千恵に向かって懇願するような表情をする。
「勿論、私たち伊賀忍としても手をこまねいているわけではありません、血車党一味の江戸入りを手引きした者がいるはずですし、その洗い出しも進めています。けれども、冷静に考えても」
千秋はそこでいったん言葉を切ると
「ハヤテさん、そして千恵さんの力が、私たちには必要なんです!」
と言い切った。
千恵は、それを聞いて頷く。
「私もいろいろ思うところはあります。けれど、今は」
そして千恵はハヤテの方を振り向き
「千秋さんのおっしゃる通り、ハヤテさん、そしてハヤブサオーと共に江戸へ急行したいと思います。ハヤテさんもそれでいいですよね?」
と確認する。
ハヤテも腹を決めた。
「ああ、私は千恵さんがそれでいいというなら異存はない。ただ、言っておくが、ハヤブサオーの本気の走りは、かなりキツいぞ!」
千恵は笑う。
「大丈夫ですよ」
それまで固くなっていた千秋の表情が明るくなった。
そして千秋は、ハヤテと千恵に向かって
「ありがとうございます!、よろしくお願いいたします!」
と、また深々と頭を下げた。
本当に頭くらい何回下げたって構わない。
ここでタツマキが
「よしよし、明日はそうするとして」
と手を叩くと
「さて、今晩はどうするかの?」
と、この場の皆を見渡しながら言った。
「宿泊先なら河野様の方で‥‥」
と千秋
「いや、この周辺の旅籠では収容しきれないほどの大人数がいたはずた。渡し船だって、本当は待っている人たちのことを考えると、むしろ我々は野宿した方がいいかもしれない」
とハヤテ。
そこへ
「ご心配には及びませぬぞ」
松明を持った従者たちと共に馬に乗った河野代官が姿を現す。
「周辺の戸田、大神、四之宮、それに多くの民家にも掛け合って協力いただき、何とか皆さんの今晩の寝床くらいは確保しましたぞ」
にこやかに言う河野代官。
そして
「大事の前には気持ちを落ち着けることも、そのための場所も必要。では、この河野がこれより皆さんをご案内いたしましょう」
タツマキがこの場を代表して、河野代官に礼をいう。
「河野殿、忝ない!」
河野代官は手を振る。
「なんの」
こうして一行は、河野代官の案内のもと、今宵の宿泊先に向かうことになった。
そこへ向かう途中にツムジが千恵に聞く。
「ねえ、千恵お姉ちゃん、この前から聞きたかったんだけど?」
千恵は
「なあに、ツムジさん?」
なんだろうと思って、ツムジに聞き返す。
「最近、千恵お姉ちゃんは変身しても、あの『イーヨー』っていう叫び声をあげなくなったけど、それは、やっぱり、千恵お姉ちゃんが『変身忍者』になったからなのかな?」
思わず千恵は笑ってしまった。
そんなことは自分でも気にすらしていなかった。
「ふふふっ、ええ、ツムジさん、きっとそうよ」
それを横で聞きながら、カスミもクスクス笑いをする。
そのうちに
今宵の宿泊先が目の前に見えてきた。
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馬上の河野代官と、その横で松明を持つ従者たちの先導のもと、ハヤテたち一行は暗い夜道を歩いて宿に向かう。
そして、田村の渡しから少し離れた四之宮神社のそばに、その宿はあった。
四之宮神社はこの辺りでは有名な神社であり、小さいながら門前町もある。
が、その宿の前で、明らかにハヤテたち一行が来るのを待ち受けていた親子連れがいた。
「佐吉さんと紅葉ちゃんじゃないか!」
思わずハヤテが声をあげる。
そして馬上の河野代官に
「あの親子連れも、今晩この宿に泊まっていくんですか?」
と尋ねてみた。
「いや、あの者たちは、むしろ田村の渡しに近い旅籠に泊まっているはずだが?」
河野代官も不思議がる。
そこで紅葉が
「お姉ちゃあーん!!」
と、明らかに千恵の方に向かって大きく手を振る。
紅葉は本当に嬉しそうな笑顔を見せていた。
一行の先頭にいた河野代官が立ち止まる。
「お前たちは田村の旅籠に泊まったはずではなかったのか?」
河野代官を目の前にした佐吉が、多少気後れしながらも、勇気を出して前に進み出る。
「こちらの前鳥宿に泊まるはずだった別の家族連れと交代してもらいましただ。今、いらっしゃった、先ほど悪人たちを退治してくれた御公儀隠密の人たちが、こちらにお泊まりだということを教えてもらったんで」
「なるほど」
河野代官も、佐吉と紅葉の親子を無下にはしない。
「で、どうするつもりなのだ?、助けてもらった御礼を直接言いたいというなら、それも分かるが‥‥」
佐吉は、すぐ傍の紅葉を見ながら、ゆっくりと答えた。
「勿論、それもありますだ。あの白カラスの化物や、黒覆面の忍者たちに捕まり、命の危険まで感じていたのを、こちらの皆さんで助けてくださったわけですから。んだが、それだけじゃねえ」
そこで紅葉が千恵に向かって言った。
「お姉ちゃん、紅葉の新しいお母さんになって!、お願い」
紅葉の顔は真剣で、そして感情が紅潮しているのか、その顔は真っ赤になっていた。
流石に千恵はこれを聞いて
そして、河野代官に向かって
「河野様、もし差し支えなければ、私に佐吉さん、紅葉ちゃんと直接話をさせてもらっていいですか?」
と、頼んでみる。
「まあ‥‥、わしは構わないが‥」
と河野代官。
「ダメです!」
と忍び装束姿のままの千秋が反対する。
「千恵さんには明日のお昼までに江戸に行っていただかなくては‥」
千秋がそこまで言いかけたところで
「千秋さん!」
すかさずハヤテが叱責するかのように、千秋に向かって言った。
「貴女が、それを千恵さんに強制するのは間違っている!」
それに対して千秋は
「でも‥‥」
と言いつつ、助け船を求めてか、タツマキとカスミの方に懇願するような視線を向ける。
が、タツマキは千秋に対して
「千秋殿、別に千恵殿が佐吉殿、紅葉殿のお話を聞くことのどこがいけないのかな?」
と諭すように言う。
カスミも
「千秋ちゃん、大丈夫よ。千恵さんは一度した約束は守ってくれますし、そういう千恵さんだからこそ、お願い出来るんじゃないですか?」
と千秋を宥める。
ツムジも
「千秋さん、紅葉ちゃんと、佐吉さんの話くらい聞いてあげようよ」
と言う。
心ひそかに援護射撃を期待していた三人からもこのように言われては、千秋も不承不承ながら折れざるを得なかった。
「わかりました‥‥」
千秋は唇を噛む。
皆の、その様子を確認した上で、千恵は佐吉と紅葉の前に立った。
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「紅葉ちゃんは、お父さんと私に
千恵は紅葉の顔を見つめた。
「うんっ!」
紅葉はとても嬉しそうに笑顔を見せる。
「紅葉っ、お姉ちゃんとお別れしたくないの!、おとっつあんも、それでいいって言ってくれたんだよ」
それを聞いた千恵は、今度は佐吉の方を見る。
「佐吉さん、本当ですか?、紅葉ちゃんの気持ちはとにかく、私のようなものと夫婦になりたいなんて‥‥」
佐吉も真剣な顔をして答える。
「あんたは美人だし、本当は俺なんかには勿体ないかも知れねえ」
と前置きした上で
「俺は二年くらい前にそれまで連れ添った妻を亡くして、今は紅葉と二人だけだ。行商などで暮らしをたてている。でも、もし、あんたみたいな
と、その意気込みを語った。
それを聞いた千恵は戸惑う。
「美人だし、って‥‥、私が蛾の化物の姿に変身するのを佐吉さんだって見ていたでしょう?、気味が悪いとか思わないんですか?」
佐吉はキッパリと答えた。
「思わねえだ。むしろ、悪党どもと戦っている姿を見て、綺麗だとさえ思った」
千恵は少し考え込むと、佐吉に対して慎重に答えた。
「私は、その悪党どもに命を狙われ、追われている身なんです」
流石に佐吉も表情を変える。
そして千恵は説明を続けた。
「私は、ここにいる皆さんの助けで、本当ならとっくに地獄の業火に焼かれて死んでいるはずだった身なのに、今もこうして生きていることが出来ています。この御恩を、まず返さなくてはいけません」
ここでハヤテが言う。
「千恵さん、別に御恩なんて‥‥」
千恵はハヤテの方を振り向き、穏やかに微笑んだ。
「御恩でなく、『お気持ち』と言いかえてもいいんですけど‥‥、偽らざる、今の私の心情です。そして、私はここにいるハヤテさん、タツマキさん、カスミさん、そしてツムジさんがいてくれたからこそ、今も胸を張って生きていることが出来ています!」
ハヤテは何かを言いかけたが、考え直したのか黙った。
そして、そこまで言うと千恵は、あらためて佐吉と紅葉の方を振り向く。
「そして、私は、私の命をつけ狙う、あの悪党たちと戦い、自分自身の平穏を勝ち取る必要があります。今のままだと、たとえ佐吉さんと夫婦になったとしても、あの悪党どもとの戦いに、佐吉さん、紅葉ちゃんを否応なく巻き込んでしまいます」
そして千恵は、今度は千秋の方をチラリと見る。
その上で佐吉に言った。
「今、私はこちらの千秋さんから、その悪党どもが江戸を騒がしており、それを鎮めるために力を貸してほしいと言われています。正直、私なんかにどれほどのことが出来るのかわかりませんけど‥‥」
ここぞとばかりに千秋が佐吉親子に向かって言った。
「もしも江戸の御公儀が悪党どもに倒されてしまったら、皆も今まで通りの平穏な生活は出来なくなってしまいます。伝え聞く戦乱の世に逆戻りです。そうならないためにも、今、私たちはここにいる千恵さんの力を必要としているんです。勿論、千恵さんだけではなく、皆の力が必要です」
それを聞いた佐吉は、あらためて千恵を見ると、思わず嘆息した。
「あんた、若いのに大変なものを背負ってしまっているんだな‥、無理を言ってすまなかっただ‥」
そこまで言った佐吉は、千恵に向かってペコリと頭を下げる。
途端に紅葉の顔は悲しそうなものに変わり、涙で顔を濡らし、泣き顔で表情をくしゃくしゃにした。
「紅葉ちゃん、泣かないで」
千恵が紅葉の髪を優しく撫でる。
紅葉は少し、嬉しそうな表情を取り戻した。
「もし、私に運があって生き続けることが出来れば、きっと、また会えるから」
紅葉は
「きっとだよ!」
と千恵に念を押す。
「ええ、約束するわ」
千恵は紅葉を抱き上げてあげた。
紅葉は、とても嬉しそうだった。
「だから、今はお姉さんを江戸に行かせてね」
と千恵。
「うんっ!」
紅葉は、やっと頷いた。
「さて、皆様、それでは宿に入りましょうぞ。宿の者も遅い時間に待ちくたびれておりますぞ!」
河野代官が促す。
こうして一行と、佐吉、紅葉の親子は
ようやく宿の中へ入ることとなった。
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ハヤテたちは宿に入ったところで
「では、拙者も代官所に戻って残務処理をしなくてはいけませんので」
という河野代官と別れることとなった。
とりあえず、この宿にも厩舎があるので、ハヤブサオーの寝床も確保できたのは何よりである。
「すみません、急なことでお握りくらいしか用意できませんけど‥」
宿の者が恐縮しながら、皆の分のお握りを用意して持ってきてくれた。
「お気遣いありがとうございます」
タツマキが皆を代表して返事をした。
その上でハヤテ、タツマキ、カスミ、ツムジ、そして千恵の五人は、有り難く、宿で用意してくれたお握りを御馳走になる。
「ツムジも、これくらい、ちゃんとしたお握りを握れないとね」
笑いながらカスミが言う。
「てやんでえ!」
とツムジ。
「ツムジさん、この間のお握り、美味しかったですよ」
と、千恵がフォローに入った。
が、カスミはそれをさりげなく聞き流すと、ハヤテの方を向く。
「ハヤテさん、あの、さっきの風華という嫌みなおばさん、本当にハヤテさんの姉上なんですか?」
そのカスミの質問を受けて、ハヤテは渋い顔をする。
「母親は違うが、本当だ。私の母上が、父、谷鬼十に嫁いだとき、あいつの母はもう亡くなっていた‥‥」
再婚ということなのか‥‥
だとすると、ハヤテと風華の年齢差は見かけよりもあるということになりそうだ。
それにしても、仮にも『姉上』であるはずの風華に対して『あいつ』と表現するハヤテの気持ちとは‥‥
「確か、ハヤテ殿の母上は行方不明になられているとか」
とタツマキ。
千恵は知らなかったので、少し驚いた。
そういえば自分はハヤテの身の上について、よく知らないままだ‥‥
血車党では、医術班の先代の頭だった谷鬼十と、その息子のハヤテは、党の裏切者であり、血の掟により制裁を加えなければいけない、という説明はなされていたが
現在の医術班の頭である風華が、その谷鬼十の娘であるということは、特には言われてなかったような気がする。
考えてみれば、その方が自然ではあるのだが‥‥
が、ハヤテは行方不明の母についてはふれず
「私が物心ついたとき、もう、あいつは年少ながら、父、鬼十の助手のようなことをしていた。その後も忍術を極める道へ私が進んだときも、あいつは医術の道を極めたいということで、ずっと父上の助手をしている。だから、こと医術のことに関しては、今の血車党には、あいつ以上に詳しい奴はいないはずだ」
と、風華についての説明を続ける。
「それって、じゃあ?」
ここでツムジが口を挟む。
「もしかしたら、あの風華さんって人がいなくなったら、血車党は化身忍者を作れなくなるんじゃないの?」
このツムジの指摘に、ハヤテは
「恐らく、そうだと思う。が、血車党なら、そうなればなったで、別の手を打ってくるとは思うが‥‥」
と答えた。
「そう‥‥」
とカスミ。
「逆に言うと、あの人がいるからこそ、血車党は新しい化身忍者を作り続けることができるわけね」
その言葉に千恵が反応した。
「ハヤテさん、風華さんは自分の意思で血車党に残ったんですか?、私も風華さんによって化身忍者に改造された身です。気になります‥‥」
ハヤテの顔がいよいよ苦渋に満ちたものとなった。
「あいつは自分から進んで血車党に残った。いや、それだけではなく」
嫌なことを思い出すようにハヤテが言う。
「自ら進んで、父上と私を殺そうとさえしたんだ。家の食事に毒を盛ったりもした。父上と私は、それを知って、これ以上血車党に留まるべきではないと決断せざるをえなかった」
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これには、その場の皆が驚く。
「あいつは今の魔神斎、そして流れ者だった骸骨丸と結託して、今のような血車党を作り上げた、その一人だ。そして、あいつは、父が原案を作った『化身忍者の創造』に魅力を感じ、それに取り憑かれている。そして、あいつは医術の発展のためなら、最初から人をその実験台にしてでもやるべきだという信念の持ち主だ」
ハヤテはそこで、最初に言い出したカスミの方を見る。
「カスミは『同じ医術を学ぶもの』として、あいつのことをどう思う?」
カスミは、少し思案して答えた。
「私は、あの人からは『医は仁術』であるという『心』を感じません。とても『邪悪な心』を感じます」
それを聞いてハヤテは
「そうか‥‥」
と呟いた。
「まだ血車党にいた時だが、この私も、あいつに騙され、危うく化身忍者にされるところだったんだ」
それを聞いたタツマキが
「ハヤテ殿は、自ら進んでお父上であらせられる鬼十殿の執刀を受け、『変身忍者嵐』となったとおうかがいしておりましたが‥」
とハヤテにいうと
「ああ、その通りだ」
とハヤテが答える。
「ただし、私がその決断をするきっかけになったのが、風華、いや、風華たち、今の血車党との決別だ。私は『仁術の心を持つ』父上になら、改造されてもいいと思った」
これを聞いた千恵は、かつての自分が『復讐』のために、自ら進んで血車党の化身忍者となったことを、あらためて思い出してしまった。
本当に自分とハヤテには、なんという違いがあるのだろう?
血車党の化身忍者になることで自分がなそうとしていた『復讐』なるものは、なにほどの価値があったのだろう?
そんな『復讐』をしたとして、それで亡き父や母、そして大助は、本当に喜んでくれたのだろうか?
そして
血車党は、自分がいようが、いまいが
今の世の中を支配するために、今日もどこかで善良な人々を苦しめているのだ‥‥
そんな千恵の内心を見透かしたかのように、ハヤテが言った。
「千恵さん、明日は大変だと思うが、頼む。江戸で血車党が大がかりな行動に出ているなら、私たちは、それを止めなければいけない」
それを聞いて、千恵はキッパリと答えた。
「はいっ!、私が自分で言い出したことですから」
それを聞いて、ハヤテは頷く。
「悪いが、風華の話は、今はここまでにさせてくれ。いずれにしても、今は明日の江戸行きを最優先に考えたい」
この場を代表してタツマキが答える。
「ハヤテ殿、わかりもうした。そうしてくだされ」
ハヤテは、タツマキのその言葉に礼を言う。
「ありがとう」
そして
「明日の備えもある。今日は早めに休むことにしたい」
とハヤテ。
考えてみれば、今日は血車党との死闘で、皆、疲れているのだ。
「そうしてください」
と、それまで無言だった千秋が言った。