「これ、性研ゼミでヤったところだ!」 恋の駆け引きから挿入まで、ドスケベ教育講座【性研ゼミ】で完全習得! キミ専用のオ○ホ先生と一緒に、最高の学校性活を手に入れよう! 作:ダザリアン
映画は無難に面白かったが、感想がスラスラ出て来るほど内容は覚えていない。きっと彼女も同じだろう。ポップコーンの中身は減らないまま。
さて、次はカフェで休憩。
駅ビルには沢山の食事処があり選択肢には困らない。映画が終わる時間を想定してプランを練ったから、どこでも好きな場所に入れそうだ。
美桜が借してくれた追加予算もあることだし、少しリッチな店を探してみても良いかもしれないな。
「ここも駄目か……ッ」
「日曜日だもの。仕方ないわよ」
と、思っていた。
この楽観的な考えは裏目に出る。
選択肢の多さに浮かれ、すぐ店を決めなかったのが仇。目に付いたブティックに寄り道したり、それはそれで楽しかったが……流石に余裕扱き過ぎた。
ユメ先生が提案してくれた第一候補のお洒落なカフェは、どの時間帯も比較的空いている穴場スポット。ところが、まずここが撃沈。
保険としてリストアップしていた十数の店舗も、すべて満席。行き先が無くなってしまったのだ。
「ごめんね歩かせちゃって、脚とか痛くない? 新しい靴だと大変でしょ? 鞄とか持とっか?」
「ううん、平気。昨日ちょっと慣らしたから」
「そ、そうっ? でも疲れたら、遠慮しないで言ってね。暑いし汗も掻いちゃうだろうしさ……!」
「……っ」
山田さんも戸惑った表情。
次第に焦りを隠せなくなる。
これじゃ先生たちと考えたデートプランも、頑張って背伸びしたエスコートも台無しだ。
(ま、不味いぞ……疲れさせたくないのもそうだけど、山田さんをあんまり人に見せびらかしたくないんだよな……ちょっと無防備な格好だし)
なんせ今日は、性研ゼミのテキストを持って来ていない。彼女の前で先生たちは呼び出せないし、一人で待たせる方がよっぽどリスク。
本当に俺って奴は、すぐこうやって調子に乗るから駄目だ。こんなことなら、もっと早く『デート』科の勉強を進めるべきだった……うん?
「望月くん……ごめん」
「えっ? な、なにが?」
すると突然、袖をツンと引っ張られた。
山田さんは申し訳なさそうに俯いている。
「昨日のうちに伝えるつもりだったんだけど……お洒落なカフェを見つけたって、言ってたから……でも、いつもの流れで作っちゃって」
もう片方の手に引っ提げた、少し大きめの鞄。
掴んだ袖と交互にチラチラ目配せしては、その存在を必死に俺へ訴えているようだ。
いつもの流れ……って、もしかして?
「……外で、食べないっ?」
風情溢れる観光地の中にポツンと佇む、緑豊かな公園。海が目の前にあり、少しお高いがクルーズ船や水上バスなんかにも乗れる。
にしても、山田さんから言い出すとは。予定のプランよりだいぶ早く訪れたが……想像以上に人気が少ない。この時間帯で逆に正解だったかも。
「ごめんね待たせて。じゃあ食べよっか」
「急な連絡? 大丈夫?」
「まぁちょっとね。気にしないで」
いざという時の準備も済ませ、待望のお弁当タイム。昼休みの屋上とはまた違う高揚感だ。映画館に増して迸るデートっぽさ。胸が弾む。
陽射しが強く結構暑いが、海近だから風が程良く吹いて気持ち良い。視線には気を付けないと……でも、捲れたりしないかな。こっそり。
「うわぁっ、美味しそう……!」
「卵焼き好きって言ってたから、いっぱい入れてみたの。ハンバーグも好きでしょ?」
色鮮やかな二段重。俺の好物が所狭しと敷き詰められている。反対に彼女は、屋上で食べている時よりもかなり小さいお弁当箱だ。
余った分ではない。今日のために、俺のためだけに作ってくれた、山田さん手作りのお弁当……あまりの感動で、目頭がつい熱くなる。
「冷めてないかなっ……ひと口だけ良い?」
「え、うん。勿論」
「んっ……大丈夫っぽい。じゃあ、はい」
箸に摘んだ卵焼き。
口元まで寄せてくれる。
これって、もしや。
「すっごく美味しいよ。前よりもっと甘くて」
「ホントっ? 良かった……」
「あ〜んのおかげかもね」
「いっ、言わないでってば!?」
スッと箸を引いてしまう。
でもやってくれた。今どきバカップルでも控えるような、そりゃもうコテコテのやつ。
俺の赤面癖をどうこう言えないくらい、山田さんも頬が真っ赤だ。慌てて自分のお弁当箱へ手を伸ばすが、指先までぷるぷる震えていた。
(そっか……あの時も、確か)
赤シートで覗いてしまった本音。
導き出されるは、手作り弁当を夢見ていた俺と同じくらい……彼女もこの瞬間を待ち焦がれていたという、隠し切れない確固たる事実。
否。もはや一端に過ぎないのだろう。
今日まで数週間、性研ゼミで本当に多くのこと学んだ。性技や自分磨きだけでなく、女の子の心の機敏と察し方。どれもテキスト通り。
これだけのヒントを前に、いつまでも鈍感なままではいられない。激しく脈打つ心臓の鼓動が、むしろ後押ししてくれるみたいだった。
「ねえ……覚えてる? 4年生の時、この辺りに社会見学で来たこと。お昼はここの公園でシートを広げて、持ち寄ったお弁当を食べたの」
「覚えてるよ。俺、クラスの友達とはぐれちゃってさ。弁当も忘れちゃって、ずっと芝生で寝てた」
「知ってる。見てたから」
ふと隣を向くと、山田さんは箸を止め、どこか寂しそうに微笑んでいた。実質的な幼馴染とは言いつつ、決して多くはない二人の思い出。
それもその筈。俺たちはクラスが同じなだけで、滅多に会話もしない。偶に行事やイベントで一緒になるとか、精々その程度の関係性。
そう思い込んでいた。
でも、違った。
彼女は持っている。俺が知らなかった、気付きもしなかった、二人だけの特別な思い出を。
両手では抱え切れないほどだ。
「あの時もね……お弁当、作ってたのよ。望月くんの分。お母さんが忙しくて用意してくれないって、友達に話してるの聞いてたから」
「……そうだったんだ」
「でも渡せなかった。だって望月くん、勝手にお昼寝してるって、みんなに冷やかされていて……そのタイミングで行ったら注目されちゃうし」
「ごめん。気付けなくって」
「結局、家に帰って自分で食べたんだから……! 馬鹿みたいよねっ、今でも同じことしてさ! 聞いて来た子に言い訳するの、大変なのよ?」
「マジでごめん。本当に」
驚くには驚いたけど、思いのほか冷静に受け止めている自分もいる。もっと慌てた人が目の前にいたら、自然とそうなるものだ。
或いは単に、現実味が無さ過ぎるだけなのかも。今日までの数週間は夢のような日々だったが、今この瞬間こそ、まさに夢そのもの。
嗚呼、ヤバい。しまった。
たぶん今、泣いてるや。
「だいたいねっ……! 望月くんいっつも、あたしばっかり見過ぎなの! 小学校の頃も、絶対にあたしのこと好きだよって、みんな茶化して来るし……! だからあたしっ、幼馴染で本当は仲良しなんだって、必死に言い訳してたんだからっ!?」
昂る感情。声の大きさ。
もう制御できないらしい。
あの日の放課後、そんな風に俺たちの関係を称したのには、彼女なりの理由と事情があった。
「だってあたし、恋愛とか、誰かと付き合うとか、そういうキャラじゃないもんっ……! 望月くんにも、迷惑だと思って……っ!」
「……ちなみに、いつから?」
「分かんないっ! 分かんないよそんなの……! でも、2年の時には絶対そうだった! 他の男子の告白すぐ断ったし……! バレンタインだって、義理チョコの一つも配ったこと無いんだからっ!?」
広げた箱をさっさと片付けてしまい、山田さんはこちらを向いてハッキリと俺を見つめる。
可愛いな。泣き顔も。
もしかして俺、こういう表情が一番好きかも。
それこそ小学校の頃、真面目に授業を受けない男子と言い争って、泣いたりもしていたもんな。
教室の隅でしょぼくれる彼女に、ついぞ声を掛けられなかった。大丈夫だよ、俺は味方だよって……本当はずっと言いたかったんだ。
やっぱり嘘。
俺はただ、守ってあげたかった。
泣き顔よりも、笑顔が見たかったから――。
「もう叶わないって、勝手に思ってるだけの幼馴染で終わるんだって、諦めてたのに……! 仲良くなりたいとか、急にやめてよぉっ……!」
「……山田さん」
「そんなのズルいっ。ズル過ぎるもん……! なんで急にカッコよくなっちゃうの? 男らしくなっちゃったの!? ねえっ、なんで!?」
喉を震わせ、思いの丈を叫ぶ。
ハンカチを取り出す暇も無い。
「決まってるよ、そんなの。山田さんに振り向いて欲しくて、一から勉強したんだ。この二週間くらい、凄い頑張ってさ……迷惑だった?」
「迷惑なわけないでしょ! ばかっ! これ以上、あたしを喜ばせないでっ……! こんなに夢中にさせて、責任、取りなさいよぉ……!」
最後の最後。肝心な言葉だけが、綺麗な涙と共に真っ白な素肌へと落ち、やがて溶けていく。
それ以上、彼女は何も言えなくなった。
もう十分だ。ヒントどころか、答えを半分。いや99パーセントは教えてくれた。ここまで頑張らせてしまったのだ、残りは俺が担おう。
「奏音って、呼んでも良い?」
「っ……! こないだは呼んでたっ!」
今更な話題だと、少し怒ってもいたのだろう。
ハッと顔を上げる。そして、すぐ目を見開かせた。これだけ近付いているのだから当然か。
不思議だ。あんまり緊張しない。
性研ゼミで何度も予習したから?
違うか。感動が勝っているだけだ。
彼女の美しい顔を間近で見れて、ただただ嬉しい。それだけで頭がいっぱいなんだと思う。大きくて綺麗な瞳。今にも吸い込まれそう。
「奏音。俺、ずっと前から……」
互いの小刻みな呼吸が近付く。
まず先に、掌が重なった。
予定よりもかなり早い、デートの結末。
誰にも邪魔されない、二人が待ち望んでいた最高のハッピーエンド……その筈だった。
「――おぉっと! カップル発見~!」