前世は地獄、今世は天国? 346プロの色欲神プロデューサーの受難 作:ヘルメス・トリスメギスタス
「とりあえずこんなところか」
俺はありす達のデビューライブの為に、様々なことを行っていた。
ライブ会場の使用申請、交通整理等のガードマンの手配、
周辺住民へのライブ開催の説明、ポスターの設置依頼etc………
許可申請の書類が多く、申請場所も違うから厄介だった。
ちひろさん達の力を借りれれば良かったのだが、あちらは人気アイドルのライブのため、
より大規模に許可申請等の書類の用意等が必要なため手が回らない状態だ。
より価値のある方へ人員を集中させる。当たり前だが歯がゆさも感じる。
トリニティはまだ価値がないと言われていると同じだ。
絶対にトリニティを人気アイドルグループにする。ありす達の努力なら可能なはずだ。
俺はそう心の中で決意し、街を歩いていた。
「ん?」
ビルとビルの間の路地から言い争う声が聞こえた。
普通の人間なら聞こえないが、あいにく俺は聴覚の強化の訓練もしていた。
その耳が言い争う声を捉えたのだ。
無視もできるが聞こえた以上放っておくことはできない。
ため息をつきつつ、現場へ向かった。
現場に着いたら一人の女性に五人のガラの悪い女達が金を要求していた。
「半グレか………」
俺はガラの悪い女達をそう判断した。
それに絡まれているのは確かうちの事務所の人気アイドル新田美波だ。
「放置は出来ないな………」
そう判断した俺は気配を消し、半グレ達の背後に回った。
「おい」
半グレの一人の背後1cmから声をかけてやる。
俺の声に全員がびっくりして俺の方を向いた。
今の反応でわかった。この半グレ共は弱い。
一定以上の強さを持っているなら振り向き様に攻撃をしている。
それがびっくりして何も出来ないのなら、裏社会の強い奴はその間に数人は殺している。
とりあえずこの馬鹿共と話してみるか。
「その子はうちの事務所の子だ。要件は俺が聞いてやる。その子に何の用だ?」
俺はそう言ったが俺が男性だとわかったら下卑た笑みを浮かべて金銭を要求してきた。
この世界の男性は基本的に弱い。それがこの世界の共通認識だし、間違ってはいない。
だから俺にターゲットを変更したのだろう。
だがそれは自分と相手の戦闘力の差を認識できていないと言っているようなものだ。
面倒くさくなった俺は要求の拒否に挑発の言葉を加えて返した。
その言葉を聞き半グレ共は激怒。全員ナイフを取り出した。
新田さんが逃げるように言うがとんでもない。これで正当防衛で全員殺せる。
半グレ共は五人。一斉に襲い掛かってきたが、直後一発の銃声が響く。
俺の愛銃グロック17カスタムの銃声だ。発射した弾は五発。全員の眉間に命中し即死した。
この世界では男は自衛用の武器の所持が許可されており、当然俺も持っている。
オーダーメイドのスーツで武器の所持を目立たなくもしている。
ちなみに俺の早撃ちは0.1秒。半グレ共は痛みを感じる間もなくあの世に行っただろう。
特になんの感情もわかずに銃をしまい新田さんの方へ向かう。
半グレという裏社会に半分足を突っ込んだのだ。死なないとでも思ったのだろうか?
どちらにしても長生きしたかったら半グレなどならなければ良かったのだ。
「大丈夫ですか新田さん?」
「は、はい。助けてくれてありがとうございます。でも何で私の名前を?」
俺は自分の名刺を差し出す。
「神城渚さん………うちの事務所のプロデューサーだったんですね」
「ええ。話し合いで解決出来れば良かったのですが………
残念ながら半グレ共には通じませんでしたね」
「仕方ないと思います………。でも神城さんの腕なら殺さずに済んだのでは?」
「確かにそうです。でもそれは助かったから言える言葉ですよ?
それにこの手の連中は警察も捜査に手を焼いています。下手に生かすと報復してくる恐れがあります。
だから誰が相手かわからないように全員殺すのが一番安全なんです。………警察に通報しますね」
俺はそう言ってスマホを取り出す。新田さんはそれでも何か言いたそうだったが、
俺の言ってることが正論だと判断したのだろう。それ以上は何も言わなかった。
……しばらくして警察が駆けつけ、現場検証と事情聴取が始まった。
そうこうしているうちに、かっちりとスーツを着こなした大柄の男が現場へと足を踏み入れてきた。
直接言葉を交わしたことはないが、顔は見覚えがある。――うちの事務所の、武内プロデューサーだ。
武内は警察と美波の間に入り、迅速かつ的確に状況を把握していく。その手腕に、流石は大手プロの社員だと渚は内心で頷いた。
幸い、美波の証言もあり、正当防衛の範囲内として扱われることになった。
警察の規制線が撤去され、周囲が静けさを取り戻した頃、武内が静かに歩み寄ってきた。
「……助かりました、神城さん。同じ事務所のプロデューサー、武内と申します」
「頭を上げてくれ、武内さん。キャリアとしてはそちらの方が先輩だ」
「はい。ですが……神城さんに引き金を引かせ、五人もの人間の命を奪わせてしまった。
その点については、プロデューサーとして、また同じ事務所の人間として不甲斐なく思っております」
武内の曇った瞳には、純粋な責任感と後悔の色が浮かんでいた。渚は努めて軽い笑みを浮かべ、首を横に振る。
「気にするな。こういう厄介事に首を突っ込むのは、俺の悪い癖みたいなものだ。あの場を放置していれば、
後味の悪さに後悔していたのは俺の方だからな」
「しかし……」
「それより、新田さんのケアを頼む。アイドルに、あんな血なまぐさい瞬間を見せてしまったんだからな」
「……承知いたしました。神城さんのご判断とご助力に、心より感謝を」
「じゃあ、俺は仕事が残っているのでこれで」
武内に背を向け、渚はその場を立ち去った。」
しばらく人気のない大通りを歩き、渚は小さく息を吐き出した。
――半グレ共を皆殺しにした判断は、今の状況でも間違っていない。そう理性が告げている。
だが、美波の瞳に浮かんだ怯えと、「殺さずに済んだのでは」という言葉が、妙に胸の奥に引っかかっていた。
「……昔の癖は、そう簡単には抜けないらしい」
前世の裏社会において、証拠隠滅と恐怖の植え付けのために「皆殺し」を鉄則としてきた。その生存戦略は正しかったはずだ。
だが、ここは前世の地獄ではなく、彼女たちが生きる「今世」だ。美波が向けたのは、裏社会のそれではなく、善良な市民の正論だった。
「俺は生まれ変わっても……結局、泥を被る生き方しかできないのか」
胸元に収めたグロック17カスタムの重みが、やけに冷たく、そしてずっしりと肺を圧迫するように感じられた。
愛銃は、その疑問に答えてはくれない。ただ静かに、冷たい金属の体温を渚の胸に伝えているだけだった。