前世は地獄、今世は天国? 346プロの色欲神プロデューサーの受難 作:ヘルメス・トリスメギスタス
「晴と千枝が探ってる?」
渚はありすと一戦交えた後、ピロートークでありすから、
晴と千枝が渚達の関係を探っていると話があった。
「ええ。どうも私達の関係を怪しんでいるようです」
「……厄介だな。ありすとは双方合意の上だというのに」
渚が渋面を作る。
「ええ。別に私は問題ないですが、プロデューサーは厄介でしょう?」
「ああ。面倒だな。………仕方ない。魔眼の能力を使うか」
「魔眼?。魔眼の能力は強制発情と好感度アップでしょう?」
「ああ。常時発動型はな」
「その言葉だと普段は切っている能力があるんですね?」
「その通り。まず催眠洗脳の能力だ」
「具体的には?」
ありすが興味津々で尋ねる。
「その名の通り催眠状態にして、何の疑いも無くなるようにする。
その上で洗脳で記憶の消去や、偽の記憶の刷り込み、常識の改変等といったことが可能だ」
「そんな能力が………。でも何で今まで使わなかったんです?」
「………使いたくなかったからだ。ただ俺が偽善者だということだ。
だが、晴達が怪しんでいる以上、先手を打つ」
「………晴さん達を手籠めにするんですか?」
「ああ。流石に性格までは変えないが、俺を好きだと思わせ、俺無しではいられないようにする」
「………やむを得ないですね。だけど私が一番ですよ?」
「ああ。わかってる。ありすが一番だ。これはこれから他に女性を手籠めにしても絶対に変わらない」
ありすを安心させるように渚は答える。
「なら安心しました。それで具体的にどうするんですか?」
「二人が探っているなら、そろそろ何らかの行動に移るだろう。
そこを狙って二人を手籠めにする」
「………休憩室に二人共入ったね」
「ああ。ありすが『忘れ物をしました。二人共先に帰って下さい』って言って、
事務所へ戻ったのが怪しかったからな。ようやく尻尾を出したな」。
「二人共休憩室で何してるのかな?」
「さてな。じゃあ、万が一休憩室に入る必要があった時に使うちひろさんからもらった合鍵、
今こそ使う時だな」
「慎重に開けてね」
「わかってる」
晴は音がしないよう慎重に鍵を開けた。
「一気に踏み込むぞ千枝」
「うん。タイミングは晴ちゃんに任せるよ」
「それじゃ行くぞ。3、2、1………0!」
晴は一気に扉を開け放った。だが、そこにいたのはこちらに背を向けたありす一人だけだった。
「……来てしまいましたか」
背を向けたまま、ありすが静かに呟く。その声には、先ほどまでの彼女とは別人のような、底知れぬ澱みが混じっていた。
「あ、あれ? プロデューサーはどこだよ!?」
晴の声が震える。
「プロデューサー?……ここにいますよ」
ありすがゆっくりと振り返る。その顔には、小学生のものとは到底思えない、完成された蠱惑的な笑みが浮かんでいた。
不味い――本能が警鐘を鳴らす。
二人は即座に踵を返したが、遅かった。背後の虚空から、影が実体を持つように出現する。
首筋に走った鋭い衝撃。二人の意識は、まるで糸を切られた操り人形のように強制的に闇へと引きずり込まれた。
倒れ込む二人を、渚の腕が正確無比に受け止める。
「悪いな。……よりによって、化け物の巣を覗き込んでしまったことを悔やむんだな」
意識が混濁する中、二人の耳に渚の冷徹な声が響いた。
(しまった……完全に、罠だ……)
晴の思考が最後に断末魔を上げ、二人は深い泥濘の中へと沈んでいった。
「上手くいきましたね」
ありすが渚に駆け寄ってくる。
「まあな」
渚は淡々と答えた。
渚は足音がない。そして相手の背後1mmに接近しても気づかれないほど気配遮断が上手いのだ。
前世の殺しの技術で、何人ものターゲットや護衛を葬ってきた技術だ。
ドアの陰に隠れていた渚は、ありすに気を取られていた晴達の背後に一瞬で回り込み、
首筋に一撃を入れて気絶させたのだ。晴達に渚の技術に対抗など出来なかったのだ。
「……晴たちには、酷なことをしたな」
渚が吐き捨てるように呟く。
「そうでしょうか? ご主人様は私に女の真実を教えてくれました。晴さんたちも、いずれは分かってくれるはずです」
ありすの瞳に、疑念の欠片もない。彼女は心からの敬愛を込めて、渚の腕に身を預ける。
「とりあえず、準備を始めよう。肉体だけじゃない……魂の芯まで、俺という色に染め上げる必要がある」
「ええ。私と同じように、魂まで快楽の底なし沼へ引きずり込んでください。ご主人様に、二度と逆らえないように」
その言葉は、もはやかつての橘ありすの言葉ではなかった。
渚は重苦しい溜息をつき、倒れ伏す二人の少女を見下ろした。
それが彼にとっての「救い」なのか、それとも「終わりのない業」なのか。
その答えを出す暇もなく、渚は洗脳という名の愛を、彼女たちに刻み込む作業を開始した。