とある男女のハッピーエンド 作:ゆうらぎ
俺の初恋の相手は、どこかの物語の
超能力が出てくるような荒唐無稽な物語で、彼女もまたそうした物語の中の荒唐無稽なキャラクターだった。
そこでは
その物語の中で、俺はエキストラの一人を演じている。
前回までのあらすじに付記された登場人物紹介からも外れる存在。
あえて同定されるほどの描写は与えられず、無から現れては当たり障りのないことを主人公に告げて消え去る何者かであり、何もしていないときにはストーリーの起伏に溺れ続けていて、驚くべきときには驚き、喜ぶべきときには喜んだ。
俺が彼女と仲良くなれたのは、そこが幸いにして物語の裏側だったからに過ぎない。
楽屋裏、ということでも良い。物語の表舞台に立っていない間、彼女は主人公ではなくただの少女に過ぎなかった――俺がただの少年であるのと同様に。
そこではある意味で時間こそ流れていなかったものの、俺たちは思うままに関係を育むことが許されていた。
どこまでも仲良くなることができたが、それでも恋人になることはできなかった。
それは主人公の主人公たる特権とも呼べるもので、彼女は様々な伏線や予告、考察によって、未来の恋人が確約されていた。
そこには溢れるばかりのラブとピースとハッピーエンドがあって、描かれるべきことだけが描かれ、エキストラの俺はせいぜい、それを祝福することしかできない。
鐘の音と舞い上がる花弁、さも当然のように広がる快晴の下で、俺はウェディングドレス姿の彼女の笑顔を眺めつつ考えている。
これは――
幸せな結末のお話なのか
幸せが終わるお話なのか。
◆
吐く息は、白かった。
足早に街の中を歩く。パーカーのフードを目深に被り、黒いマスクと合わせて考えると、俺の顔はほぼ見えないだろう。
街はどこもかしこも、クリスマスムード一色だ。
十二月ともなれば、浮かれる者も多くなる。
煌びやかなイルミネーションに、身を寄せ合う恋人たち。それは学園都市でも変わらない。
そして、そんな彼らを祝福するように、街頭スピーカーからは「今年の冬、最も泣けるバラード」とやらが流れている。
『――――』
ハスキーな歌声が夜空に響く。うんざりするほど聞き飽きた歌声だ。
――これが俺の歌じゃなければ、心中穏やかでいられたのだが……残念ながら現実はそうはいかない。
皮肉な話だ。
音楽に親近感を抱いたのはそれなりに早かった。
10歳のときには親にねだってMTRを買ってもらい、自作の曲をネットに公開していた。ただの「自由が保障された」言葉よりも、旋律に乗せた「制限のある」窮屈なメッセージの方が、ずっと真に迫る響きを持っていたからだ。
だが、俺は別に歌手を目指していたわけではなかった。
街中で流れるこの曲は、俺が派手にフラれた夜、そのやり場のない衝動だけで書き殴り、勢いのまま動画サイトにアップロードしたものだ。
半年前の、たった一晩の、ただの憂さ晴らし。
誰かに聞いてほしかったわけじゃない、ただの排泄行為にも似た吐露。
それがどうだ。
翌朝には通知が鳴り止まなくなっていた。
ネットで火がつき、瞬く間に拡散され、大手レーベルにかっさらわれ――気づけば、街中で流れる失恋ソングの定番になってしまった。
激情に任せて書き殴り、怒鳴るように歌って。
ただ、投稿ボタンを押しただけ。
それなのにあっという間に俺の生活は激変した。
環境も、通帳の残高の桁も、周囲の見る目も。
だが、肝心の俺だけがあの日の「惨めな失恋男」のまま何一つ追いついていない。
一発屋で終わるだろう。
そう思っていたし、むしろそれを望んでさえいた。
なのに、現実は残酷だった。
『fアナタの歌声、曲には多くの人を救う力がある! ここで終わらせる才能じゃない!』
キラキラした目でそう熱弁を振るう、お人好しなマネージャーの顔を潰すわけにはいかなかった。
善意100%の応援に根負けし、半分は恩返しのつもりで、もう半分は過去の自分を切り刻むようにして捻り出した二曲目。
それが皮肉にも、デビュー曲を超える勢いでバズってしまった。
一度火がつくと、もうマネージャーの熱意は止まらない。
「次はもっと明るい曲調はどうかな?」
「ファンが待ってます!」
無邪気に背中を押され、気づけば三曲目、四曲目と……。
俺のために奔走してくれる笑顔を見るたび、俺は引くに引けなくなり、結果としてリリースしたすべてがチャートの頂点へと駆け上がっていった。
世間では「時代の寵児」だの「失恋ソングのカリスマ」だのと持ち上げるが、笑わせるな。
俺がやっているのは、癒えない傷口をわざわざ広げて、滴る血を綺麗にラッピングして売るだけの商売だ。
贅沢な悩みだということは、痛いほど理解している。
食うに困らない金と、羨望の眼差し。恐らく誰もが喉から手が出るほど欲しがる「価値」を、俺は手に入れてしまった。
だが、その対価として差し出したのは、俺の「平穏」と「プライバシー」だ。
歌うのは好きだったけどそれだけだ。
それが仕事になるなんて。ネガティブな記憶をえぐり出して曲を作り出す。
仕事なのだからしっかりやらないと、わかっていてもなかなかにしんどい。
(……勘弁してくれ)
盛大なため息が、白く夜に溶け込んだ。
路地裏へと折れ、ポケットの中で振動し続ける携帯の電源を乱暴に切った。
ここ数日、レコーディングスタジオという名の監獄に缶詰にされていたせいだ。
もちろん、俺だけじゃない。横のソファで泥のように眠るマネージャーを置いて抜け出してきたが、あの空間にいると時間の感覚が狂う。
あそこは俗世との繋がりは完全に断たれていてあのまま居続けてたらおかしくなってしまいそうだ。
だから今の俺には休息が必要なのだ。
目指すのは、雑居ビルの地下にある一軒の店、『サムデイ』。
知る人ぞ知る、老舗のジャズ喫茶兼バーだ。
重厚なオーク材の扉に手をかける。
ここには、アーティストという肩書きも、詮索好きなファンの視線もない。あるのは紫煙とアルコール、そして俺の曲など絶対にかからない極上のジャズだけだ。
カラン、とドアベルが乾いた音を立てる。
放課後の喧騒から切り離された、まさに俺だけの
――のはず、だったのだが。
一歩足を踏み入れた瞬間、俺の思考はありえないものを見てストップする。琥珀色の照明が落ちるカウンターの隅。
俺がいつも個室へ向かう動線のすぐ脇に、この渋い空間にはあまりにも場違いな、ベージュの塊が丸まっていたからだ。
気品ある常盤台中学の制服。見間違えるはずもない。
御坂美琴。
俺がいるこの学園都市には超能力開発というものが存在する。
透視だとか、発火だとか、学校教育によって超能力が開発される。
彼女はその学園都市の頂点に君臨する、わずか七人の
大学並みの教育を受けられるがレベル3以上しか入れない常盤台中学。
その超エリートかつお嬢様学校に在学していること、超能力が
そして――半年前に俺を振った本人。
俺と美琴の関係は、常にあいつという特異点が中心にあった。
あいつが不幸にも財布を落として、俺がファミレスで飯を奢らされている時。
あいつが補習で遅れて、校門で暇潰しに待っている時。
いつもそこには、あいつを追いかけてくる――御坂美琴がいた。
最初はただの「あいつの連れ」という認識だったはずだ。
けれど、あいつが会話の話からわずかに離れる隙間時間。
俺たちは漫画の話で盛り上がったり、新作のドリンクバーを批評し合ったり、時にはあいつの巻き込まれ体質について盛り上がったり。
『アンタ、意外と話わかるわよね。あいつとは大違い』
ジュースのグラスに差したストローを指先で回しながら、悪戯っぽく笑う彼女の顔。俺はその無防備な笑顔を向けられるたびに、自分の立ち位置を忘れ、いつしか愚かな勘違いを積み重ねてしまった。
彼女の視線の先にいるのは、いつだって俺じゃない。
そんなわかりきった事実を、俺は痛いくらい理解していたはずなのに。
どうしてあの日、俺は告白なんてしてしまったんだろう。
結果、ただの勘違い野郎が一線を越えたせいで、心地よかった友人関係のすべてを台無しにした。
それが、半年前のこと。
俺がこの半年間、自分の身を削るようにして書き殴ってきた惨めな失恋ソング。そのすべてのモデルとなったのが、今、目の前にいる少女だ。
……我ながら、キモすぎる。
本人の預かり知らぬところで、フラれた未練をメロディに乗せて街中に垂れ流す。今の俺は、彼女との大切な思い出を燃料にして動く、最低な搾取機だ。
ま、俺のことはどうでもいい。
なんで美琴がここにいるんだ?
ありえない。ここは看板すらろくに出ていない、隠れ家的な店だぞ。
孤独を愛する大人たちが静かにグラスを傾けるこの店に、常盤台のお嬢様が「たまたま喉が渇いたから」なんて理由で、たった一人で迷い込む確率は万に一つもありはしない。
それになにか、様子が変だ。
遠目にもわかるほど、彼女の背中は小さく震えていた。
いつもの勝気で眩しい姿は見る影もなく、まるで雨に打たれた捨て猫のように、独りぼっちで震えている。
まさか、泣いてるのか?
胸の奥が、焼け付くように痛んだ。
俺を振ったことなんてどうでもいい。
ただ、好きな子がこんな風に誰にも気づかれず暗闇で泣いている事実が、どうしても心配になった。
そばに歩み寄って、固まった空気を吐き出すように、肺に力を込めた。
そうして唇を震わせながらも声を絞り出す。
「……よっ。久しぶり」
努めて軽く声をかけてみる。内心はちっとも軽くないが。
すると美琴の肩がビクリと跳ねた。
壊れた人形のようなぎこちなさで、彼女がゆっくりと顔を上げる。
その瞳は焦点が合っておらず、ひどく虚ろだった。
「どうしたんだよこんなところで。なにかあったのか?」
以前と変わりないように、と話してみる。
「……あ」
唇から漏れたのは、言葉にもならない掠れた息だけ。
「……こんなところにいると補導されるぞ」
「……アンタこそ」
返ってくる声に、いつもの張りはない。
俺は周囲を素早く見渡した。
幸い、他の客はまばらだが、それでもカウンターの端で縮こまる「常盤台の制服」は、この薄暗い空間ではネオンサイン並みに浮いている。
何人かの客が、訝しげな視線をこちらに向けていた。
どう見ても訳ありな表情をしているお嬢さま学校の学生と、フードを目深に被った不審な男。
……端から見れば、完全に「事案」だ。
これ以上ここにいたら、通報されかねない上に、俺の正体まで詮索されかねない。
「……移動するぞ」
「え……?」
「ここじゃ目立つ。……マスター」
俺は彼女の返事を待たず、カウンターの中のマスターに短く声をかける。
白髪のマスターは心得た顔で一つ頷き、無言のまま重厚なドアの鍵を開けに行ってくれる。
余計な詮索はしない。
それがこの店の流儀であり、優しさだ。
「飲み物は?」
「俺のはいつもので。美琴は……とりあえずホットミルクで」
「かしこまりました」
マスターに飲み物をお願いし、美琴の腕に手をかける。
「奥の個室、使うからこっち来て」
半ば強引に立たせ、俺は彼女の背中を押すようにして個室へ案内した。
防音の効いたプライベートな空間。
外のジャズの音色すら遠のき、二人の呼吸音だけが微かに響く。
革張りのソファに彼女を座らせると、俺は向かいの席に腰を下ろし、ようやく息苦しいマスクを外した。
しばらくして、控えめなノックと共にマスターが入ってきた。
テーブルに置かれたのは、俺のいつものブラックコーヒー。
そして彼女の目の前にはホットミルクがおかれた。
そしてサービスなのか、お互いの前にサンドイッチが置かれる。
一口サイズに切られたものだった。
マスターにありがとうございますと頭を下げると、美琴も静かに頭を下げた。
個室の薄暗い照明の中、美琴は膝の上でぎゅっと拳を握りしめたまま、動こうとしなかった。
重苦しい沈黙が、体にのしかかってくるようだった。
それでもただ、話し始めるのを待ってみる。
やがて、彼女はぽつりと、独り言のように言葉をこぼした。
「……ごめん」
静寂に落ちた一雫のような声。
「久しぶりに会ったと思ったら、いきなり謝罪って、マジでどうした?」
美琴の声は、消え入りそうに静かだった。彼女は、濡れた瞳を俺に向けた。
「待ってたの。アンタのこと」
「……よく俺がここにいるってわかったな。どっから……」
聞こうとして、美琴の思い詰めた顔を見る。
「ま、そういうのはどうでもいいか」
俺は眉をひそめ、コーヒーを口に含んだ。コーヒーカップをソーサーに戻す。陶器の重なる冷たい音が響く。
「でも一日待ちぼうけになってもおかしくないぞ。いつから待ってたんだ」
「……四日前、くらい……かな」
「……は?」
美琴は視線を泳がせ、自信なさげに唇を噛んだ。
……正気かよ。
俺がここに来るのは、週に一度あるかないかだ。仕事の合間や、どうしても一人になりたい時にだけ来るんだぞ。
「何があったかは知らないけどさ。そんなに重要な要件ならメッセージ送ってくれれば良かったのに」
「……っ」
俺の言葉に、美琴の肩が小さく跳ねた。
「……だって、アンタ忙しそうだし。新曲が出たばかりで、テレビとか取材とか……邪魔しちゃ悪いと思って」
「それで、四日も棒に振ったのか?」
美琴は目を逸らした。
「何よ、悪い?」
「悪いわけじゃないけど……おかしいっつうか」
美琴が痛々しい笑みを浮かべる。
「……ははっ、そうかも」
そう返答する声は、今にも消えてしまいそうなほど細かった。
「都合良いわよね。アンタなら縋っても大丈夫かなって……そんな今更」
涙を溜めながら、虚空へ視線を向ける。その言葉に、俺の胸がズキリと痛んだ。
彼女は知っている。俺がまだ、彼女を諦めきれていないことを。
だって……当然だろう。
あんな失恋ソングを書いて世間に撒き散らしておきながら、俺の気持ちがバレていないはずがない。
腹の底ではまだチャンスを窺っている女々しく往生際の悪い男だってことを。
だから俺は彼女を拒絶できるわけがないのだ。俺はまだ彼女を想っている。それを分かった上で、その好意に縋りに来たのだと。
「アンタが私をどう思っていたか、ちゃんとわかってる。わかってるから……」
美琴の声が、堰を切ったように震えだす。拳を握りしめて、自分の顔を殴りつけるように覆う。
「だから、あたしはここに来たの。アンタの気持ちに付け込んで、都合よく傷を舐めてもらおうとした……本当に、最低……っ」
彼女は自分自身を切り刻むように、静かに言葉を吐き出す。
頼ってはいけないと分かっていながら心が壊れそうで、すがりつける場所が一度振った俺しかいなかった、ということなのだろうか。
その矛盾が、真面目な彼女を何よりも苦しめている。
俺は、彼女に投げかけようとした安易な慰めの言葉を、喉の奥で飲み込んだ。無神経に笑って、「俺はそんなこと気にしてない」と言ってやるのは簡単だ。
だが、今の彼女が求めているのは、そんな免罪符じゃない。
俺は小さくため息をつき、視線を少しだけ宙に逃がした。
どう言葉をかけていいか、悩んで、泣きじゃくる美琴を見ることしかできない。
その時だった。
『――過去に呼ばれた気がしてアスファルトの上で振り向く 断ち切れない『後ろ髪』 カットできずに結んだリボンを綺麗な包装紙で本音を包む――』
静まり返った個室に、唐突に音楽が鳴り響いた。
空気を読まない、切なげな甘ったるい曲調。
そして何より、聞き覚えがありすぎる、少しハスキーな男の声。
「ぶっ……!」
俺は盛大にコーヒーを吹きかけそうになり、慌てて手で口を覆った。
間違いようもない。
これは、俺がつい先週リリースしたばかりの新曲だ。
『フラれた相手を想い続けることが、いつか綺麗な思い出になる』そんなありきたりな曲だ。
思い出すだけでも枕に顔を埋めて『マァァァァ!!!!』と叫びたくなるようなポエム全開のやつだ。
「あ、あわ、わ……っ!?」
美琴が真っ赤な顔で携帯を取り出して画面を見つめる。
『――この想いを固結び 今さら解くには今宵の月は明るすぎる――』
「わっ、で、電話っ」
電話? 着信音ってこと?
つまり美琴は俺の新曲を着信音にするくらい、気に入ってんの?
ゑ?
個室に響く俺の歌声だけが、地獄のような時間を刻んでいく。
「……ストップマジデオネガイ」
響き続ける自分の歌声。地獄か、ここは地獄か。
よりにもよって歌詞のモデルとなった本人と一緒に、その本人に向けた未練の歌を聴かされる羽目になるなんて、どんな前世の罰だ。
「ご、ごめん! 今切るから」
慌てて電話を切る美琴。ほっと息を吐き、携帯を胸に抱く。
「……デ、出なくていいのか」
「う、うん。あとでかけなおすから……」
音が止まり平和が訪れる。
俺は何も言えず、ただ天井を仰いだ。
顔が熱い。耳まで赤くなっているのが自分でもわかる。消えてなくなりたい。美琴は、さっきまでとは打って変わって視線を泳がせていた。
「……はぁ」
俺は深く、重くため息をつき、乱れた前髪をかきあげた。
よし、切り替えよう。とにかくこの気まずい空気をなんとかしなければ、俺の心臓が持たない。
「お、俺の曲聞いてたんだな」
「……うん」
「少なくとも、その。聴くに耐えないとか、気持ち悪いとか。そう思われてなかったって知れただけでも良かったとしようか、うん」
俺は努めて明るく、自虐的に笑ってみせた。
この気まずさを、笑い話にして流そうとしたのだ。
だが。
「……思わないわよ」
両手で携帯を大事そうに包み込む彼女は、どこか安堵したような、ただの年相応の女の子の顔をしていた。
誰よりも強くて格好良い『ヒーロー』のくせに、ふとした瞬間に見せる、こういう無防備なアンバランスさ。
こうして無防備な素顔を見せられるたびに、「俺はこいつにとって特別な立ち位置にいる」なんて痛い勘違いを拗らせていた、あの頃の滑稽な自分の記憶だけがチリッと胸の奥を焼く。
だから俺は、それ以上彼女の心の内を探るのをやめた。
わざとらしく咳払いを一つ落とし、強引に話題の軌道を修正する。
まだ、一番肝心な疑問が残っているからだ。
「……それで?」
微かに息を吐き、まとわりつく過去の苦い亡霊を振り払う。努めて平坦に声を落とし、静かに先を促した。
「……俺に、何か言いたいことがあるんだろ」
四日間。この店に通い詰め、いつ来るかもわからないただの知人の俺を待ち続けた、その異常なまでの執念。ただの気まぐれで片付くわけがない。
核心を突かれ、美琴の表情が再びスッと暗く陰った。
彼女は大事そうに持っていた携帯を膝の上に置き、空いた両手を震わせながら、ぎゅっと強く握りしめる。
血が滲むほどに唇を噛み、一度、ひゅっと喉を鳴らして大きく息を吸い込んだ。
今にも崩れ落ちそうな自分自身を、必死に繋ぎ止めるかのように。
そして、最後の勇気を振り絞って、真っすぐ俺の目を見た。
「……あいつに、告白して……ふられたの」
ぽつりとこぼれた言葉と、一筋の涙。
あいつ。
御坂美琴にとって、ずっと視線の先にいた大切な人。
上条当麻。
美琴が好きになった……俺の、クラスメイトだ。