とある男女のハッピーエンド 作:ゆうらぎ
あの日から数日が経った。
防音材に囲まれたこの無機質な密室には、深夜特有の静寂だけが重く沈殿している。
数千万の機材たちの前に座り、鍵盤の上に指を置いたまま、俺はもう一時間以上も無機質な白い壁を見つめていた。
何も、浮かばない。
これまでなら、行き場のない喪失感や惨めさ、なにかたった一つでも感情を込めて鍵盤に叩きつければ、いくらでも曲も歌詞も溢れ出てきたのに。
今の俺の脳髄を支配しているのは、虚無とは真逆の、ひどく生々しい「熱」だった。
過労で倒れた俺をベッドまで運ぼうとして、バランスを崩して重なり合った時の記憶。
薄い服越しに伝わってきた華奢な骨格と、密着した胸の奥から響いていた、早鐘のような鼓動。
あの時、綺麗な言葉で蓋をしたはずのどす黒い執着が、遅効性の毒のように俺の身体を内側から焼き焦がしている。
当たり前だが、俺はまだ彼女を諦めきれていないのだ。
不意に、デスクの端で硬質なノイズが鳴った。
闇の中で発光するスマートフォンの画面。
そこに浮かび上がった『御坂美琴』という名前に、俺は驚き呼吸を止めた。
『マンションの下にいるんだけど。開けてくれない?』
短いメッセージの文面に、俺の心臓がドクンと嫌な音を立てて跳ねた。
寮の門限はとっくに過ぎた、深夜二時。
何か、あったのか。
こんな時間に、わざわざ俺のところへ来なければならないほどの「何か」が。
先ほどまで脳を焦がしていた醜い熱など一瞬で冷や水にぶち込まれ、最悪の想像ばかりが頭を駆け巡る。
上条とのことか? それとも何か別のトラブルに巻き込まれたのか。
その嫌な動悸に急き立てられるように、俺は弾かれたように立ち上がった。パーカーを掴み、冷え切った廊下へと駆け出す。
一階へ降り、大理石が敷き詰められた冷たいエントランスを抜ける。
専用キーがないと開かない重厚な自動ドアの向こう側、冷たい冬の夜風が吹く外の車寄せに、彼女は本当にいた。
見慣れた制服ではない。少し大きめの冬物のコートに身を包み、後ろで結んだ髪をすっぽりと隠すようにキャップを目深に被っている。
泣いているのか、怪我でもしているのか。
血の気が引く思いでロックを解除し、慌てて中へ引き入れる。
「お前、こんな時間に何があったんだよ! 大丈夫か?」
「……びっくりした。どうしたのよ? 大げさね。とりあえず中入っていい? 外、すっごく寒かったんだから」
「あ、ああ。とにかく入って。部屋に行こう」
俺の焦燥とは裏腹に、首元に巻いた、俺がプレゼントした深緑色のマフラーに顔を半分埋めた彼女はただ、少しだけ鼻の頭を赤くしてバツが悪そうに、けれどどこかホッとしたように小さく頷き笑った。
◆
美琴は、俺が先ほどまで座っていたデスク周り、書き損じの五線譜や、歌詞を捻り出そうとして無残に破り捨てられたノートが散乱する惨状を呆れたように一瞥してから、少し躊躇うようにコートのポケットに手を入れると、手のひらサイズの小さな包みを取り出した。
「これ……プレゼントのお返し」
彼女は視線を合わせないまま、指先に力を込めてその包みを俺の方へ突き出す。
丁寧に、けれど不器用そうにリボンがかけられたそれは、彼女の迷いの跡を象徴しているようだった。
俺が手を伸ばすと、差し出された包みの端から、彼女の指先の震えが伝わってきた。
受け取る際、冷え切った彼女の指と俺の指がかすかに触れ合う。
その刹那、彼女は火に触れたかのように小さく肩を震わせたが、包みを手放した後は、行き場を失った手を所在なげにマフラーの端へと泳がせた。
リボンを解き、中から現れたのは沈黙の夜を象徴するような深い色合いの万年筆だった。
俺は、その冷たく重厚な質感を愛おしむように握りしめた。
金属のひんやりとした温度が、手のひらの熱でじわじわと体温に馴染んでいく。
彼女が俺のために悩んで選んでくれたということがただ嬉しい。
ああでもない、こうでもないと眉間に皺を寄せて悩んでいる姿を勝手に妄想してペチペチと上がりそうな口角を叩き妄想を止める。
「……ありがとう。大切に使うよ」
ただ真っ直ぐな感謝を言葉にすると、美琴は弾かれたように、驚いた眼差しで俺を見つめた。
「喜んでくれたなら、いいんだけど……」
バツが悪そうに視線を彷徨わせながらも、その頬には微かな赤みが差し、安堵したように口元が緩んだ。
それから、照れ隠しにマフラーの端をいじりながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「あんた、いつも歌詞とかノートに書いてるみたいだし。その言葉を書き留める道具で、何かプレゼント出来たらいいなって思ったの」
彼女は一度言葉を切り、少しだけ真剣な眼差しで俺の手元を見つめた。
「あんたの熱がそのまま文字に伝わるような、あんたの書く言葉が好きだから……それを一番近くで支えるものを、贈りたかっただけっていうか」
視線を忙しなく彷徨わせながらも、その頬には微かな赤みが差し、安堵したように口元が緩んだ。
だが、その安堵が、逆に彼女の心の堤防を崩してしまったのかもしれない。
「前に進むって、決心してもすぐにこうなっちゃうんだ」
ぽつりと、彼女が自嘲するように唇を歪める。
「夜が来るとすぐに一人ぼっちになった気がして、やっぱり息苦しくなるの。そしたら、あんたと話したいって思っちゃう。メッセージでも通話でもよかったはずなのに……どうしても、急に会って直接話したい、あんたの声が、近くで聞きたくなっちゃって」
彼女の視線が、熱に浮かされたように虚ろに揺れている。
「最低でしょ。あいつへの気持ちをまだ引きずってるくせに、こんなこと、あんたに言って」
その言葉は、俺の心に空いた穴の一番柔らかい部分を、さらに抉った。
利用されている。寂しさを埋めるための、都合のいい避難所。
上条を忘れるための代用品。
頭では痛いほど理解しているのに、俺の口から出たのは、自嘲を孕んだ安堵の吐息だった。
「……本当にひどい女だなぁ」
乾いた苦笑が漏れる。それから俺は、観念したように言葉を継いだ。
「でも、悔しいけど好きなんだよな」
だから仕方ないんだ。
その呟きが空気に溶けるより早く、胸元に飛び込んできた、小さな質量。
冬の冷気と、柑橘系のシャンプーの匂いが鮮烈に鼻腔を殴りつける。
キャップが勢いでズレおちる。
真っ赤に染まった顔で、彼女はひどく勝気な笑みを作ろうとして――けれどその瞳は今にも泣き出しそうに揺れているという、ひどく危うい表情を浮かべていた。
愛されているという充足感と、それを踏みにじっている自分への嫌悪。
相反する二つの感情が限界まで膨れ上がり、決壊した。
そのままの勢いで、彼女は俺の身体をぐいぐいと部屋の奥へ、昨日二人で重なり合ったあの巨大なベッドがある寝室の方へと押し込んでいく。
「ちょっ、待てどうした!? 危ないって……」
「もっと怒ってよ、なんでよ……!」
その叫びは、自分自身の心を引き裂いているようだった。
上条への未練を捨てられない自分と、寂しさに負けて別の男の体温を求めてしまう身勝手な自分。
その矛盾に、彼女は耐えられないのだと。
「あいつの代わりだって、あんたを利用してる最低な女よ!? なんでそんなに優しく、受け入れるようなことばっかり! 嫌いになってよ、罵ってよ……っ!」
彼女の細い腕のどこにそんな力があるのか。いや、違う。俺を押しているのは彼女の抱える、ぐちゃぐちゃに絡まった感情の重力だ。
そのひどく情熱的な引力に逆らうことなどできず、膝の裏がマットレスに触れ、俺は為す術もなくベッドへと押し倒された。
昨日の夜は、ただバランスを崩しただけの事故だった。
けれど、今は違う。
「あんたも、ひどい」
俺の上に馬乗りになった彼女が、責めるように睨み下ろしてくる。
「すぐに『好き』とか言うの、やめてよ」
耳元に落ちる、熱い吐息。
挑発的だった彼女の笑顔がふいに崩れた。まるで迷子になった子供のように、その瞳がひどく虚ろに揺らぐ。
「……わかんないの。私、まだあいつのことが好きなのに。なのに……あんたに好きって言われると、なんで……」
美琴は言葉を詰まらせ、ギリッと自分の下唇を噛んだ。
彼女は俺のパーカーの胸元をぎゅっと震える手で握りしめると、ポロポロと大粒の涙を零しながら、ついに白旗を上げるようにその言葉を絞り出した。
「……なんでこんなに……嬉しいのよ」
それは、酷い告白だった。美琴が、呻くように囁く。
「あんたが……私を狂わせたのよ」
次の瞬間、彼女の唇が、飢えたように俺の首筋へと食らいついた。
いけないことだと、この一線を越えれば友人という免罪符すら失うと分かっているはずなのに。
「っ……ぁ、」
吸い付かれるような、甘噛みされるような、未知の感覚。
俺の喉の奥から、自分でも信じられないほど情けない声が漏れた。
女の子の嬌声かと錯覚するほどのそれに、一瞬で自己嫌悪と羞恥が全身を駆け巡る。
「ご、まて、すまんキモい声出た、というか落ち着け、何がどうなってる……っ」
慌てて言葉を紡ごうとする俺をよそに、美琴は顔を真っ赤にしながらも、ひどく妖艶に、花が綻ぶように笑った。
そのあまりの色気に息を呑み、俺は完全に言葉を失う。
「ねぇ」
彼女の唇が、俺の耳殻を掠めた。
「今の……気持ちよかった?」
強がっている響きの奥に、隠しきれない緊張と照れが震えている。
愛おしかった。もう、理由なんてどうでもよかった。
綺麗事で蓋をした欲望を、今ここで全部ぶちまけてしまいたい。
「最近、知った……というか、嫌でも自覚させられたんだけどね」
ちゅっ、と。
わざとなのか無意識なのか、彼女の柔らかい唇が、俺の首筋に甘く触れた。吐息が直接肌を焼き、微かな震えが心臓まで伝わるようで。
「私、あんたの声、好き。歌ってる時もそうだけど……通話してると、耳元で囁かれてるみたいで……」
彼女が俺のパーカーの胸元をぎゅっと握りしめる。
その手はひどく震えていて、俺の体温にすがりつく迷子のように必死だった。
俺はもう止まれなかった。
抱きしめていた背中に力を込め、彼女の後頭部を強引に引き寄せる。
「……囁かれてるみたいで、どうしたんだ?」
「あっ……っ、」
低く粘りつくような声で耳元に息を吹き込むと俺の腕の中で、彼女から無防備な声がこぼれ落ちる。
「こうされるのが気持ちいいのか?」
「あ、あっ……! ダメ、それ……声、響いて、耳が……っ!」
美琴の瞳が虚ろに潤み、抗う力などどこにも残っていないように俺の肩に顔を埋める。
互いの密着した腰が、足りないピースを探し求めるように熱を持って蠢いた。
俺は彼女の背中に回していた手を、ゆっくりと前へ滑らせる。
薄い布地を這い上がり、やわらかな膨らみへと辿り着く。
「あっ……んっ……」
ビクッと、俺の腕の中で彼女の肩が大きく跳ねた。
控え目で、確かに柔らかな感触。手のひらにすっぽりと収まる、布越しに伝わってくる狂ったような心拍が、俺の理性を激しく揺さぶる。
そっと指の腹で頂の微かな起伏をなぞり、壊れ物を扱うように優しく揉みしだくと、美琴は俺の首にすがりつき、顔を埋めたまま泣きそうな声で鳴いた。
「ひゃ、あ……っ, だめ, そこ……っ」
「声、えろすぎだろ」
「はぁ!? うるさいっ あんたの、せい、でしょ……っ」
強がる言葉とは裏腹に、胸を弄る指の動きに合わせて、彼女の吐息はどんどん熱を帯びていく。
ずっと片思いしていた相手の、最も無防備で生々しい部分に触れている。その事実だけで、俺の頭はおかしくなりそうだった。
限界まで高まった熱の中、見つめ合う距離は、互いの睫毛が触れそうなほどに近かった。
潤んだ瞳の奥で揺れているのは、未だ輪郭を持たない感情の残骸だ。
過去の幻影への未練、未知の快楽への戸惑い、そして一人きりの夜に耐えきれなかった切実な孤独。
対照的に、俺の感情はとうの昔に逃げ道を絶たれ、ただ目の前の彼女一人だけを、狂気じみた引力で指し示し続けていた。
その温度差が残酷であればあるほど、どうしようもなく愛おしい。
「……美琴」
ひび割れた声で名前をこぼすと、彼女は逃げることなく、震える瞼を静かに閉じた。
それを合図として、俺は彼女の唇に、自分のそれを重ねた。
初めての、キスだった。
触れ合った瞬間、不格好に互いの鼻先がぶつかる。
その滑稽さに小さく吐息で笑い合い、今度は少し角度を変えて、もう一度。
ちゅ、という微かな水音が鳴る。
だが、そんな小鳥をついばむような接触では、到底この渇きは満たされなかった。
キスをして、またキスをする。幾度も、幾度も。
やがて熱に浮かされたように互いの口が開き、恐る恐る、粘膜と粘膜が触れ合った。
やり方なんて、二人とも知らない。
だから、ただ手探りで、互いの体温と存在を貪り食うように舌を絡ませる。
「んっ……ふ、ぁ……っ」
不慣れな行為は、すぐに酸素を奪っていく。
呼吸のタイミングすら掴めず、溺れるように一度唇を離しては、互いの吐息を顔に浴びながら肩で大きく息をした。
それでも、離れている間の僅かな冷気が耐えきれなくて、またすぐに磁石のように吸い寄せられ、互いの傷口を塞ぐように深く唇を重ね合わせる。
そのひどく泥臭い行為を繰り返すうちに、不協和音だった二人の輪郭が、次第に融解していくのが分かった。
あんなに苦しかった呼吸が、いつの間にか、キスをしながらでも自然とできるようになっている。
まるで、ひとつの肺で息を共有しているような生々しい錯覚。
美琴の細い腕が俺の首にきつく巻き付き、すがりつくように背中を反らせる。
彼女の中にある定まらない心も、アイツが残した疵痕も。
俺の全部で、跡形もなく塗り潰してしまいたい。
そんな純粋なエゴイズムを押し付けるように深くキスを交わしながら、俺は、いよいよその熱の源泉へと指を滑らせた。
躊躇いがちに触れたその場所は、火傷しそうなほどの圧倒的な熱と湿り気を帯びていた。
「……痛くないか?」
唇を離し、掠れた声で尋ねると、彼女は戸惑うように息を飲み、「痛くない、けど……そんなとこ、汚いでしょ」と、拒絶ではなく羞恥ゆえに身をよじった。
そのいじらしい卑下と無防備さに、心臓を直接握られたような愛おしさが込み上げる。
俺は彼女の耳介に再び唇を這わせ、意識を分散させるように甘く噛んだ。
俺に経験なんてない。だからせめて、痛みだけは与えないように。
祈るような思いで、爪を立てないよう指の腹を使い、まずは入り口の窄まりを優しく解していく。
「あ……んっ、……待って、」
指先が未知の領域へ踏み込んだ瞬間、美琴の身体が弓なりに強張った。
指一本を迎え入れるのさえ躊躇うような、あまりにも硬く、狭い拒絶の壁。
だが、そこは皮肉なほどに、俺への情熱を証明するように熱く濡れそぼっている。
ぬるりと、潤滑を頼りに極めて慎重に、熱い粘膜の奥へ指を滑り込ませた。内壁のひだの一つ一つが、侵入者に驚いて指に吸い付いてくる。
そのあまりの締め付けの強さに、俺は彼女がこれまで誰も立ち入らせてこなかった「純潔」を、今まさに奪っているのだという実感を、指先の神経の全てで受け止めた。
ゆっくりと、最奥へ届くようにピストンを始める。
ぐちゅり、という、耳を塞ぎたくなるほどひわいな水音が、寝室の静寂に生々しく響いた。
「っ……ひ, あ……ぁ, ……っ!」
その音に美琴はびくっと肩を震わせる。
異物が中を掻き回す、初めて知る重苦しい感覚と、それを上回るほどの鋭い刺激。
彼女は逃げるどころか、すがるような手つきで俺の首筋に抱きつき、さらに熱い吐息を絡めてくる。
指を動かすたび、内側で粘膜がこすれ、吸い付く「じゅぷっ、ぬちゅり」という湿った音が、彼女の羞恥心を限界まで煽っていく。
俺の指を包む内壁の温度は、外の冬の空気など忘れさせるほどに沸騰していた。
「……美琴、ここ熱くて……すごい狭い」
俺の本音を耳元に零すと、美琴の身体は快感に打ち震え、その音はますます粘度を増して、二人の逃げ場を塞いでいった。
下半身で鳴るぐちゃり、ぬちゃりという卑猥な水音と、互いの主導権を奪い合うような必死で滑稽な耳の舐め合い。
そのあまりにも歪なアンバランスさが、どうしようもない背徳感を激しく煽り立てた。
吐息の変化と身体の強張りを頼りに、指の腹で彼女の奥を探っていく。
やがて、少しだけざらついたような、他とは違う微かな起伏に指が触れた。
ここはなんだろうと、そこを広く、円を描くように優しく擦りこねてみる。
「っ……! 待って、それ、やだ、だめっ……!」
耳元で、ひどく切羽詰まった甘い声が弾けた。
拒絶の言葉とは裏腹に、美琴の細い腕は俺の背中に回り、逃がさないように強く、痛いほどに抱きしめてくる。
じゅわっ、と。そこを擦るたびに彼女の奥から新たな蜜が溢れ出し、指に絡みつく水音はさらに粘度を増して「ぐちゅ、ぐちゅっ」と激しい響きを強めていく。
「なにか……っ、あっ、あっ、だめ、気持ちいい……くる、なにか……っ! こわいっ……」
未知の快感に怯え、彼女が小刻みに震える。
ずっと好きだった。手が届かないと思っていた大好きな女の子が、たった一本の指に翻弄され、アイツへの想いすら白紙にされてしまいそうなほど、俺の腕の中でドロドロに溶けかけている。
その無防備でいじらしい事実が、俺の純粋な愛情と、醜いほどに重たい独占欲を限界まで満たしていった。
俺だって、頭の奥が痺れて余裕なんて欠片もない。ただひたすらに彼女が気持ちよくなってくれることだけを願って、ぐちゅりぐちゅりと水音を響かせながら、ざらついたその場所を執拗に擦り続けた。
「だめっ、だめ、くるっ、なんかくるよっ……?」
未知の波に怯え、ひどく不安げに縋ってくる震えた声。俺は彼女の華奢な背中を逃がさないように抱きしめ返し、その耳元で、祈るように、そして決定的な呪いをかけるように低く囁いた。
「……大丈夫。いいよ、美琴。イって」
その瞬間, 彼女の細い腰が弾かれたように大きく跳ねた。
「あぁあっ、あ、あぁあああっ!」
背中を弓なりに仰け反らせ、声にならない絶叫が夜の空気に溶ける。
バチバチッ! と, 限界を超えた快楽が青白い火花となって虚空に散り, 次の瞬間, 美琴は糸が切れたようにぐったりと俺の胸に倒れ込んできた。
限界まで強く指を締め付ける熱の奥から、ビクン、ビクンと脈打つような痙攣とともに、堰を切ったように大量の温かな液体が溢れ出す。
どろり、と溢れたそれが、俺のズボンをじわりと熱く濡らしていく。
沈黙の中、ぐちゅ、という微かな水音の余韻と、互いの荒い呼吸音だけが、少しだけ冷たい部屋に響いていた。
気が遠くなるような絶頂の余韻の中。
完全に脱力した美琴は、まるで俺の身体に溶け込むかのように、その体重のすべてを俺の胸元に預けていた。
時折、甘い痺れを反芻するように小さく肩を震わせては、熱い吐息を俺の鎖骨のあたりに吹き込んでくる。いつもの勝気な『常盤台の超電磁砲』の面影など微塵もない、無防備で生々しい女の子の姿がそこにあった。
やがて、彼女の細い指先が、俺のパーカーの胸ぐらを弱々しく、けれど絶対に逃がさないとでも言うように、きゅっと強く握りしめた。
「……わかんなく、なっちゃった」
耳元を掠める、ひどく甘くて、とろけそうな声。
未知の快感への恐怖と、全身を焦がすような熱に浮かされて、その輪郭はあやふやに溶けていた。
「……何が?」
「……あいつのこと。あんなに好きだったのに……フラれて、あんなに悲しかったはずなのに……っ」
恨み言のように紡がれる言葉とは裏腹に、俺の肌にすり寄ってくるその頬は、熱を出した子供のように火照りきっている。
「今、あいつの顔を思い出そうとしても……さっきの、頭がおかしくなりそうな感覚ばっかりこびりついてて……うまく、思い出せない……」
ちゅっ、と。
何かにすがりつくような深い依存を滲ませて、彼女の柔らかい唇が俺の唇にそっと吸い付いた。
上条当麻は、馬鹿がつくほど真っ直ぐで、お人好しのいい奴だ。
腐れ縁でもあり、彼女があいつに惹かれた理由も痛いほどよく分かっている。
だから、今あいつから彼女を奪ったとか、そんな仄暗い優越感はない。
ただ、純粋に嬉しかったのだ。
どうしようもない喪失感の底から俺が与えた熱で、彼女をここまで引っ張り出せたことが。
「ほんとに……おかしくなるかと思ったわよ」
すり、すりと、俺の匂いを胸いっぱいに吸い込むように顔を擦り付けながら、彼女は熱い吐息ごと、完全な白旗を上げるような言葉を俺の肌に落とした。
「……すごく、気持ちよかった……」
直後、自分の言ったことの極端な恥ずかしさに耐えきれなくなったのか、「……バカ」と小さく呟いて、彼女は俺の胸にすっぽりと顔を隠してしまった。
愛おしさにどうにかなりそうになりながら、俺は彼女の明るい髪に顔を埋め、その華奢な身体を深く抱きしめ直す。
互いの体温が混ざり合う中、密着した下半身、彼女の柔らかい太ももに、俺の誤魔化しようのない硬い熱が押し当てられているのが伝わった。
すると、美琴は逃げるどころか、微かに身をよじってその異質な『熱』の正体を確かめるように、さらにぴったりと身体を擦り寄せてきた。
「……ねえ」
俺の胸元に隠していた顔を少しだけ上げて、彼女が潤んだ瞳で見上げてくる。
「さっきから、なんか……熱いの、当たってるんだけど……」
最初は、知識がないゆえの無防備な問いかけだったのかもしれない。
「これ……痛いの? それとも、苦しい……?」
と見上げてくる視線には、明らかな心配の色が浮かんでいた。
だが、その致死量の純粋さに、俺の中で辛うじて形を保っていた理性の防波堤が、音を立てて完全に決壊した。
「……痛くはない。痛くはないけど、頼むから今は動かないでくれ」
俺がひどく掠れた声でこぼすと、美琴の身体がびくっと跳ねた。
俺の限界すれすれの余裕のない声と、腹部に押し付けられた熱の切実さ。
それで、彼女もようやくこの異質な『熱』の正体を正確に察したのだろう。耳の先から首の根元まで、一気に沸騰したように真っ赤に染め上げる。
普通なら、ここで怖気づいて離れるはずだ。
だが、完全に快感と熱に当てられている彼女は違った。
俺の言葉を聞いて、自分が俺をここまで追い詰めているという事実に、未知の背徳的な興奮を覚えたらしい。
彼女の細い手が、俺の胸元からゆっくりと下へ滑っていく。
そしてズボンの上から、その硬く熱い膨らみへと触れた。
「……っ!」
おずおずと、けれどどこか大胆に。
形を確かめるように指先でなぞられ、俺の口から声にならない吐息が漏れた。その低く掠れた俺の喘ぎを聞いて、美琴の肩がびくっと跳ねる。
彼女は俺の「声」が好きだと言った。
その言葉通り、限界寸前の俺から漏れる情けない吐息は、彼女の中にある未知の加虐心と背徳的な熱に火をつけてしまったらしい。
「〜〜っ! バカ、あんたってほんと……こんなに……」
顔から火が出そうなほど照れながらも、彼女はその手を離そうとしなかった。むしろ、俺がビクッと反応して息を呑むたびに、潤んだ瞳の奥で、女の子特有の仄暗い優越感を揺らめかせる。
ぎゅっ, と。ズボンの上から, 容赦なくその熱の芯を握りこまれた。
俺の掠れた喘ぎ声が、彼女の中にある未知のスイッチを押してしまったようだった。
ズボンの上から熱い芯を握りしめる彼女の指先に、熱情とサディスティックな力がこもる。
「あんたの、我慢してる声。……すごく、いい」
熱に浮かされたように甘く囁きながら、彼女は俺を挑発するように、潤んだ瞳で見上げてくる。
その頬は上気し、吐息は熱を帯びて、いつもの勝気な彼女とは違う、ひどく淫らな空気を纏っていた。
「……っ、お前なぁ……」
このまま一方的に責められるばかりでは、俺の理性が持たない。
逃げ場をなくすように彼女の細い腰をぐっと強く抱き寄せ、俺は反撃とばかりに彼女の唇を塞いだ。
「ん、んっ……!」
不意打ちのキスに、美琴の喉が甘く鳴る。
だが、彼女はすぐに体勢を立て直し、負けじと俺の唇を貪り始めた。
舌が絡み合い、唾液が混ざり合う生々しい水音が、静寂な部屋に響き渡る。
互いの理性を削り合うための、泥臭くも熱烈な攻防。
深くキスを交わしながら、俺は彼女の背中に回していた手を、再び熱の源泉へと滑らせた。先ほどの絶頂で溢れた蜜で、そこはぐしょ濡れになっていた。
躊躇いはなかった。俺は彼女の唇を塞いだまま、ぬるりと湿ったその場所に、今度は指を二本、揃えて押し当てた。
「んぅっ……!?」
唇の隙間から、驚きと快感の混じった声が漏れる。
一本目とは違う、明確な異物感と圧迫感。
けれど、一度目の絶頂で十分にほぐされ, 潤い切った彼女の最奥は, 二本の指を抵抗なく, むしろ飢えたように飲み込んでいった。
ぬちゃり、と。粘度の高い蜜が指に絡みつく、ひわいな音が鳴る。
俺は一度指の動きを止め、彼女の耳元に唇を寄せた。
「……二本入ってるの、分かるか?」
意地悪く囁くと、美琴は俺の首筋にしがみついたまま、ふるふると首を振る。
否定ではない。あまりの刺激に言葉が出ないのだ。
彼女の中は、先ほどよりも熱く、そして信じられないほど強く、侵入してきた二本の指を締め付けていた。
「……っ、すごいな、お前……」
その吸い付くような極上の感触に、俺の方も限界が近い。
これ以上焦らせば、俺の理性が先に弾け飛んでしまう。
俺は意を決し、ゆっくりと、けれど深く、二本の指でピストンを始めた。
ぐぽ, ぬちゅっ, ぐじゅり。
静かな部屋に、さっきよりもはるかに大きく生々しい水音が反響する。
「あっ, あ, それっ, だめっ……!」
美琴が腰を揺らし、逃げようとするが、俺の腕はそれを許さない。
ざらついた、彼女の一番感じる場所を、二本の指の腹で執拗に擦り上げ、抉るように刺激する。
「ひゃあっ、ああ、あ、あっ! おかしい、 なる, おかしくなるっ」
彼女の悲鳴にも似た甘い喘ぎが、俺の暴虐な衝動を加速させる。ゆっくりだった動きは、次第に激しさを増していく。彼女の懇願を無視し、さらに深く、さらに速く。
「だめっ、 もうゆるしてっ、くるっ、また、くるぅっ……!」
「いいよ。そのまま、俺の指でイって」
その言葉が引き金になった。
「あ、あ、あああああああっ!!」
弓なりに仰け反った彼女の身体から、バチバチッ! と、先ほどよりも激しい青白い火花が迸り、薄暗い部屋を一瞬だけ昼間のように照らし出した。
限界を超えた二度目の絶頂。彼女の内壁が痙攣し、俺の二本の指を噛みちぎらんばかりに強く締め付ける。
ドロリ、と。堰を切ったように溢れ出した大量の愛液が、俺の手指を温かく濡らしていった。
二度目の絶頂の余韻が、重たい波のように部屋を退いていく。
限界まで俺の指を締め付けていた熱い内壁が、ビクン、ビクンと規則的な痙攣を繰り返し、そのたびに新たな蜜がドロリと溢れ出してシーツを汚していった。
ぐったりと俺の胸に倒れ込んだ美琴は、ヒクヒクと華奢な肩を震わせながら、ひどく甘く掠れた呼吸を繰り返している。
汗ばんだ前髪の奥から俺を見上げるその表情は、二度の強烈な波に当てられて泣き出しそうなほど切なげで、同時に、どうしようもないほど淫らな熱を帯びていた。
「……はぁっ、あ……はぁ……」
息を整えようとするものの、一度狂わされた呼吸は簡単には元に戻らない。
やがて、彼女の震える手が、俺の腹部へと這い下がっていった。
先ほどから彼女の太ももに押し付けられ、はち切れんばかりに膨張しきっている俺の中心。
そこを、自らの指で確かめるように、おずおずと、けれど確かな熱を持って撫でる。
「……わたし, ばっかり……」
荒い息を吐きながら、美琴は俺のズボンのベルトに指をかけた。
「私ばっかり……こんなに, おかしくなるの……ヤダ」
カチャリ、と。金属音が鳴る。彼女の指先は小刻みに震えていてひどく不器用だったが、それでも絶対に逃がさないとでも言うような、必死で切実な手つきだった。
「あんたも……っ」
ジッパーが引き下ろされ、俺を縛り付けていた布地が、彼女の小さな手によって乱暴に剥ぎ取られていく。
「あんたも……わたしとおなじくらい、おかしくなればいいのよ……っ」
強がりと依存がぐちゃぐちゃに混ざり合った、呪いのように甘い囁き。
最後の布地が引き下げられ、隠しようのない剥き出しの熱と情動が、夜の冷気に触れた。
同時に、美琴の柔らかく熱い指先が、限界を迎えていた俺のそれに直接触れ——俺の中で辛うじて形を保っていた理性の防波堤が、音を立てて完全に決壊する。
「……っ、美琴」
もう、一秒だって待てなかった。
俺は彼女の細い腰を強く引き寄せ、その濡れそぼった熱の源泉へと、自らの最も熱い部分を押し当てる。
ただの友達という関係も、過去の思い出も、全部この熱の中に溶かしてしまえばいい。
「……んっ、あ……っ」
入り口に熱い先端が触れた瞬間、美琴の身体がビクンと強張った。
指では何度も解したはずなのに、それでも未だ硬く閉ざされたその門は、異質な質量を前にして拒絶するように震えている。
俺は彼女の肩を強く抱きしめ、額を合わせるようにして熱い吐息を交わした。
「美琴、……ゆっくり、入れるぞ」
「……っ、いいから……早く、あんたので、ぜんぶ……っ」
涙を浮かべた彼女の言葉に、俺は覚悟を決めて腰を沈めた。
熱い楔が、狭い粘膜の壁を無理やり押し広げていく。
「……っ、ああぁぁっ!」
美琴の喉から、ひときわ高い絶叫が漏れた。
初めての、身体が引き裂かれるような鋭い痛み。
内壁が悲鳴を上げ、侵入者を押し返そうとキュウキュウと締め付ける。
俺の背中に回された彼女の爪が、肉に食い込むほど強く立てられた。