幸せな夢を見た気がする。温かくて安心できて凄く満たされるような幸せな夢だ。
手を伸ばすと夢の続きのような温かなものに触れる。
もっとそれを感じていたくて、抱きかかえるように引き寄せた。
胸の上をさわさわと何かが動いている。小動物が這い回るような、くすぐったいようなそんな感覚。
太ももに何かがあたっている。ゴリゴリとした何か硬いものが。
ゆっくりと目を覚ますと銀さんの片腕を枕にして寝ていたようで、目の前に銀さんの顔があった。
先に起きていたようだが、眠そうに目を半開きにしていた。
私が抱きついていたのは銀さんだったのかとそっと身を離す。
ならばと、見下ろすと銀さんは空いた手で私の胸を揉んでいた。
布団の中を確かめる勇気はないが、あたっている硬いものはアレなのだろう。
昨晩の事を思い出し、固まる。
「あー……起きたか。その調子だと病気の方は大丈夫そうだな」
「う、うん。すっかり。おはよう」
「おはよう」
緩く動かしていた手を止め銀さんがそっと手を引く。
どことなく気まずそうな雰囲気に、自分の行いを正当化する言い訳でも探しているのだろうと察する。
「これは?」
「……これはだな。不可抗力というか、男には登らないといけない山があるというか……」
ごにょごにょと言い訳をしながら銀さんは目線を逸らしていた。
恥ずかしいではあるけれど、別に胸を揉んだところで怒りはしないのにと思うも、はっとして時計を探す。
「今、何時!?」
枕元に置いてある時計を見るといつも起きる時間より大分遅い。
慌てて落ちていた浴衣を軽く羽織り、タンスを漁る。
「ごめん、シャワー先使ってもいい? 今日仕事は?」
「……午後から一件」
「よかった。適当にしてて!!」
着替えを引っ掴みバスルームに飛び込む。
身支度を猛ダッシュで整え、銀さんを見るとなんだか寂しそうな顔をしていた。
いや、申し訳ないとは思うのだけれど、あれだけ迷惑をかけた後に遅刻とか許されないでしょう?
そのまま飛び出しそうになるのを堪え、普段使わない貴重品が入った棚を漁る。
「銀さんこれ!」
投げ渡したモノを銀さんは布団の中で受け取り、困惑した表情を浮かべる。
「お前……これって」
「合鍵。持ってていいから、使ってね! ごめん、先出るねじゃあ!」
一度扉を閉め、再度開く。
「あと、多分、今日遅くなるからそっち寄れない!」
「ああ」
「じゃあ!! 行ってきます!」
挨拶もそこそこ、バタバタと玄関を飛び出した私は、
前日、途中で代わってもらった人の分も仕事をして、帰る頃にはすっかり夜になっていた。ちらほらと酔いの回った人間が出始めるような時間帯だ。
外から見た家は電気が消えており、万事屋の仕事もあると言っていたし流石にいないだろうと、鍵を回す。
「ただいま」
返事はなく、暗く沈んだいつもの自宅が出迎える。
なんだか寂しく思った自分に、なんと贅沢になったものだと呆れ返る。
パチリと電気をつける。
ご飯、どうしようか。
今から作るのも面倒だ。冷凍ご飯を解凍して茶漬けにでもして食べようか。
あとは風呂に入って寝てしまおうと、そう思っていると、テーブルの上に白い紙が置かれているのが目に止まった。
チラシの裏紙に書かれたそれは銀さんの文字で、
――冷蔵庫に煮物入ってっから
それだけがさらりと書かれていた。
食べろとも、感謝しろとも何も付かず。誰が作ったのかも、何のためなのかも書かれてはいない。
どうしよう……。
「贅沢になってしまうじゃないか」
座りこんで、その文字をしばらく眺めていた。
翌日、仕事を終えた私はスイカを丸ごと一個買い万事屋に向かう。
昨日、銀さんに作ってもらった煮物のお礼だ。
「ごめんくださーい」
戸を叩くと新八君が顔を出した。
「こんばんは。久しぶりですね。それは?」
「お礼に」
靴を脱ぎ上がりながら、スイカを渡すと新八君は台所に持っていく。
「きーやん、久しぶりアルな」
「ごめんね、ここのところ忙しくて」
居間に行くとソファーに座った神楽ちゃんが笑いかけてくる。
頭を撫で、隣に座る。
社長席に座る銀さんに頭を下げると、目だけで返してくれた。
「キリさんがスイカ持ってきてくれましたよ。冷やしてるんで、後で食べましょう」
「ひゃっほい!!」
新八君が戻ってきて、向かいに座る。
「そういえば、『お礼に』って言ってましたけど、何の礼です?」
「ああ、銀さんに煮物を……」
と、喋ったところで少し思い出してしまい、言葉を止める。
「煮物? 銀さん、キリさんの家に煮物なんて持って行ったんですか?」
「ああ、少しな」
チラリと見ると、迂闊なことを喋ったことを咎めるような目をされた。
「そういえば銀ちゃん昨日朝帰りだったアルな」
神楽ちゃんの発言に動揺が強くなる。
「へぇー。そうなんだ」
「の割には妙にこざっぱりしてたネ。酒の匂いもしなかったアル」
「ふ、ふーん」
なんだろうこの追い詰められているような感じ。
表面上は平静を装う。
「煮物なんて、ここんところ、作った覚えないんですけどね……」
「お前がいない時に作ったんだよ」
「いつ」
「いつだっていいだろ」
新八君が銀さんを振り返り聞くが、要領を得ない答えに訝しげな顔をする。
もうやめてください。
「ぱっつぁん、男と女の仲に余り口を突っ込むんじゃねぇアルよ」
「どうやらそうみたいですね。これ、赤飯炊くべきですか?」
真顔で聞くのやめてください。
色々思い出して顔が赤くなりそうだ。
「腹減った。飯にしようぜ」
割って入った銀さんの声に、二人は「そうアルな」「そうしましょう」と立ち上がる。
ぞろぞろと台所に移動する面々の後ろで、顔を抑えてしまう。
食事をする前までには、どうにか平気な顔を取り繕わないと。
そう思うだけで、硬い表情を崩せない私に新八君は、
「拗らせてますね」
とだけツッコミをいれた。