バスタオルは使い回す派だけれど、それを他人に貸したいとは思わない。
つまり、自分の分のタオルはあるけれど銀さんの分がないという話だ。
「ちょっと待ってて、新しいタオル取ってくるから」
そう言い残して、タオルを巻いて脱衣所を出る。行き当たりばったりで行動するからと文句をつけ、先程までの記憶を意識の外に追いやる。
タオルを置いてある棚から新しい物を一枚取り、箪笥から着替えを取り出して、戻る。
「これつかって」
銀さんにタオルと男性用の浴衣を手渡す。
受け取ったモノを見て、銀さんはなんとも言えない表情を浮かべていた。
「何かあった時、着替えあったほうがいいと思って」
言い訳のように付け足す。
まるで私がそういう目的のために用意していたと思われたくないのだけれど、事実としてそうなってることが辛い。
「……なんか……照れんな」
ボソリとこぼれた声に、思わずまじまじと顔をみてしまう。
「んだよ」
「……なんでもない」
珍しかったなどと言えば拗ねてしまいそうだったし、銀さんが嬉しそうにしているのを邪魔したくなかった。背を向けて着替えてると、後ろから抱きつかれる。
「ちょっ」
「なあ、もっかい」
手が前に周り、胸を揉まれる。
「だめだって」
掴んで外すと、未練がましく腹や太ももを撫でられる。
「けちっ」
「……今度、ちゃんとさ……その……するから」
何がちゃんとなのか。言っていて自分でも分からなかったが、銀さんの手が止まる。
「……ちゃんとって?」
「そりゃ……ちゃんとですよ」
明言できない私はヘタレだろうか。
ちらりと振り返り見上げると、銀さんの表情が無になっていた。
先ほどまでのしつこさが嘘のようにあっさりと手が外れる。
この隙にと一歩距離を取り、寝間着代わりの浴衣へと着替える
「じゃ、じゃあ、私先出るから」
そう言って私がそこを離れても銀さんは固まったまま動かなかった。
脱衣所の戸を閉めたところで、とんでもない事を宣言してしまったとその場に蹲りそうになる。
いや、でも明言はしていないのだ。どうにか誤魔化――したくはないな。だってそう思ったことは嘘じゃないのだ。
銀さんとちゃんとしたい。それがどういう理由で沸き起こった欲求なのかは分からないけれど、じんわりと広がる感情が辿り着いた先にあるものがそこだった。
そうしたところで何かが変わったりはしないだろう。銀さんは銀さんのままだし、私は私のままだ。
けれど、全部を差し出して、全部を貰って繋がりたいと思ってしまった。
想像するだけで動けなくなるほど恥ずかしいのだけれど、誤魔化さずに自分に向き合えばそういう答えが出てきた。
今すぐと言われたら――それは心の準備をさせて欲しいという回答になってしまうのだけれど。
髪の毛を乾かし始めたあたりで銀さんはようやく出てきた。
見ると髪の毛から雫が垂れていた。
「へっくしゅ」
銀さんは盛大なくしゃみをして鼻の下を擦っていた。濡れたままでいたから身体を冷やしたのだろう。
手招きして座らせ、タオルで髪を拭く。
「全然拭けてない。びちょびちょ。風邪引くよ?」
「てめぇがとんでもないこと言い出すからだろ」
蒸し返されても困るのだけれど。無視して湿った髪の毛にドライヤーをあてる。
興味本位からブローしてみるけれど、銀さんの根性から生えてるような天然パーマはくるくると縦横無尽に跳ね、まっすぐにはならない。結局はいつも通りの髪型だ。
パチリとドライヤを切る。銀さんの髪を乾かす間に、私の髪はあらかた乾いてしまった。
「水飲む?」
「いちご牛乳ねぇの? 風呂上がりはいちご牛乳って決めてんだよ」
「残念ながら。水道水で勘弁して」
食器棚からコップを二つ出し、蛇口から水を入れる。
差し出せば喉を鳴らして飲み干していた。
私は一口ずつ、ゆっくりと飲む。なんだか胸が一杯でつっかえてしまうのだ。
「なんだか眠くなっちまったな」
ふわぁあと、銀さんは欠伸を一つして伸びをする。
「布団敷こうか。手伝ってよ」
自分の布団を出して敷いていると、その隣に銀さんが客用の布団をもってくる。
ぴっちり合わされた状態に自分の布団を少し寄せ隙間をつくる。
「何してんだよ」
「いや、だって……視界からの暴力って奴がさ」
「ねぇよ」
銀さんはあっさりとまた布団を寄せてくっつける。これはあれだ、再び隙間を作ったところで、壁際で寄せる場所がなくなり、敗北が喫する奴だ。
労力と時間を考えたら諦めた方がいいのだろう。
仕方無しに、枕と掛け布団をその上に置く。
「歯磨きしてくるから、先寝といてよ」
「ああ。なあ、今度持ってくるから置かせてくれよ」
「うん……」
軽口でごまかそうにも、口が上手く回らない。気恥ずかしくて、パタパタと洗面所に急ぐ。
寝る前の準備を済ませ戻ると、銀さんは枕に頭をつけたまま私を待っていた。
「電気、消すね?」
そう伝えると頷いたのでパチリと電気を消し、布団に潜り込む。
暗い影として銀さんが見える。
そろりと腕を伸ばすと、掴まえられ引き寄せられる。
「銀さん、寝るよ」
「こんぐらいいいだろ別に。なんもしやしねぇよ」
そう言いながらも腰を手繰り寄せられ密着する。
人肌に触れるとなぜこうも安心するのだろう。
瞼が自然とおちる。
「おやす……み」
それだけを言うと、微かにおやすみと返る声が聞こえた。