ラップランドとドクターが一緒に花火を見る約束をする話 作:中落ちカルビ
オペレーターたちの足音や訓練場の爆発音が響くロドス船内。
そんな喧騒から重厚なドア一枚隔てた室内。
窓から差し込む陽光が床に白い四角を描き、舞う埃をきらきらと照らすそこはロドスの指揮官であるドクターの執務室だ。
「……」
その執務室の主人であるドクターはデスクに向かい、今日も山のように積まれた報告書と対峙していた。ペンを走らせるその手つきは機械的で、思考はそこに集中しているように見える。
「ふふ……」
そんなドクターが業務をとり行っている広いデスクの下、光の届かない空洞の中に、銀髪のループス、ラップランドは潜んでいた。
「ねえドクター、そろそろ脚痺れてないかい?
結構無理な態勢だろう?」
足元からくぐもった声が聞こえる。
ドクターは視線を落とさず、小声で返した。
「お前がそこにいるからだろう。さっさと出ていけ」
「ふふ、いやだね。ボクは君の足元にいるのが一番落ち着くのさ。
それに君はボクの飼い主だろう?
ペットが飼い主の足元に傅くのは当たり前のことだよ」
ラップランドはクツクツと楽しげに喉を鳴らし、ドクターの脚を細く長い指先でつんつんと突く。
机の下という狭く薄暗い空間はラップランドにとってこの上ない安息の地だった。
目の前にあるのは黒いズボンに包まれた、筋肉のあまりついていない、細い脚。彼女はまるで所有物を確かめるように、あるいは飼い主に甘える子犬のように、柔らかい頬をドクターの脚に押し付けた。
「……んっ」
布地越しに伝わる体温と、微かに滲むドクター自身の匂い。それらを感じるだけで、ラップランドの中にある荒んだ感情がゆっくりと溶かされていくようだった。
形の良い三角形のループスの耳がピクリと震え、彼女は無意識に頬ずりをする。柔らかな銀髪が擦れ、サラサラという微かな音を立てた。
「はぁ……ふふ」
上からはペン先が紙を走る規則的な音。
ラップランドがそこにいることを鬱陶しく思っているはずなのに、ドクターは足を少しも動かさなかった。蹴り飛ばすでもなく、椅子ごと距離を取るでもない。ただ黙々と仕事を続けている。
「……邪魔だ。出ていけ」
静かな低い声が上からラップランドに降る。
言葉だけを切り取れば冷たい拒絶だ。
だがラップランドは唇の端を歪め、笑みを漏らした。
「あはっ…いやだよ」
短く返答し、彼女は太ももに頬を押し付け、クンクンと鼻を鳴らして布越しに滲む匂いを肺の奥まで吸い込む。インクと古い紙、汗と石鹸の混ざり合ったドクターの体臭が彼女の鼻腔をくすぐり、心地よい酩酊感をもたらす。
(ちょろいなぁ、ドクターは)
心の中で呟きながら、ラップランドは頬を緩ませ笑みを浮かべる。
『出ていけ』と言いながら無理やり引き摺り出そうともせず、『邪魔だ』と言いながらその足で彼女を踏みつけようともしない。
拒絶する言葉と許容する行動。建前と本音。
その矛盾が、ラップランドにはたまらなく甘美だった。
「ドクターは本当に優しいねぇ……」
独り言のように呟きながら、ラップランドは甘えるようにスリスリとドクターの足に頬を擦り付ける。
「でも折角だし、少しは構って欲しいなぁ。
ボク、ちょっと暇になってきたよ」
「はぁ……静かにしていろ」
「ふふ……やーだよ」
ドクターの言葉を楽しげに笑いながら否定し、ズボンの裾から手を入れて踝をコソコソとくすぐるラップランド。
楽しくて仕方がないといった様子で狭く暗い空間での蜜月を彼女が楽しんでいた時、予期していなかったことが起きる。
彼女の跳ねた銀髪にドクターの手が触れたのだ。
「……!」
驚きに身体が跳ねそうになるのを堪え、ラップランドは息を潜める。
柔らかくしなやかな指が彼女の銀髪の中に潜り込み、毛並みを整えるように上から下へゆっくりと、丁寧に撫でていく。
「……んっ…ぅ」
喉の奥から漏れる甘い声をラップランドは必死に噛み殺した。口角が嬉しさから釣り上がり三日月に歪む。
口では拒絶し悪態をつきながらこうして彼女を愛で、甘やかし、受け入れるドクター。ゆっくりと髪を撫でるその掌は温かく、指の腹は彼女の頭皮を優しく刺激し、撫でられるたびにゾクゾクとした快感が背筋を駆け抜けていく。
彼女の尻尾が机の下で大きく、ゆっくりと揺れ始めた。それは飼い主に撫でられる犬のように正直で、隠しようのない喜びの表現。
「あはっ本当にかまってくれるんだ……ふふ、キミも大概だね……」
「うるさい。静かにしないならやめるぞ」
「……っ、それは、やだな……」
ドクターの指がラップランドの銀色の髪を梳くようにゆっくりと動く。その動きはまるで書類の端を捲るかのように無造作で、それでいて的確に彼女の敏感な場所を狙っていた。
指先が耳の付け根に触れた瞬間、ラップランドの身体が小さく跳ねる。
「ひゃっ……!」
机の上ではドクターのもう一方の手がペンを走らせている。
カリカリという乾いた音が規則正しく響く。報告書の不備をチェックするその手つきは澱みなく、机の下で起きていることなど眼中にないかのようだ。
「ちょ、ちょっと……ドクター……っそこ、は……だめ…っ」
『静かにしないと止める』そう言われてラップランドは声を潛めようと努力した。しかしそれでも抑えきれない嬌声。ドクターの中指と人差し指が彼女の右耳の根元を挟み、毛の流れに逆らって撫で上げる。
「んっ……うぁ…ひっ」
快感を伝える神経に直接触れられるような耐え難い刺激がラップランドを襲う。
ドクターがいま触れて、愛でているループスの耳。それは彼女たちの鋭敏な聴覚を支える武器であり、同時に敏感な急所であり、そして最大の性感帯でもある。それを知り尽くした指が、耳の付け根の窪みをぐりぐりと押し上げる。
「どくったぁ…❤️あっ…あっ……だめっ…そっ…こぉ……だめ、だってっ」
ラップランドは抗議するように、ドクターの脚に額をグリグリと擦り付け悶えながら必死に声を押し殺す。だめ、と繰り返しながらも彼女の耳はピンと張り詰め、さらなる刺激を求めるようにドクターの手の中で震えていた。
ドクターの指は容赦なく、その敏感な耳の内側へと侵入していく。
「……静かにしろといったはずだ。外に聞こえる」
上から降ってくる声は相変わらず無機質で、少しの動揺も感じられない。
カリカリ、カリカリ。
ペンは止まらない。
「そん、な……っ!…ことっ……言われってもっ!……ぁあっ!」
ドクターの親指が、耳の内側の短い産毛が生えたくぼみをなぞる。柔らかく薄い、敏感な皮膚の上を汗でわずかに湿った指が這い回る感触。
「はっ……あっ…はひっ……ひぅっ!」
ラップランドは太腿をぎゅっと閉じ、両手でドクターのふくらはぎにしがみついた。口を大きく開け、酸素を求めて浅く速い呼吸を繰り返す。口の端からは唾液が伝い、ドクターのズボンの布地に小さな染みを作っていた。
「ふ、ぐ……っ!ぅ……」
歯を食いしばり、声を漏らさないように努力するラップランド。
だが彼女の耳はその意思を無視し、更なる刺激を求めてぴくぴくと痙攣している。ドクターの指がその痙攣し、触ってくれとアピールする耳の先端、最も敏感な部分を親指と人差し指でそっと摘まんだ。
「ひ、ぃ……っ!」
ラップランドの背中が大きく仰け反り、後頭部が机の厚い天板にゴツンとぶつかる。しかしその痛みすらも今は快楽のスパイスでしかない。
「……暴れるな、撫で辛い」
「む、むり……っ!ボク、もう……おかしくなりそう……っ」
ループスの耳という神経の集中した、敏感な、最早性器と言っていい器官。そこにドクターの、愛する男の指が這い回り、弄ばれているという事実。
ラップランドはそれだけで脳みそが溶け出しそうな多幸感に包まれていた。
「………たしかこうだったか?」
「あっ…やっ……どくたぁ……っ!」
ドクターの指は彼女が過去に何度も何度も教え込んだ場所を正確になぞっていく。
ここをこうされると気持ちいい、ここをこうされると腰が抜ける、ここをこうされると我慢できなくなっておねだりしたくなる——そんな彼女の弱味をドクターは嫌というほど熟知していた。
それは全てラップランド自身がドクターに教え込んだこと。
自業自得。端的な四文字の言葉が頭をよぎり、ラップランドは羞恥と快感で目の前がチカチカと瞬くのを感じた。
「うっあっ!…ああっ!……ひっいっ!」
指が耳の軟骨に沿って、根本から先端へ、先端から根本へ、ゆっくりとスライドし、最後にギュッと摘まれる。
その単純な動きだけでラップランドの内腿は小刻みに震え、閉じた脚の奥にある秘部からはとめどなく愛液が溢れ出す。
ドクターに見られる事を想定した可愛らしい下着はとっくにぐっしょりと濡れそぼり、太腿を伝ってカーペットに染みを作り始めている。
「あ……は…ぁっドクター……どくたぁっ❤️」
彼女はうわ言のようにドクターの名前を繰り返す。
その声は鼻にかかった、もっともっととねだるような甘えた声。
涙で潤んだ瞳は焦点が合わず、ただ虚空を見つめていた。
一方的に与えられる快感にラップランドの頭にはすっかりモヤがかかり、最早声を我慢しようなどという理性は溶けて無くなってしまっている。
「どくっ……たぁ❤️……どくたぁっ………っ❤️」
彼女の足の指が何かを耐えるようにブーツの中でぎゅっと丸まる。
限界が近いのだろう。蕩けた声を口から漏らすラップランドの中で快感が高まり、弾けようとしている。
「そろそろか?」
「……ぇ……?」
そこにボソリとつぶやかれたドクターの声。
その声には明らかに獲物を嬲る猛禽類の冷酷さが滲んでいた。
書類を一枚、ペラリと捲る音がして、またカリカリとペンが動き始める。
「ふむ」
先程まで執拗に、念入りに、丁寧にラップランドの耳を愛撫していたドクターの手が、彼女の急所から離れ、机の上へと戻っていく。
「さて、どうするべきか」
上から降る声は相変わらず、書類に目を落としたままの平坦なトーンだ。カリカリとペンが紙の上を走る音だけが、規則正しく響く。
「ふ……ぁ…?」
ラップランドは潤んだ瞳で目の前の黒いズボンを見上げる。
理解できなかった。
さっきまで、耳の付け根を、先端を、中のふわふわの産毛を、あんなにも優しく愛してもらえていたのに。
どうして? 何故?
ラップランドの頭の中で疑問の言葉が反響する。
階段の一番上の段まで手をひいて無理やり登らせておきながら、唐突に手を離されたような心地だった。
あと一歩、かるく耳の内側を摩られるだけで弾けられたのに、その一歩が永遠に遠い。
「ど、くた……?」
彼女は疑問を含んだ甘い声を漏らすが、返ってくるのは無機質な沈黙だけ。
ドクターの手が再び報告書を捲る。
「……っ」
ラップランドの身体が小さく跳ねる。
行き場を失った熱が下腹の奥でぐるぐると渦を巻き、奥の奥がジンジンと疼く。
「な、んで……っ」
ラップランドは震える手でドクターのふくらはぎにしがみつき、すがりつくように頬を擦り付ける。布越しに伝わる体温。それだけが今の彼女を繋ぎ止める唯一の命綱で、だが、それだけでは足りない。全然、全く、これっぽっちも足りていない。
もっと直接的な、強い刺激が欲しい。
今すぐ、ここで、深い深い穴の底に自分を突き落としてほしい。
「ど、どくたぁ……っ
ボクの耳、触って……いじめて……っ」
彼女は銀色の髪を揺らし、ドクターの両脚と机の隙間から頭をだしてアピールする。可愛らしいループスの、形の良い三角形の耳がちょこんと隙間からはみ出し、ここに触れてくれとばかりにぴくぴくと動いた。
「………」
ドクター無言でわずかに足を動かし、ラップランドの身体を軽く押しのける。
乱暴な動作だが彼女を傷つけないように加減された動き。その微妙な触れ合いにすら、ラップランドの身体は反応してしまう。
「ひゃっ ……あっ、あぁっ…なんで……なんで蹴るの?」
「邪魔だ。仕事が進まない」
冷たい言葉。
けれどその足はラップランドを蹴り飛ばすのではなく、軽く押しやるだけ、決して彼女をこの空間から追い出そうとはしない。
その矛盾した優しさが、今のラップランドには残酷なほどに辛い。
拒絶の言葉と許容の行動。その狹間で彼女は行き場を失い、ただ甘く苦しい焦燥に喘ぐしかなかった。
「うぅ……っ ひどい……っ…ひどいよどくたぁ
ボクを、こんなにしちゃって……っ」
ラップランドは唇を噛み、涙目でドクターの足に額を押し付けた。
腰の奥が空しく収縮を繰り返し、何かを求めてヒクつき、コンコンと体液を溢れさせている。下着はもう酷い有様で、まるで失禁したかのようにずぶ濡れだ。
太腿の内側をぬるぬると伝う粘液の感触が、彼女の焦燥をさらに加速させる。
「おねがいだよ……っ ドクター……っ
ボク、もうっ……我慢できない……っ」
彼女はドクターの脚に腕を絡め、飼い主にすがる子犬のように、鼻を鳴らして懇願する。
「触って……っ 耳、ぎゅってして……っ
さっきみたいに、いっぱい弄って……っ」
そのおねだりが届いたのか、ドクターの手が再び机の下へと伸びてきた。
期待にラップランドの身体が跳ねる。
来た。
短くそう思った瞬間、その指は一番欲しい場所である耳をあっさりと避け、うなじの襟足へと滑り込んだ。
「ひっ……」
指の腹で襟足からうなじにかけてのラインがゆっくりとなぞられる。
背骨を直接撫で回されるような、ゾクゾクとした悪寒に近い快感がラップランドの背筋を駆け抜けた。
「あっ……そこ、じゃ……ない……っ」
言葉とは裏腹にラップランドの身体は与えられた快感に素直に反応してしまう。
うなじを這う指の動きに合わせて腰が小刻みに揺れ、太腿が擦れ合っ中のて熱を逃がそうとする。
ドクターはまるでラップランドの反応を楽しむかのように、今度は指を首筋から頬へと這わせた。親指の腹が彼女の熱く火照った頬の丸みをなぞり、そのまま唇の端に触れる。
「んぅ…… はぁ……」
指先が唇の輪郭をなぞるたび、ラップランドは無意識に舌を出し、ドクターの指を舐めようと追いかける。
しかしドクターはそれを軽々といなすように指を引き、今度は銀色の髪に指を潛り込ませた。先程とは違い、耳に近い部分をわざとらしく避け、焦らすようにゆっくりと毛先だけを弄ぶ。
「あぁっ…… もうっ……いじわる……いじわる、だ……」
欲しいのは耳への、性感帯への強い刺激。
うなじや頬への愛撫も気持ちいいが、それは水で薄めた薄い毒。渇きを癒やすには、もっと濃く、強い毒が必要なのに。
ラップランドの焦燥は限界に達しようとしていた。
「おねがい……っドクター……
耳……っボクの耳、ぎゅってして……っ
さっきみたいに、……いっぱい弄って……っ
耳の中、かき回して……ボクを……おかしくしてぇ」
甘く湿った声。
普段の彼女からは想像もつかない可愛らしいおねだり。
ラップランドは潤んだ瞳でドクターを見上げ、太ももに頬を押し付けてスリスリと擦りつける。
「ドクター……っ、おねがい……っ、
ちゃんと、言った……っ
ちゃんと、おねだりしたからぁ」
彼女の声は掠れて上擦り、最早泣き声に近い。
涙が銀色の睫毛を濡らし、目尻から頬へと伝っていく。ループスの耳は切なさにペタリと伏せられ、その先端だけが期待に震えていた。
「……仕方がないな、静かにしろよ」
はぁ、とため息を一つつき、ドクターの手が再び彼女の耳へと伸びる。
今度は片方だけではない。
両手で両方の耳を同時に、その付け根から先端まで、ねっとりと、執拗に愛撫し始めた。
親指と人差し指で耳の縁を挟み、ゆっくりと何度も何度も擦り上げる。そして時折、耳の穴にそっと指先を差し入れて、中を掻き回すように動かす。
「——ーーーーっ!」
声にならない悲鳴が喉の奥から吐き出される。
彼女は咄嗟にドクターの太ももに顔を埋め、厚い布地に口を押し付けた。息を吸うことも忘れ、ただ両耳から全身に広がっていく快感の波に耐えることだけを考える。
ドクターの中指が耳の穴の縁をぐるりとなぞり、親指が内側の柔らかな産毛を逆撫でる。同時にもう一方の手が反対の耳の軟骨を摘んで押し、ゆっくりと圧力をかけながら上下に擦り上げる。
「ふっ……ぐっ……ぁっ!」
ラップランドの尻尾が激しく上下左右に振り回される。ふわふわとした銀色の毛並みがバタンバタンと激しい音を立てて床と机の内側に打ち付けられる。
「ん"——っっ!❤️」
ドクターの指が両耳の根本にあるくぼみに同時に潛り込んだ。親指の腹でぐりぐりとそこを押し上げられ、ラップランドの背筋が弓なりに反り返る。
首がのけぞり、後頭部が机の裏板にゴツリと鈍い音を立ててぶつかったが、痛みは一切感じない。
ただ、熱い。耳の中が、頭の中が、まるで溶鉱炉に突き落とされたように熱を持ち、その熱が首筋を伝って背骨を下り、尾てい骨から尻尾の先端まで一気に駆け抜けていく。
尻尾の毛が一本一本逆立ち、普段の二倍近くに膨張したそれが、狂ったように振られ、バシバシとやたらめったら叩き続ける。
「——っ、——っ、——っっ!」
呼吸が速まる。吸っても吸っても酸素が足りない。
ズボンに押し付けた口の端から唾液が溢れ、布地に大きな染みを広げていく。歯を食いしばり声を殺そうとするが鼻から漏れる荒い息だけは止められない。
その時、ドクターの両手の親指が同時に彼女の耳の穴の中へと侵入した。
深く根本まで、ゆっくりと、しかし確実に押し込まれ、奥の敏感な皮膚を掻き回すように回転させられる。
ラップランドの世界が、白く弾けた。
「——————っっっっっっ!!!!❤️❤️❤️」
声にならない絶叫。彼女はズボンの布地を噛み締め、必死にその叫びを押し殺した。全身の筋肉が硬直し、ガクガクと痙攣する。
足の指がブーツの中で丸まり、手の指はドクターのズボンの裾を引きちぎらんばかりの強さで握りしめている。爪が手のひらに食い込み血が滲むがその痛みすらも快感のスパイスでしかなく、彼女を更に高い場所へと突き上げる。
目の裏で星が弾け、視界がホワイトアウトする。耳の奥で鼓膜が破れたような錯覚と共に、自分の心臓の音だけがバクバクとドラムのように鳴り響く。内ももが痙攣し、奥の奥、ラップランドの大切な場所が激しく収縮を繰り返した。
突き上げるような快感の波が、ラップランドの耳から頭、背筋を通って腰の奥まで繰り返し繰り返し打ち寄せる。
「——ふ"っ、——う"っ、——っっ!❤️❤️」
涙と唾液と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、ラップランドは何度も何度も小さな絶頂を繰り返す。
ドクターの指はまだ彼女の耳の中で動いている。繰り返される絶頂で感度が最大限高まったそこをなぞり、挟み、潰し、引っ掻き、痛ぶるように刺激し続ける。
その動きに合わせてラップランドの身体は壊れた機械のようにガクガクと震え続けた。
「——っ、はっ、あっ——っ❤️」
子供が何かを拒絶するように、太ももに顔を押し付けたままイヤイヤと首を振るラップランド。彼女の頭の中を快楽の津波が襲い、全てを押し流していく。
ロドスも、鉱石病も、テキサスも、シラクーザも、全てがどうでもよかった。
今、この瞬間、ドクターの手で、愛する男の手で、絶頂に押し上げられ、余暇を味わうように痛ぶられつづけている。
それだけが、彼女の世界の全てだった。
「はっ……ぁっ❤️……はひっ❤️……ぁ……❤️」、
ゆっくりと、ドクターの指がラップランドの耳から引き抜かれる。
尻尾が最後にひと振り床を叩き、力尽きたようにパサリと垂れ下がった。それでも先端だけは小刻みに震え、深い深い絶頂の余韻を伝えている。
激しい絶頂は過ぎ去り、代わりに全身を覆う甘い微睡がラップランドを包む。
ラップランドの身体はもう完全に脱力しきっていた。
彼女はドクターの太ももに顔を埋めたまま、荒い息を繰り返す。涙で濡れた頬に銀色の髪が張り付き、汗ばんだ首筋は真っ赤に染まっていた。
「……よく我慢したな、偉いぞラップランド」
頭の上からうずくまるラップランドに降ってくるドクターの声、いつもと変わらない、冷たくて熱のない、平坦なトーン。
だがその手は優しく彼女髪を撫で、火照った耳を労るように、毛並みにそって優しく、そっと摩る。
「……ん……ぅ……」
ラップランドは子犬のように小さく鳴き、寂し気にキュンキュンと疼く臍の下の衝動を忘れるように、撫でられるがまま目を閉じた。
そして溶けて無くなってしまいそうな至福の脱力感に身を委ねる。
ドクターはしばらくの間、甘えるループスの耳を優しく撫で続け、やがて何事もなかったかのようにまたペンを手に取った。
ラップランドはしばらくの間、ぐったりと脱力したままドクターの足に寄りかかっていた。絶頂の余韻がまだ身体の奥でくすぶっていて、頭の中は綿菓子でも詰め込まれたかのようにふわふわとしている。
思考という思考が溶け出し、流れ出てしまった彼女は時折思い出したようにすりすりと身体をドクターの足に擦り付けていた。
「ん……」
ラップランドがふと思いついたようにゆっくりと顔を上げ、ドクターの手を探す。
机の下から見える肘を手に取り、ぐいりと机の下へと引き込んだ。
先ほどまで彼女の耳を弄び、絶頂へと導いた手。それを彼女は両手でそっと包み込む。
「ドクターの手……あったかいねぇ…」
彼女はそう呟きながら、手の甲にそっと唇を押し当てる。
触れるだけの、羽根のような軽いキス。それから何度も、何度も、啄ばむように口づけを落としていく。手の甲から指の付け根、指の一本一本の関節まで。
そのたびに彼女の唇から小さな吐息が漏れた。
「好き……ドクターの手、好き……だいすき……」
うわ言のように繰り返しながら、彼女はドクターの人差し指をそっと口に含んだ。熱い口腔内の粘膜が指を包み込み、長い舌が指の腹をねっとりと這い回る。
ラップランドは目を閉じ、その指をゆっくりと、慈しむように愛撫する。唾液をたっぷりと塗し、唇で締め付け、舌で絡め、時折そっと歯を立てる。
「ん……ちゅ……れろ……」
猥褻な水音が机の下から響く。
ラップランドは夢中でドクターの指をしゃぶりながら、上目遣いで机の上を見上げた。
ドクターの表情は見えない。見えるのは机の天板と、脚と机の隙間から見える顎先のみ。
それでも彼女は構わなかった。ただ彼の一部をこうして口に含んでいるという事実だけで、胸の奥がじんわりと満たされていく。
「はぁ……集中できないんだが」
上からドクターの平坦で冷たい声が降ってきた。
カリカリというペンの音が一瞬止まり、ドクターがわずかに身じろぎする気配がする。
「まだ勤務時間内だ、離せ」
「いいじゃないか。仕事なんて、サボっちゃいなよ」
「サボれるわけがないだろう」
ドクターはそう言って指をラップランドの口から引き抜く。
ラップランドは名残惜しそうに唇を窄め、引き抜かれるその瞬間まで指に吸い付いていた。ちゅぽん、という小さな音がして、彼女の口から唾液まみれの指が解放される。
「……まったく」
ドクターがぼやく。
ハンカチか何かで拭こうとしているのだろう。しかしラップランドはそれを許さず、その手を再び両手で掴まえ、自分の頬に持っていく。
「ねぇ、もっと構ってよ、ドクター」
「仕事中だと言っているだろう」
「どうせたいした事ない書類でしょ?
…てボクを可愛がる方がずっと大事な仕事だよ」
ラップランドはドクターの手を自分の頬に押し当て、その掌に甘えるように顔を擦り付ける。
絶頂の火照りを残す汗ばんだ頬の感触が、その熱が、ドクターの手のひらに伝わる。
彼女は再度その手を口元に持っていき、指の一本一本に唇を這わせていく。親指には長めのキス、中指の付け根には軽く歯を立て、薬指の爪は舌先でチロチロと嬲る。
「好き……好きだよドクター……」
「ああ、そうか」
「そうか、じゃないよ……ちゃんと聞いてる?
ボクはキミが大好きなんだよ?
世界で一番、誰よりも、キミが好き」
「……仕事が終わってからにしてくれ。
終わってからなら好きなだけ構ってやる」
「やだ。今がいい。今、キミに触ってほしい」
彼女はドクターの手を離さず軽く伸び上がり、まだ微かに震えている耳の付け根にドクターの指先をそっと押し当てた。
「ここがね、寂しいんだ。
……ドクターの手が欲しいって、震えてるの」
「さっきあれだけ鳴いておいて、まだ足りないのか」
「足りないよ、全然足りない。
キミの手がもっとほしいんだ。
もっともっと、キミにボクを触って欲しいんだよ」
しっとりと、湿り気を帯びた調子で言葉を吐き出し、ラップランドはドクターの指を自分の耳に押し付けたままじっと上を見つめた。
「ボクね、キミに撫でられてると、すごく幸せなんだ」
「……そうか」
「胸がドキドキしてさ、頭がふわふわしてさ……
あはっ…色んな事がどうでも良くなっちゃうんだよ。
すごく……すごく幸せな気持ちになるんだ」
「………」
「だから早く撫でて?」
「はぁ……」
ドクターが呆れたようにため息をつき、ラップランドの頭を撫で始める。
「んふっ」
彼女は満足気に笑い声を溢してドクターの手を離し、今度は彼の細い脚をぎゅっと抱きしめた。そのまますりすりと頬擦りし始める。
「ドクターの脚、あったかくて好きだよ。
こうしてるとすごく落ち着く。
……子供の頃に戻ったみたい」
「お前の子供時代にそんな安らぎはなかったんじゃないのか」
「ふふ、よく知ってるね。そうだよ。
だから今、取り戻してるの。キミと一緒に」
彼女は頬ずりをしながら、そっと目を閉じる。
絶頂の後の多幸感がまだ彼女を包み込んでいて、現実と夢の境界すら曖昧としているのだろう。ぼんやりとしたまま、うっとりと呟く。
「ドクター……ドクターの匂い、好き。
安心する。ずっと嗅いでたい」
「くすぐったいからやめろ」
「やだよ」
ラップランドは顔を上げ、未だに未練たらしくペンを握ったままのドクターの手をとり、口元まで持ってきて唇で挟み込んだ。
「ん……ちゅ……キミの指、おいしい……」
「ばかなことを言うな」
「ばかじゃないよ。本当に美味しいんだ。
……キミの汗の味がする」
「変態め」
「あははっ!……そうだよ?知らなかったの?
ボクは変態だよ。キミにたいしてだけだけどね」
ドクターの辛辣な言葉も今の彼女には一切響かない。
むしろその冷たい拒絶の言葉さえも、彼女にとっては愛おしいコミュニケーションの一つだった。
本当に嫌なら捕まれた手を振りほどけばいい。
それをしないということは、ドクターは自分のこの行為を受け入れているということ。許容されているのならば何も問題ない。口先でどれだけ侮蔑されたところでラップランドは気にしない。
「ねぇドクター、ドクターも気持ち良くなりたい?
ボクが気持ち良くしてあげようか?」
「…………」
「ボクばっかり気持ち良くなってちょっと申し訳なかったんだよね。
ボクの中トロトロで、きっとすごく気持ちいいよ。
仮眠室のベッドでさ、パンパンって、たくさんしようよ、ね?」
「バカな事を言うな、仕事中だ」
「仕事なんて後回しでいいじゃない。
それともそんなに大事な仕事ならボクが手伝ってあげようか?
書類全部、バラバラに破って窓から捨ててあげる」
「やめろ」
「キミが構ってくれないのが悪いんだよ?
ボクは寂しいの。キミに構ってほしいの。
……ねえ、ドクター。ボクのこと、好き?」
「……今は書類の方が好きだ」
「ふふ、嘘つき。キミは嘘が下手だね。
こんなに優しくボクのこと撫でて、説得力ないよ?」
ラップランドはドクターの手を離さず、その掌に自分の頬を何度も擦り付ける。
そして時たま手の甲や手のひらに唇を落とし、指を口に含んで舌を這わす。
「ドクター……ドクターってば……好き、大好きだよ……」
「ああ」
「もー、ちゃんと言ってよ。『私も好きだ』って」
「……仕事をさせろ」
「やだね。好きって言うまで離さない。
キミの手、ずっと捕まえてるからね。
仕事なんてできなくしてやる」
ラップランドは悪戯っぽく笑いながら、ドクターの人差し指と中指をまとめて口に含んだ。二本の指を舌で絡めながら、彼女はわざとらしく卑猥な音を立ててしゃぶり上げる。
唾液が指を伝い、ドクターの手首まで濡らしていく。
「……はぁ……ラップランド、好きだぞ」
ドクターが諦めたようなため息をついた。
その瞬間、ラップランドは嬉しそうに目を細める。
「ドクター、今ちょっと嬉しそうだったね」
「気のせいだ」
「気のせいじゃないよ。ボクの耳は誤魔化せないんだ。
キミの心音、ちょっと速くなってる」
「……うるさいな」
そう言いながらもドクターの手はラップランドを撫でるのをやめない。
彼女の髪を、優しく、ゆっくりと梳くように撫でる。
彼女はその感触に思わず目を閉じ、口から指を解放して、ドクターの手の動きに身を委ねた。
「あはっ……ドクター……優しい……好き……大好き……」
「……静かにしろ」
「ん……わかった……」
ラップランドは静かにそう返事をして、喋るのをやめた。
しかし尻尾だけは機嫌よくパタパタとふられる。
「ん……ふふ……」
ラップランドは子猫のように目を細め、吐息を漏らす。ドクターに体重を預け、完全に脱力しきったその姿は普段の狂気じみた笑みを浮かべる戦闘狂の彼女とはまるで別人のようだった。
「ねえドクター」
彼女は上目遣いに机の上を見上げながら、甘えた声で語りかける。
「キミのこの手、反則だよね。
こんなに優しく撫でられたらループスどころかペッローも、ヴァルポもアスランもコータスもウルサスも、全員キミにメロメロになっちゃうよ」
「……大袈裟だ」
「大袈裟じゃないって、ボクが保証するよ。
これでシラクーザのマフィアを懐柔できるんじゃない?
商談の前に全員の耳をこうやって撫でれば、ロドスに有利な契約結べるかも」
「なんの話をしているんだ…おまえは……」
「あはっ冗談だよ。でもそれぐらいの威力はあるってこと」
彼女は笑いながら、自分の手をドクターの手に重ねた。
彼の指の動きを自分の好む位置へと導きながら、彼女は満足げにため息をつく。
「最初の頃はぜんぜんだったのにね。
今じゃこんなに上手くなっちゃって」
「お前のせいだろう」
「うん、ボクのおかげだよ。良かったね?」
ラップランドはイタズラっぽく笑いながら、ドクターの手の甲にちゅっと口づける。
それからその手を自分の頬に押し当て、擦り擦りと匂いをつけながら彼を見上げた。
「散々教え込んだ甲斐があったってものさ。
最初は痛くしないように恐る恐る触ってたくせに、今じゃ大胆に攻めてくるんだから。
もう師匠越えだね」
「師匠と呼ぶような程教わった気はしないがな」
「耳を触らせてあげただけでも大先生だよ。
ループスの耳はね、家族にも恋人にも、めったに触らせないんだから…………」
彼女はそう言って少しだけ考えるような間を置いてから、銀色の瞳を細めてドクターを見上げた。
「ねえ、ドクター」
「何だ」
「テキサスのこと、どう思う?」
突然の問いに、ドクターの手が一瞬止まった。
ラップランドはそのわずかな変化を見逃さず、口元に笑みを浮かべる。
「……優秀なオペレーターだ。
戦闘能力も高く、指揮能力も高水準。
任務の完遂率もトップクラス。
ロドスにとって欠かせない戦力だろう」
「ふふ、あははっ」
ラップランドは肩を震わせて笑い始めた。
その笑い声は机の下でくぐもり、どこか愉しげで、そして少しだけ意地悪な響きを含んでいる。
「ちがうちがう。そっちじゃないよ、ドクター」
「何が違う」
「ボクが聞いてるのは、オペレーターとしての評価じゃないんだ。
女の子として、テキサスのことをどう思ってるのかって聞いてるんだよ」
彼女はドクターの手を、その指を自分の唇で弄びながら言葉を続ける。
「あの子、強いしクールだし、顔もかっこいいと可愛いの中間でいい感じだし。
性格はすこしぶっきらぼうだけど、そこがまた男心をくすぐるでしょ?
あの黒い耳と尻尾、触ってみたいって思わない?」
「業務に支障をきたすような個人的な興味はない」
「あはは、またそうやって誤魔化す。真面目なんだから」
ラップランドはドクターの指先をそっと口に含むと、舌でねっとりと舐め上げながら、くぐもった声で続ける。
「でもさ、もしキミがその気なら……ボクがテキサスの弱い場所、教えてあげようか?
小さい頃からよく知ってるんだ。
あの子、耳の裏側が特に弱くてね」
「いらん」
「ふふ、即答かぁ。ま、それがキミのいいところでもあるんだけどね。
でももしキミがテキサスにもボクと同じことしたら、あの子きっとすごく可愛い声で鳴くよ」
彼女はドクターの指から口を離し、濡れた唇を舐めながら上目遣いに彼を見上げた。その銀色の瞳には、いたずらっぽい光と、そしてわずかな嫉妬のような感情が揺れている。
「例えばの話だけどさ」
ラップランドはドクターの指を弄びながら、まるで子守唄でも歌うような、ゆったりとした口調で語り始める。
「テキサスを呼び出してさ、こうやって机の下に潛り込ませるんだ。
きっと最初は嫌がるよ。『何の用だ』って不機嫌そうな顔で睨んでくる。
でもドクターが真剣な顔で『重要な任務だ』なんて言うから、渋々従うんだよね」
彼女はそこで言葉を切り、ドクターの反応を楽しむように間を置いた。
ドクターは無言でラップランドの頭を撫で続ける。
それがラップランドには話を続けるよう促しているように感じた。
「それでね、ドクターは今みたいに机の下に手を伸ばすの。
最初は頭を撫でて、『いい子だ』って褒めてあげるんだ。
テキサスは褒められるのに慣れてないから、きっと戸惑うよね。
耳がピクピクって震えてさ、尻尾も落ち着きなく揺れて……ふふ、想像できる?」
ラップランドは自分の耳に触れているドクターの指をそっと握り、まるで実演するかのように、その指を自分の耳の裏側へと導いた。
「それから、ここ。耳の裏側の、付け根の部分。あの子が一番弱い場所。
ドクターがここを人差し指で軽く掻いてあげてぐっと押しこんだら……テキサスはきっと、自分でも聞いたことないような声を出すよ。
『ひっ……』って、小さく息を呑んで、自分がそんな声出したことに驚いて、それから必死に声を押し殺そうとするの」
彼女は目を閉じ、まるでその光景が本当に目の前で繰り広げられているかのように、うっとりとした表情を浮かべた。
「でもね、ドクターはやめてあげない。
もっと、もっともっと耳を責めるんだ。
指の腹で軟骨をなぞったり、先っぽを挟んでクニクニしたり、耳の中の柔らかい毛を逆さに撫でたり……テキサスはきっと身体をガクガク震わせて、キミの脚にしがみついてさ、涙目になりながら耐えるんだよ。
『やめ……ろ…』って、吐息で途切れ途切れに言うんだ。
それでもやめてもらえなくて、いつもの冷静な口調がどんどん崩れて……最後はさっきのボクみたいに、ギュッて身体を縮めて、だらしない顔で鳴いちゃうんだ」
ラップランドは自分の太腿をぎゅっと閉じ、わずかに身をよじった。語っているうちに自分まで昂ってきたのだろう。
「いった後のテキサスって、どんな顔すると思う?
きっとボクよりももっと無防備で、幼くて……いつものクールな仮面が全部剥がれ落ちて、ただの女の子になっちゃうんだ。
黒髪が汗で張り付いて、琥珀の瞳が涙で潤んで、いつもぶっきらぼうで無口で、滅多に開かない口の端から涎が垂れてさ……。
どう? ドクター、そんなテキサスを見たくない?」
彼女はそこで一旦言葉を切り、ドクターの手をぎゅっと握りしめた。
「それでね……ドクターはそんなテキサスを抱き上げるの。
机の下から力が入らなくなったテキサスを引っ張り出して、お姫様だっこして……あの子、きっとびっくりして暴れようとするけど、いった後だから身体に力が入らなくて、結局ドクターの胸に寄りかかって、しがみつくしかないんだよ。
ボクみたいに、キミの匂いに包まれて、余計に頭がふわふわになっちゃって……」
ラップランドの声が少し掠れ、吐息が混じる。
彼女自身、この妄想に興奮しているのが明らかだった。
「それからドクターは、テキサスをベッドに運ぶんだ。
執務室の奥にある、おっきな仮眠用のベッド。
誰にも邪魔されない、キミの場所。
そこにあの子をそっと寝かせて、上から見下ろすの。
テキサスはぼんやりした瞳でキミを見上げてさ。
何が起こるかもわからなくて、ただ不安そうに耳を伏せて、でも期待しちゃって、尻尾はゆらゆら揺れて……」
彼女は息を呑み、声をさらにねっとりと、甘くなる。
「そこでドクターはあの子の全てを自分のものにするんだ。
誰にも見せた事のない柔らかい身体も、誰にも預けた事のない素直な心も、全部。
テキサスは最初こそ抵抗するかもしれないけど、でもドクターに触られて、気持ちよくされて……最後には自分からキミを求めて、今のボクみたいに『もっと』って、『やめないで』っておねだりするように―――」
言葉の途中、ラップランドの頭を撫でていたドクターの手が突然彼女の耳を強く摘んだ。
「―――ひぅっ!?」
ラップランドの言葉が意味をなさない嬌声に変わる。
するりと彼女の手が掴んでいた方の手もその束縛から逃れ、空いている彼女の耳を摘む。
そして耳の付け根から先端にかけて一気に擦り上げた。
今までの優しい愛撫とはまるで違う、罰を与えるかのような性急な動き。
「あっ、ちょ……ドク、ター……! ぁあっ!」
ラップランドの身体がびくりと大きく跳ねる。
ドクターは無言のまま、彼女の耳を指の腹で揉みほぐし、時折耳の穴に爪の先を差し込んで掻き回す。
その動きは先ほどと比べて遥かに乱暴で、だけど彼女の弱い場所を寸分違わず狙っていた。
「まっ、て……あっ、は、激し……っ!
ボク、まださっきの……んひっ!」
余韻が残る敏感な耳にこんな強い刺激を与えられては敵わない。
そう思ったのかラップランドはドクターの脚にしがみつき、荒い息を吐きながら身をよじる。だがその口元には笑みが浮かんでいた。
「あは…っ、やっぱり……ほしいんだ……あひぅっ!」
彼女は喘ぎ声に笑い声を混ぜながら、ドクターの足に爪を立てる。太腿が小刻みに震え、秘部から新たな愛液が溢れ出して下着を濡らしていく。
「ね、ドクター……んっ、は、ぁ……テキサスのこと……想像しちゃったでしょ……っ。
それで、ごまかそうとして……こんなに激しく、ボクの耳、いじめ、て……ひぅっ!……ひどい…なぁ」
「自業自得だ。余計なことを考えるからだろう」
「ふふっ……否定しないんだ……あはっ」
ラップランドは笑いながらも限界が近いことを感じていた。
ドクターの指が彼女の耳の縁をなぞり、時折強く摘み上げるたびに快感が溢れ出し、一度登った場所へと彼女を押し上げていく。
「はぁ……はぁ……ね、ドクター……んくっ……テキサスが……欲しく、なっちゃった……?」
「……黙れ」
「やっぱ……り…ぁ、ひんっ……テキサス、テキサスに……ボクと同じこと……したいんだ……っ」
「黙れと言ってる」
ドクターの声には明らかに動揺が滲んでいた。
いつもの無機質な口調がわずかに上擦っている。
ラップランドはそれに気づき、喘ぎ声の合間にくすくすと笑い続けた。
「ドクター……っ、キミ、……んひっ!
想像してるん、だ……あの子を、テキサスを、ベッドに、連れ、てって……自分のものに、するの……あはっ…あははっ…!」
ラップランドの身体が痙攣し、快感を耐えるように足の指がブーツの中で丸まる。
「悪いんだぁっ……浮気っ…だよっ」
フサフサの良く手入れされた尻尾はまたもブンブンと激しく振られ、机の横板をたたきはじめた。
「ねえ……ドクター……っ。
いつか、ボクと、テキサスを……両方、机の下に侍らせて……あっ、あっ、あっ!だめっ! いく、いっちゃう……っ!!」
ラップランドが最後まで言葉を言う前、ドクターの指先が耳の奥の最も脆い場所を容赦なく掻き上げた瞬間、彼女の世界が再び白く弾けた。
「ーーーー……っ!!❤️❤️❤️」
前回の行為とは違う、楽しませるためではない、黙らせる為にした行為の果て。手早く絶頂させることだけを目指したそれが与えたのは鋭く、脳髄を直接貫くような衝撃だった。
ラップランドの背中が弓なりに反り、ドクターの脚にしがみついていた指が白くなるほど力が込められる。口からは言葉という形を成さない、ただの空気の振動となった声が溢れ出した。
「はっーーあっーーーーっ❤️」
目の前が明滅し、視界の端で星のような光が飛び散る。
強烈な快感の波が頭のてっぺんから爪先まで駆け巡り、太腿は無意識にガクガクと震え、先ほどの余韻で濡れそぼった下着の奥から、新たな粘液がとめどなく溢れ出す。
「は、ぁ……ぁ……ぅ……❤️」
声が出ない。まともに呼吸ができない。酸素が足りない。
ラップランドは口を大きく開け、パクパクと金魚のように開閉し、浅く速い呼吸を繰り返す。
白濁した意識の中で彼女ほ身体はまだ小刻みに跳ね続ける。しかしそれでも、ドクターの指は彼女を許さず、叱るように震える耳を愛撫し続け、彼女から思考の残余を搾り取っていく。
しばらくして、激しい痙攣がゆるやかな震えへと変わっていった。
ラップランドは力が入らない身体をドクターの足に預け、荒い息を吐き出す。額には玉のような汗が浮き、銀色の髪が頬に張り付いている。
(……どく、たぁ……)
浮ついた意識。溶けた脳みそ。2度目の絶頂は1度目よりもさらに深い深い谷の底へと彼女を叩き落としていた。
ラップランドがドクターの膝に額を押し付け、焦点の合わない瞳で虚空を見つめる。ふわりと、甘い妄想が頭をよぎった。
「……あは」
ラップランドはぼんやりと、ドクターのいる広いベッドを想像した。
白いシーツのベッド、その端にドクターが座って、自分とテキサスが左右からドクターを挟み込むように寄り添っている。
(テキサスはきっと恥ずかしがる。耳を伏せて、顔を赤くしてさ)
(でもボクが先にキミのに触れて、舐めて、『テキサスはキスしなよ』って促したら……渋々従うんだ)
彼女はドクターのものを口に含みながら、テキサスがドクターの唇に自分のそれを押し当てる様を想像する。
最初はぎこちなく触れるだけのそれが、次第に深く、激しくなっていく。
自分が下から奉仕するリズムに合わせて、テキサスが上でドクターの舌を吸い、唾液を交換する。
(二人でドクターを気持ち良くするんだ。
ドクターが気持ちよさそうな声を上げるたびに、ボクとテキサスは目を合わせて、ちょっとだけ得意げに笑って。
それで……それで)
脳裏に浮かんだ光景に、ラップランドの胸の奥がちくりと痛む。
全てが終わり、3人が並んでベッドに収まり、テキサスがドクターの胸に顔を埋め、安心しきった表情で眠っている。
その髪を、ドクターが優しく撫でている。
(ああ……)
ラップランドは唇を噛んだ。
(そうなるかもね。いつかは、そう)
彼女の喉の奥で、自嘲とも諦めともつかない笑いが小さく響く。
二度目の絶頂の熱が冷めやらぬ身体は、しかし心臓のあたりだけが妙に冷たく感じられた。
(テキサスは可愛いし、かっこいいし、健康だから……。
ずっとドクターのそばにいられる。ボクと違って、ね)
彼女は目を閉じ、ドクターのズボンの布地をそっと指でなぞる。その感触を、少しでも長く覚えていようとするかのように。
(ボクはいつか、いなくなる。
この身体が鉱石に蝕まれて、戦えなくなって、キミの隣に立てなくなる)
ラップランドの身体を蝕む病、鉱石病。
それはドクターに会うまでなんとも思っていなかった病。
それによって人より確実に早く訪れる、自分の生命の終わり。
(テキサスだけじゃない。誰だっていい。
キミが望むなら、キミが必要だと思うなら、誰でもいい。
キミを支えて、守って、愛してくれる誰か……ボクは、それを歓迎するべきなんだ)
理屈では、わかっている。
わかっているのに。
(……でも、なんでかな)
ラップランドの細く白い指が、ドクターのズボンの裾をきゅっと握りしめる。力加減を忘れたその手は小刻みに震えていた。
(想像しただけで……ちょっとだけ、胸が痛いよ)
ラップランドは顔を上げず、ただドクターの膝に額を押し付けたまま、声に出さずに言葉を紡ぐ。
(今はまだ、ここにいていいかな。
もう少しだけ、キミの足元で、こうして甘えていていいかな)
ラップランドの身体能力は確かに高い、だがいずれ、結晶が広がり、動けなくなる日が来る。ベッドから起き上がれなくなり、こうやってドクターの足元に侍る事すら出来なくなる。
もしかしたら、それはそう遠くない未来かもしれない。
(ボクはいずれ、キミと一緒に戦場を駆けることも、こうやって机の下で甘えることもできなくなる。
…ボクは、最後までキミと一緒にいられない)
(もしキミがテキサスを、あるいは他の誰かを新しい女として選ぶのなら、それは喜ぶべきことだ)
(ボクがいなくなった後も、キミが寂しくないように。
キミが誰かに甘えられたり、甘えたりできるように。
ボクの代わりに、キミを温める人が必要だ)
(だから……歓迎、しなきゃね……ボクはキミには、幸せでいてほしい……)
嫉妬と、諦念と、独占欲と……。
色々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、彼女の胸を締め付ける。ラップランドは苦しげに眉を寄せ、伏せた耳を震わせた。
「………あっ……」
その時だった。
ドクターの手が、再び彼女の頭の上に置かれた。
大きな、温かい掌。2度目の絶頂で汗ばんだ髪を、優しく、ゆっくりと梳くように撫でていく。指の腹が頭皮を心地よく刺激し、その温もりが頭頂部からじんわりと染み渡ってくる。
「……んっ……」
ラップランドは思わず目を閉じた。
ドクターの手の温もりは、彼女の中の嫉妬も、不安も、諦念も、全てを溶かしてしまうような優しさを持っていた。
(あぁ……ずるい……ずるいなぁ、ドクターは……)
こんなに優しく撫でられたら、何も考えられなくなる。
嫉妬していたことさえ、いずれくる終わりでさえ、どうでもよくなる。
ただ、この手の温もりを感じているだけで、どうしようもない未来が、なんとかなる気になってしまう。
「……ドクター……」
ラップランドはドクターの脚に頬を擦り付け、うっとりとした声で呟いた。
「……ボク、キミの1番がいいな……浮気しても許してあげるけどさ……ボクが1番だからね」
「……何を言ってるんだお前は」
ドクターの声は相変わらずぶっきらぼうだったが、頭を撫でる手は止まらなかった。むしろ、ラップランドには少しだけ力が込められたように感じられた。
「……ふふ……わかんなくてもいいよ……ただ、キミに撫でられてるだけで、ボクは……」
ラップランドは目を細め、ドクターの掌に自分の頭を押し付ける。犬が飼い主に甘えるように、ただひたすらに、その温もりを求めて。
「……好き……大好きだよ……ドクター」
銀色の尻尾が、机の下でゆっくりと、穏やかに揺れていた。
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