※この作品はR-18です。

半血魔王のクロニクル ~黒き貴公子シリーズ総集編~   作:古弥須 凱

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21話 悪い友

 

【挿絵表示】

 

 

 

ルシエルは一人、外廊下の傍らに立ち尽くしていた。

 

蒼い月が冷たく照らす中、肩を落とし、血の滲んだ拳を握りしめたまま動かない。

 

「おい、ルシエル」

 

軽い、馴れ馴れしい声が響いた。

 

振り返ると、そこに立っていたのはマルコキアス――マルコ。

 

赤髪に赤銅色の瞳、いつも軽薄な笑みを浮かべる男。

 

彼も参内していた一人で、大広間の隅からルシエルの様子を苦しげに見つめていた。

 

マルコはルシエルよりやや低位の貴族だが、少年時代からの付き合いだ。

 

彼は軽く肩をすくめて近づき、ルシエルの血まみれの手を見下ろす。

 

「またアスモデールにやられたな――マジでひどかった。あの野郎、今日めちゃくちゃ調子乗ってたぜ」

 

ルシエルは視線を逸らす。

 

マルコは大げさにため息をつき、友の肩に軽く手を置く。

 

「俺も参内してたけどさ、隅っこでしか見られなくてよ。何もできなくて……マジで申し訳ねえわ」

 

ルシエルは小さく息を吐く。

 

「ああ」

 

マルコは少し声を落としつつ、軽薄に続けた。

 

「ま、いつものことじゃん。今夜はもう、屋敷に籠もるのやめろよ。ぱーっと気晴らしに付き合えって」

 

ルシエルは冷たく返す。

 

「……気晴らしなど必要ない」

 

「嘘つけって。お前、今めっちゃ誰かを壊したくてウズウズしてる顔してるぞ、マジで」

 

マルコはにやりと笑った。

 

「知ってるか?【天界の悦楽(ヘブンリープレジャー)】って社交場(クラブ)。

 

今、マジで流行ってるんだぜ。

 

中位貴族の連中が毎晩のように集まってさ、『天界の悦楽で一晩中堕ちてくる』って自慢しまくってる。

 

最近は上位の若手貴族もこっそり通い始めてて、入口の結界が混んでて入れない奴も出るくらいだよ。

 

媚薬の煙が濃すぎて、フロア入った瞬間に理性飛ぶって評判で、VIPルームは予約で埋まってるらしいぜ。

 

お前が行けば、みんな『あの公爵が来た!』ってざわつくし、俺もお前のおかげでいい席取れるから、一石二鳥だろ?」

 

ルシエルは小さく鼻を鳴らす。

 

「……くだらないな」

 

「くだらないって言うなら、行ってみろよ。お前みたいな完璧主義者が、あのヤバい霧の中でどうなるか……俺も見たいんだよ、マジで」

 

ルシエルは一瞬、拒絶の色を見せる。

 

だが、胸の奥で黒い炎が燃え上がるのを感じた。

 

淫魔の双子(ペット)たちを人間界へ手放して、時間が経っているのもあった。

 

「…ふん。くだらないが…少しだけだ」

 

マルコは満足げに笑い、指を鳴らすと、闇の中から黒い馬車が音もなく現れる。

 

魔力で浮遊する車輪のない馬車、漆黒の馬が引く。扉には公爵家の紋章が薄く刻まれている。

 

マルコは扉を開け、ルシエルを先に押し込む。

 

「ほら、乗れ乗れ。お前の馬車なら専用入口(エントランス)の扱いも断然違うぜ。今日はお前の好きにしていいからな」

 

ルシエルは馬車に乗り込み、暗い窓の外を眺めた。

 

マルコは向かいの席に座り、軽く足を組む。

 

「【天界の悦楽(ヘブンリープレジャー)】はガチでヤバいって。今マジで魔界の若手貴族の間でバズってるぜ。

 

俺、前にフロア行ったとき、入った瞬間媚薬の霧で頭、真っ白になって、気づいたら隣の女魔族に尻尾絡められて腰振ってたわ。

 

マジで理性が飛んで、朝まで抜け出せなかったもん。

 

みんなガンガン踊りまくって、密着して、胸押しつけ合って……もう完全に獣みたいになってたわ〜」

 

ルシエルは無言のままだ。

 

「VIPルームは俺まだ入ったことねえんだけど、噂じゃ黒いベッドが浮かんでて、鏡張りで360度丸見えらしいぜ。

 

めちゃエロの淫魔娼婦がいっぱい待ってて、翅で包み込んで、尻尾で縛り上げて、喉奥まで咥え込ませて……。

 

あそこじゃ一晩で何人堕とせるか、競い合ってるってよ、いやーマジで楽しみだわ」

 

マルコは興奮冷めやらない様子で笑い、馬車の窓から外を指す。

 

「ほら、もうすぐ着くぜ。準備しとけよ、ルシエル。

 

【天界の悦楽(ヘブンリープレジャー)】で、ガンガン女を抱いて、そのくだらねえプライドもぶち壊して、ぜんぶ忘れちまえって」

 

馬車は魔界の夜道を滑るように進む。

 

ルシエルの瞳は、窓の外の蒼い月を映して、暗く、静かに光っていた。

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