半血魔王のクロニクル ~黒き貴公子シリーズ総集編~ 作:古弥須 凱
魔界のルシエル公爵邸、最奥の私室。
十二夜の月が、巨大なアーチ窓から冷たく青白い光を投げかけていた。
ルシエルは寝台に腰掛け、黒いローブを羽織ったまま、膝の上に広げた古い詩集を無意味に眺めていた。
紫の瞳は、いつもより深く沈み、苛立ちと渇望と、抑えきれない不安が混じり合って、静かに燃えていた。
今夜は、十二夜だった。
今ではその魔力を借りなくても、ルシエルとリーザの夢の世界は、分かち難く強く、固く結びついていて、夜毎にはかない愛を交わし続けていた。
明日、リーザは他国への花嫁行列の輿に乗り、森に入る。
そこでフォルネウス男爵の罠が待ち受け、彼女は
レジナルドはすでに覚悟を決めて、人間の身ながら命を賭けた特攻を申し出た。
ルシエルはそれを了承した。
だが、今夜だけは、何も考えたくなかった。
ルシエルは指先を震わせ、詩集のページを強く握りつぶした。
不安で、不安でたまらなく、吐き気がする。
彼女に迫るあまりにも大きな危機を伝え、何も出来ることはなくとも、せめて警告するべきなのかもしれない。
しかし、今夜だけは、リーザにそれを悟らせたくなかった。
(……リーザ……お前を、失いたくない)
夢の扉が、音もなく開く――。
*
リーザの寝室。
オルヴェス王国の王宮、最上階の王女私室。
嫁入り前夜の静けさの中、深い青のネグリジェを纏ったリーザは、ベッドに横たわり、目を閉じていた。
明日、彼女は他国の王子のもとへ輿入れする。
政略結婚の道具として、「ルイーゼ」ではなく「一国の王女」として。
心は重く、胸の奥に、ルシエルの影がまだ消えずに残っている。
愛を乞い、嘆き、怒り、そして苦しむであろう、彼に会うのが辛かった。
それでもリーザの肉体は、十二夜の訪れを待っていた。
夢の扉が、静かに開く――。
*
リーザは、霧に包まれた森の
「ここは……」
月光が白いドレスを透かし、金色の髪を銀色に染める。
そこに、黒いマントを纏った姿で、ルシエルが静かに、ゆっくりと近づいてきた。
リーザの心臓が、激しく高鳴った。
「……ルシエル……」
ルシエルは、答えず、ただ、彼女の前に跪いた。
膝をつき、リーザのドレスの裾に、そっと額を寄せる。
「リーザ……」
声が、いつもより低く、震えていた。
「今夜だけは、お前を怖がらせたくない。ただ、お前と一緒にいたい」
いつもなら、激しく押し倒され、服を剥ぎ取られ、奥を容赦なく突かれる。
お前は俺のものだと吠え、唸り、リーザのすべてを奪いつくそうとするのがルシエルだった。
しかし今宵、ルシエルはそっと彼女の髪を撫で、額にキスを落とし、首筋を優しく舌でなぞる。
リーザの息が、乱れる。
「……ルシエル……どうして……?」
ルシエルは、彼女の耳元で囁く。
「俺は……お前を失いたくない。お前が他の男の妻になるなんて、考えたくもない。
でも、お前を怖がらせたくもない。
だから今夜は、俺のすべてを、お前に預ける」
彼は、リーザのドレスの肩を押し下げ、ゆっくりと解きほどいていく。
白い肌が露わになるたび、ルシエルは息を呑む。
「きれいだ……リーザ」
彼は跪き、彼女の胸に唇を寄せ、乳首を優しく吸う。
リーザの体が、びくんと震え、甘い声が漏れる。
「あ……っ……ルシエル……」
ルシエルは、彼女を木のベンチにに横たえ、脚を開かせ、ゆっくりとその花芯に舌を這わせる。
リーザの蜜が溢れ、それを甘くかきまわしながら啜るみだらな音が響く。
彼女の腰が、勝手に浮き上がり、「ルシエル……そこ……ンン……」と、甘い懇願がこぼれた。
ルシエルは、彼女の奥に指を沈め、ゆっくり、深く、愛撫する。
「ルシエル……私……あなたが欲しい……」
ルシエルは、優しく、しかし深く、自分のものを彼女の中に沈める。
リーザの内壁が、きゅうきゅうと固く締め付け、熱い蜜が絡みつく。
ルシエルは、いつもよりゆっくり、深く、腰を動かす。
「リーザ……愛してる」
リーザの腕が、彼の背中に回り、爪を立てる。
「あ……ルシエル……私も……愛してる……」
二人は、溶け合うように体を重ね、甘く、優しく、深く、愛を確かめ合う。
これまでは怒りのように湧きあがる衝動から迸る射精ですら、今夜は凪のように優しかった。
ルシエルは汗にまみれて、固くしがみつく彼女の奥に熱く大量の精を注いだ。
「お前は俺のものだ……でも、お前が俺を選んでくれるなら、俺はお前のものになる」
彼の紫の瞳が、彼女の心を捉え、ひたすらにその愛を乞うていた。
「わからない……どうすればいいのか、私にはわからないの」
「――構わない。俺たちの夢は続く。お前が選んでくれ」
夢の中で、二人は、静かに、深く、抱き合った。
十二夜の月光が、最後の光をなげて、二人の影を優しく包んだ。