※この作品はR-18です。

半血魔王のクロニクル ~黒き貴公子シリーズ総集編~   作:古弥須 凱

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39話 血まみれ競争

 

【挿絵表示】

 

 

 

サバト会場に浮かぶ巨大スクリーンに、安っぽいCMが流れている。

 

「下級悪魔でも持てる、夢のわが家……瘴気の沼ハイガーデン!350年ローンのご契約が可能です!♪魔界一円、安心のネットワーク!くさくさ〜腐れ家不動産(コーポレーション)〜♪」

 

続けて、けたたましいBGMが鳴り響き、”花嫁狩り”の魔界全土へ配信されているライブ中継が再開された。

 

司会者の甲高い声が、いよいよ興奮に裏返りながら響いている。

 

「さぁ皆様! ついに本番! 花嫁狩り、完全混戦フェーズへGO!ルイーゼ王女の馬車を巡って、下級悪魔さんたちの血塗れ大競争、スタートぉぉ!!」

 

画面はドローン群の視点で、次々とショットが切り替わる。

 

停止した馬車の周囲は、もう地獄絵図だ。

 

御者の死体は手綱に絡まったまま倒れ、下にドス黒い血だまりが広がっている。

 

馬は息も絶え絶えで、花嫁馬車は完全に静止していた。

 

その周りを、下級悪魔たちが取り囲み、棍棒・剣・爪・牙で互いを切り裂き合っている。

 

「恩賞は、俺のモンだ!」

 

「黙れ、この三下悪魔!」

 

一匹が飛びかかり、鋭い爪で相手の腹を裂く。血しぶきがびしゃっと馬車の窓を赤く染めた。

 

別の悪魔が雷撃魔法を放ち、馬車を引き倒そうとする相手を黒く炭化させる。

 

映像からは伝わらないが、じゅっと焦げた肉の臭いが想像された。

 

断末魔の叫びが重なり、コメント欄が爆発的に流れる。

 

「血しぶき祭りwww」

 

「内臓(モツ)見ながらモツ鍋食ってるけど、うめぇわ」

 

「今回まだ死体すくなくね?!」

 

この頃になると、ただ考えなしに飛び掛かるだけの雑魚クラスは、ほとんど死に絶えていた。

 

森の中に散らばる無惨な死体は、花嫁の護衛より、悪魔同士の殺し合いの残骸の方が多かった。

 

残ったのは、ある程度腕のある連中だけ——100〜200匹ほど。

 

互いに距離を取って牽制し合いながら、馬車を囲んでジリジリと向き合う。

 

花嫁馬車の中の美しい獲物……リーザ姫を、まずは引きずり出さなくては。

 

その緊張が頂点に達した瞬間——頭上に不吉な二つの影が迫っていた。

 

どおおおおおと空を裂く炎の軌跡を残して、火喰鳥《ヒクイドリ》の親子が一閃飛来し、すべてを一瞬で焼き払った。

 

超低空を高速で滑り込んだ親鳥が、頭突きの一撃で目の前の悪魔を吹き飛ばす。

 

「ぎゃああああーーーーーー!!」

 

相手の胴体が真っ二つに裂け、内臓が飛び散った。

 

血が炎に触れて蒸発する「ぱちぱち」という音が響く。

 

「なんということでしょう! 突然、伝説の妖獣ヒクイドリが乱入です!!一体のほうは体長3メートルを超える巨体! 子供の方も、これはヤバい!火の玉吐きまくってますよ、これはだめだー! はい、死んだー!危ない、危ない! 地面が溶けてます!」

 

ヒクイドリは地上に降りて旋回し、紅蓮の尾で悪魔たちを薙ぎ払う。

 

「火喰鳥(ヒクイドリ)キター!!」

 

「これはルール違反じゃね?」

 

「持ち込んだ時点でありだろwww」

 

コメント欄が大混乱に陥る。

 

親鳥が脚を振り上げて寄せてくる下級悪魔を蹴り倒し、炎の爪が胸を貫き、心臓ごと引き裂く。

 

「これはダメでしょwww 完全に持ち込み禁止案件ですが、すでに持ち込まれてますので、ノーカンとなります!

競争続行の指示(カンペ)が出ました! 下級悪魔のみなさーん! 頑張ってくださーい!!」

 

火喰鳥(ヒクイドリ)の鋭い爪に残った肉片が、めらめらと燃え尽きて灰になる様子まで、ドローンは執拗にズームインした。

 

仔鳥は空中支援に徹し、ドゥン、ドゥンと鈍い音を立てて口から火球を連射する。

 

火球が体に命中すると内部から爆ぜ、肉が煮えたぎって破裂する。

 

一匹が逃げようとして背中を焼かれ、悲鳴を上げながら転がるが、仔鳥が追撃で頭部を踏み潰す。

 

頭蓋が割れ、脳漿が炎に包まれて、ジュウジュウと音を立てた。

 

「ヒクイドリ無双www」

 

「どうすんだこれww つか、どこの陣営だよチートすぎるだろ」

 

コメント欄がさらに加速する。

 

親子の火喰鳥(ヒクイドリ)は、ごおおおっという音と共に、二筋に長く炎を吐いて、レジナルドのために血路を開いた。

 

「レジナルド、走れ!」

 

リリア(ルシエル)の叫びと共に、黒く焦げた森の中を必死で駆ける。

 

舞い散る火の粉と、灰の渦を突き抜け、悪魔たちのゴボゴボと沸騰する体液の匂いのなかを、レジナルドは走った。

 

びしゃびしゃと、生臭いみぞれのような血の塊が降り注ぐ、地獄のなかを走り抜ける。

 

リーザの馬車は、視界の中にまだ遠く、小さい。

 

息が焼けるように痛む中、血の膜で視界が赤く染まるのを無視して、ひたすらに走り続けた。

 

上空を旋回する仔ヒクイドリは、レジナルドの背後に迫る悪魔たちを捉え次第、容赦なく火焔球で焼き払う。

 

火球が命中した悪魔の胴が内側から爆ぜ、熱く焼け爛れた肉の小片が、レジナルドの頬の上にじゅっと音をたてて張り付いた。

 

「リーザ様!」

 

馬車の扉が乱暴に開き、血と泥に塗れたレジナルドが転がり込むように飛び込んできた。

 

外の炎と断末魔が一瞬だけ馬車内に吹き込み、熱風がリーザの頰を焼くように撫でた。

 

レジナルドは即座に体を起こし、血まみれの手で扉を内側から叩き閉め、鉄の閂をガチャリとかけた。

 

馬車の中は薄暗く、外の爆音と揺れで木箱が転がり、リーザの体が何度も壁や座席に叩きつけられていた。

 

彼女の金色の髪は乱れて頰に張り付き、細い腕や肩に赤く腫れた打撲痕がいくつも浮かんでいる。

 

それでも大きな裂傷や骨折はなく、唇を強く噛みしめ、涙を堪えてレジナルドを見上げた瞳には、まだ折れていない光があった。

 

「良かった、よくぞご無事で!」

 

「レジナルド・チェンバース!なぜ貴方がここに?いま、何が起きているの?」

 

「あいにく、詳しくご説明する時間がございません。ひとまず馬車でこの場所を離脱します。

 

ルシエル閣下も今、すぐお近くで、命を賭けて、貴女様をお救いするために戦っておられます」

 

リーザの瞳が一瞬大きく見開かれた。

 

「ルシエルが……ここに来ているの?」

 

彼女の夢の中の恋人は、リーザにとって悪夢と言っていい、この修羅の地獄絵の中にいた。

 

すぐ近くに――この無惨な血と肉の惨劇の中で、彼女の恋人は戦っている。

 

「すぐに馬車を出します。主君と私の身命をかけて、必ず貴女様をお救いいたします。」

 

「なぜこんなことに……」

 

リーザの声は小さく震えていたが、すぐに、冷静な現実主義が戻ってきた。

 

外ではヒクイドリの咆哮と悪魔の悲鳴が重なり、馬車自体が炎の衝撃で大きく傾く。

 

レジナルドは、リーザの目を見て短く事実だけを述べた。

 

「今は、ただ生き延びることが先決です。リーザ様のために、閣下も命を賭けておられます」

 

リーザは一瞬沈黙し、そしてゆっくり頷いた。

 

「……ありがとう、レジナルド。今は生きるために、貴方のいう事に従います」

 

彼女は震える手で馬車の座席を強く掴み、打撲で痛む体を支えながらも、瞳に宿る底知れぬ深さを失わなかった。

 

レジナルドは短く息を吐き、血まみれの体を起こした。

 

「しっかりと何かに掴まっていてください。そして、私と閣下以外の呼びかけには応じないで」

 

彼は扉の隙間から外を確認して外に飛び出すと、死んだ御者の体を台から押し除け、血に塗れてぬるつく手綱を取った。

 

弱々しく疲れた馬を励ますと、なんとか車輪を軋ませながら、重くまとわりつく泥を蹴り上げ始める。

 

親ヒクイドリが、周囲の下級悪魔を焼き払い蹂躙する間に、花嫁馬車が何とかもう一度動き出した。

 

炎と血の嵐の中、レジナルドはリーザを載せた馬車を駆り、生き延びるための逃走を開始した。

 

レジナルドの傍を、ぴったり同じ高さで仔ヒクイドリが並び飛ぶ。

 

時々、レジナルドの様子を確かめるように、首を動かさずに眼だけをキョロキョロと動かし、次々と飛来するドローン魔獣に火球を放って彼を守った。

 

頭上で、花火のように赤い巨大な火花が弾け、何かがバラバラと散り落ちてくる。

 

その中心にいるのは、リリア(ルシエル)だ——

 

黒い炎の渦が空を切り裂き、煙を吹いたドローン獣が、まるで黒い霰(あられ)のように地上に降り注いだ。

 

ルシエルの精神を宿した淫魔の仔が放つ、強烈な衝撃波。

 

その一撃で何十というドローン獣が空中で一瞬止まり、そのままクルクルと回転しながら落ちていく。

 

「なんだ、あのエロビキニの娘(コ)、魔力強すぎだろ」

 

「これ絶対、下級クラスじゃないwwwwセキュリティ仕事しろww」

 

とはいえ、ルシエルの個人の趣味が仇となり、滑走するリリアの際どいマイクロビキニ姿を接写しようと、生き残ったドローン群が一斉に追尾を開始した。

 

赤い単眼が10機以上、同時にリリア(ルシエル)の下半身にロックオン。

 

低空から股間を狙い撃ちにズームイン。マイクロビキニの布地が食い込み、汗ばむ様をひたすらスローで繰り返し捉える。

 

背後から尻尾の付け根にピタリと張り付き、鞭のようにしなる軌跡をフレームに収め続け、先端が敵の首を貫く瞬間を何度も角度を変えてリプレイ風に再生。

 

上空から小さな胸の揺れにピントを合わせ、黒い炎の残光が肌を照らすたび、ドローンが前後にスライドしながら執拗にトラッキング。

 

血の雫が胸の谷間をすべり、ゆっくり滴り落ちる様子をクローズアップ。

 

飛びかかる悪魔を咄嗟に薙ぎ払った拍子に、可愛らしい乳首がちらりと僅かにビキニから顔を覗かせた瞬間、コメント欄が完全に燃え上がった。

 

「うおおおおおおお、乳首でた!!!!!!」

 

「股間ズーム止まらねぇwww」

 

「尻尾の付け根エロすぎて死ぬ♡」

 

「胸揺れトラッキング神!!」

 

「ドローンもっと寄れ! もっと寄れぇ!!」

 

「もう一回、乳ポロしろ!!」

 

リリア(ルシエル)は淫魔の尻尾を鋭く振り、邪魔なドローンを叩き落とす。

 

しかし残ったドローンは即座に復活しては、再ロックオンを繰り返し、執拗にリリアを追跡し続ける。

 

カメラが捉える映像の中――可愛らしい笑みをうかべた淫魔の仔は、ただ一閃で下級悪魔たちの首を吹き飛ばしていく。

 

スクリーンの中で、鬼神の如き殲滅戦を繰り広げるリリア(ルシエル)の映像に、白抜きのテロップが重なった。

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◾️花嫁狩り/エントリーNo.866

 

氏名: リリア♡

種族: サキュバスの仔

所属: ルシエル公爵家でメイドさんやってます♡

特技: おひるね(すやすや)

コメント: がんばりますので、みなさん応援よろしくおねがいします♡

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「うおらぁああああーーー! 俺を誰だと思ってる、この雑魚(ザコ)どもがーーーー!!」

 

返り血を浴びながら、紫の瞳を吊り上げたリリア(ルシエル)が吠え、破壊し、夜の闇ごと下級悪魔たちを焼き払う。

 

「おっとぉー! この可愛らしい殺戮(キリング)マシーンは、ルシエル公爵閣下のメイドさん、リリアちゃんだそうです!

流石は由緒正しい名誉ある御家門(おいえがら)、下々のスタッフにまで殺しの美学が行き渡っていますね!!」

 

また、一段と加速したコメント欄が、画面の中に提供されるエンタメとしてリリア(ルシエル)の殺戮を貪欲に求め、煽り立てていく。

 

リリア(ルシエル)は空中で一度浮遊し、小さく舌を出して呼吸を整えていた。

 

(……だめだ、数が多すぎる)

 

尻尾を振り回し、飛びかかってくる悪魔の胴を真っ二つにし、容赦なく焼き払う。

 

しかしドローン魔獣はさらに執拗に、リリアの肢体をクローズアップで撮影しようとにじり寄ってくる。

 

(これは長くなる――まずいぞ)

 

借り物(リリア)の肉体では、もう長くは持たない――

 

しかし、現場不在証明(アリバイ)のためには、”ルシエル本体”は、そのまま貴賓席に留まっておく必要があった。

 

目の前の殺戮に集中すればするほど、ルシエルは己の二つに分断された精神波が乱れ、制御を失っていくのがわかった。

 

*

 

貴賓席のルシエルは、薄く眼を閉じかけていた。

 

うつらうつらしながら、時々ハッと前を向き直り、周囲の令嬢たちのどうでもいい会話に、わかった風に相槌を打ち——またフッと意識が遠くなる。

 

「ルシエルさま♡ どうなさったの? 宴は、こんなに盛り上がってますのに♡」

 

サバト会場となる古城は、スクリーンの向こうの血腥い映像に熱狂し、熱に浮かされ、怒号と歓声で渦巻いていた。

 

気がつくと、半分意識を失いかけているルシエルは、令嬢たちの豊かな胸に抱きとめられ、衣服を捲り上げられていた。

 

「おねむされるなら、少しお召し物を緩めないと♡」

 

スクリーンの中のリリア(ルシエル)が黒い火炎を巻き上げて、その破壊の限りを尽くすほど、貴賓席のルシエルの意識がふらふらと遠のきかける。

 

(コントロールが、効かない)

 

令嬢たちはくすくすと笑いながら、ほぼ落ちかけている若き公爵を、かわるがわるその胸に抱き止め、唇に戯れかけ、下腹の隙間から遠慮なく指を差し入れてくる。

 

ルシエルは無抵抗のままシャツをはがされ、淫蕩な令嬢たちの舌先が彼の肌を伝い、臍下まで舐めまわす。

 

快楽は感じなかった。

 

彼の精神はもう一つの肉体のために吸い上げられ、ルシエルの肉体から感覚が失われていく。

 

意識が遠くなる——

 

スクリーンの中のリリア(ルシエル)が、黒煙を巻き上げながら森を焼き払う映像は、もう目に入らなかった。

 

ドローン魔獣の数台が取り囲み、首を後ろにガクガクと落としているルシエル公爵の姿を、執拗にカメラで捉えている。

 

貴賓席で始まった、姫君たちの残酷でエロティックな戯れを、リアルタイムで魔界の奥底まで晒し、その光景はスクリーンの向こう側、狂気と淫蕩に酔いしれる大衆のもとへ、娯楽(エンタメ)として残酷に配信(ブロードキャスト)されていった。

 

「ルシエルさま♡ ほ~ら、あーんして♡」

 

夢うつつのまま、かろうじて意識を保ちながら、ルシエルは口移しに与えられた、甘い葡萄の一粒を噛んだ。

 

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