半血魔王のクロニクル ~黒き貴公子シリーズ総集編~ 作:古弥須 凱
遠く、闇の向こうから、少女たちの呼び声がかすかに聞こえてきた。
ルシエルの
「ルシエル様! どこにいらっしゃいますか…! お返事してください――!」
「ルシエルさまぁ~!どこぉ~?」
空気は甘く湿り、媚薬のような匂いが漂う。
古い木々が空を覆い、葉から絶え間なく細かな雨が滴るこの暗い森は、どこまでも続くルシエルの領地だった。
「ねぇリリア……もうお屋敷に帰ろ。こんな真っ暗で広い森の中で、どうやってルシエルさまを探せばいいのよぉ」
道半ば、そんなに飛行しないうちからすっかり疲れてしまったソフィアは、もう帰りたくてたまらない様子だった。
「そんなこと言ったって、ルシエルさまが“声”を飛ばして私を呼んだんだもの。いちばん北の
「東屋なんてちっとも見えないわ。もうずーっと、森の端っこまでぐるぐる飛び回って来たのにぃ」
すっかりやる気を失って、大きな古い木の下に座り込んだソフィアは、ジトッとした目でリリアを睨み、ぷいっとそっぽを向いて不貞腐れてしまう。
もう一歩も動きたくない妹の姿を見て、リリアは深いため息をついた。
とにかく、この森のどこかにいる主人を探さなければ。
暗い森の中を彷徨い続け、文句ばかりのソフィアを追い立てながら、リリアはやっと求める相手を視界に捉えた。
「ルシエルさま……!」
喜びと安堵から駆け寄ろうとして、リリアは歩みを止めた。
――ルシエルは、霧雨の降る森の木影から、ひとりの少女を眺めていた。
「あの娘……にんげん?! 一体どうやってルシエルさまの領地に入ってきたのぉ……?!」
驚いて素っ頓狂な声を上げるソフィアに気づき、ルシエルは人差し指を立てて静かに、という合図を送った。
双子は顔を見合わせて、そろそろと主人に近づき、影のようにぴったりと寄り添った。
「何か空気がおかしいと思った。今宵は十二夜のせいで、魔界と人間界を遮る帳が淡くなっている。ほら、見てみろ」
ルシエルが足元を示すと、少女のいる東屋の周りだけ、ぼうっと真珠色の霞が漂っていた。
「あの光の向こうは、この少女の“夢の中”だ。足を踏み入れれば、気づかれてしまう」
「気づかれないように、ここでずっと彼女をご覧になっていたのですね」
と、リリア。
「そう――ずっと見ていた。だが、俺の姿は見られたくない。だからお前たちを“声”で呼んだんだ」
「悔しいけどぉ……あの子、とっても美人~。手も足もすらっとして、白くて……すべすべして」
いつも他人の悪口しか言わないソフィアが、思わず素直にそう漏らすのも無理はなかった。
その少女の姿は、暗い霧雨の中に際立って、光輝いて見えた。
白い薄手のナイトガウンが雨に濡れ、肌にぴったりと貼りついて、金色の髪が頰や首筋に張りつく。幼げな胸の膨らみ、細い腰の曲線が浮き彫りになる。
その少女――リーザは、蔦の絡まる古ぼけた東屋のベンチに腰掛け、ただ寂しげに、雨音に耳を傾けていた。
「俺は一度、あの夢の中に入り込んで……リーザに出逢ってる」
どこか寂しげな声で、美しい貴公子は呟いた。
「――彼女の記憶には残っていないはずだ」
「ルシエルさま、何だか悲しいお顔……」
ソフィアが顎の下から顔をのぞかせ、甘ったるい声で囁く。
そのまま冷たい指を、ルシエルの固く引き締まった下腹に這わせた。
「でもなぜか、すっごく痛いくらいカチカチになってますぅ♡ ……ここからあの子をのぞき見ながら
「――お前はバカだが、目ざといな」
ルシエルは低く笑い、ソフィアの頭を軽く撫でる。
だがその手は、どこか苛立っているようにも見えた。
ソフィアは嬉しそうに目を細め、さらに追い討ちをかける。
「ルシエルさま、すっごく興奮してる♡。 あのきれいな女の子は
それとも捕まえて裸に剥いて、舐め回して……あたし達にするみたいなえっちなコトいーっぱいして…泣かせちゃったのかな♡
だから、こそこそ木の陰に隠れて、おちんちんヌキヌキしたくなっちゃったんだぁ……?」
「ソフィア、いい加減になさい!」
リリアが慌てて妹の口を押さえようとするが、ルシエルは片手でそれを制した。
「リーザには、ほんのちょっと触れただけだ。俺も
はぐらかすような言い回し。
リリアは心の中でため息をついた。
ルシエルの言う「ほんのちょっと」なんて、信用できるわけがない。
この美しい魔王の欲望が、「ちょっと」だけで済ますはずがないのだから。
ソフィアはくすくす笑いながら、ルシエルの太ももに頰を寄せる。
「ふーん……でも今、すっごく硬くなってるの、嘘じゃないよね♡
あのお姫様の泣き顔思い出して、こんなに反り返っちゃうなんて……
ルシエルさまのおちんちん、ほんとにえっちで可哀想♡」
「いずれにせよ、彼女が眠りから覚めれば、この森と人間界との帳が降りてしまう。俺はもうしばらく彼女の姿を見ていたい。ただし“俺の姿は見られたくない”。わかるな?」
双子の淫魔は、お互いの顔を見合わせた。
「お前が行って来い、リリア。リーザはいま、悲しんでいる。行って彼女を”なぐさめて”来るんだ。お前の可愛い
「ええっ……わたしが、ですか?――そもそも、なんてお声がけすればいいのか」
「ときどき、お前は賢いのかバカなのかわからんな。まぁサキュバスとしては賢いほうだが……。俺は、今のリーザの美しい
人間界の時間と魔界の時の流れはまったく違う。
リーザの夢の中に踏み込み、強引に抱き寄せた華奢な体……そのあまりの軽さに驚いたことを、今もはっきりと覚えている。
小さな赤い唇の温かさ、汗ばんた白い首すじも、何もかも。
(――もうずいぶんと大人になっているはずだ。)
あの時よりもやわらかく、ふっくらと重みを増したリーザの乳房、そして固く閉じた白い膝のその奥までを想像している自分に気づく。
――もしかしたら、まだ俺のことを覚えているだろうか。
そう心の中で呟いた瞬間、腹の下にちろちろと燃えるような快感が湧き上がった。
リーザの記憶が、ソフィアの舌に重なるように……。
ソフィアはとっくに主人の両脚の間に跪き、熱くぬるぬるとした口内でゆっくり根元まで飲み込んでいた。
じゅる……じゅぽっ……と、わざと音を立てて吸い上げる舌技は、まさに絶品だ。
喉奥まで押し込まれるたび、ルシエルの腰が小さく跳ね、冷静さの仮面が剥がれ落ちそうになる。
夜は長い――。
頭の中では、まだあの幼いリーザの甘い吐息と、熱く濡れた感触が、ねっとりと繰り返されていた。
しかし、十二夜の月はすでに傾き始めていた。
時間がない。
リーザの夢の扉が、夜明けとともに閉ざされる――。
「おいリリア、何をしてる、早く行け!」
強い口調で叱られ、リリアはびくんっと肩を震わせた。
おずおずと、何度も不安そうに振り返りながら、リーザのいる東屋へ歩いていく。
(――ルシエル様は、前からずっとあの子のことが好きなんだわ……)
リリアの“声”が不意に聞こえてきて、ルシエルは苦く笑った。
男の悪魔が人間の女に向ける欲望は二つしかない。
犯してから殺すか、殺してから犯すか。
あの時、リーザを殺そうとしなかったのは、ただの少年の未熟さだと、自分に言い聞かせてきた。
だが今、十二夜の月あかりに垣間見た、美しいリーザの姿に、あの日の欲望が猛り狂う。
後ろから抱きしめ、白くやわらかな片腿を持ち上げ、あらわになった小さな“唇”に彼自身を押し当てる想像が、頭を支配する。
「うッ…ソフィア…、いいぞ…吸え……もっと奥まで…」
主人の精を一秒でも早く吸い出そうと、ソフィアは小さな口いっぱいに頬張ったペニスを舌先で甘くねっとりと転がす。
ぬるぬるとした舌が絡みつき、喉奥まで深く、みだらな音を立てて咥え込んで――。
(ルシエルさま…早くソフィアのお口に
ソフィアの口は執拗だ。
舌で肉棒の裏筋を這い、唇で強く締めつけ、頭を前後に動かして激しく刺激する。
その生なましい律動にルシエルの腿裏がぴりぴりと痺れる。
(くすくす♡ ルシエルさま、もうタマタマまでかっちかちィ♡)
「ああ……まだ駄目だ。――リリアが俺の“花嫁”の品定めをするまでは、な」
(ね♡ ここに♡ びゅーびゅー
「……ダメだと言ってるだろ。駄目だ――止めろ、うッ……ソフィア言うことを聞け」
(ルシエルさまのおちんちん、こんなに
ルシエルは乱暴にソフィアの頭を掴むと、欲望のままに激しく腰を深く打ち付ける。
普段の彼であればもう少し冷静であったかもしれないが、今夜はとてもそんな心持ちになれそうもなかった。
彼の
(ソフィアのお口わぁ…ご主人さまの
顎をのけぞらせて、あっけなく彼も爆ぜた。
「――熱い」
ソフィアの激しく情熱的な吸精が残した気だるさの余韻に浸りながら――、霧の中でじっとりと汗をかいている襟元を開いて、ルシエルは東屋の少女たちを見た。
今まさに――彼の支配下淫魔であるリリアが、そっと麗しのリーザの肩に触れようとしている。
そう、十二夜が終わる前に――少女はゆっくりと振り返った。