※この作品はR-18です。

半血魔王のクロニクル ~黒き貴公子シリーズ総集編~   作:古弥須 凱

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47話 人身御供

 

【挿絵表示】

 

 

 

ナイメリア邸の広間は、静寂が重く淀んでいる。

 

ルシエルは礼装のまま膝をつき、傍らのレジナルドも同じく頭を垂れている。

 

ナイメリアはワイングラスを片手に、豪奢な椅子の上から彼らを見下ろしていた。

 

「何度言われても、リーザちゃんからのお返事の通りよ。

 

彼女はまだ、あなたに会いたくないって言ってるじゃない♡」

 

声は甘く、しかし底に冷たい棘を隠している。

 

彼女はグラスから一口含み、ゆっくりと回した。

 

ルシエルは視線を上げ、紫の瞳を静かにナイメリアに向ける。

 

「殿下。リーザ姫が拒まれるなら、直接お会いしなくても構いません。

 

せめて…姫君のご様子をただ一度、遠くからでも、この目で確かめさせて頂けませんか」

 

ナイメリアはくすりと笑い、グラスを置くと、細い指で顎を支えた。

 

「ふふっ…しっつこぉい♡」

 

彼女はゆっくり立ち上がり、ルシエルたちの前を横切るように歩きながら言った。

 

「リーザちゃんは今、私の領地で心穏やかに、私の客人として静かに暮らしてるのよ。

 

私もちょくちょく様子見に行くようにしてるけどー♡貴方に逢いたいとは、一言も聞いたことないわね♡」

 

ルシエルは、唇を噛みしめた。

 

「……殿下。それでもお願いいたします。ただ、一瞬でいい。

 

彼女の姿を……この目で確かめたいのです」

 

ナイメリアはルシエルのすぐ横で立ち止まり、その細い指先で彼の黒髪を優しく撫でた。

 

指先が耳朶をなぞり、首筋を滑る。

 

ルシエルは微かに震えたが、動かない。

 

「それなりの覚悟は、あるようね♡」

 

彼女はルシエルの顎を軽く持ち上げ、幼い顔を近づけた。

 

息がかかる距離で、甘く囁く。

 

「いいわ。リーザが貴方に会いたいかは別問題として、私の領地……彼女がいる場所への立ち入りを特(・)別(・)に、許可してあげる♡。

 

もちろん、交換条件はあるわよ♡」

 

ルシエルは息を詰め、ナイメリアの視線を強く感じた。

 

「私って欲しがり屋なの♡

いい感じの若い男を見ると、すぐに肉体(カラダ)が疼いちゃうの♡

……意味がわかるかしら、ルシエル公爵」

 

「ええ、……おそらく。殿下」

 

ナイメリアはさらに言葉を重ね、指先でルシエルの首筋をゆっくりなぞりながら、耳元で吐息を漏らす。

 

「貴方が、そのちょっとした犠牲を払うなら、リーザのいる場所への立ち入りを一時的に許すわ……♡どうかしら」

 

ルシエルは向き直り、この年若い少女の外見をした、残酷な女公主を見た。

 

「承知いたしました。なんなりと仰って下さい。

私は……ただ殿下のご指示に従います」

 

ナイメリアは、唇を少し持ち上げて、にっこりと微笑んだ。

 

「決まりね♡

では、ルシエル公爵。そこにいる貴方の従者……レジナルドを、今この場で、私の『玩具(おもちゃ)』として召し上げるわ。

それが、交換条件よ♡」

 

ルシエルは一瞬、呆気に取られた。

 

「殿下……私の従者を、ですか?」

 

ナイメリアは満足そうに頷いた。

 

「ええ、そうよ。その人間の男をちょうだい♡

 

……私宛にいろんな使者がひっきりなしに来るけれど、生乾きの血肉の匂いをさせながら、穴の開いた体を引きずって、私の前に現れたのは、この男が初めてよ♡」

 

ナイメリアはくすくすと笑って、傍らで無言で控えているレジナルドの脇腹を指先でなぞっている。

 

「とても、歩けるような状態じゃないわ。表面上は使者として礼儀正しく振る舞っていたけれど、肉体的には大変な苦痛だったはずよ。もちろん、今もね」

 

ナイメリアの白い指先が、レジナルドの脇腹に軽く圧をかける。

 

それでも、ルシエルの忠実な従者は表情ひとつ変えなかった。

 

ナイメリアは品定めをするように、もう一度レジナルドの肉体を魔力で透かし見た。

 

花嫁狩り競争で受けた傷跡……小惑星(メテオ)に貫かれた痕跡がまだ生々しく残っている。

 

そして彼の腹筋……臍から下へとゆっくり視線を巡らせる。

 

ナイメリアの求めるものを、レジナルドは十二分に満たしていた。

 

「貴方の"忠犬"を引き取って、私の首輪を掛けたいの♡

いつでも側に置いて、気の向くままに使いたいわ」

 

ルシエルは咄嗟に、レジナルドに念話で声をかけようとして、思いとどまった。

 

この幼く見える女公主には、すべてが筒抜けだった。

 

「ナイメリア様、このレジナルドは私が最も信頼し、兄とも頼む者。

 

……どうかそれだけはご容赦いただきたく、伏してお願い申し上げます」

 

「あらー♡だから欲しいんじゃない。

人間のくせに、貴方のために命をかけるような男だから、なおさら取り上げたくなるのよ♡

 

この男と、夜ごと閨(ねや)の楽しみの限りを尽くしたいわ♡」

 

「お言葉なれど、このレジナルドはそのようなご要望にお応えできないでしょう。

 

彼は常に禁欲的(ストイック)に私を支え、その仕事ぶりは冷厳すぎるほどです。

 

あなた様のような高貴な女性に対して、ご満足いくような閨の務めなど、とても果たせそうにありません」

 

ルシエルの抗議の言葉に、ナイメリアの瞳が細くなる。

 

彼女はレジナルドの顎を指先で軽く持ち上げ、淡い灰色の瞳を覗き込んだ。

 

「ふふっ……禁欲的(ストイック)、ねぇ♡」

 

ナイメリアの指が従者の顎から首筋へ、ゆっくり滑り落ちる。

 

「私の見立てでは、ちょっと違うわね♡」

 

レジナルドは変わらず、一切表情を変えない……が、内心では激しく汗をかいた。

 

「それに、彼が私のものになるのは、リーザにとっても良いことよ♡

 

彼女も一人きりで魔界で暮らすようになって、まだ戸惑うこともあるはずだし♡

 

同じ人間であるレジナルドが、リーザの近くにいてくれれば、それだけでも"回復"の助けになるかもね♡」

 

ナイメリアは、微笑みを浮かべてレジナルドの顔を覗き込んだ。

 

「私に今ここで接吻(くちづけ)なさい、レジナルド」

 

レジナルドは、微動だにしなかった。

 

「公爵……?」

と、ナイメリアが催促した。

 

ルシエルはただ短く、命じた。

 

「レジナルド、殿下の仰せのとおりに」

 

「承知いたしました、閣下(サー)」

 

レジナルドはその場で、この美しくも残酷な女性(ひと)の求めるままのことをした。

 

彼女の背丈に合わせ、前屈みになってナイメリア女公主と……唇を重ねる。

 

ナイメリアの薄い舌が、レジナルドの唇をなぞり、ゆっくりと奥へ滑り込んできた。

 

幼い口内とは思えない熱と柔らかさが、彼の舌を絡め取る。

 

レジナルドは微動だにせず、ただ受け入れるだけだった。

 

瞳は淡く灰色に澄んだまま、視線は床の一点に固定されている。

 

ナイメリアは舌を離し、くすくすと笑った。

 

「ふふっ……本当に動じないのね。禁欲的ってレベルじゃないわ。まるで石の彫像みたい♡」

 

彼女の指がレジナルドの首筋を下り、鎖骨のくぼみをなぞる。

 

傷跡の凹凸を避けながら、ゆっくりと胸元へ。

 

布地の下で、心臓がわずかに速くなる鼓動が伝わってくる。

 

それでもレジナルドは、表情ひとつ変えず、呼吸すら乱さなかった。

 

ナイメリアはレジナルドの耳元に唇を寄せ、囁くように言った。

 

「レジナルド。公爵はどうやら、お前の一つの面(かお)しか知らないようね♡

でも、私の前では……全部(すべて)をさらけ出していいのよ♡」

 

全ては、すでに"決定事項"だった。

 

ナイメリアは座に戻り、ワインを片手に悠然と、ルシエル主従を見下ろしている。

 

ルシエルは低く、言葉を切った。

 

「……レジナルド、頼まれてくれるか」

 

「閣下(サー)、貴方様の仰る通りにいたします。まずは姫君にお会いになれることが優先です」

 

すまない、とは言葉に出して言わなかった。

 

ルシエルは立ち上がり、ナイメリアに向き直った。

 

「レジナルドとは、彼の肉体が滅ぶまでを私の所有とした盟約をかわしております。

 

リーザ姫が回復なさるまでの期間、彼を一時的に殿下へお預けする……そのような形でしたら、彼をお渡しいたしましょう」

 

ナイメリアはふぅん、と言った表情で少しばかり不機嫌になった……が、彼女独自の楽観性をもって気分を改めた。

 

「まぁ、それでいいわ。ではそれを交換条件としましょう。

 

リーザちゃんは、私の所有する『白紙委任の森』に滞在しているの。

小さいけれど、とても美しい――特別な領地(とち)だわ。

 

貴方の領地の一部とは隣接してるはずよ。そこからの立ち入りを許します」

 

ルシエルは立ち上がり、ナイメリアに向き直った。

 

一瞬、レジナルドの視線が上がる。

 

淡い灰色の瞳が、ルシエルの紫の瞳と、ほんの一瞬だけ交わった。

 

ルシエルは深く頭を下げた。

 

「殿下……誠に有難きお言葉、痛み入ります。

ご領地への立ち入りを御許可下さいましたこと、心より感謝申し上げます。」

 

ナイメリアはくすりと笑い、グラスを軽く傾けた。

 

「近いうちに、私の署名入りの立入許可証を、レ(・)ジ(・)ナ(・)ル(・)ド(・)に(・)届けさせるわ。

 

あとは貴方しだいよ、公爵♡

大事なのは貴方の想いじゃないの。彼女の気持ちよ♡」

 

ただ幼い瞳に、甘い残酷さが揺れている。

 

ルシエルはもう一度頭を下げ、レジナルドをその場に残して退出した。

 

扉が閉まる音が、静かに広間を隔てた。

 

 

*

 

 

2日後、ルシエル公爵邸の私室。

 

昼下がりの陽光が、アーチ窓から淡く差し込み、黒い絨毯に長い影を落としていた。

 

扉が控えめに叩かれ、執事のトーマスが「ナイメリア殿下からの御使者……レジナルドが、戻りました」と告げた。

 

あえて、"戻りました"と言ったトーマスの心情(きもち)が、ルシエルにも辛かった。

 

入ってきたレジナルドの銀縁眼鏡はいつも通り、ナイメリアの家門の者であることを示す、黒い従者服姿も完璧に整っていた。

 

だが、まだ歩き方がわずかにぎこちなかった。

 

ルシエルは机から立ち上がり、紫の瞳を静かにレジナルドに向けた。

 

「……レジナルド」

 

声は低く、しかし抑えきれない感情が滲む。

 

レジナルドは深く頭を下げ、封蝋の押された羊皮紙と、やけに厚い信書を差し出した。

 

「閣下。ナイメリア殿下からの立入許可証と、信書をお預かりして参りました」

 

ルシエルは許可証を受け取りもせず、まずレジナルドの顔をじっと見つめた。

 

「体は、大丈夫か」

 

レジナルドの瞳がふと、優しく揺れた。

 

まるで、お察しくださいとでもいいたげな、ほんの一瞬だけの親しみを込めていた。

 

目線は、すぐに静かに伏せられる。

 

「ご心配には及びません、閣下。

ナイメリア殿下のご厚情により、あちらの屋敷(いえ)で、回復魔法での治療を続けております」

 

言葉は丁寧で、声もいつも通り冷静だった。

 

ルシエルはゆっくりと息を吐き、許可証を受け取った。

 

「……すまない、レジナルド」

 

言葉は小さく、しかし確かだった。

 

レジナルドは首を横に振り、静かに答える。

 

「閣下のそのお言葉は、必要ありません。私は閣下の所有物です。その盟約は、今も変わりません」

 

ルシエルは、届けられた信書を開いた。

 

ナイメリアの筆跡は、いつものように優雅で、書面の上で踊るように滑らかだった。

 

『ルシエル公爵

 

お約束通り、リーザちゃんのいる『白紙委任の森』への立入許可証をレジナルドに持たせたわ。

 

念のため、リーザちゃんにもこのことは伝えてあるの♡

 

なんだか複雑な表情だったけど……どう思ってるのかしら♡

ちょっとドキドキよねー!

 

ただし、彼女は私の客人であることをお忘れなく、お行儀よくね♡」

 

ナイメリアの軽い口調そのままに、文はつづいている。

 

「貴方の忠犬(わんちゃん)……レジナルドに、私はすっかり夢中なの♡

 

とにかく長さがいいわー♡

 

魔界の男は太さばっかり自慢するけど、流石にこの年齢(とし)になると、ちょっとそういうの飽きちゃうわよね♡

 

あとね、クンニが本当に丁寧なの♡

 

お願いしなくても、何時間でも舌で奉仕してくれるのよ♡

 

私のクリちゃんをちろちろ舐め回して、「殿下は、ココを責めら(いらわ)れんのがお好きなんですね……」って低い声で確認しながら、ゆっくり奥まで舌を入れてくるの……

 

やーん、もうダメぇ♡って何度もイカされちゃう♡

 

レジナルドったら、大当たりすぎるわぁ♡やっぱり私の目に狂いはなかったのね♡

 

セックス巧い男は、なんとなく雰囲気で判るのよねー♡これも年の功ってやつかしら♡」

 

ルシエルは、呆気に取られる。

 

何なんだ、この手紙は……。

 

思わず口に手を当て、読み進めるのを、レジナルドはちら……と伺い見た。

 

「レジナルドって、私の身体をよく観察してるのがわかるわ♡

 

私の感じる部分……欲しい部分を丁寧に探し出してくれるの♡

 

『ほんなら挿入(い)れさして貰いますね……』って低い声で確認しながら、彼のモノが、私の中に突き入れられて……♡

 

私は自分の中にある、淫らなメスの本性のままに、自然と腰を動かしてしまうのー!もーやだー♡

 

一晩に、もう何度イカされちゃうか判らないわ♡

 

私が「もっと……そこ……♡」って喘ぐでしょ♡

 

そうしたらレジナルドが優しい声で

「あなたは悪い女(ひと)や……もうこないに火照(ほて)ってはる……もっと奥まで、欲しくてたまらんのですね……」

って、ガンガン言葉責めしてくるの♡

 

言葉は優しいのに、腰使いはめちゃめちゃ激しくて……♡

 

私のあそこがトロトロと蕩けると、彼は半ば強引に……」

 

ナイメリアの手紙は、この調子で2枚半続いている。

 

全く、あの女公主(ひと)は何を考えているのか……。

 

「レジナルド、お前は……いろんな事に秀でているんだな」

 

多少のショックを受けつつ、ルシエルは務めて冷静さを装いながら言った。

 

「……恐縮です、閣下(サー)」

 

「しかし、正直なぜお前だったのかわからん。俺の方が多少、顔が整っていると思っていたが……」

 

「閣下、真顔でそんなことをおっしゃられても、反応に困ります。」

 

レジナルドは、いつもの通り冷静な表情を崩さずに、続けた。

 

「私は昨日、ナイメリア様のお供で、リーザ様にお目通りいたしました。

 

少しお淋しそうなご様子ではありましたが、優しく私にも声をかけていただきました」

 

「何か……彼女は言っていたか」

 

レジナルドは首を振った。

 

「何も……閣下の事はおっしゃられませんでした。ただ、姫君は変わらずお美しく、気高くあられました」

 

「そうか……」

 

ルシエルは信書を握りしめ、指先が白くなるほど力を込めた。

 

レジナルドは、ルシエルを静かに見つめた。

 

「……閣下。リーザ姫がいらっしゃるナイメリア様のご領地『白紙委任の森』のことですが、お伝えしておくべき事がございます」

 

レジナルドは、彼にその不思議な森の詳細を短く、そして正確に伝えた。

 

ルシエルはゆっくりと頷き、レジナルドの肩に、ほんの一瞬だけ手を置いた。

 

「ありがとう、レジナルド」

 

その手は、微かに震えていた。

 

レジナルドは頭を下げ、淡い灰色の瞳を伏せた。

 

「閣下の命令であれば……いつでも」

 

「屋敷の皆も、お前の顔をみれば喜ぶだろう。少し時間をとっていけ」

 

「いえ、すぐにお暇させていただきます。あちらのお屋敷のことを、また一から学ばねばなりません」

 

「どこへ行っても仕事熱心だ。レジナルド、お前らしい」

 

ルシエルはふっと笑ったが、その目はどこか寂しげだった。

そのまま、静かに背を向けた。

 

レジナルドは深く頭を下げた。

 

「閣下、失礼いたします」

 

ナイメリアの使者としての役割を終え、そのまま部屋から退出した。

 

扉が閉まる音が、静かに響いた。

 

 

*

 

 

彼女の寝室は、魔界の夜を閉じ込めたような深い闇に沈んでいた。

 

豪奢なベッドの中央に、横たわるあまりにも美しい裸身。

 

長い青銀がかった髪がシーツに広がり、月光のように輝いている。

 

細くくびれた腰から、優美に広がる太もも。

 

少し左右に開いた豊満な乳房の谷間に、細い銀のアクセサリーが淫靡に揺れている。

 

彼女の淡い乳首のすぐ上で、脈打つように、それは光っている。

 

平たく白い下腹には、魔族の高貴な家柄の姫君だけが刻むことを許される、雅やかな淫紋が浮かんでいた。

 

寝返りをうつと、むっちりと張り詰めた太ももの間に、どこか少女らしさを残した陰毛(ヘア)のない上付きの陰部があらわになり、艶かしい。

 

この姿を知る者は、彼女……魔界の女公主・ナイメリアの愛人たちだけだ。

 

普段の彼女——12歳の少女のような無垢で残酷な笑顔を浮かべる「女公主」は、魔界の誰もが知る仮の顔だ。

 

彼女の本性は、今ここに横たわる、成熟した美しい魔性の姿だった。

 

その秘密は、一夜の悦びを分け合ったことのある、ごく限られた男たちだけが知るものだった。

 

寝室の扉が静かに開き、裸のレジナルドが現れた。

 

彼の背の高さに釣り合った、筋肉の線が美しく浮かんでいる。

 

しかし、胸から腹にかけて、背中から腿にかけて、無数の生々しい小惑星(メテオ)に貫かれた傷跡が走っていた。

 

レジナルドは、彼女に引き取られた忠犬らしく控えめにベッドに近づき、膝をついて頭を垂れた。

 

銀縁の眼鏡は外され、淡い灰色の瞳が、ナイメリアの裸体を静かに見つめている。

 

「ただいま戻りました……ナイメリア様」

 

その語調(くちぶり)は、ナイメリアが彼に強いたように、彼の本来の言葉である故郷の訛り(かんさいべん)で、そのやわらかな響きがさらに、ナイメリアの欲情をそそった。

 

「レジナルド、思ったより早かったわね。ルシエル卿と涙なみだの再会で、長居をしてくるものと思ったわ♡」

 

声は甘く、しかし底に冷たい棘を隠している。

 

彼女は片手で髪をかき上げ、犬にするように彼女のシーツの表面を、ぱんぱんっと軽く叩いて見せた。

 

「さぁいらっしゃい、公爵(ルシエル)の忠犬さん」

 

レジナルドは言いつけ通り、犬のように四つ這いになって、彼女の傍にはべった。

 

「前の飼い主の躾がいいのね。従順な男って大好きよ♡

 

でもお前の内心には、私への怒りがみえるわ。憤っているのね、忠犬さん。

 

お前は、たかが愛玩物(ペット)だけど、飼い主には唸りたい時に唸ることを許される。

 

お前がどう思ったのか、私に聞かせてごらんなさいな♡」

 

「……あなた様はわざと、……私のことをルシエル様への手紙に書かはりました。」

 

「ええ、そうよ♡お前が……あの子には知られたくないと思っていた事を、面白おかしく書いたわ♡」

 

深い藍色の瞳に残酷な光を浮かべて、ナイメリアは彼女の"新しい愛人"となったレジナルドに囁きかけた。

 

「嘘は書いてないわー♡お前は、ルシエルのためなら何でもする。

 

でもそれだけじゃない……レジナルド。

 

お前の中には、隠しきれない男の欲望が渦巻いてるのよ♡」

 

レジナルドの髪を引き寄せ、その唇をゆっくりと舌で押し開いた。

 

ナイメリアは濃厚な口づけを交わしながら、直接レジナルドの思念に語りかける。

 

(……あの子(ルシエル)に忠義だてしながら、お前の仮面の下の本性が、生々しい欲望に猛り狂っているわ♡

 

お前は、私が欲しくてたまらない。

 

私を押し開いて、お前自身を激しく突き入れたい…。

 

女としての私を容赦なく犯し、組み伏せて、欲望のままにお前の熱い精を注ぎたくてたまらない――そうでしょう?)

 

答えたくなかった。

 

レジナルドは眉根を歪め、灰色の瞳を閉じた。

 

舌を絡め、そのまま本能のままに甘く吸いたてた。

 

ナイメリアが唇を離すと、長く糸を引いて、その口端から唾液が垂れた。

 

残酷な微笑みを浮かべて、彼女はレジナルドの薄い灰色の瞳を見た。

 

すでに硬くなりつつある陰茎は、ナイメリアの指先に優しく嬲られている。

 

「お前はもう、私の忠犬(わんちゃん)なのよ♡

 

ルシエルへの忠義の為に、自分では玩具(おもちゃ)になりきってるつもりでしょうけれど……。

 

その実(じつ)もうお前は、私の肉体(からだ)に心底、溺れきっているじゃない♡

 

お前がまだ信じている忠義とは何なのか、私はそれが知りたいわ♡」

 

レジナルドはついに、視線を逸らしたままで、ぽつりと吐き捨てた。

 

「あなた様は、と(・)こ(・)と(・)ん(・)残酷なお方や。

ほんの一欠片(ひとかけら)の誇り(プライド)も、私に残しては下さらへんのですね」

 

ナイメリアは答えず、ただ艶然と微笑んだ。

 

すでに熱く濡れそぼった肉の襞を、大胆にレジナルドに晒し、促した。

 

「今日は舐めなくていいわ、レジナルド。もう、こんなに濡れてるの♡

 

お前が帰ってくるまで、一人で慰めていたわ。この長いモノに早く貫かれたくたまらなかった。

 

こんなに高まったのは、少女の頃以来よ♡」

 

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