半血魔王のクロニクル ~黒き貴公子シリーズ総集編~ 作:古弥須 凱
アトリウムの空気は、湿った土と花の甘い香りで満ちていた。
温かな光が丸いガラス屋根を通り、淡く床を色づかせている。
魔界の王妃、リーザは黒いドレスを身にまとい、侍女を伴わず一人で立っていた。
その花言葉は、「――悲しんでいるあなたを愛する」。
青く沈んだ花弁が、彼女の心に寄り添う唯一の慰めだった。
静寂の中、背後に人の気配がした。
リーザは瞬時に身を硬くし、振り向こうとした――その刹那。
男の手が彼女の口を塞ぎ、強引に抱き寄せる。
腰をがっちりと固定され、背中を胸板に押しつけられる。
リーザの体がびくりと跳ね、両手でこの不埒な男の腕を掴んで引き剥がそうとする。
指が男の肌に食い込み、必死に抵抗するが、力の差は歴然だった。
男は、一言も発さない。
ただ、手のひらで口を塞ぎ続け、指が頰に深く食い込んで息を詰まらせる。
リーザは全身を震わせ、肘を後ろに振り抜いて脇腹を狙う。
彼の体が一瞬揺れるが、すぐに腕の力が強まり、彼女の体をさらに密着させる。
膝がガクガクと震え、竜胆の花弁が指先から散り落ちる。
「んっ……! や……め……!」
くぐもった声が手のひらに塞がれ、消える。
男の息が耳元に吹きかかり、低く抑えた声が響く。
「静かにしろ、リーザ……俺だ」
その声に、リーザの瞳が恐怖で見開かれた。
ルシエル。
かつての恋人であり、今は王妃としてアスモデールに縛られた彼女の、決して忘れられない存在。
ルシエルは無言で、黒い豪奢なドレスの襟元に指をかけ、強く引き下げる。
布地が張り、乳房の輪郭が露わになる。
裾を大きくまくり上げ、腰を引き寄せて背後から密着させる。
リーザの体が前かがみになり、花壇の縁に両手をつかされる形になる。
必死に体を起こそうとし、膝を曲げて逃げようとするが、ルシエルの膝が腿の間に割り込み、動きを完全に封じる。
塞がれた口からくぐもった拒絶の音が漏れる。
ルシエルは自分の前をほどき、すでに熱く硬くなった自身を彼女の秘部に押し当てる。
リーザの体が硬直し、最後の抵抗として腰を捩るが、ルシエルは無言で腰を押し進めようとする。
掌の中に押し付けられた唇が、はげしく震えるだけだ。
気高い王妃であるリーザには、かつての恋人を受け入れる用意などなかった。
ルシエルは体全体で彼女を抑えつけ、一瞬自由になった手に唾を貯め、それを陰茎に塗りつける。
そのまま、強引に膣口に押し込んでいく。
「……………………ンンンッ!!」
柔らかい内壁が彼を飲み込み、リーザの肢体がびくびくと痙攣する。
彼女の
ルシエルは低く息を吐き、腰をゆっくり、深く打ちつけ始めた。
波を起こすように、ゆっくりとした動き。
かつて恋人同士として過ごした濃密な日々の、快楽の記憶を呼び覚ましていく。
突き上げるたびにリーザの腰が跳ね、抵抗の声が手のひらで震える。
もう、とろけるように熱い……。
背後から容赦なく揺さぶられ、乳房がドレスの布地越しに激しく揺れる。
指が花壇の土を掻きむしり、涙が頰を伝い、青い花弁に落ちる。
ルシエルは首筋に唇を押しつけ、強く吸い上げながら、腰を深く、速く、容赦なく動かし続ける。
次第に、リーザの抵抗の力が弱まっていく。
王妃としての恐怖と、肉体が覚えている快楽の熱が混じり合い、女としての本能が彼を強く締め上げる。
腰の動きが速くなるたび、塞がれた口からくぐもった喘ぎが漏れ続ける。
おびただしい蜜が溢れ、クチュクチュと濡れた音が響く。
その音は聞くに堪えないほど淫らに、ルシエルの欲望を求めていた。
「……んんッ」
ルシエルはさらに深く沈め、彼女の奥を容赦なく突き上げる。
彼は、一言も発しなかった。
そして、リーザの口を封じたまま、一言も彼女からの拒絶のことばを許さなかった。
ただ、ルシエルの肉体を受け入れることを、強いた。
熱がこもり、額から汗が滴り落ちる。
リーザの瞳から涙が溢れ、体が激しく痙攣する。
内部がはげしく収縮し、彼を強く絞り上げる。
膝が震え、崩れそうになる。
「……あっ……」
塞がれた口から、くぐもった悲鳴のような喘ぎが漏れ、内部がルシエルを強く絞り上げるように締めつける。
このイフの夢の世界で……。
彼は没落した辺境伯であり、リーザはアスモデールに囚われた、魔界の王妃だった。
イフが仕掛けた残酷な罠の中で、ルシエルは不義密通の愛欲に自ら堕ちた。
頭では理解していても、この夢の中の快楽を手放せない。
リーザの熱が陰茎を溶かすように包み込み、脈打つたびに甘い痺れが全身を駆け巡る。
押し殺した呼吸が荒くなった。
激しく抜き差しされる淫部からは、ひたすらに激しい、みだらな粘着音が響く。
(お前は俺のものだ……永遠に俺のものだ……)
魔力を封じられ、念話は使えないルシエルだが、彼女の身体は言葉を必要としていなかった。
全てを――彼に委ねていた。
アスモデールが与え続けたどんな快楽よりも、今ここでルシエルと重ねる焔が、リーザを甘く燃え立たせた。
体が弓なりに反り、彼のすべてを受け入れようとする。
(忘れるな……お前は、俺の妻なんだ……)
リーザの膣が熱くとろけて、彼の精液をねだり、そのすべてを飲みほそうと締め上げる。
もうすぐ、爆ぜる――
ルシエルが低く吼え、むきだしの白い腰に己を深く押しつけて震えた。
(……いく……)
限界が近づき、熱い波が下腹部から爆発的に湧き上がる。
すべてが、真っ白になった。
ルシエルは、最後まで無言のままだった。
めくるめく快楽の中で、熱くほとばしる大量の白濁を、魔界の王妃の
*
ルシエルとリーザは、アトリウムの床に並んで座っていた。
それぞれ背後の植物台に身を預け、静かに息を整える。
不義の余熱がまだ体に残り、互いの体温が微かに伝わってくる。
リーザの黒いドレスは乱れ、裾が膝の上に広がっていた。
ルシエルは無言で腰の位置をずらし、彼女と触れ合う近さに座り直した。
その温かさを感じて、視線を落とす。
二人の間に、重い沈黙が流れた。
「なぜ、私の口を塞いだの」
「俺を、拒んでほしくなかった。ここでは、お前は王妃だ。……建前など、聞きたくなかった」
「そうね、王妃として、イフの…あの子の母親として……私は拒みつづけるべきだった。
……でも私は、あなたに奪われることを選んだ。おそろしい罪だわ」
「ここは、夢の中だ」
「わたしたちの夢は、もう終わっているのよ。あのサバトの晩に、すべて変わってしまった。」
その瞳に、言葉にし尽せない悲しみが溢れていた。
「いまの私は、イフの母親よ。
あの子だけが生きがいなの。とても素直で、やさしい子。
イフは、すべてを奪われた私が、その代償に手に入れた、たった一つの宝よ。」
かみ合わない会話。
ここがイフの夢であることを、今のリーザに説明したとしても、きっと理解してもらえないだろう。
彼女はもう、この世界の王妃として生きている。
この夢の中の彼女は、ルシエルを「かつての恋人」としてしか認識していないのかもしれなかった。
「あなたが来ることは、判っていたわ」
リーザが呟いた。
「あなたが王宮に現れたとき、あなたの冷たい瞳を見たときに、私はすぐに理解したわ。
いずれ、どんな手をつかっても、私を奪いにやってくると思った」
彼女はゆっくりとルシエルの肩に、そっと寄り掛かった。
ルシエルは無言で、彼女の肩を抱き寄せた。
「私を手に入れるためには、たとえ破滅してもかまわない。あなたはそういう人よ」
リーザの言葉は、優しくも鋭かった。
彼女ほど、ルシエルの本質を理解してくれている女性はいなかった。
「そうだな。このままでは、いずれ俺たちは破滅する――この世界にいる限りは」
リーザは小さく笑った。その笑みは、どこか寂しげだった。
「ここが私たちの世界よ、ルシエル。どこにも行き場はないわ。
だからこそ、私も破滅を選んだ……アスモデール陛下は、私を許さない。
イフを、あの子を遺して……逝くのが辛いわ」
リーザの言葉は、不義密通の結末を見据えていた。
やりきれない思いで、ルシエルは彼女の額を抱き寄せ、口づけを落とした。
それは、激しい渇望とは裏腹の、静かな愛情表現だった。
「わたしたち、
リーザが優しく微笑む。
胸を締め付けられる思いで、ルシエルは彼女を抱きしめ、長い口づけを与えた。
唇が触れ合い、そっと舌が絡み合う。
静かなアトリウムの中で、二人の息遣いが重なり合う。
リーザの指がルシエルの背中に回り、彼を抱き返した。
ルシエルは優しく、しかし深く味わうように、長い時間をかけて口づけた。
やがて唇が離れると、リーザは目を閉じ、ルシエルの胸に顔を埋めた。
二人は言葉もなく、ただ互いの体温を感じ合っていた。
不義密通の罪に落ちた、愚かな恋人たちとなって。
霧がゆっくりとアトリウムを包み、青い竜胆の花が、静かに揺れ続けた。