※この作品はR-18です。

半血魔王のクロニクル ~黒き貴公子シリーズ総集編~   作:古弥須 凱

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4話 ハンティング

蒼血学府(アズールブラッドアカデミア)への通学は、ルシエルにとって毎日の試練だった。

 

早朝の馬車の中で、クラレンスは無表情に座り、赤い瞳でルシエルを見下ろす。

 

「ルシエル様、魔力が少し早めに高まっておられるようですね。必要であれば、アカデミアに到着するまでに、ご奉仕いたします」

 

事務的な声が響く。ルシエルは窓の外に目を逸らし、唇を噛んだ。

 

「……問題ない」

 

「では、またご指示いたします」

 

「…………」

 

馬車が学府の門をくぐると、クラレンスは一歩後ろに控え、「ルシエル様、集中なさい」と冷たく言い放つ。

 

周りの貴族子弟たちは、少年従者たちと肩を並べて笑い合うのに、ルシエルはただ、女従者に指図されるだけだった。

 

「またあの半血(ハーフブラッド)が……女装男みたいな従者を連れている」

 

「時々、こそこそと二人でどこかへ消える。何をしているんだか」

 

「一本、抜いてもらっているのさ。いつも蕩けきった、疲れた眼をして戻ってくるもの」

 

陰口が、あからさまに耳に届く。ルシエルが視線を逸らし、頰が熱くなった。

 

彼らの想像する通りのことが、常にルシエルの日常となっていた。

 

アカデミアの授業は、魔術実習と剣術訓練が中心だった。

 

ルシエルは同年代の少年たちと比べて、どの教科でも抜群の成績を収めていたが、クラレンスは常にそれ以上の要求を突きつける。

 

「ルシエル様、まだ甘いです。もっと魔力を絞りなさい」

 

どんなに優秀な成績を修めても、それはただ、クラレンスの指示どおりに行ったからであるかのようだった。

 

彼女の冷たい視線は、女当主としての冷徹なベアトリチェによる、監視のようにも感じられた。

 

そしてあらゆる場所で、クラレンスが必要だと”適切に判断”したときには、その口唇で思うさま白濁の精を吸い出された。

 

学府での一日を終え、馬車で本邸に戻る頃には、ルシエルの体は魔力の火照りと疲労で重かった。

 

 

*

 

 

その日の夕刻、ベアトリチェがルシエルの部屋を訪れた。

 

黒い絹のドレスを纏い、プラチナブロンドの髪を優雅に揺らして。

 

「ルーク、今日はクラレンスなしで、私と一緒に領内へ狩りに行くわよ」

 

美しい姉君の声は、いつものように優しく響いた。

 

ルシエルは驚いて顔を上げた。

 

「狩り……ですか? 姉上」

 

ベアトリチェは微笑んだ。

 

「ええ。女貴族として、私は父上から狩猟の教育を徹底的に受けたの。

お前も、公爵家の貴公子として、学ばなければいけないわ。

クラレンスは連れて行かない。私が直接、狩猟(ハンティング)を教えてあげる」

 

ルシエルは戸惑ったが、女当主であるベアトリチェの命令に逆らう術はなかった。クラレンスを伴わない、と姉君が言ってくれたことも嬉しかった。

 

「わかりました……姉上」

 

領内の森は、瘴気が薄く、魔獣が生息する危険な場所だった。

 

黄金の美しい馬に跨り、ベアトリチェは黒い狩猟服を纏い、弓を携えていた。

 

ルシエルも簡素な狩猟服に着替え、姉の後を追う。

 

二人は馬を並べて森に入った。夕陽が木々の間を赤く染め、黄昏時の薄明が森を神秘的に照らす。

 

魔獣の気配が濃くなり、影狼の遠吠えが聞こえてくる。

 

「ルーク、狩りはただの遊びじゃないわ。

魔界の貴族として、獲物を追う術は、戦場での生き延び方にも繋がるの」

 

ベアトリチェの声は冷徹で、しかし優しく響く。彼女は馬を止め、弓を構えた。

 

「見てなさい」

 

視線の先に、低く唸る影——小型の魔獣、影狼がいた。

 

ベアトリチェの指が弓弦を放つ。

 

矢は蒼い魔力を纏い、瞬時に影狼の喉を貫いた。

 

「獲物の息遣いを読み、魔力を集中させるの。無駄な動きは命取りよ」

 

ルシエルは息を飲んだ。

 

姉君の完璧な射撃、優雅な動き——それは、将来の女公爵として必要なすべての資質を体現していた。

 

「今度はお前がやってみなさい、ルーク」

 

ベアトリチェは弓を手渡した。ルシエルは緊張しながら構える。

 

紫の瞳を細め、魔力を集中するが、手が震えた。

 

矢は外れ、影狼の影をかすめただけ。

 

「まだ甘いわね。でも、血醒めの儀を終えたお前なら、すぐに上達するわ」

 

ベアトリチェは優しくルシエルの肩に手を置き、構えを直した。その温かな触れ方が、ルシエルを心地よくさせる。

 

「姉上……ありがとうございます」

 

ベアトリチェはくすりと笑う。

 

「なんだか、堅苦しいわね。私たちは同じ血の絆で繋がってるのよ、ルーク。

いつか、王宮の魔獣狩りで、お前が一等の射手(ハンター)になる日が来るわ」

 

狩りが一段落し、二人は馬を降りて森の奥で休憩を取った。

 

夕陽が完全に沈み、森は薄闇に包まれ始める。

 

瘴気の薄い空気が湿り気を帯び、木々の葉ずれと遠くの魔獣の低いうなりが、静寂を破る。

 

ルシエルは姉の完璧さに憧れを覚えつつ、胸の奥でくすぶる苛立ちを抑えきれなかった。

 

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