※この作品はR-18です。

半血魔王のクロニクル ~黒き貴公子シリーズ総集編~   作:古弥須 凱

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12話 大嫌い

全てが、終わっていた。

 

ルシエルに蹂躙され、征服され尽くしてリーザは顔を背けて泣いていた。

 

リーザのその瞳から、絶望の涙が溢れているのに、荒く弾む呼気に喘いでいたルシエルは、まったく気づかなかった。

 

彼はただ、自分の"勝利"に酔っていた。

 

美しい王女は、彼のものになることを選んだ。ルシエルに全てを捧げ、与えられた快楽に、ひたすらに涙を流していた。

 

彼は強い男として、リーザから抵抗する力すら奪い尽くし、快感に沈め、彼の愛のもとに屈服させたのだ。

 

もうルシエルは、惨めな"半血坊ちゃま"ではない。自分の力で、女を、リーザを従えることのできる男になった。

 

——それを今夜、彼は自分のちからで証明したのだ。

 

リーザは顔を背けたまま、彼の方を見なかった。

 

たった今まで、二人は幼くも激しい愛を交わしていたのに——視線を逸らしているリーザに、どこか冷たい拒絶を感じとって、ルシエルは少し不安になった。

 

そっと、彼女に触れようと手を伸ばした。

 

そしてやっと——遅すぎたが少なくともようやく、彼女が悲しんでいることに気がついた。

 

「リーザ……まだ、泣いているのか?」

 

低い声が震え、戸惑いを隠せなかった。

 

慌てて体を起こした。

 

「……痛かったか? ……すまない、俺は……お前を悲しませるつもりじゃなかった」

 

優しさを見せようとするその瞳から、あの暗い焔に燃える欲望はもう消えていた。

 

「リーザ。泣かないでくれ……本当に、こんなことをするつもりじゃなかった」

 

しかし、どこまでが本当なのかは、もう説明することが出来なかった。

 

ついさっきまで、ただのルークだったはずの少年は、あの瞬間からとつぜん自分の欲望のままに、リーザからすべてを奪っていた。

 

俺のものになれ、と耳元で繰り返した。

 

そして最後にリーザをきつく抱きしめ、震えながら……ああ、と低く呻いて彼自身を開放し尽くした。

 

リーザ、と少女の名前を繰り返しながら、果てた。

 

状況は、なにもかも変わっていた。

 

リーザは——涙が止まらず、ただ嗚咽を漏らしていた。

 

屈辱の熱が体中を駆け巡り、彼の感触がまだ残る内部が、裏切りのように痛みに疼いて、自己嫌悪が募った。

 

ただ、彼を憎みたかった。

 

「やめて……もう、離して……。

私を、こんな目に遭わせて……あなたなんて大嫌いよ、ルーク」

 

声が震えた。

 

拒絶の言葉を吐き出すたび、心の傷が深くなる。

 

ルシエルの表情が落ち着きを失い、紫の瞳に不安の影が差していた。

 

「俺は、ただ……お前が欲しかっただけだ。

でも、こんな風に、泣かせてしまうなんて、思ってなかった。

俺は……お前を傷つけてしまった。」

 

戸惑う瞳に、はっきりと罪悪感が浮かんでいるのがわかる。

 

雨が強くなり、東屋を叩く音が、二人の沈黙を埋めていく。

 

リーザはまだ体を震わせ、涙を拭うこともできず、ただ彼の視線に耐えた。

 

「絶対に許さないわ、ルーク。あなたなんて大嫌い。

二度と、私に触らないで……!」

 

ルシエルの表情が、動揺にはげしく揺れた。

 

「いやだ。……駄目だ、リーザ。たのむ、俺を嫌わないでくれ」

 

その声が震えていた。

 

抱き寄せようとするのを、強い視線で拒まれたにも関わらず、ルシエルは少女を抱きしめた。

 

「お前に嫌われたくない。忘れてくれ、今のことを全部、わすれて——思い出さないでくれ」

 

そのまま冷たい手で、リーザの額を掴んだ。

 

「何をするの……!」

 

「俺も忘れる。……だから、俺のした恥ずかしいことを、お前も忘れてくれ。

頼む、リーザ。お前に、嫌われたくない。

——お前を好きになった。だからこれ以上、嫌われたくないんだ」

 

必死の声だった。

 

彼の美しい瞳から、涙がこぼれ落ちた。

 

自分の犯した罪の重さ、リーザを深く傷つけたことをようやく知って、ルシエルは絶望の表情を浮かべていた。

 

ぱんっと、音を立てて、彼の手を払いのけた。

 

「ルーク、貴方のいう男らしさってそういうことなの?都合の悪いことをただ胡麻化しているだけだわ。

私は、あなたがしたことを忘れない。あなたを憎むわ」

 

リーザは、許さなかった。

 

誇り高い王女として、自分を傷つけたルシエルを決して許さないと決めていた。

 

「リーザ、すまなかった。俺を許してくれ」

 

「許すわけないわ。……近寄らないで!」

 

そう突き放されて、ルシエルは片手でその黒い髪を掻きむしった。

 

「お前は二度と、許してはくれないんだな。

——俺は馬鹿だ。どうしてこうなったのかも、俺にはわからない」

 

そして苦悩の表情のままで、自分の額を掴み、なにかを低く——詠唱した。

 

その美しい容貌を隠した手のひらの下から、一筋の涙が流れ落ちた。

 

「俺を、好きになって欲しかった。それなのに、俺は全部をだめにしてしまった」

 

その言葉が、ルシエルという少年の弱さを、そのまま現していた。

 

魔法のような青白い光が爆ぜて、彼の手のひらから流れ落ちる——

 

その瞬間、リーザの目の前からすべてが消えた。

 

昏い森も、雨に濡れた東屋も、美しい瞳の少年も——すべてが夢の中へ消えた。

 

魔界の現実(ルシエル)と、人間界の夢(リーザ)とを繋ぐ十二夜の夢が、ぷつんと音をたてて閉じた——。

 

王宮の自分のベッドで目覚めた時、リーザはまた清い肉体のままで、オルヴェス王国の第一王女リーザに戻っていた。

 

自分がしたことを忘れてくれ、と夢の中の少年は言った。

 

確かめるように、自分の首筋にふれてみた。

 

そこは少しだけ、あの美しい少年の唇が触れたときのあの熱さが、まだ残っているような気がした。

 

ルーク……夢の中の少年が犯した罪の、その渇望の全ては、はっきりとリーザの記憶の中に焼き付けられたままだった。

 

そしてまた再び、——同じ十二夜の夢のなかで、彼と巡り会ったとき、リーザは決して、ルシエルを許さなかった。

 

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