半血魔王のクロニクル ~黒き貴公子シリーズ総集編~ 作:古弥須 凱
その夜、二人は何度も交わった。
一度からだが離れても、すぐに抱き合い、口づけを貪り、互いの体液でしとどに濡れそぼった。
ベアトリチェの豊かな乳房を揉みしだき、乳首を強く吸う。
姉君の
「離れたくない……ビーチェと、一日だって、離れていたくない……。
俺たちは離れていると、きっと悪いことが起きる。
ビーチェと俺は——ずっと一緒にいなければ駄目なんだ」
射精の余韻のなかで、ルシエルは姉の乳房に顔を埋めた。
ベアトリチェは優しく弟の黒髪を撫で、しかしその瞳には、冷たい現実の影が宿っていた。
「ルーク……私は、アスモデール殿下の婚約者として、王宮に呼び出されることになったわ。
半年後には、正式な婚約式……。
お前も、婿養子先を探さなければならない。
公爵家として、父の名代の女当主として、お前を他家に送り出す準備を進めなければいけないわ……」
ルシエルの紫の瞳が、暗く揺れた。
「……嫌だ。絶対に嫌だ。
お前を、他の男に抱かせるなんて……考えただけで、頭がおかしくなる」
彼はベアトリチェの体を強く抱きしめ、再び硬くなったものを姉の内部に押し込んだ。
「俺も、結婚なんて考えたくもない。お前以外の女に満足できるはずもない」
ベアトリチェは甘く喘ぎながらも、弟の耳元で囁いた。
「わたしも、お前以外の男ではもう満足できない。
私たちは、血の絆で結ばれている。
でも、現実は私たちを……引き離そうとしている」
ルシエルに激しく突き動かされて、美しい姉君は息を詰まらせた。
「私たちは一緒にいても、いなくても破滅する……
もうそう定められてしまったわ」
「ビーチェ。他の女などいらない。
お前を妻にしたい……お前に注ぎ、俺の子を産ませたい」
ルシエルは、はっきりと魔界の禁忌を口にした。
どのような残虐な行為も、謀略も、弑逆も、謀反も、淫らで破廉恥な欲情も、倫理にもとるすべての事象が許されている、この魔性の世界で。
——サタン王家から唯一禁じられているのが、肉親同士による結婚だった。
子孫へと繋ぐ魔性の血を、よりいっそう濃く重ね、強い子孫を得るための近親相姦の悦びを、王家はみずからの一族の中だけに許していた。
ベアトリチェとルシエルの関係が露見すれば、魔界でもっとも旧い一族である、ハデス公爵家は破滅する。
彼らは、初めて関係を持ったその時から、その事実を知っていた。
ベアトリチェは激しい快楽に身をよじった。
「ええ…ルシエル、もっとお前の魔精を注いで。わたしを塗りつぶして…」
「お前は、俺の妻だ、ベアトリチェ。——俺の子を産む女だ」
言葉と肉体の両方で、愛する
やがて訪れる破滅の日々を待ちながら、なお一層はげしく肉体を求めあい、愛し合った。
*
その日から、二人の愛はさらに歪んだ。
ベアトリチェが王宮へ向かう日が近づくにつれ、ルシエルは一日に何度も姉を求めた。
昼は幻術で隠れ、夜は寝室に忍び込み、時には狩猟場の奥、ワインセラーの暗闇で、激しく交わった。
ベアトリチェもまた、弟の執着を拒まなかった。
むしろ、積極的に誘うようになった。
「ルーク……今夜も、私をお前のものにして……もうすぐアスモデールに抱かれるこの肉体を、思う存分、お前に犯してほしいの」
彼女は弟の前で自ら脚を開き、豊満な乳房を揉みながら、淫らに腰をくねらせた。
ルシエルは嫉妬と狂気に駆られ、姉を壁に押しつけ、後ろから獣のように貫いた。
「俺のものだ……ビーチェ……お前は、俺だけのものだ……!」
射精の瞬間、ルシエルの魔力が暴走しかけ、部屋の家具が震えた。
ベアトリチェは恍惚と喘ぎながらも、心の奥底に感じる破滅の予兆に突き動かされるように、より一層みだらに絶頂を繰り返した。
(ルークは……もう、私なしでは生きられない……。
そして私も、この子の肉体に貫かれなければ、一晩もこの疼きに耐えられない……)
婚約期間が本格的に始まると、現実は容赦なく二人を切り裂いた。
ベアトリチェは王宮へ頻繁に招かれ、アスモデール王子と公の場で並ぶ姿を、魔界中に晒された。
一方のルシエルは、婿養子候補として他家の姫君との会食、舞踏会、お茶会を強いられた。
彼は、毎日のように値踏みされ、女たちの視線に晒された。
ベアトリチェが許す時には、”味見”と称して、その肉体を提供した。
魔界の令嬢たちは、彼女の母親、姉妹、友人たちと一緒になって、”未来の婿養子”にまたがり、ルシエルを存分に犯し続けた。
そして、なによりもルシエルを苛立たせたのは、ベアトリチェに課せられた婚約の儀式だった。
すべてが、厳格な契約に基づいて行われる魔界では、王族の婚儀完了までに数十年の時間がかかる。
ベアトリチェの婚約が成立してからも、彼女は花嫁となるための、数多くの儀式を積み重ねなければならなかった。
魔界の婚姻に、花嫁の処女性は不要だった。
誰よりも淫らに、烈しい情欲に啼き狂い、男の情欲を燃えたたせる……。
妻として、王子の妃として求められる資質として。
その婚約期間である年月を費やして、ベアトリチェは彼女の婚約者のまえで、淫蕩な花嫁であることを証明しなければならなかった。
そしてついに、その最初の儀式の日が決まった。
王宮から届いた召喚状には、サタン王家の黒い紋章が刻印されていた。
*
その最初の儀式を翌日に控えた夜。
ベアトリチェは鏡の前に、素裸のままで立っていた。
重々しく白く実った乳房、そして女神のように豊かな
魔界の王妃となることを約束された公爵令嬢——それが、ベアトリチェの本来の役割だった。
そこに確定している、逃れられない未来。
その事実を、自覚しなかったことは一度もなかった。
ただ、いつか終わりが来ることを知りながら、終わらせることが出来なかった。
彼女の背後——その寝台にある裸のルシエルが、ただ彼女を見つめていた。
立ち上がり、鏡の前の彼女を後ろから固く抱きしめた。
「……お前は、俺のものだ」
ベアトリチェは答えなかった。
答える必要もなかった。
彼らが自ら招いた「破滅」が、もう二人の目の前まで来ていた。