※この作品はR-18です。

半血魔王のクロニクル ~黒き貴公子シリーズ総集編~   作:古弥須 凱

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21話 経験

学府(アカデミア)に通う、貴族子弟だけが立ち入れる専用階。

 

散らかり放題の、まさにゴミため状態の遊び場となっているその部屋に、ルシエルが現れたのは、ほぼ半年ぶりだった。

 

「おぅ、ルシエル」

 

マルコはその空白の期間などまるでなかったかのように、気軽に声をかけてくれた。

 

「——退学したのかと思ってたぜ。今や、お前は公爵さまだ」

 

「もう、学府(ここ)に来るのは、今日で最後だ。

——あとは卒業まで欠席しても、これまでの成績でそのまま学位を授与くださると、そう学長が仰った。

もう来ないとなると、この汚い部屋も不思議と名残惜しいな」

 

少年公爵となって現れたルシエルは……大人びたというよりは、余計な感情をみなそぎ落としたように見えた。

 

以前よりも冷めたような……

 

何かに漂白され、彼らしさを手放し、どこかへ置き去りにしてきたようだった。

 

「家門(いえ)の方は、大変だろ。同情するぜ、ガチで」

 

「ああ……ひとまずは、一族の老人どもが選んだ、俺の伯母とその夫が執政に就いて、俺を補佐することになった。

が、まぁ……乗っ取る気まんまんだ。

今度の第一従者(ヴァレット)こそ、ちゃんとした男だが、スパイなのは変わらない。

みんな、伯母の耳に入る」

 

ルシエルの従者嫌いは、相変わらずだった。

彼を心からの忠義で支えてくれる従者と出会うのは、まだずっと後の話だった。

 

タバコを喫りながら、マルコは忠告した。

 

「気を付けろよ、ルシエル。

若い当主が体よく傀儡(みこし)にされて、酒とオンナで堕落させられるってのは”あるある”だぜ」

 

「……まさに今、それだ。

伯母の夫やら、その側近モドキが、夜ごと俺をあちこち連れ回そうとする。

うっとおしくてたまらん」

 

ルシエルは、ソファに首ごとがくりと倒れかかった。

 

「この部屋中の猥褻本(エロほん)を、ぜんぶ持ち帰りたい気分だ。それが一番、安全だ」

 

「おいルシエル、お前のきれいな顔面(ツラ)は何のためについてるんだ。

まさか見たり、呼吸したり、メシを喰うためについてるわけじゃないだろ。

ちょっと、そこらのご令嬢に声をかけて回れば、五分後には合体完了のはずだぜ」

 

「こんな顔は、何の役にも立たない。

——皆、うわべでは俺を褒めるが、何も嬉しくない。

寄って来る女は、俺の顔を使って手淫してるのと変わらん」

 

こじらせてんなぁ、とマルコは嘆息した。

 

「助けてやりたいところだが……

俺が、おまえのをちゅばちゅば咥えて、抜いてやるわけにもいかねえぞ」

 

「当たり前だ、馬鹿め」

 

「まぁ、俺よりマシな奴がいるぜ。

おーい!ローレンス!ちょっと来てくれ」

 

突然、マルコが大声を張り上げて、雑談している他の貴族の少年たちに声を掛けた。

 

ローレンス、と呼ばれた少年が「なんだよ、ああ?」と同じように大声で答える。

 

声を聞けば、わかった。

 

ローレンスと呼ばれた男装の少女が、マルコの方へ面倒臭そうに歩いてきた。

 

マルコは彼——彼女を抱き寄せると、がっと勢いよく、制服のズボンの股間を掴んだ。

 

「知ってるだろ、ハデス公んとこの半血くんが、いまや公爵様になったんだ。

一足先にご卒業ってことで、顔を出しに来てくれた」

 

ローレンスは眉を上げて、「あ、そう」とでも言いたげな表情を浮かべた。

 

長い髪を後ろで一つに結び、男ものの制服に身を包んでいる。

 

ぱっと一瞥しただけでは、ローレンスはむさ苦しい空間に紛れ込んでいる、美しい少年の一人にしか見えなかった。

 

「俺の親友のルシエルに、"卒業祝い"を贈りたい。頼まれてくれるか、ローレンス」

 

ルシエルを、じろじろと見まわした。

 

「マジかよ、マルコ。

もうすぐア(・)レ(・)が来そうで、体中あちこち過敏になってんだ。

指なんかでしつこくクチョられたら、イラッとして殺意湧くレベルさ。

……まぁ、下だけならいいぜ。お触りは無しだ。」

 

「ああ、感謝するぜ、ローレンス。

聞いただろ、ルシエル。さっさと下を脱ぎな」

 

突然、そう言われてルシエルは戸惑った。部屋の中の誰も、彼らに注意を向けなかった。

 

マルコもその場に座ってはいたが、そのままタバコを咥えて雑誌を読み始める。

 

ローレンスは、まるで男の子がするように雑に長いブーツを放り投げ、手早くズボンと下着を脱いだ。

 

これから水に飛び込む子供のように、何の恥じらいも見せなかった。

 

ひらたい腹の下に、淡く色づいた縦筋をはっきりと晒して、ローレンスはこちらを見下ろしていた。

 

「脱ぎなよ」

 

急かされて、慌てて腰を上げた。

 

一気に膝まで制服のズボンを引き下ろすと、すでに硬く張り詰めた陰茎が、びくっと跳ね上がってローレンスの視線に晒された。

 

間の抜けた格好をしている自分に、腹立たしさはあった。

しかし、目の前にいる美しい男装の少女の……むき出しの白い下半身から、少しも目が離せなかった。

 

「触るなよ。見るか、挿れるかだけだ」 

 

「ああ……でも触らないなら、どうすればいい?」

 

「何にもしなくていいよ、座ってな。あたしがみんなやる。そういうルールなんだ」

 

ルシエルを、もう一度ソファに座らせて、ローレンスはその上に膝立ちになった。

 

裸の下半身同士が、わずかに冷たく触れ合った。

 

あんた、やったことあんの?と聞かれて、ルシエルは短く、当たり前だ、とだけ答えた。

 

経験を回数として数えるだけなら、同年代の魔族の少年たちなど遥かに及ばない、濃厚な愛欲の日々を送って来たルシエルだった。

 

美しく残酷な、どこまでも優しく彼を溺愛し続けたベアトリチェとの愛が、まだ生々しく少年の中に刻まれていた。

 

ローレンスは……じっと彼の顔を見た。

 

「何だよあんた、全然うれしそうじゃない顔してるぜ。——このまま、やっていいんだろうね?

後から本当はイヤだったなんて、被害者ヅラされたら面倒だ」

 

口調はぶっきらぼうだが、ローレンスの配慮には、どこか優しさが感じられた。

 

もし怖気づいたなら、出口はあちらと軽く送り出してくれるような、不思議な親しみやすさを醸し出していた。

 

「いや……続けてくれ。やめたくない」

 

ルシエルの喉が、すでに渇きを感じてわずかに痛んだ。

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