半血魔王のクロニクル ~黒き貴公子シリーズ総集編~ 作:古弥須 凱
散らかり放題の、まさにゴミため状態の遊び場となっているその部屋に、ルシエルが現れたのは、ほぼ半年ぶりだった。
「おぅ、ルシエル」
マルコはその空白の期間などまるでなかったかのように、気軽に声をかけてくれた。
「——退学したのかと思ってたぜ。今や、お前は公爵さまだ」
「もう、
——あとは卒業まで欠席しても、これまでの成績でそのまま学位を授与くださると、そう学長が仰った。
もう来ないとなると、この汚い部屋も不思議と名残惜しいな」
少年公爵となって現れたルシエルは……大人びたというよりは、余計な感情をみなそぎ落としたように見えた。
以前よりも冷めたような……
何かに漂白され、彼らしさを手放し、どこかへ置き去りにしてきたようだった。
「
「ああ……ひとまずは、一族の老人どもが選んだ、俺の伯母とその夫が執政に就いて、俺を補佐することになった。
が、まぁ……乗っ取る気まんまんだ。
今度の
みんな、伯母の耳に入る」
ルシエルの従者嫌いは、相変わらずだった。
彼を心からの忠義で支えてくれる従者と出会うのは、まだずっと後の話だった。
タバコを喫りながら、マルコは忠告した。
「気を付けろよ、ルシエル。
若い当主が体よく
「……まさに今、それだ。
伯母の夫やら、その側近モドキが、夜ごと俺をあちこち連れ回そうとする。
うっとおしくてたまらん」
ルシエルは、ソファに首ごとがくりと倒れかかった。
「この部屋中の
「おいルシエル、お前のきれいな
まさか見たり、呼吸したり、メシを喰うためについてるわけじゃないだろ。
ちょっと、そこらのご令嬢に声をかけて回れば、五分後には合体完了のはずだぜ」
「こんな顔は、何の役にも立たない。
——皆、うわべでは俺を褒めるが、何も嬉しくない。
寄って来る女は、俺の顔を使って手淫してるのと変わらん」
こじらせてんなぁ、とマルコは嘆息した。
「助けてやりたいところだが……
俺が、おまえのをちゅばちゅば咥えて、抜いてやるわけにもいかねえぞ」
「当たり前だ、馬鹿め」
「まぁ、俺よりマシな奴がいるぜ。
おーい!ローレンス!ちょっと来てくれ」
突然、マルコが大声を張り上げて、雑談している他の貴族の少年たちに声を掛けた。
ローレンス、と呼ばれた少年が「なんだよ、ああ?」と同じように大声で答える。
声を聞けば、わかった。
ローレンスと呼ばれた男装の少女が、マルコの方へ面倒臭そうに歩いてきた。
マルコは彼——彼女を抱き寄せると、がっと勢いよく、制服のズボンの股間を掴んだ。
「知ってるだろ、ハデス公んとこの半血くんが、いまや公爵様になったんだ。
一足先にご卒業ってことで、顔を出しに来てくれた」
ローレンスは眉を上げて、「あ、そう」とでも言いたげな表情を浮かべた。
長い髪を後ろで一つに結び、男ものの制服に身を包んでいる。
ぱっと一瞥しただけでは、ローレンスはむさ苦しい空間に紛れ込んでいる、美しい少年の一人にしか見えなかった。
「俺の親友のルシエルに、"卒業祝い"を贈りたい。頼まれてくれるか、ローレンス」
ルシエルを、じろじろと見まわした。
「マジかよ、マルコ。
もうすぐ
指なんかでしつこくクチョられたら、イラッとして殺意湧くレベルさ。
……まぁ、下だけならいいぜ。お触りは無しだ。」
「ああ、感謝するぜ、ローレンス。
聞いただろ、ルシエル。さっさと下を脱ぎな」
突然、そう言われてルシエルは戸惑った。部屋の中の誰も、彼らに注意を向けなかった。
マルコもその場に座ってはいたが、そのままタバコを咥えて雑誌を読み始める。
ローレンスは、まるで男の子がするように雑に長いブーツを放り投げ、手早くズボンと下着を脱いだ。
これから水に飛び込む子供のように、何の恥じらいも見せなかった。
ひらたい腹の下に、淡く色づいた縦筋をはっきりと晒して、ローレンスはこちらを見下ろしていた。
「脱ぎなよ」
急かされて、慌てて腰を上げた。
一気に膝まで制服のズボンを引き下ろすと、すでに硬く張り詰めた陰茎が、びくっと跳ね上がってローレンスの視線に晒された。
間の抜けた格好をしている自分に、腹立たしさはあった。
しかし、目の前にいる美しい男装の少女の……むき出しの白い下半身から、少しも目が離せなかった。
「触るなよ。見るか、挿れるかだけだ」
「ああ……でも触らないなら、どうすればいい?」
「何にもしなくていいよ、座ってな。あたしがみんなやる。そういうルールなんだ」
ルシエルを、もう一度ソファに座らせて、ローレンスはその上に膝立ちになった。
裸の下半身同士が、わずかに冷たく触れ合った。
あんた、やったことあんの?と聞かれて、ルシエルは短く、当たり前だ、とだけ答えた。
経験を回数として数えるだけなら、同年代の魔族の少年たちなど遥かに及ばない、濃厚な愛欲の日々を送って来たルシエルだった。
美しく残酷な、どこまでも優しく彼を溺愛し続けたベアトリチェとの愛が、まだ生々しく少年の中に刻まれていた。
ローレンスは……じっと彼の顔を見た。
「何だよあんた、全然うれしそうじゃない顔してるぜ。——このまま、やっていいんだろうね?
後から本当はイヤだったなんて、被害者ヅラされたら面倒だ」
口調はぶっきらぼうだが、ローレンスの配慮には、どこか優しさが感じられた。
もし怖気づいたなら、出口はあちらと軽く送り出してくれるような、不思議な親しみやすさを醸し出していた。
「いや……続けてくれ。やめたくない」
ルシエルの喉が、すでに渇きを感じてわずかに痛んだ。