ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
第1話
「眠ぃ……。これでやっとテストは終わりか」
眠気に身を任せて机でぐでっとしていると、メガネをかけた教師がテストの答案用紙を持ってそのまま教室を出て行った。
ワイワイと盛り上がるクラスを尻目に、俺は独り物静かに教室の隅で丸くなる。
俺にはこういう時に話せる友人はいない。孤独でボッチ、それが俺の青春だ。
だがボッチとは何も悪いだけのものではない。こうやって周りを気にせず眠ったフリもできるし、何より誰かを気にして生きるよりはずっと性には合っている。
「よーし、ホームルーム始めるぞ」
ガラッと扉が開き、無駄に筋肉質なタンクトップ姿の担任が入ってきた。
それからホームルームが始まり、夏休みの課題が配られたりして、ようやく俺達は解放される。
これでやっと念願の夏休みだ。帰ったらどれだけぐーたらしてやるかで頭をいっぱいにしながら俺は席を立つ。
――――だが。
「お前ら気をつけて帰れよ。あー、それから前田。お前はちょっと残れ」
嘘だろ。
鞄を持って教室を立ち去ろうとしたところで呼び止められ、ゆっくりと担任に振り向く。するとその手は憎たらしく此方へ来いと手招きしていた。
「何やってる。早く来い」
俺の顔は心底面倒くさそうだったのだろう。担任は問答無用だとばかりにこちらにしつこく眼光を向ける。
「あー、はいはい。行きますよ。それで俺、何かしましたっけ?」
しょうがなく担任の前へとのこのこ歩いていくのだが、周りからの「あいつどうしたんだ?」的な目が痛々しい。特に注意されるような事はやらかしていないと思うのだが、このタイミングで呼ばれるのだからそれなりの用件だとは思う。
「お前。うちのクラスの笹原って知ってるか?」
……笹原?
「……あぁ、思い出した。あの不登校の」
「そういう言い方はするもんじゃないぞ。理由があって学校には来れていないだけだ」
「理由ですか。ふーん」
「お前な……。少しはクラスメイトに関心を持て」
笹原ねえ。
確か女子だった気がするが、それ以外に全然印象がない。なにせクラスメイトとは言っても一度も顔を見た事が無いのだから当然と言えば当然だ。俺が薄情モノというわけじゃなく、単にどんな人間だか知りようがない。
クラスの連中が言うには、どうやら今年になってから一度も学校へは来ていないらしい。俺としては実に羨ましい話だが、今後のことを考えればあまり得策とも言えないだろう。
「そこでだ。お前に一つ頼みがある」
「はい?」
「前田。お前たしか笹原と家が近かったよな」
俺はそこで担任の脇にもう一部、夏休みの課題が残されている事に気付く。
「って、まさかとは思いますが……」
「夏休みの宿題もかなりの量だ。荷物にはなると思うが、前田。すまんが笹原にプリントを届けてやってくれ」
やっぱりそういうことか。嫌な予感だけはなぜか当たるんだよな……。
「すまんと思うなら先生が行ったらどうですか?」
「そう言うな。俺もこれからサッカー部の顧問の仕事がある。なに、お前の事だ。自分にメリットがなければやらんと言うのだろう」
すかさず防衛体勢をとると、担任はそんな俺をいさめるた後、おもむろに俺の鞄から宿題のプリントを一枚だけ抜き取った。
「こいつは俺の受け持つ国語の課題だ。お前が苦手にしてるな。笹原にそいつを届けるならこいつは免除してやる。どうだ?」
「そ、そういうのって公平性にかけるというか、教師としてはどうなんですかね?」
「目が泳いどるぞ目が。少しは素直になれるばいいものを」
「それに仕事を押し付けておいて課題一つってのも割に合わない気が……。どうせなら全科目免除ってことで」
「そうかそうか。なら残念だが他の生徒に――」
「っ、分かりました分かりました!! 行きますよ。まあ、帰りついでですし」
「おおそうか!! やってくれるか。お前がやると言うんだったら安心だな。なにせ前田、お前は約束だけは守るやつだ」
すると担任は俺にプリントの束を手渡して、にっと白い歯を見せる。クソ、わざとらしい。
「それじゃあ俺、もう行きますね」
「ああ。お前も気をつけて帰れよ」
担任はそう満足そうに手を振ってきた。
「約束だけは守るか……。結局いいように使われちまったよな」
だが担任が言ったことは別に嫌味ではない。あれは紛れもない事実だ。
俺は人生でこのかた、誰かと交わした約束だけは今まで破ったことがない。
それこそ最上級レベルに面倒臭がりである俺がどうして他人との約束なんて律儀に守っているのか。それには理由がある。
『人と交わした約束は決して反故にする事はできない』
特殊体質、とでも言えばいいのだろうか。いざ人と約束をすると身体が勝手にそいつを守ろうとしてしまう。いや、正確には『約束を反故にすること』を身体が拒否してしまうのだ。
つまり一度でも取り決めを行ってしまうと、俺にはそいつを破る事が絶対にできなくなってしまう。
なぜこんな枷と重りにしかならない体質を持ってしまったのか。いっそのこと誰かの役にたつ事が至上の喜びだったりする生真面目な善人ならそれも良かったが、自堕落で非生産的で、おまけに怠け者が俺なのだか本当に損にしかならない。
それに元はと言えば、俺がボッチになったのもこの体質のせいだ。
約束を破る事ができない。なんて面倒な弱みを他の誰にも知られたくなくて、俺は周りの人間から距離を置くようになった。その結果、気が付けば誰とも関わらず一人毎日を繰り返す。そんな日々こそが俺の中で最適解になっていた。
「しかし面倒になったな。テストも終わってさっさと家に帰るつもりだったのに」
腰を屈めて玄関口で外靴に履き替えると、校門を出て言われた住所を目指す。やっぱり二人分の宿題が入った鞄はやけに重い。
それから笹原の家を目指して歩いていく。確かに方向は家と近いようだ。
「けどこっちは確か……」
俺の家とは道路を挟んで隣の地区なのだが、こっちは近所でも金持ちしか住んでいないことで有名な、いわゆる高級住宅地ってやつだ。
周りをきょろきょろと見回してみると、しばらくして『笹原』という表札を見つける。どうやらここで間違いないようだが、やはり例に漏れず豪華な家だ。
「笹原って金持ちの家なのかよ……。まあ俺はさっさと終わらせて帰るだけだし、別にいいんだけどさ」
俺は玄関先にあるインターホンを押すと、ピンポーン、と呼び鈴が鳴り、それからしばらく静寂が続く。
「あれ? 誰も居ないのか」
もう一度呼び鈴を鳴らしてみたが、辺りを静けさに包まれたままだ。
『すいませーん! 今行きますね』
するとしばらくして、インターホンから女性の声が聞こえてきた。同じ年ではなく、少し年上っぽい声だ。笹原のお袋さんだろうか?
「あの、学校のプリントを届けに来た前田と言います。笹原さんは?」
『あの子、いまはちょっと手が離せないみたいで』
「それでしたら、プリントはポストにでも入れときますね」
むしろ入れさせてください。さっさと帰りたいんで。
『あら、それなら家に上がっていってください。折角なのでお茶でもお入れしますわ』
「あぁ~……。でも悪いですし」
『そんな事ないですから! 今開けますね』
ガシャン、とインターホンが切られると、程なくして玄関の扉に人の影が映る。それからドアノブが下がり、奥から1人の女性が姿を現した。
「いらっしゃい! お友達が来るなんて初めてで」
見ると、声で想像していたよりもずっと若い人だ。茶髪は後ろで三つ編みにされていて、薄茶色の縦縞のセーターにジーンズを履いている。見た感じの印象だと歳は二十代前半辺りだろうか。
その人はセレブというよりも、むしろ団地の新妻といった雰囲気だ。スタイルも抜群だしどこか色気もある。社会人かそれとも大学生なのか分からないけど、どちらにしてもかなりモテそうだ。
しかしそれ以上に目に映ったのはセーター越しでもくっきりと形がわかるほどに盛り上がった二つの胸の膨らみだ。すらっと伸びた脚に細身の体と合わせると、よりその大きさが強調されてるようだった。これがいわゆる細身巨乳というやつか……。
「あの……? 大丈夫ですか」
「あ、あぁ! いえ、その、すいません」
いやいや、そんなことを考えてる場合じゃなかった!
「えっと、笹原さんのお姉さんですか?」
「はい。姉の笹原マドカっていいます。両親は海外に出張しちゃってて、今は私と妹の二人暮らしなの」
「そ、そうなんですか」
どうやらそれなりの家庭事情があるらしい。だが人様の事情よりも今は部屋のベッドが恋しい。さっさと夏休みの課題を渡して布団へダイブしたい。
「ほら、良かったら上がっていって。せっかくあの子のお友達が来てくれたんだもの。ちゃんとおもてなししないとね」
「あ、いえ友達では……」
友達ではなく担任に頼まれただけです。と言おうとしたが、あまりに嬉しそうなお姉さんについ言葉を飲み込んでしまう。きっとこの顔を悲しませるなんてことは全男子にとって耐え難いはずだ。
「さあ、どうぞゆっくりくつろいでいってね」
「は、はい。なら少しだけ……」
そうして結局お姉さんに招かれるまま、笹原の家に上がりこむ事になった。
玄関からリビングに入ると、高い天井にはオシャレな喫茶店でしか見ないデカい扇風機の羽がゆっくり回っていて、食器棚には凝った装飾や模様が施されたティーカップと食器、ワイングラスが綺麗に並べられてる。やっぱり中も豪華そのものだ。
「良ければ一杯どうかしら。アールグレイのお茶っ葉で、イギリスから送ってもらったものなの。美味しいから、ぜひ」
「あ……、ありがとうございます。でも今日は課題を届けに来たので、先に笹原さんに渡したいんですけど」
「え……? あぁ! そうよね、プリントを届けに来てくれたんだものね!」
すっかりティータイムに入るつもりだったのか、はっとした顔で頬に手を当てるお姉さん。
このお姉さん、なんだかちょっと天然っぽいというかマイペースというか……結構独特な人だったりするのかな。
「えっと、それで笹原さんはどちらに?」
「あの子なんだけど、さっきから部屋に入ったっきり出てこなくて」
なんて少し困った様子を見せるお姉さんである。学校に来ないだけじゃなく家の中でも引きこもってるのかよ……。
「えっと、それなら俺が部屋まで届けてきますよ」
あいつが部屋から出てくるのなんて待ってられないから、って本音は隠しておこう。
「あらあら、お気遣いありがとうございます。それじゃあわざわざ申し訳ないけれど、お願いしてもいいかしら」
「ま、任せてください」
嬉しそうに微笑むお姉さんに、俺の方はつい慣れない照れ笑みを溢してしまう。
やっぱりこうしてみるととてつもない美人だよな……。笹原ももしかしたら、こんな具合にスタイル抜群の美少女だったりするのだろうか。って、俺はなにを無用な期待をしているんだ。
「それで笹原さんのお部屋は?」
「妹の部屋なら二階の、階段を上がって廊下の一番突き当たりに」
「分かりました。ありがとうございます」
そうお姉さんに軽く会釈してから、俺は鞄を手に持ってずかずかと階段を上がっていく。少しだけ後ろを振り返ってみると、お姉さんが楽しそうに二人分の紅茶を準備している。どうやら仕事が終わっても直ぐには帰れそうにない。
「ま、まあ思ったより時間はくっちまいそうだけど、人の善意を無碍にもできないよな、うん。いや決して美人なお姉さんとお茶ができるからではなく……!」
そんな事をつぶやきながら、俺は言われたとおり階段を上った後に廊下を奥へと進んでいく。すると『カンナの部屋』というプレートが下げられた扉が目に入った。どうやらここで間違いなさそうだ。
「おい、プリントを届けに来たクラスメイトの前田だ。中に居るんだろ?」
部屋に入る前に、念のためにコンコン、と扉をノックする。しかし向こうから返事はない。
それから何度も呼び出してみたが、やはり結果は同じだ。しかしこのまま待ちぼうけってのは時間の無駄だし、仕方ない。
「……しょうがないか。入るぞ笹原」
俺は早く家に帰りたい気持ちが焦り、そのドアノブを下げる。