ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
秋葉原と言えばメイド喫茶などが有名だが、そこはやはりオタクの街と知られるだけあり、ニッチな需要を満たすべくマニアックな店がひきめしあっている。というふうに何かの本で読んだことがある。
専門店で言えばミリタリーからアイドル、それにゲームからトレーディングカードまで。喫茶店にしてもメイドさんは勿論のこと、店内にミニチュアの鉄道が走る鉄道喫茶や、噂によれば声優さんがオーダーを取ってくれる声優喫茶なんてのも存在するらしい。
そう言う意味ではありとあらゆる欲望が満たされる街であり、まさにバラエティに富むとはこの事だろうと感心さえしてしまう。
だがそれも多くは一般人の知らない深層領域での話であり、上辺だけを掬って生きているような俺は普通に名前の知れた書店へと足を運んだ。
「なんだが凄いですね。ビルが全部本屋さんなんて」
「そこは秋葉原っぽいよな。同じ系列店だと千葉にも支店があるんだが、やっぱアキバはスケール感が違ぇわ」
そんな感じに俺達はオレンジ色に染まったビルを見上げながら、開放的にも開いたままの入り口を通って店内へと入る。
中はちょうど開店したばかりなのか人がほとんど居ない。数人がまばらに本の表紙を覗きながら闊歩しているだけで、縦に長い店内も広々とした感じだ。
「あ、先輩! これなんて面白そうじゃないですか!」
店頭にある新刊コーナーを眺めていると、ふいに鈴谷がそう声をかけてくる。それから平積みされた漫画を指さして、そのタイトルをそのまま声に出した。
「『迷い込んだエルフの森の美少女がいつの間にかみんな僕のお嫁さんになっていた件。~イチャラブハーレムで毎日ふるゆわぱふぱふ無双』!!」
鈴谷はその頭がピンクに染まりそうなタイトルをなんの躊躇も無く店内に響かせる。
本の表紙には金髪でウェーブのかかった巨乳エルフから、冷酷そうなのになぜかギリギリ寸前な際どい衣装を着た褐色エルフまで何人ものエルフが描かれていた。
「お前、よくそのタイトルを声に出そうと思ったな……」
「私、絶対これ買って帰ります!」
表紙だけを見るとエロ漫画にしか見えないそいつを手に取り、鈴谷は嬉しそうに顔をほころばせる。
「言っちゃなんだが、お前みたいな女子高生だと買わない部類の漫画だと思うぞ?」
「そんなことありませんよぉ! だってハーレム物だと色々なシチュエーションで先輩とイチャイチャする妄想が捗るじゃないですかぁ~」
そう言って頬を赤らめながら、きゅっと本を抱きしめる鈴谷。
いやいや、男の方に感情移入するならともかく、ハーレムモノでヒロインの方に感情移入するってのはかなり異質な気もするのだが。
まあしかし、これ以上人の趣味にとやかく言うのも野暮ってもんか……。
「買って帰るのはいいけど、どうせなら最後に寄った方が良いぞ。その方が手荷物も少なくて済むしな」
「あ、それもそうですねっ! アドバイスありがとうございます先輩」
「いや、別に……それくらい普通だよ」
俺は嬉しそうに微笑む鈴谷から視線をずらして、ふいっと別の新刊へと目を向ける。
なんつうか、今日は何時もと少し雰囲気が違うせいか妙にどぎまぎとしてしまう。まあ鈴谷は外見だけなら可愛いし、男の反応としては無理ないのかもしれないが、それでも鈴谷相手に緊張してしまうってのはなんだか違う気がしてならない。
それから他の新刊も一通り眺め、俺も目ぼしい本を見つけると十分に在庫が有る事を確認してから、次はラノベコーナーへと足を伸ばした。
「じー……」
「ん、何見てんだ?」
俺が平積みされたラノベを見ていると、店の奥では鈴谷がエレベーターの横に貼られた紙をじっと眺めている。
「先輩」
「なんだよ」
「このビルって7階まであるんですね」
「そうなのか?」
「上には何があるんでしょう」
「さぁな。俺は1階までしか立ち寄らないから、行ったことも無いな」
「……そうですか」
すると鈴谷はエレベーターのボタンをぽちりと押して、グィンと扉を開ける。
「折角ですし、他の階も見てみませんか」
それはまるで屈託のない、例えるなら向日葵のように真っすぐな笑顔だった。
「まあ、別に良いけどさ」
今はまだ午前中だし、急ぎの用が有るわけでもない。
俺としても別段断る理由も無かったので、それから一緒にエレベーターに乗り込むと、鈴谷は何故か迷いも無く6階のボタンを押した。
「ん? 7階からじゃないのか」
「7階は今日はお休みみたいですから」
「そうなのか。まあこれだけ広いと流石に全部が売り場ってわけじゃないのかもな」
それからゆっくりと上昇していくエレベーターは、少しの時間をかけて6階へと到着する。
チン、と言うどこか懐かしみのある音と共にエレベーターの扉が開くと、俺は売り場の方へと出た。
――のだが。
「なっ……!?」
そこで目に飛び込んできたのは、あちこちに貼られたちょっと、いやかなり18禁なイラストポスターの数々と、それから何やら重々しい空気を放つ薄い本が大量に積まれた売り場である。
「ちょ、えぇ!?」
俺は慌てて後ろを振り返り、エレベーターの上にあるフロアガイドを見る。するとそこには【同人誌、オリジナル(成人向け)】と書かれていた。
「お、お前まさか……」
「ん~。どうかしましたか?」
「いやどうかしたどころの騒ぎじゃないよ。どういう事なんだこれ」
「私もうっかりですっ! まさかエッチな本を売ってるお店だなんて全然分かりませんでした!」
「…………鈴谷、お前もしかして」
初めに7階ではなく6階を押したあの動作の素早さ。間違いない。
「この階がエロ本売り場だって知ってて連れてきたろ」
「な、なんのことでしょー……?」
視線を泳がしながらこれ見よがしに愛想笑いを作って誤魔化そうとする鈴谷。しかしその手には乗らない。
「お前な……。ただでさえ変に目立ってるんだ。こんな場所入れるわけないだろ?」
「で、でも……」
「でももへったくれもない。良いから戻るぞ」
そう言ってまたエレベーターへと顔を向けた時だった。
がしり、と何者かの手が俺の腕を力強く掴む。
「……先輩、言ってくれたじゃないですか。今日はデートしてくれるって」
「普通の女の子扱いするとも言ったな」
「……お願いします」
それはか細く、最後の望みに追いすがるかのような心の底からの叫びだった。
「エッチな本が私を待ってるんです……。今日だけは、今日だけで良いですからぁ……!」
「おま、こんなところで泣くなよ!?」
ヒック、と涙を啜りながら俺に懇願する鈴谷に、こちらは思わず後退りする。
「私、エッチなものが無いと死んじゃうんです。私が生きていくためには、どうしてもエッチな本が必要なんですっ!」
「難儀にも程があるだろそれ……」
しかし、このままでは何時ほかの客が来るとも限らない。店員が来て変に騒ぎになっても面倒だしな……。
「お願いします。私ならなんでもしますからぁ……!」
そう言って深く頭を下げる鈴谷に、俺はしばらく悩んだ末に深くため息をついた。
「……はぁ。分かったよ。本当に今回だけだぞ?」
「やったぁ! これで先輩と憧れのエッチ本デートですっ!」
「お、おい!? だから声がでけぇって!!」
俺は大慌てで売り場の方を見るが、幸運にも店員の姿は見えない。
本当にこいつらと居ると心臓がいくつあっても足りない気分だ。
「先輩とエッチな同人誌を見に行けるなんて、本当に夢見たいですぅ」
「……一応言っとくけど、俺達の年齢じゃまだ入っちゃいけない場所だからな」
なんて口では言うが、最後は力ずくならぬ涙ずくで済し崩されてしまう。どうやら女の子というのはワガママの許される生き物らしい。
「つっても、本当にエロ本しか置いてないのな……」
それから売り場に入ってみるが、右を見ても左を見てもエロい絵しか見えない。
それも1階の新刊コーナーに有ったような『ギリギリのラインは守ってます!』なんて代物ではなく、こちらはガッツリといけないところまで写り込んだ正真正銘のエロ本である。
どうやらこの薄い本は同人誌と言うらしい。名前くらいは聞いたこと有るが、漫画家のほかに趣味などで描いている人間が自分で作った本の事を言うようだ。
コミックに特化した書店と言う事も有り、ここで売られているのはほとんどが漫画だった。そしてその全てにおいて表紙から個人の欲望やら性的趣向がありありと滲み出ている。
「先輩先輩っ! 見て下さいこれ! この本とか超々々素敵じゃないですかぁ!」
なんてテンション爆上げで鈴谷が掲げているのは、全身に拘束器具がつけられたまま何人もの男にめちゃくちゃに犯されているJKが描かれた同人誌だ。
「あ、こっちも良いですよねぇ。最近は催眠物とかも流行りですし、トレンドで言えばパパ活援交物とかも人気みたいですよぉ!」
「そんなふうに言われても俺には分からねぇって」
まるで女子高生がファッション店で流行のブランドでもチェックするようにはしゃぐ鈴谷に、俺は半ば呆れながら目をやる。
それから鈴谷は次々に薄い本を手に取ったかと思えば、値札でも確認するかのようにちらりと裏側を見る。
「何見てんだ?」
なんとなくその動作が気になり、俺も試しに手元にあった本を裏返してみると、そこには数ページ分のサンプル画像が載せられていた。どうやらそこから内容を吟味するらしい。
一般の書店とは違うというか、やはりこういう独自な部分にはマニアックな空気を感じてしまう。
「あ、これなんて先輩が好きそうじゃないですかぁ?」
「いやいいよ俺は。こう言うのはまだ俺には早すぎる」
「そう言わずに! ほら、これなんて良さそうですよぉ」
そういって手渡されたのは、表紙に新妻なお姉さんが写ってる同人誌だ。しかもなぜか目が虚ろっぽくて、おまけにジーパンから尻が半分以上はみ出ている。
しかしそんな事よりも、そのキャラクターの巨乳な部分といい茶髪三つ編みなところといい、まるっきり笹原のお姉さんにそっくりなのである。
「ほら、最近は先輩もお姉さんと密会ばかりしてますしぃ?」
「ゲフンゲフンッ!」
「それにお姉さんって先輩の好みまんまですよねぇ。おっぱいも大きくて包容力が有りそうなところなんて特にですし」
「お前はいつ俺の好みを把握したんだよ。ってかどこから見てたんだ……」
しかし鈴谷が言う通り、実はここ最近になって俺は笹原のお姉さんとはよくお茶する仲になっていた。
だが俺の方から誘ったわけではなく、街で偶然鉢合ったところをお姉さんに誘われたのが最初である。決してこちらから下心を持っていたわけではない。
「このサークルさんは絵柄とジャンルもばっちりですし、私としても是非お勧めです!」
「そう言われても俺は買わないって」
「えぇ、本当に良いんですかぁ? 先輩も男の子なんですし、夜な夜な妄想とかしたいじゃないですかぁ」
「例えそうで有ったとしても、知り合い相手にはしねぇよ」
俺はそう言うと本を鈴谷に突っ返す。
だいたい俺が笹原のお姉さん相手に邪まな感情を持つような人間だと思われていたのなら心外もいいところだ。俺程の完璧紳士はそうは居ないぞ。
だが……。さっきの本についてはまぁ、タイトルだけそれとなく覚えておこう。あくまでも後学のために。うん。
「それよりも見るもん見たんならさっさと次に行こうぜ。そろそろ精神が限界を迎えそうだ」
この四方八方がアダルトな空間はやはり男子高生には刺激が強すぎるわけで……。なにせどこに目をやってもいかがわしく顔を興奮させた女の子のイラストばかりだ。
しかもポスターのイラストにしても本の表紙にしても、どれもこちらの情欲をかりたてるには威力十分であり、誘うような表情に肉欲たっぷりな身体、ふくよかな胸元に性欲を刺激する様々なシチュエーションがインパクト満点に描かれている。おかげで一瞬でも気を抜けば色々と持っていかれそうだ。
俺としてはやけに胃に刺さるこの空間からいち早く脱出したいところだが、肝心の鈴谷はまだまだ見足りないとばかりにずいずいと売り場の奥へと進んでいく。
「あ、これとかもうたまんないですぅ!」
何を見ているのかと思ったら、次は金髪のギャル少女が野外で下半身を開いている表紙を目をハートマークにしながら眺めていた。
しかもそのギャルの表情が究極に悔しそうな感じで、その横にはデブで不細工っぽい男がギャルの胸を下品に舐めている。
「こういう下品な男の人に好きに弄ばれてるっていうシチュが本当にたまんないですよねぇ」
「なんつうか、いい趣味してるよなお前。理解できるかは兎も角として」
それから当然のようにその隣とさらに隣の似た絵柄の同人誌も手に取って、腕に抱えたまま次の陳列棚へと足を運ぶ。
「そんなに買ったら荷物になるって言ったろ」
「大丈夫です! 同人誌は薄くて軽くて別腹ですから!」
「いや最後のは分かんねえから」
なんて話しつつ、俺達はついに売り場の一番奥まで来てしまった。
「先輩はぁ、本当に良いんですか?」
「俺は別にいいよ。そりゃ、まぁ……男として多少の興味は有るが、今は気分でも無いしな」
「そうですかぁ。では付き合わせるだけって言うのも、少し申し訳ないかもですね」
そう言うと、鈴谷は隣り合わせていた肩の向きを変え、真っすぐにこちらに身体を向ける。
「先輩は、その……こういう場所で、エッチな気分になったりはしないんですか?」
「い、いや……。そりゃ時と場合を考えれば我慢するしかないだろ」
「そうですかぁ……。じゃあ、なんなら私が先輩の我慢、解消させてあげましょうか」
すると、鈴谷はまた一歩、こちらに近づいてくる。
その距離は既にほとんど至近距離で、お互いの身体が触れ合うほんの手前だ。
「先輩ぃ。私ならいつでも……先輩のお相手、しちゃいますよ?」
それから鈴谷の手が俺の手に伸びる。そしてそっとこちらの手首を持ち上げると、それを自分の胸元へと触れさせた。
「どんなところでも、どんなエッチではしたないことでも、私は先輩が望むならしちゃいます」
「や、そ……」
俺はその鈴谷の言動に思わず唾を飲み込む。
黒のブラウスを着た鈴谷の姿は、やはり一見すると普通の女子高生のようで、そんな鈴谷が恥ずかしそうにもこちらに赤く潤んだ瞳を向ける。
身体がドキドキと唸って、緊張して、その場の空気感も相まって、俺の身体がギチギチに固まっていた。
「先輩ぃ……ここで、私と……」
俺の指先が鈴谷の胸に当たる。ほんの少し触れただけで沈み込む胸の感触に、俺はとうとうこらえきれなくなって、下半身では次第に肉棒が膨張を始めた。
「鈴谷、でも……」
「……ふふっ」
俺はなんとか理性を保たせようとする。こんな場所で、それもこんな唐突に、考えも無しにやっちゃだめだと、自分に言い聞かせる。
だが。
「ふふ、あはははっ」
そんな事が起こるよりも先に、我慢しきれないとばかりに鈴谷は吹き出し始めた。
「先輩ぃ? まさか本気にしちゃったんですかぁ?」
「なっ!?」
「冗談ですよ。全部冗談です。先輩ったらすっかり本気にしちゃうんですから」
「お、お前な……!?」
「分かってますよ。今回はちょっとやり過ぎちゃいました。反省しますぅ」
それからルンルンと体を揺らしながらレジの方へと歩いていく鈴谷。
クソ、本当に何を真に受けてんだ俺は。いくらなんでも流され過ぎだろ。
本当にとんだ赤っ恥だ。あぁ、出来ることなら前世まで戻って地中深くに潜ってしまいたい……。
それにしてもなんださっきのは。人の男心をなんだと思ってやがる……!
「……でも、ですね」
それからちらりとだけこちらに振り返ると、鈴谷は小さく呟く。
「今日は私も一日だけの先輩の彼女さんです。でももし本当に私が彼女なら、その時は、先輩に……」
その声は小さくて、最後までこちらには聞こえてこない。
だが口の動きが止まると、鈴谷はどこか満足そうに笑みを作った。