ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
「お待たせしましたぁ」
しばらくして奥から戻ってきたのは、見慣れない学生服に身を包んだ鈴谷だった。
コスプレ衣装だと言うその制服は、白のYシャツに黒のブレザー、そして赤いリボンにチェック柄の灰色のスカート。所々には用途不明のボタンなんかがあしらわれている。
そいつは見るからに高校生の制服って感じだったが、胸元がやけに開いたブレザーだったり絶妙に派手なデザインはまるでアニメキャラのコスプレみたいである。
鈴谷の方も着なれないコスプレで多少は恥ずかしいのか、その顔をどうもモジモジとぎこちなくさせている。
『まさかの現役JK!?』
『キタコレ!』
『JK神降臨!』
『いや待て。あれはコスプレでござるよ!』
『そうだ、騙されてはならん。これは孔明の罠だ』
そしてそんな恥ずかしそうな顔を見せる鈴谷の姿に、周りの客たちはテンション爆上げである。
と言うか時々混ざる口調がやけに古風な奴はいったい何時の時代のオタクなんだ。
「あはは……。どうやら目立っちゃってるみたいですね」
「そりゃな。お前も外見はそれなりなんだし」
「そ、それは……どうもです」
それから席に着くと、さっきのメイドさんが鈴谷の分のオレンジジュースを運んできた。
「とってもお似合いですよ。やはり私の見立てに間違いはありませんでしたね」
「これってやっぱ、何かのコスプレなんですか?」
「はい~! とある有名なエロゲ……ギャルゲのヒロインと同じ衣装なんですよ!」
「今エロゲって言おうとしましたよね。しかもわざわざギャルゲって言い直しましたけど一般感覚では同じものですからねそれ」
「あはは。ともかくばっちりお似合いです! まるでヒロインの子が画面から出てきたみたいです!」
どうやらこちらも随分とテンションが上がってるようである。
「うちは店長の趣味と言いますか、実は今かかってるBGMも同じゲームの物なんですよ」
「そうなんですか? 随分とゆったりした曲なので、そうは思いませんでした」
「良かったらゲームの方も是非プレイしてみてください! 私もとってもお気に入りなので!」
そう言うとメイドさんはエプロンからゲームの紹介冊子を取り出す。
「あの」
「はい?」
「この真ん中に映ってる子、どう見ても鈴谷と瓜二つなんですけど」
「てへっ♪」
手渡された冊子にはエロゲのパッケージやら登場するヒロインやらが描かれていた。
そりゃもう本当なら俺達が見てはいけないような内容もふんだんに載せられていたが、その中でも金髪ギャルの娘がまるで鈴谷とそっくりなのである。
「私のメイド魂がこう言ったのですよ。この子に『アリスにゃん』と同じコスプレさせろと……」
その言葉にどうも何かの思惑を感じ、俺は壁に貼られた『カップルサービス絶賛開催中!』の張り紙へ目を向けると、そこには『もれなくペアでドリンクをサービス』と書かれていた。逆にそれしか書かれてなかった。
「それではごゆっくり~!」
「あ、ちょ!」
俺の視線に気づいたのか、メイドさんは逃げるようにカウンターの奥へ入っていく。
「……先輩?」
「ったく、怪しい店だとは思ってたが、まさか客にコスプレまでさせるとはな」
痛くなってきた頭を押さえる俺。あれか、この街にはそう言う人間ばかりがひしめいているのか。
「……先輩。その、どうですか? 先輩は似合ってると思いますか?」
そのヒロインのコスプレだという鈴谷の制服姿に、俺の方もつい動揺してしまう。
何と言うか、普段とは違う服装だと雰囲気も違って見えると言うか、やっぱり見知っている相手程どう反応すれば良いのか分からない。
「そ、それは……その、新鮮ではあるよな」
やっぱりもじもじとする鈴谷に、俺の方もつられてついぎこちなく答えてしまう。
「まぁ、良いんじゃねえの。さっきのメイドさんじゃねえけど、俺も似合ってると思うぜ」
「あ、ありがとうございます」
そいつはやっぱり普段に着る制服とは違うコスプレ衣装なわけで、外見で言えば美少女である鈴谷が着ればそれこそアニメキャラみたいだ。
「それで次はどうするんだ?」
「そ、そうですね。もう少しだけこの辺りを見て周りませんか」
「俺はいいけど、さっきは行きたい店があるって言ってなかったか?」
「それはそうなんですけれど~……。私のは最後で大丈夫です」
そう言うと、鈴谷は少しだけ頬を緩めて、まるで恥ずかしさを誤魔化すようににやりと笑みを作る。
「せ、先輩はその、こういうのもアリだったりするんですか?」
「さっきも言ったが、悪くは無いんじゃないか」
「いえいえ、制服のことじゃなくてですね。ほら、彼女にコスプレさせてぇ、お店の中で他の男の人の視線に晒されるなんてぇ、先輩としては興奮しますか?」
「お前、やっぱホント相変わらずだよな」
鈴谷は頬を少し赤く染めながら、小悪魔的に目を細めて俺に囁く。
「興奮するも何も、お前の場合はまったく困らないだろ?」
「なるほど、先輩としてはやっぱり少しは嫌がってた方が興奮すると……」
「いやそう言う意味じゃねえよ」
「でも私、知ってるんですから。先輩も本当はやきもちとかしちゃうタイプなんですよねぇ」
「やかねぇよ、面倒くさい」
依然として周りからの視線を集めながら、俺はそれでも首を横に振る。
だいたいそういうジェラシーとか、俺には程遠い感情だ。誰がどうなろうと知ったこっちゃない。それが俺がこの17年間の人生で培ってきた他人との距離感だ。
「それにどうせ焼くなら、断然モチよりもそば派だしな」
「そばって、焼きそばのことですか?」
「まあな。好きも嫌いも無い俺にとっては数少ない好物だ」
因みにもう一つの好物は家で飲むコーヒーである。なにせ毎朝飲んでるせいでもコーヒーが無いと禁断症状が出るレベルだ。
「そう言えばプールの時にも言ってましたよねぇ。先輩ってそんなに焼きそば好きなんですか?」
「ガキの時に食って以来、何故か好物なんだよ。そう言うお前もパフェとか好きなのか?」
「? どうしてですか?」
「ほら、前にも食ってたろ」
「前にもって……?」
「一番最初にファミレスに行った時だよ」
そう言うと、鈴谷はしばらくぽけっとした顔を見せて、それからまた一際キモく顔をにやりとさせる。
「なぁんだ。先輩ってやっぱりあの時のこと、ちゃんと覚えててくれてたんですね」
「そりゃそうだろ。つうか忘れたくてもそうそう忘れられねえよ」
俺が最初に笹原を露出調教した日の夜の出来事――。鈴谷真昼と言う名の後輩と出会い、そしてまた笹原の過去を知るきっかけにもなったあの日の事を、俺はやっぱり忘れられない。
「好きか嫌いかで言うと、うーん。まぁ普通? ですかね」
「そうかよ。まあどっちでも良いけどな」
「あの時は先輩をハメようと思って頼んだだけですし」
「な、やっぱりお前あの時はそういうつもりで頼みやがったのか」
「はいっ!」
俺はあの日のあの場所で、笹原の過去を知るために鈴谷とある約束を交わした。それは深夜のファミレスで、鈴谷真昼を俺の手で醜穢にも辱めるというものだ。
鈴谷真昼と言う人間は骨の髄まで破滅願望者である。なのであの時はわざと『俺が鈴谷を辱めているタイミングで』店員がテーブルまで来るよう、計算してデラックスパフェを頼んだと言う経緯がある。
もしもお姉さんがあの時に助けてくれなければ、俺はどうなっていたか分からなかった。
「先輩ぃ、まさかあの時の事とか思い出してますぅ?」
「言ったろ、直ぐに記憶から消し去れるようなもんじゃねえって」
「じゃあ~、やっぱり私が最初に先輩にあげた〝アレ〟も、まだスマホに残ったままですか?」
鈴谷はそう言うと、わざと制服の胸元のボダンをポツンと一つ外す。
「私が先輩のスマホで撮ってあげたあの写真、もしかしてまだ持ってたりしますぅ?」
「……消したよ、あの日の内にな」
「本当にですかぁ?」
「なんならスマホの中まで見てみるか?」
「いえいえ。うーんと、でもそれなら代わりの写真が必要かもですねぇ」
「だから要らねえって」
「でも私としてはそちらの方が萌えますから。ほら、弱みを握られて無理やりされてる方がエッチじゃないですか」
そう言うと鈴谷は胸元の襟を広げて「ほーら、先輩になら特別に撮影OKですよ?」なんて煽ってくる。
「来るときに言ってた普通の女の子ってのは、午前中までの話だったのか」
「はっ! そうでした! 今日は私、普通の先輩の後輩として振る舞うんでした」
どうやら本当に忘れていたらしく、分かりやすいほどにはっと顔を驚かせる。
「お待たせしました! こちらが特製オムライスで、こちらがスイーツパフェになります」
そうしてしばらくしてから運ばれてきたパフェとオムライス。
「美味しそうですね」
パフェの方もオムライスの方も見かけは普通そうだ。
「まあどうだろうな。この感じじゃ味の方も……」
あの店員もランチが評判だとか言ってたけど、どうだかな。
それから俺は半信半疑でスプーンを手に取り、まずは一口食べてみる。
「普通に美味え……」
とろとろになるよう絶妙な火加減で作られたオムライスはスプーンで掬うたびにその柔らかさが堪能できる。なかのケチャップライスも酸味が利いていてなんとも食欲をそそる物だ。
店やスタッフはともかくとして、確かに美味いオムライスに俺は驚く。
「「ごちそうさまでした」」
それから昼食に舌鼓を打ち、食事を終えるとメイドさんを呼んで会計をお願いする。
「あ、それとまた更衣室を借りても良いですか」
そう俺が言うと、メイドさんはにんまりと満足げな笑みを見せながら「いえいえ~」と首を振る。
「せっかくなので、今日一日はお貸ししますよ。その方が秋葉デートも盛り上がるでしょうから」
「いや、でも……」
それから俺は鈴谷の方を見る。すると鈴谷はピースサインを作りながら「私なら全然OKです!」と言葉を返す。
「つっても、コスプレのままだと相当に目立つしな……」
「いいじゃないですか。むしろ見せつけてやればいいんですよ」
そこでメイドさんは物凄く悪そうな顔を作ると、俺に顔を近づけて耳打ちする。
「あんな可愛い美少女の彼女が居るんですから、周りの野郎どもに嫌って程に知らしめてやるのです。現実での差ってやつを」
「あんた……相当にドSだな」
「いえいえ。私としても衣装は似合ってる人に着ていて欲しいので。あのコスプレも私の私物ですからお構いなく」
そう言うとすぐさま営業スマイルに顔を戻し、やはりアニメ声でにこやかに言うのだ。
「それではまたのお越しをお待ちしております、ご主人様」
なんつうか、メイドさんって怖え。そう思う今日だった。