ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
メイド喫茶を出ると、そこには活気に溢れた秋葉原の景色が見えていた。
路上では人の往来がさらに勢いを増し、買い物を終えたのか両手いっぱいに荷物を提げてる人も居る。
「なんだか、やっぱりちょっとだけ恥ずかしいですね」
「別に良いんじゃないか。ここがそう言う街だって言うんなら、郷に入っては郷に従え、だろ?」
照れ笑いをする鈴谷に、俺はそう意地悪く言葉を返す。
これが普段の千葉駅前とかなら少しの注目を集めてしまうかもしれないが、ビラ配りのメイドさんがそこらじゅうに居るこのアキバでなら、案外そこまで目立ったりはしないのかもしれない。
「なんですかぁ先輩? もしかして恥ずかしがる後輩を連れて歩くからって楽しんでますぅ?」
「ちげえよ。それにコスプレしたいって言ったのはそっちだろ」
「先輩ってやっぱり女の子を虐める趣味があるんですね」
「そんな趣味はねえよ。ただ俺も、少しは慣れただけだ」
コスプレと言う物も露出プレイとはまた違った羞恥心があるというか、これも類別するのなら似たような何かだったりするのかもしれない。コスプレ姿の女子を連れて歩く俺の姿は、おそらく多くの人間から奇異の目で見られるだろう。
しかし俺はそれでも少しの緊張感と共に足を踏み出す。その足は、これまでの修羅場に比べればずっと軽い。
「行くぞ」
「あ、待ってくださいよぉ先輩!」
そこから俺達は路地を抜け、また中央通りへと戻ってくる。
時たまサラリーマン風の男や若い男女から目を向けられるが、やはり思っていたほどの注目は集めていない。そこは秋葉原、魔境なだけあって制服コスプレくらいでは騒ぎにならないらしい。
「えへへ。まさか先輩とこうやってデートできるとは思いませんでした」
「どうしてだよ? 呼び出したのはお前だろ」
それも呼び出した本人の方から出向いてくるのだからもはや不可避攻撃だ。俺は前に御影先生と格ゲーをした時に投げ技でハメられたのを思い出す。
「だって先輩ってば凄く面倒くさがりだし、途中で帰っちゃうかも~なんて思ってました」
「帰って良いなら今すぐにでも帰りたいけどな」
「けど、それでも先輩はこうして私のワガママに付き合ってくれるんですね。やっぱり、先輩って凄く優しいです」
そう言うと、鈴谷は普段とは違うどこか照れた感じの笑みを見せる。俺もそいつがなんだか妙な感じで、そっと視線を逸らしてしまった。
「先輩もやっぱりぃ、私のコスプレ姿は可愛いと思いますか?」
「それがコスプレに入るなら、普段のセーラー服だって十分にコスプレみたいなもんだろ」
「でもさっきは可愛いって言ってくれました」
「見てくれは悪くないって言っただけだ。まぁお前の外見が良い方だってのは、俺も分かってるしな」
「そうですかそうですか。うんうん、そうやって素直に女の子を褒めるところはボーナス点です」
「その点は貯めておくと何か良い事でも有るのか?」
「なんと! 後1点貯めるだけで、私のことを一晩中ずっと好きに出来ちゃいます。なんならもう2点で全裸のまま夜道の散歩に連れ出したりできちゃいます」
「そうか、ならもう褒める必要もないな」
「あ、違うんです! えっと、そうです! 後1点貯めるだけで縄で縛った私を朝まで殴っていたぶる権利をですね!」
「別にバイオレンスさが足りなかったわけじゃねえよ。お前は俺をどういう人間だと思ってるんだ」
「先輩はとっても素敵な鬼畜で人でなしで女の子を辱める事が最高の喜び~みたいな先輩です」
「それのどこに素的要素が有るの?」
「じゃあ、ここは先輩の事を好きに出来ると言う事で」
「いつの間に対象が俺にすげ替わってんだ。つうかそれ、俺にまったくメリットないよね」
そんな感じで途中途中に余計な話を挟みながら、俺達は行く先も定まらないままに秋葉の街を闊歩する。
「せーんぱい、次はどこに行きましょうか」
「どこって言われても、俺もデートで行けば良い場所なんてこれっぽっちも……」
と、そこで俺の足はふいに止まる。
「どうしました?」
「いや……」
俺がふと見つめたのは、すぐ傍にあるゲームセンターの看板である。
「ふむふむ、なるほど。ゲームセンターですかぁ」
「やっぱダメだったか? デートの定番っていうと、他に何も思いつかなかったんだが」
「良いじゃないですか! 行きましょうゲームセンター!」
秋葉原まで来てゲーセンってのもべた過ぎるかと思ったが、鈴谷は俺の腕を掴むとその建物の方へとぐいぐい引っ張っていく。
「わぁ、凄く大きいですね」
「そこは秋葉原だからな。単位がいちいちビル丸ごとだ」
それから俺達はゲーセンへと入ると、騒音の中に割って入っていく。
見ると一階はクレーンゲームコーナーになっていて、いくつもの筐体が景品と一緒に並んでいる。
「先輩はこう言うの得意だったりするんですかぁ?」
「得意かどうかは分からんが、たまに景品を取って遊んでるな」
「へぇ! そうなんですね。じゃあ私にも何か取って下さいよぉ」
「つっても、こういう場所だと景品も取りにくかったりするし、確率機だとすげえ金もかかるぞ。例えばデパートの中とか、旅館とかの古いゲーム機なら金もかからずに取れたりする」
「わぁ。流石は先輩。デート中の女の子が相手でも容赦ないですねぇ」
「そこは効率的と言ってくれ」
それから俺達は何気なしに二階へと足を伸ばす。
「プリクラか……」
二階は全体がプリクラのコーナーになっていて、こちらでも筐体が所狭しと並んでいた。
「んじゃ三階に上がるか」
「こらこら、先輩」
そっぽを向いて三階へと上がろうとすると、鈴谷が強烈な力で俺の腕を押さえる。
「なんだよ」
「デート的に言えば、ここは女の子をプリクラに誘うのがセオリーではないですか?」
「なんのセオリーだよ。2ストライク1ボールなら一球は見せ球を使うとかそういうやつか?」
「いえいえ。女の子を堕とすには狭い空間に押し込めろ的なやつです」
いや、そのセオリーも色々と間違ってるだろ。
「ともかく! デートと言えばプリクラは定番じゃないですかぁ!」
「それはそうかもしれないが、俺にはあの空間が絶対に入ってはいけない魔獣の巣窟にしか見えない」
そこでは今も何組かの女子グループで盛り上がっている。しかもなんだかリア充オーラが漂うと言うか、メイクとかファッションとかばっちり決め込んでる系のそう言う人種だ。正直あの中に入っていくなんてもはや自殺行為に等しい。
「大丈夫ですよ。今日は私が付いてますから」
「それが余計に心配なんだよ。本当に安心材料になるのか?」
「大丈夫です! ここは私に任せて下さい」
「またおかしな事でも始めないだろうな……。思い当たる節が山のように有るんだが」
「言ったじゃないですかぁ、今日の私は普通な先輩の後輩なんです」
普通の後輩、か。
やはり今日の鈴谷は、やけにその部分に拘りを持っているらしい。またなにかの思い付きだろうが、俺にはその真意とやらを伺い知れないままだ。
「って、おい!?」
それから強制連行されるみたいにプリクラコーナーへと引き連れられる俺。
「やめろ! 俺をあのモンスターボックスに近づけるな!」
「大丈夫ですよ、取って食われたりはしませんから」
「写真なんて撮ったら魂とか抜けちゃうかもしれないだろ」
「今はもう21世紀ですよ先輩」
それから俺は強引にもプリクラ機の一台に押し込まれてしまう。
「先輩とプリクラだなんて、少し前の私なら考えもしませんでした」
「俺もだよ。何がどうなったらコスプレした後輩女子とプリクラなんて……」
それこそ灰色の青春を決め込んでいた俺には決して訪れなかったはずのイベントだ。
それが今ではこうして女子と二人でデート擬きなんかに勤しんでいる。
思えば俺の生活の全てが変わり始めたのは、やっぱりあの日、俺があの引きこもりと出会ってからだ。
そこからボタンを一つずつ掛け違えていくみたいに、何かが少しずつ、そして大きく変わっていく。
「ちょ、近いって」
「しょうがないじゃないですかぁ。それに私としては全然ちっとも困りませんし!」
プリクラの中は思っていた以上に狭く、肩どころか腕や足まで密着する。
「ほら先輩、もっと引っ付いて」
「だ、だから近いって」
プリクラの画面が切り替わると何やら説明を始めるが、しかしそんなものは一切頭に入ってこない。
それからまた画面が変わり、俺達の姿が鏡のように映し出される。すると画面に白い枠線が引かれ、どうやらその内側に映る様にしなければならないらしい。
「先輩、もう少し寄って下さい」
「つってもこれ以上は……」
もう足も腕も身体も重なって、ほとんど抱き着いてるみたいになっている。
顔が近い。金髪な鈴谷の髪が鼻に当たる。
「……っ」
「はい、チーズ!」
カシャリ、とシャッター音が鳴る。しかし俺はそれよりも、鼻をかすめた鈴谷の髪の匂いに気を取られてしまった。
それまであまり意識したこともなかった。けれど髪から香ってくるその匂いはやっぱり異性のもので、鈴谷も女子であると言う事を嫌でも意識させられてしまう。
身体が密着してるせいで顔も背けられないまま、鈴谷はまたぐっとこちらに顔を押し当てた。
「ほらもう一枚ですよ、先輩」
すぐ横では、そうやって楽しそうにする鈴谷の笑顔があって、そこで俺はようやく我に返ったように現状を把握する。
あの俺が、誰とも親しくせずにずっと孤独を演じていたはずの人間が、後輩の女子に誘われてデートとか、本当に俺らしくない。
「いきますよぉ! ポーズっ!」
カシャリ。
そこで押されたシャッター音と、同時に映し出された画面には、どこか浮かれ気味で、けれど嬉しそうと言われれば嫌がっているかのようにも見える。そんな情けのない、俺の顔が写っていた。
※次回番外編最終話です!