ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
第102話
灰色の青春を望んだ俺の結末。それは過去にはある女の子を救おうとして失敗し、そしてそのトラウマから誰かとの約束を反故にできないという特殊体質を抱えた事だ。
しかし、それすらも今では既に過去の事である。
俺は考える。元々捻らない頭ではあったが、それでも考える。
もしもこの世界に正解と言うものが存在するのなら、そいつはいったい何なのだろうか。
あるいは正解なんかを追い求めて、果たして本当に答えにたどり着けるのだろうか。俺はこれまでにいったい何を間違えて、何を間違えなかったのだろう。やってきた事の中で、たった一つでも答えと呼べるものは有ったのだろうか。
なんて、最近の俺はそんなことばかりを考えていた。
それもこれも、元はと言えばあの二人の姉妹のせいだ。俺の日常は滅茶苦茶にかき乱され、本来望んでいた灰色の青春とやらは水泡のように消えて無くなった。
だが、それでも俺は考える。何故なら俺はもう傍観者とは呼べなくなってしまった。俺はあの二人とここから先も関係を持つと決めた、当事者なのだから。
『ピピピピッ』
スマホが鳴る。
なんてことを頭の中でグルグルと駆け回しながら眠りに落ちたような気がする。そして気が付けば、今度は自分のスマホの着信音で目が起こされた。
「なんだよいったい……って、えぇ……」
俺はスマホの画面を見て思わず苦い息をつく。そこには時刻にして『5:06』と記されていた。
「おいおい、どこの馬鹿だ? こんな時間に電話とか非常識だろ……」
で、スマホの着信先の方に目を下ろすと。
『笹原カンナ』
なんて名前が見えるわけで。
「はぁ……」
まあ分かってはいたけど。
なにせ非常識が服着て歩いてるような存在だ。俺はその名前に一定の納得感を得ると、ため息まじりに電話を取った。
「はい?」
『もしもし?』
「なんだよこんな時間に。お前は寝不足で俺を衰弱死させるつもりか』
『え、前田君死んじゃうの!?』
「いやだから、そうなる原因を作ってんのはお前だろって話で」
『私?』
「はぁ……まあいいよ。んで、何か用事か?」
一向に噛み合わない話に焦れた俺は、また溜息まじりに話を進めた。
『あのね! 今から前田君の家に行っていいかな?』
「言っとくがこの時間だ。家族は全員もれなく熟睡中で家には上げれんぞ』
『そ、そんな、別に前田君の部屋に入りたいなぁなんて思ってなかったよ!? そこまでひじょーしきな人じゃないよ?』
「本当かよ」
だったらそもそもこんな早朝に電話なんかよこさないと思うのだが。
「それで、うちまで来て何するつもりだ?」
『あ、あのね。前田君とちょっとお散歩したいなぁ、なんて』
「散歩?」
『うん!』
散歩、と言われて俺はきょとんと眼を据える。
早朝での散歩と言われてみれば、確かに合点がいかなくもない。この街でも朝の日課やらで家の近所を散歩する人間は珍しいまでも居ないなんてことも無いだろうし。
「散歩、ねぇ」
俺は部屋のカーテンをシャーっと開けて外の景色を見る。するとまだ朝が早いせいか人通りは皆無だ。
ゆったりとしていて湿り気があって、それでいて爽やか。そんな朝の雰囲気がまだ街の中を包んでいる。
「なるほどな。そういう事か」
『うん。その、ごめんね。でも付き合ってくれると私も嬉しい、かも……なんだけど』
「分かったよ。今回も付き合うさ。なにせお前の面倒を見るのはもう俺の仕事みたいなものだからな』
『あ、ありがとう! じゃあ今から前田君の家まで行くね』
「おいおい大丈夫か? なんだったら俺から行った方が良いんじゃないか?」
『だ、大丈夫だよ! もぅ、子ども扱いして』
「いやそう言う問題じゃなくてだな」
お前の体質の問題だろ、と言いかけて、俺は言葉を止める。
「……分かったよ。気を付けて来いよ?」
『うん! ありがとね』
そこで通話は終わり、俺はスマホを机の上に置いた。
「あいつはあいつなりに、少しずつ前に進もうとしてるわけな」
俺はそう呟くと、またぼふりと布団の上に上向きになって寝転がる。
「俺は、どうなんだろうな」
部屋の天井を見つめながら自問自答した。思えばあの日から、時宮先輩を発端とする騒動が一区切りついたあの日から、既に5日が経過していた。
笹原は未だに体質と向き合い続けている。そして鈴谷もまた、自分の中の葛藤を完全に払拭できたわけではないだろう。だからこそ二人は歩み続けている。
なら、俺はどうだ。
「……トラウマと特殊体質、か」
思えばそれが全ての始まりだった。
あいつらとの始まりのきっかけであり、俺があいつらに付き合い続ける唯一の理由。それは俺の持つ特殊体質によるものだ。
一度誰かと交わした約束は反故にはできない。そんな体質を持った俺は、あいつらとそれぞれ約束を交わしている。
笹原とは、あいつが露出プレイできるように調教する事。そして鈴谷とは、笹原との約束を果たした後に肉奴隷として飼う事だ。
二人は俺がその約束を反故にはできない、だから自分達に付き合っていると思っている。俺にしたってそうだ。そんな厄介な体質さえなければ、とっくに笹原とは無関係な人間になっていただろう。それどころか、そもそも出会いすらしなかった。
「俺は、これからどうすべきなんだろうな」
相変わらず天井を眺め続けながら、またそんなことを呟く。
そう、俺とあいつらの関係性はそれだけだったはずなのだ。
しかし、今は違う。
「……ふぅ」
何のための呼吸だろうか。自分でも分からないまま、俺は深く息をついた。
時宮先輩との一件の後、俺は失っていた記憶を取り戻し、同時に過去に背負っていたトラウマを思い出した。しかもそれは、そのトラウマの解消と言うおまけ付きでの話である。
過去に背負ったと思っていた罪が時宮先輩の活躍によって払拭され、だからこそ今の俺は、過去を知りながらにしてトラウマが存在しない。
それがどういうことを意味するかと言えば、ようはトラウマを起因にして体を支配していた〝体質〟そのものの存在を歪めてしまったのだ。
「俺の方は、もうどん詰まりだよ」
歩みを続ける二人に対して、俺に見えているのは低い天井だけ。
ようするに時宮先輩との事が起こったあの日から、つまり何が起こったかと言えば――。
俺の中に存在したあの特殊体質。『約束を反故にできない』と言うあの体質の消失だった。
「これで晴れて俺も自由の身ってわけだ」
そう、全ては時宮先輩の目論見通りだった。
俺に過去を思い出させたうえでそのトラウマを解消する。それによって俺の特殊体質までもを解消する。
全ては完璧な筋書きで、それを筋書き通りにこなせてしまう時宮先輩の行動力があってのこの結果だ。そして俺はそんな尊敬すべき先輩の手によって、見事に過去とあの体質から解放された。
「これで俺にはもう、あいつらと関わる必然性はなくなった、ってことだよな」
あれから五日間、色々と試してみた。例えば妹とわざと約束を交わし、そいつを破ってみたりと、そりゃまあ色々だ。
結果はものの見事に白。いずれでも発作が起こるようなことはなかった。
妹も、それから両親も、とりわけ喜んでいた。そんな家族の顔が今でも目の裏にこびりついている。
なのに俺自身が釈然としないのは、きっと俺の中で正解ってやつが分からなくなったからだ。
「俺があいつらと一緒に居る意味……。んなもん、急に言われたって分かるかよ」
だからこそ今の俺に出来るのは、これまでと変わらない。現状を維持し、周りに流され続ける事。結局はたったそれだけだった。
結局今の俺に、これ以上何かを導き出せるような確かな『正解』など、決して答えは出来ないのだろうから。