ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
俺達はそこから少し歩いて、近場の『ファミリーレストラン ゾナサン』に移動する。
お姉さんが先に入って扉を開けると、カランカランとドアベルが鳴ってすぐに女の子の店員が接客に現れた。
「二人なんですけど、何時もの席空いてますか」
「はい、かしこまりましたっ!」
見たところ他にも客は入っているが、他のファミレスに比べて席の埋まり具合もまばらだ。
店内はそれなりに広々としたスペースになっていて、ファミレスにしては雰囲気もゆとりがある。ゾナサンはあまり来た事が無かったけれど、少しお茶をするには良い感じだ。
「それではごゆっくり~!」
窓際の端の席へと案内された俺達は、それぞれ荷物を下ろすと腰をつける。
「俺、ファミレスで何時もの席とか言う人初めて見ましたよ」
「常連なの。ここって場所の割にはあまりお客さん居ないから」
「それ、店の人が聞いたら複雑な気持ちになりますよきっと」
「そう? 私だったらどんな理由でも気に入ってくれて嬉しいと思うけど」
するとお姉さんはテーブルに手をついて、俺の方をまるで夕焼けでも見るかのように優しい目で見つめる。
「こっちに来ちゃいましたけど、むこうのファミレスじゃなくて良かったんですか」
「むこうって?」
「ほら、前に会った時にお姉さんがバイトしてた」
「あぁー。でもそうね、自分がバイトしてるお店って、普段は行きにくかったりするから」
「そんなもんですか」
「そんなものね」
なんて言っていると、お姉さんはメニューを取り出して俺の方へと向ける。
「何が良い?」
「俺は一杯のコーヒーさえあればどこにで居れますよ。そういうふうに人間できてるんで」
「ふふっ、やっぱり君って面白い。じゃあドリンクバーで良いかしら。それからショコラケーキと、前田君も同じのでいい? 折角だからお姉さんが出したげる」
「いえ、それくらいは自分で……」
「たった700円くらい年上のお姉さんに出させてよ。それくらいの甲斐性はあるから」
「……そ、それじゃあ」
「すいません。注文良いですか?」
「あ、はい~!」
するとお姉さんはまた同じ女の子の店員を呼んで注文をする。その様子にしてもどこか親し気があって、確かに常連っぽいやり取りだ。
「本当によく来るんですね」
「そうね。お姉さんにも息抜きは必要だから」
「ファミレスでは何してるんですか。指定席まで作って」
「小説を読んだり、大学の勉強をしたりね」
そう言うとお姉さんは腕を上げてうぅー! と背伸びをする。背中が反れた分こちらに見せつけられる胸部はやっぱり豊満で、服に引っ張られて少し形を潰しながらも、お姉さんのお姉さんらしさをこれでもかと見せつける。ここまでくるともはやどうしても目を引き付けられると言うか、むしろ男子高校生には目の毒だろこれ。
にしても大学の勉強か。そう言えば前に笹原からも聞いたけれど、お姉さんの通っている大学も同じ千葉にあるらしくて、学部は経済やら政治やらを色々と勉強できるコースなんだとか。広く浅く勉強するってことは、やっぱりその分の勉強量も多いんだろうな。
「それじゃあ俺、飲み物取ってきますね。お姉さんは何が良いですか?」
「ねえ、前田君。私もそろそろお姉さんじゃなくて、名前で呼んでもらえたら嬉しいんだけど」
俺が立ち上がろうとすると、お姉さんはそう言って俺に微笑みかけた。
「で、でもその……。俺、お姉さんの名前知らないですし」
「じゃあ教えたげるね。私の名前は笹原マドカ。窓に華って書いてマドカなんだけど、あまり好きじゃないから普段はカタカナで書いてるの」
するとお姉さんはテーブルの紙ナプキンを一枚取ると、カバンから取り出したボールペンで『窓華』と、その隣に『マドカ』と書く。
「そ、それじゃあマドカさんで」
「うん。ありがと。別にマドカちゃんとか、マドカお姉様とかでも良いけど?」
マドカお姉様って……。どこぞのお嬢様学校みたいだな。マリアさまが見てそうだ。
「大学じゃそういうふうに呼ばれてるんですか」
そうお姉さんにそっけなく言葉を返すと、お姉さんはまたぷふっと笑いながら首を横に振った。
「ううん。私、結構忙しいからなかなか大学の知り合いとか居なくて。昔は顔見知りの先輩も居たんだけど卒業しちゃったの。あ、もしかして前田君とはそういうところも似てたりするのかな?」
「そ、そんなことないですよ。俺にだって知り合いくらい居ますし」
「あはは。それもそうだね」
そうやってお姉さんは嬉しそうに笑うと、その後に「じゃあブレンドコーヒーにしようかしら」と指を立てる。
窓に華でマドカ、か。良い名前だと思うけどな。笹原も部屋の看板には『カンナ』って書いてたけど、本当はなんて漢字で書くんだろうか。そう言えばクラス名簿とか答案用紙とか、笹原の名前がちゃんと書かれてるものってまだ見たことが無い気がする。
ひらがなじゃなくてカタカナを使う辺り何かこだわりでも有ったりするのかもしれないけれど、ともかく笹原もお姉さんも自分の名前はカタカナで書く方が好みらしい。
俺はそれからドリンクバーに行き、自分とお姉さん、もといマドカさんのコーヒーを汲むとまた席へと戻る。
「ありがとう。前田君って可愛い女の子には優しくしてくれるんだね」
「可愛いかはともかくとして、俺は男女だろうと平等ですよ。もっとも男の友達は居たこと無いんでまだ実証出来てませんけど」
「ふふっ、それじゃあ次は男の子の友達作らないとだ」
「色々と落ち着いたらそれも良いのかもしれませんね。うちは兄妹家庭で知り合いの同性って親父くらいですし」
もっともその親父にしても家庭内での立場は決して平等とは言えないけど。うちは男女平等どころか圧倒的女性優位なヒエラルキーが敷かれている。まあ親父に関してはそれがむしろ心地よかったりするのかもしれないが。
「それで……ねえ、あれからどうなの?」
「あれから?」
「だから真昼ちゃんとのこと」
と、俺はここで薄い目をマドカさんに向けて、それから数秒考えて。
「うっ!」
吐きかけたコーヒーをなんとか喉に通す。
「げほ、げほっ! な、なんですかいきなり!」
「だってお姉さん気になっちゃうんだもん。ねえねえ、あれからどうなったの?」
「な、何も有りませんよ。第一あの日の事だってあれから何度も説明したでしょ?」
そう、俺がさっきから何となく落ち着かないのはこの目の前に座る笹原のお姉さん、笹原マドカさんに言い訳出来ない程の強烈な場面をその目で見られているからだ。
夏休みも始まった頃、俺は鈴谷と会い、そして深夜のファミレスで笹原の過去を知る事と引き換えに公衆調教プレイの片棒を担いだ。そしてマドカさんにはその現場を見られてしまっている。
言い逃れできないどころか後始末の手助けまでしてもらい、おまけにお姉さんには俺が笹原と付き合っているにも関わらず鈴谷と関係を持つと言う、いわゆる寝取り関係だと勘違いされている。
「だってお姉さん的にはそっちの方が好みなんだもの」
「好みって言われても……。それに俺、どちらとも付き合ってないですし」
「それってお互いに自覚がないだけで、本当はもうそういう関係なのかもよ?」
「自覚がないっておかしいでしょ。こういうのはやっぱりその、どちらかが告白なりしてから結ぶべき関係と言うか……」
「ふふ、あはは。前田君って結構ロマンチストなんだね」
「わ、笑わないでくださいよ! そ、それにそういうのが普通でしょ?」
「普通、か。でもその普通って、案外ありきたりな物じゃなかったりするから」
「ありきたりなものじゃない……?」
「そ。誰かが当然だと思っていても、実はそんなものは世界にありふれていなかったりするのよ」
マドカさんはそう言うと、丁寧でかつ上品にマグカップを持ち上げてコーヒーを飲む。
「だから大丈夫なの。前田君がカンナと付き合っていても、それなのに別の女の子に寝取られちゃったりしても」
「どういう理屈ですかそれ。なにも大丈夫じゃありませんよ。なに満面の笑みで言ってるんすか」
「えぇ~。だってそっちの方が萌えると思うんだけどなぁ」
「マドカさんの趣味で妄想してもらうのは結構ですが、現実まで歪めるのはやめてくださいって」
「ふふ、しょうがないなぁ。じゃあそういうことにしといてあげる」
相変わらずマイペースと言うか、天然だよなこの人って。
俺も気を休める為にコーヒーに口を付ける。味はどこにでもある普通のコーヒーだ。前田的には65点といったところか。
「それじゃあさ、前田君」
「なんですか?」
「この世界には一人じゃ絶対に抱えきれない重みがあって、必ずどちらかを選ぶことになるとしたら、どうする?」
お姉さんはちょうどコーヒーを飲み終えながら、そんな事を言ってきた。
なんだろうこの雰囲気。また妙な事を言ってきたけれど。
と、ここで俺はようやく気付く。
マドカさんの唇がほのかに震えている。まるで何かを我慢してるみたいに。
……なるほどな、つまりはそういう事か。
「……どちらかを選ぶ、ですか」
俺はため息をつきながらそう言葉を返す。
「前田君には他にも助けたい女の子が居るでしょ。でもね、結局君はそのどちらかを選ぶことになるって話」
「どういう意味ですか、それ?」
俺はお姉さんの目を真っすぐに見つめると、真剣な眼差しでそう言葉を返す。
「そのままの意味だよ。ほら、私ってNTRフェチだから」
「回答になってないですよそれ」
するとお姉さんはまたにこりと微笑む。
「別にそんなこと、考えたことも無いっていうか、そもそも俺の考える事じゃないっていうか……」
「じゃあもしも、もしもだけれど。私がどうしても困っていて、前田君に助けてって言ったら、君はどうしてくれる?」
お姉さんの顔は変わらない。やっぱり何か綺麗な景色でもみるように優しくて、柔らかい表情のままで、声音だって穏やかなものだ。けれど――。
「そ、それは……」
「そんなふうに君はいくつもいくつも問題を抱えて、それでも最後には全員を救えるって思うのかしら?」
「……俺は、そんなふうには」
「だから一つだけお姉さんとの約束。もしも前田君がどうしても一人で抱えきれなくなった時は……。最後には自分を選んであげて。君がもうこれ以上、何も苦しまない様に。だって、きっと君にはどちらかを選ぶなんてできないから」
「なんですかいきなり……。さっきからそれ、どういう意味ですか……!?」
俺は思わず立ち上がると少しだけ声を強張らせる。
「あっ……」
けれど、周りからの視線がこちらに集まっているのに気づいて、やっちまったとばかりに情けない声を出してしまった。
「……俺、帰ります」
「あ、待って!」
俺が席を立つと、その腕を慌ててお姉さんが掴む。
「ショコラケーキ、もうすぐ来るから。ね? お願い。私じゃ二つも食べきれないし」
「……はぁ。分かりましたよ」
それからまた俺は席に座って、なんとなく感じる周りからの視線を気にしながら、それでもテーブルに運ばれてきたショコラケーキをフォークで崩しては口に運ぶ。
「もしかして怒ってる?」
「別に。それにこういうのに付き合わされるのも初めてじゃないですし」
「あら、気づいてたの?」
「俺が気付かないわけないでしょ。もう何度目だと思ってるんですか」
「だって前田君ってばいっつも付き合ってくれるんだもん」
「そうしないとマドカさんが満足しないからでしょ。途中から口元が震えてましたよ。どんだけ面白がってんですか」
そ、これは言ってしまえばお決まりの流れと言うやつだ。
さっきまでのシリアスな話も、俺の反応も全部演技、つまりは小芝居である。
全ては物好きなお姉さんに付き合わされての茶番だ。おかげでこちらは毎回死ぬほど恥ずかしい目に遭っている。さっきのとかマジ超恥ずかしい。ホント帰りたい。
「最近はまたそういう小説でも読んでるんですか」
「そう! これが今一番ハマってる本でね、内容は男子大学生の主人公が同じゼミの後輩二人と恋に落ちるんだけど、最後は相談役だった先輩のお姉さんにNTRれちゃうって話で」
俺とお姉さんとはあのファミレスで会った時から、どういうわけかたまにこうしてお茶するお茶友達になっていた。
最初は今日みたいに偶然街で鉢合わせたのが始まりだったが、その度にお茶しているうちにお姉さんのアレな部分も色々と見えてきてしまったわけで。
マドカさんは確かに見かけはおっとりとした大人なお姉さんだ。しかしどうやら局所的にとても残念な拗れ方をしているらしく、と言うか今ではその拗れている部分がさらに強まっている気もするけれど、ともかくハマっている小説が有ればその度にこうしてワンシーンのような小芝居を打ってくる。だからこれも、いつものお姉さんとの残念なやり取りの一環なのである。
だいたい自分の妹〝達〟を一番に溺愛しているのはこの人なのだ。そのどちらかを選べと言う事はあっても、どちらも投げ出せばいいなんてことは口が裂けても言わない人だって事は、俺が良く知っている。
マドカさんは重度のNTRフェチであり、また同時にとんでもなくシスコンな妹溺愛お姉さんでもある。そう言う意味じゃ俺と似てるのかもしれないな。主に妹の脱ぎたてパンツを嗅ぎたい的な意味で。
でもだからこそ、お姉さんはこうして俺に構っているのだろう。自分の妹達についている虫がどういうものなのか、気になってしまうのだ。
「それで、お姉さんはそんな茶番をするために俺を誘ったんですか?」
「そ、君を心配して気遣うお姉さんふうに接してみました」
「……違う癖に」
「バレてた?」
「そりゃそうでしょ。本当は俺と鈴谷が笹原に黙ってどんなプレイしてたのかとか、そう言うのが聞きたかっただけでしょ?」
「前田君って本当に物分かりが早いのね。それで……。ねえっ! あれからはどんなことしたの!? 例えば前田君が真昼ちゃんの部屋に居る時にカンナから電話がかかってきて、通話してる最中も真昼ちゃんにはイケナイご奉仕させちゃったりして……。それで前田君は喘ぎ声を必死で我慢するのだけど、やっぱりどうしても声が漏れちゃって、それでも必死で取り繕ってカンナとは『今日は何時に来るの?』『はぅ、きょ、今日は少し遅くなるよ』なんてことを話したり、でもその最中もしっかり真昼ちゃんにはねっとりと奉仕プレイさせながら、その電話が終わった後もカンナの事を想いながら二人で夜な夜な淫らに体を絡め合って……。きゃ、なんだかお姉さん、体が震えてきちゃった」
そう言うと自分の腕で体を抱きながら悶えだすマドカさん。普通、自分の妹が義妹に彼氏寝取られてるところなんて想像して、そうも興奮できるかって思うのだが……。まあこういうところは本当に姉妹だよな。主にどこかの変態共を思い浮かべながらしみじみとそう思う。
「またNTRですか。好きですよねホント」
「こればっかりは止められないのよね。はぁ、好き、もう好き過ぎて誰か寝取っちゃいそう」
「何でも構いませんけどそう言うのは他所でやって下さいね」
「前田君のこと寝取っちゃダメ?」
「ダメに決まってんでしょ。なに考えてるんですか」
「だってちょうど食べごろそうだし、恋人が二人居るって言うのもこの小説と同じシチュなのよね」
「もし寝取るんなら俺の事は今後一生面倒見る覚悟でやって下さいよ。自慢じゃないですけど将来まともに働ける自信とか一切ありませんから」
「大丈夫! お姉さんとカンナと真昼ちゃんで精一杯養うから」
「それ、世間じゃ寝取りじゃなくてハーレムって言うんですけど。さりげなく自分の妹巻き込んでんじゃないですか。そろそろ本気で怒られても知りませんよ」
「だって、私が前田君を一緒に養おって言ったら聞いてくれそうじゃない?」
「じゃない? って言われても。はぁ……。本当、姉妹仲が良うござんすね」
とまあ、俺とマドカさんはこんな感じにたまに会っては下らない小芝居とゲス話に花を咲かせている。
人は見かけによらないと言うが、俺の中で一番印象が変わったのは他ならないマドカさんだ。最初の方はおっとりした団地妻っぽいなぁとか思っていたりもしたけれど、蓋を開ければこの通り肉食系もいいところである。
「それじゃあ俺はそろそろ失礼しますね。まだ帰りの買い物も残ってるんで」
俺はショコラケーキを食べ終えると、ゆっくりと席から立ち上がった。
そこまでの時間は過ぎてないけれど、そろそろ急がないと『南友』の特売に間に合わなくなる。
「えぇ、もういっちゃうの?」
「なんなら買い物、付き合ってくれますか?」
「え、良いの?」
「今日はこれから南友のタイムセールですし」
「それじゃあ私もお言葉に甘えてご一緒しようかしら」
そうして俺達はファミレスを出ると南友千葉店に行き、その中でもおひとり様一つの卵パックはどちらが総取りするかとか、予想以上に買い過ぎたから家まで持ってくれだとか、そういうお姉さんの駄々に付き合いつつ俺達は帰宅するのだった。