ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
翌日――。
やけに目覚めが良いと思ったら、昨日に神経を擦り切れさせながら二人を露出調教したことを思い出す。
そいつはベッドの上で今朝見た夢を思い出すように脳裏でリバイバルし、現実離れした経験をまた一つこなしたことを実感させる。
「だるい、疲れた。……やべぇ、布団から出たくねえ」
寝起きから全身の気だるさを感じ、布団を深くかぶる。しかし人と言うのは不便な生き物で、一度意識がはっきりするとなかなか二度寝にはありつけないのだ。
それに今日も例の部活はあるわけで、布団から出ない事には一日が始まらない。そもそも今日という一日を始める必要性があるのかどうか、午後からのスケジュールを思い描いてみてやっぱりベッドに引きこもりたくなる。どうやら俺の面倒臭がり屋としての性質が絶賛発動中らしい。
「部活ってこんなに面倒だったのかよ。野球部とかサッカー部とか、綾子のやつも良く飽きもせずに毎日行ってるよな」
なんて愚痴を天井に向けてこぼしながら、それでもやっぱり律義に身体を起こし起床する。全ては誰かの蒔いた種をひたすら回収する作業で、そいつは残念ながら俺に与えられた責務でもあるらしい。とは言え決して俺に責任のある話でもないわけで、仮に俺にも悪いところがあったとすれば、そいつは運が悪かったのだ。
『兄ちゃん~? 朝ごはん出来てるよぉ』
身体を起こすと早々にリビングから妹の呼ぶ声が聞こえる。
「分かったよ、今行くから」
そんなあくび混じりな言葉を返しながら、俺は嫌々に布団を捲って腰を立たせた。
今日もまたそんな感じに、俺の夏の一日が始まるのだ。
「よぉ。珍しいなこんな時間に家に居るなんて」
リビングに降りて妹に目を向けると、そいつは何を思ったのかエプロン姿でキッチンに立っていた。
「今日の部活は午後からだしね。って言っても私は半分引退してる身だし、部活に行っても全部自主練みたいなもんなんだけどさ」
「そういや普通はインターハイが終われば引退だもんな。そんでお前が朝からエプロンを着けてる理由は?」
「兄ちゃんさ、世間一般で11時はもはや朝とは呼べないよ?」
「うっせえ。俺が朝と言えば朝なんだ」
「うわぁ、なにこの人。いい年して駄々っ子だ」
「男は一生駄々っ子である。だって男の子なんだもの」
「そんなどこぞの偉い人ふうに言っても、世間は私みたいに認めてはくれないよ?」
「いやお前は認めるのかよ」
「そりゃ、兄ちゃんの妹だし?」
「そいつはありがたいね、で。何か作ってんのか?」
見ると綾子は俺と喋りながら、まな板の上でジャガイモを切っている。
「うん。今日はカレーだよ兄ちゃん」
「カレー……。そいつは良いけどさ。んでそのエプロンは? つうかそれどこにあったの?」
「なになに? そんなに気になるの?」
「いやぁ、だってうちって母親ですらエプロン着けないし。そんなものがこの家に有ったことが驚きと言うか、無いはずの物があれば誰だって疑問に思うだろ」
しかも妹の着けてるエプロンはピンクに花柄でおまけに可愛げのあるフリフリまで着いている。さながら新妻のような立ち姿の妹を見て、疑問を抱かない兄貴がいるだろうか。
「これね。彼氏にもらったの」
「はぁ?」
「だからカ・レ・シ。私のボーイフレンド」
「ほぅ。なるほどな。どおりで趣味が悪いわけだ」
「……ねえねえ、それで兄ちゃん。どうして台所から包丁なんて取り出してんの?」
「ちょっとひと狩り行ってくる」
「ちょ、ちょっと何考えてんの!? 何するつもりなの兄ちゃん!」
「ちょっと人狩り行ってくる」
「なんかさっきと絶妙にイントネーションが違うんだけど! だからダメだってば!」
「やめろ!! 俺を止めるな妹よ!!」
「いやさ。そんなモンスターをハントするみたく外出ようとしてるけど、一発で逮捕だかんねそれ?」
クソ!! 折角この世の邪悪をまた一つ取り除こうとしてるってのに!
「つかお前な、兄貴をそう軽々と羽交い絞めにすんなよ! こっちの威厳が立たなくなるだろうが!」
「そんな威厳は最初から足腰立たなくなってるよ。もう骨の髄までボキボキだよ」
「くッ! こんな事なら普段から運動しておけば良かった」
「いいから早くその包丁放しなって、怪我しても知らないよ?」
「いいか? お前はきっとここで兄貴を止めたことを一生後悔するぜ」
「分かった分かったから。本当は彼氏なんて居ないから。ね?」
「…………ふっ」
その時、俺の手から離れた包丁がぐさりと床に突き刺さり、どこぞの伝説の剣みたくなる。
「……まあ、俺はお前に彼氏なんてできないっつうことは端から分かってたけどな」
「うわぁ。ここまでの失態晒しながらまだ取り繕えるなんて、この兄ちゃん人間じゃないわ」
「うるさいな。だいたい彼氏だの彼女だの、そう言うのとは縁遠いだろ俺達って」
「人を勝手に兄ちゃんの巻き添えにするのはやめていただける?」
「じゃあお前は今まで彼氏とか居たことあんのかよ」
「彼氏は居たことないけど、告白された事ならそれなりにあるよ?」
「そいつはまた随分な物好きもいたもんだ。よりにもよってバレーボールと尻と胸とブラコンしか取り柄のないお前をめとろうなんてな」
「人をそんな身体しか取柄がないみたいな言い方しないでよ。それとなんか異物まで混入してるからそれ」
「まあ確かに尻は余計だったかも」
「いや異物ってそこじゃないよね!? 兄ちゃんがどちらかと言えば胸派だってこと以外、これっぽっちも収穫が無い訂正だよねそれ!?」
「じゃあまさかバレーボールか?」
「これでも私が3年間も青春を捧げたものを異物呼ばわりは流石だよ兄ちゃん」
「まあそれはそれとしてだ。と言っても大方の予想は付いたぜ。どうせ思い付きで屋根裏でも漁ってたら出てきたんだろ、そのエプロン?」
「まあ、漁ってたのは父さんだけどね。昔に読んだエロ本が無いって」
「あの親父は娘の前でなにやってんだ……」
「昔にさ、父さんが母さんに送ったエプロンなんだって。ついでに見つけたみたい。で、私がもらった」
「それマジで新妻エプロンだったのかよ。しかもお袋の……」
そして折角の贈り物が屋根裏行きというのも我が父親ながら不憫だ……。趣味が悪いと言ったことは改めよう。
「でさでさ、似合う? 兄ちゃん」
そう言うと妹は腕を首の裏へと回し、もう片方は腰に当てるといわゆるグラビアポーズをとる。
つうかこいつも、プロポーションだけならあの鈴谷に引けをとらないくらい整ってるよな。身長高いし、出るところは出てるしで。まあだからどうしたって感じだが。
「まあ、それなりにはな」
「そぅ? じゃあ今度は兄ちゃんのも買わないとね」
「俺の? どうしてだよ?」
「だって兄妹でお揃いの方がカッコいいし」
「嫌だよ俺は。そんなフリフリの着たってぜってえ気持ち悪いだけだし」
「そんなことないかもだよ。だって兄ちゃん、その死んだ魚の目に極悪犯を掛け合わせたみたいな目つき以外は結構イケてるし」
「そんな一切上手くいく要素のない悪魔合体はするな。メガ〇ンかよ」
「それにほら、兄ちゃんの趣味にも使えるかもだし」
「……ソウデスネ」
そう言えばこの妹、まだ実の兄貴が女装趣味を持ってると思ってんのか……。
もうこの際だから俺の方から弁明するのはよしておくか。きっと逆効果にしかならないだろうし。
つうかここまで引き延ばされると、そのうち本当に女装させられそうな気さえしてくる。
「そんじゃあ飯食ったら俺も部活行くから」
「あ、兄ちゃん」
「なんだよ?」
「前に言った約束、お願いねっ!」
「……あぁはいはい。分かったよ。分かったから早く昼飯にしようぜ。さっきから匂いだけで腹が減ってきてんだ」
「らじゃー!」
俺はそんな妹のキラキラと光る期待の込められた眼差しを見て、ため息をつきながらソファに腰を着ける。
まあ妹の手作りカレーが目覚め一番に食えるんなら、一日の始まりとしては及第点としておこう。
妹のメニューを一通り食べ終え、俺は制服に着替えると家を後にした。
今日は確か時宮先輩が笹原当番だ。今更だがこの笹原当番って言い方、なんだか小学生の時の飼育当番を思い出す。そう言えばうちの小学校では兎を飼ってたっけ。
俺はそれとなく笹原に兎耳を着けた姿を思い浮かべてみるが、何と言うか元の小動物っぽさもあって妙に似合っている。
と、脳内の笹原がなんかおもむろに服を脱ぎだしたぞ。何考えてんだこいつ。紙袋を取り出して、中にバニーガール衣装?
いやなんだこれ。俺の脳内で笹原が兎と聞いて勝手にバニーガールに着替えたかと思ったら照れ始めやがった。流石は笹原だ。人の脳内ですらその意味不明なフェチズムを全開に発揮してきやがる。
「……はぁ。溜まってんのかな、俺」
昨日の事も有り、思春期の男子らしくクラスの女子で妄想を膨らませたところで、今日も太陽がギンギンに照り付ける通学路を歩いていく。唯一の救いは鈴谷が登場する前に我に返った事だろうか。
「せーんぱい!」
「うわぁ!」
すると後ろから何かが唐突に衝突する。なんだと思って振り返ると、噂をしたわけでもないのに鈴谷のやつが背中に飛び掛かって来たらしい。
「なんだよ朝から」
「先輩ぃ。正午の12時はもう朝とは呼べませんよぉ」
そうどこかで聞いたような返しをまた使われ、俺はただでさえ死んだ魚の目と揶揄された目つきをさらに薄くする。
「お前なぁ……。それでも年頃の女子なんだから、か弱い男子高生に飛び掛かるのは止めなさい」
「だって先輩が飛びつきたくなるような背中をしてたんですもん」
「なんだよそれ。サバンナのライオンかよお前」
「それで先輩! 昨日は凄かったですねぇ、いやぁ私は先輩の真骨頂って言うんですかぁ? ああいう立ち振る舞いを見れただけでもう夜も興奮して全く寝れませんでしたよぉ」
「その割には元気そうだよな。それからなんつうか、早く離れてくれ。暑いうえにさっきからお前の汗が絡みついてくる」
本当いつ見ても元気満タンだよな。おそらく鈴谷と俺では元のHPゲージの長さがまったく別物なんだぜ。そうとしか思えない。
「いいじゃないですかぁ。こうやってお互いの体液をねちゃねちゃぐちゅぐちゅと混ざり合わせるのもまた興奮するじゃないですかぁ~!」
「お前の
「それはきっと先輩への愛がほとばしり過ぎて漏れちゃってるんですよぉ!」
「そんな目元にピースなんてしても俺は誤魔化されない」
こいつの場合、バカでもないのにこういう時はバカっぽく振る舞うというか、勢いで誤魔化そうとするというか、外見がそもそもギャルっぽいのも相まって思わずそういう仕草に流されそうにもなる。つうかなんなのそのピース。お前じゃなかったら思わず初恋まで奪われてるところだったわ。
「と言うか制服がもう汗まみれなのはどうしてだよ。このクソ暑いなか走って来たわけでもないんだろ?」
「頭の先輩レーダーがビンビンに反応したので、思わず!」
いや本当に走って来たのかよ……。
言い直そう。この炎天下を全力疾走しちゃう奴がバカじゃないはずがない。やっぱこいつは正真正銘のバカだ。
「まったく後輩にここまで好かれるなんて先輩冥利に尽きるな。背後からの衝突事故さえなければだけど」
「そうですよぉ先輩! なにせ半径2km圏内なら先輩の居場所くらいお茶の子さいさいなんですから!」
「いや地味に凄いっつうかもはや怖いんですけどそれ。その才能は他所で生かした方が良いんじゃないか? 例えばすぐ近くの警察官の居場所を特定したりとか。そうすりゃほら、何時でも自首できるし」
「なに言ってるんですか先輩ぃ! 私の全ては先輩の為に有るんですから、そんな無駄な事の為にジーピーエ……、この先輩への想いを使うはずないじゃないですかぁ!」
「ねえ今GPSって言いかけてない?」
「な、なんのことですかネェ」
「お前……。今度はどこに仕掛けやがったんだよ。いい加減にしないと本当にストーカーとして突き出すぞ」
「あ、じゃあ代わりに私の部屋にもカメラ付けちゃって良いですから! なんならお風呂とかおトイレとか、女の子のあんなところまで見えちゃう位置とかに……きゃ!」
「こらこら、一人で勝手に盛り上がるのはやめなさい。それとGPSの発信機は近々ちゃんと撤去する事。先輩との約束です」
「むむぅー……。仕方ないですね……。」
「それともう一つな、その先輩からの頼みだから、今すぐ体を密着させて胸とかぐいぐい押し当てるのを止めてくれ」
「あれ、バレてました?」
「流石に露骨すぎ」
「男の子はこう言うのが嬉しいってインターネットで見たんですけどぉ?」
「確かに社会一般的には間違ってないかもな。だが生憎と俺もお前も社会一般の枠には収まってないんだよ。主に悪い意味で」
「やっぱり先輩ってなかなか距離を詰めさせてくれませんよねぇ」
「たったいまゼロ距離まで詰め寄ったところだろ」
「違いますぅ、私の言ってるのは心の距離ですよぉ」
「はっ、俺の心なんて自分ですら奥に仕舞い過ぎてもはやどこに転がってるのか消息不明だ」
「もぅ、分かりましたよぉ」
そう言うと鈴谷はやっと俺から身体を離す。
しかも見てみると、そいつは本当に制服から汗びっしょりで、しかも当然のように下にはなにも着てないせいでいつも通りピンク色の下着までほぼ全て透けて見えている。しかも鈴谷の場合、この格好でも余裕で外をうろつけちゃう辺りがもはや人の目を気にしてないと言うか、むしろ人の目に晒される事を自分から望んでると言うか。
さらにYシャツの胸元はかなり開いていて、胸の谷間なんかがもうばっちり見えちゃってるし、むしろこいつのギャルっぽいキャラ作りで見ればそう言うのもマッチはしているのだろうけれど、やけに丈の短いスカートとかも相まってエロ以外の目線ではまったく見れない恰好になっている。つうかこいつよく暴漢にあわないよな。まああったところで余裕で返り討ちにするんだろうけど。うわぁ、最近の女子高生ってすげえ。
「そんじゃあまぁ、今日も部活動に勤しむとしますか。高校生の夏らしくな」
「はいっ! そうですね先輩」
そうして俺達は気付けば見えていた校門をくぐり、部室へと向かう。