ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
家に帰ってから家族と少し遅めの夕食を食べて、その日は久々に思えるくらいの安らかな就寝についた。
そして次の朝。
何時ものように寝坊しそうなところを妹のチョップで叩き起こされて、俺は可及的速やかに朝の支度を済ませる。なぜか時間に余裕があるにも関わらず「急がないと置いてかれちゃうよ!」なんてテンション高めに言う妹を見て、うわなにこの子超楽しみにしてんじゃんと気だるげな目を向けながら、昨日のうちに玄関に置いておいた荷物を手に取った。
ダラダラと靴に履き替えていると本日二度目のチョップを背中にお見舞いされ、やる気のない水兵のように「へいへい」と手を早める。
「つうか、そこまで急がなくても間に合うっつうの」
「善は急げとも言うじゃん」
「なら俺はゆるゆると悪行の限りを尽くす人生を過ごしたいわ。むしろゆるすぎて一切の働きをしないままに人生を終えたい」
「馬鹿なこと言わないで、ほらさっさと急ぐ急ぐ!」
俺は寝ぼけた視界のまま靴ひもを結び、親父のお下がりであるボストンバックを肩に提げる。中身は一日分の着替えだけでさした重さは無い。我ながらコンパクトな荷物にまとめたものだと思いながら妹の荷物を見てみると、あちらはさらにコンパクトな手提げバッグ一つに収まっていた。
いくら普段がスポーツ馬鹿とは言え一応は女子なわけだし、荷物はもっと大袈裟なものだと思っていたけれど、このへんの頓着の無さは流石は前田家の女とも言える。
「随分と荷物が少ないな。本当にそれで良いのか?」
「安心してよ兄ちゃん! ちゃんと持ってきてるから!」
そう言って嬉々とバッグから取り出したのは、なぜか2kgのダンベルである。
「これくらいだとちょうど筋トレに良いんだよね!」
そう言って手に握ったダンベルを振り回す妹を見ながら、ああ将来こいつと結婚する事になる旦那はさぞ頭を痛めるだろうなと苦心する。
「ちょっとその鞄の中見せろ」
「女の子のバッグから荷物を引っ張り出そうなんて、兄ちゃんって本当にデリカシーがない」
「残念ながら、常日頃から全裸姿を見せつけてくるような人間を今さら女子扱いはできないからな」
そう言って俺は妹のバッグをひったくると、すぐさま中身を確認する。
「……ダンベルが1つ」
しかもまだまだ出てくる。
「ダンベルが2つ」
そう数えながらバッグに入っているダンベルを外へ持ち出す。なんだよこれ。皿屋敷のお菊さんかよ。
「ダンベルが3つ、ダンベルが4つ」
バッグの中身を総ざらいに取り出してみると、合わせて5つのダンベルが入っていた。と言うかダンベルしか入ってなかった。
総重量にして10kg。こんなもんよく片手で持てたものである。
「なんの荷物だよこれ。お前だけ軍隊の特殊訓練にでも行くつもりか?」
「温泉旅行って言っても、ちゃんと自主練はしないとだからね」
「それで、着替えは?」
「着替え?」
「そうだよ。一泊するんだから、着替えくらい必要だろ?」
「何言ってるのさ兄ちゃん! 温泉旅館だよ? 浴衣くらいあるに決まってんじゃん!」
「……それでお前、替えの下着は?」
「一日くらい平気平気!」
などどほざきやがったので、俺は寝起きのお見舞いとして取り合えず妹の脳天にチョップをかましてやった。
それからダンベルを一つだけカバンに戻し、後は玄関に放置する。
「せめて替えのパンツくらいは取ってこい。待っててやるから」
「ちぇ、兄ちゃんのけち」
「ケチが付くのはお前の方だ。こんな荷物で行ったら
いやまあ、さらにもっと顰蹙を買いそうな連中はわらわら居るわけだけど。今日のメンバー的に言えば顰蹙の大バーゲンセールなわけだけど。
そんなやり取りを交わしつつ、気づけば待ち合わせの時間が迫っていたので、俺は改めて妹の荷造りを済ませてからさっさと笹原の家へ向かう。
「走っていけば余裕なのに」
「お前は現代のもやしっ子を舐め過ぎだ。50m走ですら死にかける人種だぞ」
しかも全力で走れるのは精々前半の20mくらいまでで、後は慣性で走っているに過ぎない。
「にしても温泉かぁ。楽しみだね!」
「良かったな。まあ他の部員に迷惑かけないようにしろよ」
「分かってるってば!」
どうやら妹は今日をそれなりに楽しみにしているらしく、家を出てからもわいわいと喧しく話を続ける。
そうして早朝の道路を歩き、しばらくして待ち合わせ場所である笹原の家に到着した。
「あ、前田君! おはよう~!」
「昨日のおはっす~はどうしたよ。一日限定かあれ」
家の前ではそう手を振って髪を揺らす笹原の姿が見える。しかもこちらも随分とテンション高めなのか、顔が(>w<)みたいな感じになっている。
他にも鈴谷に時宮先輩に御影先生にと、先に全員揃っているようだ。
「今日はよろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ」
俺は社会人のマナーとしてまず御影先生にそう会釈する。
見るとその恰好は黄色のショートパンツにグレーのシャツ、上には薄い生地のパーカーを羽織っている。そのファッションから既に若々しいのだが、さらに御影先生が着ると同じ歳くらいの女の子に見えてしかたがない。これで20代も半ばを過ぎているのだから驚きである。
他の連中もこの前とはまた違った私服姿で来ており、笹原は紺のミニスカートと白地に幅広の襟がついたシャツを着ている。鈴谷は茶色のセミロングなスカートに赤い肩の見えるオフショルダーシャツを合わせており、肩紐が見える格好だ。時宮先輩は黒のプリーツスカートに同じく黒のベルトを通しており、上はレースで柄のあしらわれたピンクのブラウスに、ネックにはリボンをつけている。特に時宮先輩は黒のスパッツを穿いていて、足のラインについつい目が行ってしまう。
因みにだがうちの妹は黄色とオレンジとの横縞にデニムのパンツ。以上。
「これでみんな揃ったかしら」
すると玄関からマドカさんが顔を出す。こちらはジーパンに黒のニットとラフな格好だ。
「おはよう窓華。今日はよろしく頼む」
「おはようございます御影先輩。こちらこそ今日はお誘いいただいてありがとうございます」
それからマドカさんは俺の方を見るとにやりと笑う。なぜだろう、ただこちらを見て笑っただけなのに俺には舌なめずりされたような気がしてならない。さながら虎に見つかった小鹿になったような戦慄が走った。
「にしても、まさか窓華が笹原の姉だったとはな」
「すっごい奇遇ですよね」
「え、分かってて頼んだんじゃないんですか……?」
「何を言ってる。偶然に決まってるだろ」
決まってるのかよ。
どうやら前にマドカさんの言っていた親しい先輩とは、うちの副顧問である御影先生のことらしい。
性格的にもあまり接点の無さそうな二人だが、どうやら大学が同じだったようで、そこのサークルで知り合ったのだそうだ。ここではその大学を仮にT大とするが、千葉の周辺にはそれなりに多くの大学がある中でもT大は頭一つ偏差値が高い。言わば日本全国の優秀な生徒が京大と東大に行きつくように、千葉の辺りで頭の良い高校生はこのT大に行きつくと言われている。なのでマドカさんや御影先生の偏差値レベルを考えると、出会ったのはある意味では必然だったのかもしれない。
因みに現在の俺の進学希望もこのT大だったりするので、もしかするとこの二人とは先輩後輩の関係になる可能性もあるのだが、そちらはまあ、今はあまり考慮しないでおこう。
「みんなも今日はよろしくお願いね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますぅ、マドカお姉さん!」
まずは時宮先輩が丁寧に腰を曲げてお辞儀をする。こういう振る舞い一つにしてもきちんとしていて、大人びて見える。流石は時宮先輩だ。
鈴谷は既に何度も面識があるらしく、マドカさんに向けて手を振るとマドカさんもまた同じ感じに手を振り返した。
考えてみればこの二人の関係性もかなり複雑だ。笹原と鈴谷が腹違いの姉妹だとすれば、マドカさんもまた鈴谷にとっては姉と言う事になる。
それも鈴谷は父親の不倫相手の娘であり、だからマドカさんとはそれなりの修羅場展開になってもおかしくないのだが、しかしマドカさんはどうやら鈴谷の存在を決して悪くは思っていないようだ。
マドカさんはああ見えてシスコンの気がある。そのマドカさんにとっては鈴谷真昼もまた妹であり、大切な存在として接しているようだった。ファミレスでマドカさんとお茶をする時にも思ったが、少なくともマドカさんが鈴谷に嫌悪の感情を持っているようには見えない。この人は俺と二人の時でも、何時も妹である笹原と鈴谷のことを楽しそうに話すのだから。流石はNTRの次に妹萌えなシスコンだけはある。
「それでそっちが前田君の妹さんね?」
「あ、はい! 今日は連れてきていただいてあ、ありがとうございます!」
すると珍しく人前で緊張したのか綾子はしどろもどろにそう返事をする。
そんな様子を見て、俺はどこかにやりとゲスびた笑みを浮かべた。良いぞ。それでこそ前田家の一員だ。
「ば、バカで頭の足りない兄ですが、ど、どうかよろしくお願いします!!」
「ねえねえ、緊張してるのは分かったけどそれ君じゃなくて俺の紹介文だよね。しかもすっげえ貶されてるし」
「あはは! 今日はよろしくね」
「綾子ちゃんも今日はよろしくっ!」
笹原姉妹に言葉を返されて、ほっとしたように赤面した顔を綻ばせる。このあたりの人とのコミュニケイションが上手く図れないところは、なんだかんだ言って遺伝だなと思う俺である。
「そ、それと、時宮先輩も今日はその、よろしくお願いします」
「よろしくね、綾子ちゃん」
とまあ、そんな感じに一通りの顔合わせを終えて、俺達は一度笹原の玄関先からガレージの方へと移動する。
「あまり使ってないガレージだから少し埃っぽいけど、勘弁してね」
この普通だったらあり得ないくらい広い敷地の中に、さらに広大なガレージまで備わっている辺り、やはり金持ちの風格が漂っている。
「じゃーん。今日はこれに乗って行こうと思います」
そう言ってお姉さんが案内したのは、意外にも乗用車として馴染み深い青色のミニバンだ。
「俺、てっきり運転手つきのリムジンにでも乗せられるのかと思ってましたよ」
「あはは、そんなわけないじゃない。そう言うのはうちなんかよりも三回りはお金持ってる人だけだよ」
「いや、俺からすると笹原の家も十分にお金持ちといいますか、はは」
なんて苦笑いを浮かべつつ、俺達はその案内されたミニバンに荷物を載せていく。
中は結構広々としていて、座席もちょうど7席分備わっている。
ただマドカさんはああ言ったけれど、よく見るとあちこちに凝ったオプションがついていたりとそれなりにお金はかかっているようだ。まあ俺も車にはあまり詳しいわけではないので、ただの感想ではあるけれど。
「御影先輩は道案内も兼ねて助手席ですね」
「うむ、そうだな」
「後はどうする?」
「すいません。私、実は車だと少し酔ってしまうことが有って」
そう手を上げたのは時宮先輩だ。
「あれ、時宮先輩って酔いやすいんですか?
「うん。車だけは少し苦手なの」
「なんだか普段が完璧な人だけに、ちょっと意外です」
「もぅ、私だって苦手なものくらいあるのよ?」
完全無欠で眉目秀麗なイメージが強い時宮先輩だったが、そう言うと少しだけ頬を膨らませる。え、なんですかその可愛いぶりっ子みたいな仕草。うっかり勘違いしちゃいそうなんですけど。
「それじゃあ二列目のシートが良いかしら。少しだけど、酔いにくいみたいだから」
「ありがとうございます。ではそちらでお願いします」
「あ、じゃあ私も二列目で良いですか?」
次にそう言いだしたのは綾子である。
「私も実は少しだけ苦手で」
「それじゃあ二列目のふた席は決まりね」
そう言えば綾子も車酔いしやすい体質だったな。
ふむ。と言う事は三列目に俺が座るのか。
で、残りの二人が……あ、いや待て。これまずい流れだ。
「あ、あのぅ、すいません。俺も実は持病の痔が悪化するので二列目で~……」
「それじゃあ出発しましょうか!」
「いや俺だけスルーですか!?」
悪魔のような座席配置を避けるべく、俺がそう打診をしたのもどこ吹く風に、あっという間に座席順は決定されてしまう。くそぅ、何という暴君政治だ。
「じゃあ前田君は私と一番後ろの席だね」
「よろしくお願いしますぅ先輩!」
「あ、あぁ……」
結局最後尾の三席には俺と笹原と鈴谷が座る事になり、しかも最後の抵抗も虚しくちゃっかり俺が真ん中の席になっている。
「じゃあ伊豆に向けてレッツゴー!」
と、気分アゲアゲな雰囲気の一行を乗せて、ミニバンのエンジンがかかり、車は走り始めた。
しばらく走った後、車は高速道路に入りそれぞれは気ままに車内での会話を楽しんでいた。
「綾子ちゃん、良かったら食べる?」
「わぁ! 良いんですか? ありがとうございます」
「そう言えば綾子ちゃんもうちの高校に入学するって聞いたけれど」
「そうなんですよね。ただ私ってあまり勉強に自信とか無くて」
「良かったら今度、私と一緒にお勉強会でもしてみる?」
「あ、それ凄く助かります! なら私のお部屋でどうですか。ご飯とかご馳走しますから!」
二列目では綾子と時宮先輩がお菓子を摘まみながら、軽やかな雰囲気で談笑を始める。
「それにしても御影先輩は相変わらずお元気そうですね」
「まあな。夏休みだとあまり仕事も忙しくないし」
「でも少し安心しました。先輩って大学の頃からあまり人とお話しする感じじゃありませんでしたから」
「うむ。生徒の相手をするのは時に疲れるが、しかし良い勉強にもなるからな」
「それに若々しいところも大学の時から変わってませんもんね」
「こう見えても身長は少し伸びだぞ」
なんて会話が先頭の方からは聞こえてくる。
かくいう俺達はと言えば。
「ねえねえ前田君? もっとこっちの方に寄っても良いんだよ?」
「あ、ズルいです笹原先輩! ほら先輩、こっちの方が広いですから!」
左右からわあわあぎゃあぎゃあと言われながら、おもちゃのように引っ張り回されていた。
「あのなぁ。車の中なんだからもう少し静かに……」
「あ、笹原先輩いま先輩に抱き着きましたよね! ズルいですぅ!」
「真昼ちゃんだって、体が細いんだから絶対に狭くないよね!」
「ねえねえ先輩、もっとこっちに」
「前田君はこっちの方が広いからぁ!」
まるで子供のようなやり取りを、俺は腐った魚の目で聞き流しながら、特に悪道でもないはずの道で右に左で大きく身体を揺さぶられる。
「にしても兄ちゃんって、あそこまでされてまだ自覚とか無いんですか?」
「ふふっ。良いの良いの。本人たちに任せてあげましょ」
何やら二列目の二人はぼそぼそとこっちを見ながら話してるし、本当にまったくこれだから最後尾には座りたくなかったんだ。
「マドカさん、今から行く伊豆の伊東って場所、後どれくらいで着くんですか?」
「そうね。残り1時間くらいかしら」
疲れ切った声でそう聞くと、運転席からはどこか楽し気にそう返事が返ってくる。
この状態がまだ一時間も続くのか。俺、ちゃんと正気を保ってられるかな。
「にしても若いって良いですよね」
「君も十分に若いだろ」
「えぇ、そうですか? でも私の周りってほら、面白い男の子とか全然居ませんから」
「同じ学部だった彼はどうだ? たまに話してただろ」
「先輩。あの子は男の子じゃなくて女の子ですよ」
「なに、それは今になって知る驚愕の事実というやつだな」
といった具合に、御影先生とマドカさんはまた話を再開させる。
「なあ、どうしてお前ら車の中で汗だくなんだよ」
「へ? 匂う?」
「いや字がちげえよ。匂う、じゃなくて臭うの方だから」
「良いじゃないですか先輩ぃ、そういう臭いフェチなところも一緒に開拓していきましょ!」
「したくないっつうか、きっと多くの人にとっては未開のままで良い場所だからなそれ」
クーラーもかけてある車内の中で、押し合いへし合いしている間にすっかり汗をかいたのか、左右からはどことなく汗臭い臭いがしてくる。
もうこういう臭いをかぎ慣れてるあたり、やっぱりあの部室ってサウナだったよなぁとか思いつつ、いやいや女子の汗の臭いとか別に嗅ぎ慣れたくなかったよなぁとかも想いつつ。
「そろそろ俺の方まで暑くなってきたからさ、身体とか押し付けてくるのやめてくんない?」
「で、でも……。せっかく前田君とお隣になったんだよ?」
「そうですよ先輩ぃ! 日ごろお世話になってる感謝のしるしってやつですよぉ!」
「これのどこをどう解釈すれば感謝のしるしになるんだよ」
「左右にこんなに可愛い女の子が密着してくれてるんですよぉ? 両手に花とはこのことじゃないですかぁ!」
「そうだよ前田君? わ、私みたいな女の子に引っ付いてもらえるなんて、そうそう無いことなんだよ?」
「なんつうか、それを自分で言えてしまうあたりがイタイよな」
「もぅ、前田君だってこの前は私のこと可愛いって言ってくれたのに!」
「えぇ! ズルいですよぉ! 私にも可愛いって言ってくださいよぉ」
なんだよこれ。狭い空間で左右から言い寄られてキャバクラかよここ。
生憎なことに、女子をはべらせたいとか微塵も思ってない奴にとって、今の状況は蒸し暑い以外のなにものでもない。
「だぁああ! 笹原は髪の毛の先でくすぐってくるのやめろ! 鈴谷はやたらと顔を近づけるのやめろ! それから尻に手を回すな!」
とまあ、開始早々から声を枯らしながら、それから目的地に着くまでの1時間にも散々絡まれて、そして長かった移動を終えてようやく俺達は目的地までたどり着こうとしていた。