ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
凶悪な女子共に衣服をひん剥かれた後、サイズ当てゲームに敗れた俺はパンツ一枚で砂浜をダッシュする羽目になった。
この俺が時宮先輩のサイズを見誤るなんて……。悔しいが、完敗だ。
悪魔の所業とも呼べる罰ゲームを達成すべく、俺は若いカップルや子供たちで溢れる砂浜を猛ダッシュする。
誰も見てくれるな、この俺の姿を! などと念じながら、自分でも驚くほどのスピードで駆け抜けた後、また元の場所まで戻ってきた。
「はぁ、はぁ……!」
「お疲れ前田君」
「兄ちゃんの雄姿はばっちり撮っておいたから!」
人生で初めてボクサーパンツの存在に感謝しながら、なんとか罰ゲーム終えた俺は、息を整える間もなく撤収を始める女子達に「よろしくね~!」とパラソルとシートの後片付けを命じられる。
「……前田くん。その、前田くんがどうしてもって言うなら」
「そんな申し訳なさそうに言わないで下さい時宮先輩。全ては欲に目がくらんだ俺が悪いんです」
「……ごめんね」
時宮先輩はそう申し訳なさそうな顔をすると、綺麗に折りたたんだ俺のズボンと服を手渡してくれた。今回は時宮先輩も被害者だっていうのに、この労いようは身に染みる。
それから時宮先輩も他の女子連中と車へと戻っていくが、その途中で自分の胸をゆたゆた手で持ち上げながら「そんなに大きいかなぁ……」なんてつぶやく。
「やっぱり下心なんて出すべきじゃないよな。碌なことにならないって、たった今証明されたわけだし」
そんな感じで俺は服を着なおすと、パラソルとシートを畳んで駐車場のミニバンに戻る。すると着替えも終わったのか、マドカさんがドアを開けて出てきた。
「後片付けご苦労様。後ろに積んだら出発するね」
そうして再び俺達を乗せると、車のエンジンがかかり国道135号線へと動き出した。
それから15分ほどだろうか。途中から海沿いを外れて山の方へと向かう。とは言ってもそこからは既に伊東の町だ。それまで見えていた雄大な自然と言うよりは、至って普通な街中の風景へと切り替わる。
「そろそろ到着するわね」
そうして次第に細い道へと入っていきながら、目の前には立派な温泉旅館が見えてきた。
「うわぁ、大きいね」
なんて感嘆の声を漏らす笹原。しかし、やはりそれは温泉地に相応しい大きな温泉宿だ。
建物には年季を感じるが、それもまた良い味を出している。高さは6階か7階ほどはあるだろうか。縦よりも横と奥に広いその建物には、画一的な作りの窓がいくつも見える。それだけ部屋の数も多いと言う事だ。
「車を置いてくるから、先に荷物を持って受付済ませておいてくれる?」
そうお姉さんに言われ、俺達は入り口の前で荷物を持って車を降りると、風流とも豪勢とも呼べる旅館独特の玄関を見ながら、自動扉を通って中に入った。
「男の人は……居ないな。受付も女の人みたいだ」
傍でやたら引っ付いてくる笹原にそう耳打ちしながら、俺達はぞろぞろとフロントのカウンターに向かった。
「ありがとうございます。本日はご宿泊でしょうか」
「はい。あの、この招待券なんですけど」
「かしこまりました。こちらのご利用ありがとうございます。残りの一名様はお車でしょうか?」
「えっと、はい。今駐車場に止めてまして」
「かしこまりました。それでは当館のご説明の方をさせていただきます」
招待券を手渡すと、着物姿のスタッフさんが丁寧にお辞儀をした後、館内マップを取り出して説明を続ける。
「本日はご一泊、夕食付きのご利用になります。ご夕食は午後6時より、こちら奥にございますお食事処にてご用意させていただきます。大浴場はあちらの廊下の突き当りにございます。お時間は24時間営業となっておりますので、何時でもご利用ください」
と言った感じに説明を受ける俺達。
フロント係の人の丁寧さもそうだが、旅館の内装からどことなく上品な雰囲気を感じる。
ロビーは天井も高く、一面に真っ赤な絨毯が敷いてある。壁にはいくつかの日本画が飾られており、他には屋内であるにも関わらず日本庭園のような池が作られていて、そこになんと鯉まで泳いでいた。
超高級と言うわけではないけれど、普通の旅館よりも間違いなく1ランク格式が高そうといった感じで、俺からすれば十分に贅沢な旅館だ。
「当旅館ではいくつかの貸し切りの露天風呂もご用意しております。交代制になりますでの、ご利用の際はこちらのフロントまでお申し付けください」
「貸し切り……」
「露天風呂……」
なぜかそこで反応する笹原と鈴谷。いやいや、今は折角の温泉旅館だ。余計なことは考えないでおこう。
「本日は7名様ですので、2名様のお部屋を二部屋、3名様のお部屋を一部屋のご準備で宜しかったでしょうか」
「そうか、言われてみれば部屋割りとか決めてなかったな……」
そう言えば部屋の事とか全然考えてなかった。まあ招待券は7枚あるわけだから一人一部屋でも良いのだろうけど、折角の旅行で全員バラバラって言うのも寂しい気はする。
店の人もそこに気を利かせて提案してくれたのだろう。となれば、ぱっぱと決めてしまった方が良いか。
「まあ普通でいったら、俺は綾子とだな。笹原はマドカさんとか? それで鈴谷と御影先生と時宮先輩で……」
「前田君は全然分かってないよね」
と、横から笹原は俺の至極妥当だと思われる提案を一蹴する。
「なんだよ? 普通に考えればそうじゃないのか」
「ちっちっち。前田君のはまったくこれっぽっちも面白味が無いんだよ」
「面白味だぁ?」
「そう! こういう時の部屋割りとは言わば部活動でも定番の儀式! そうやすやすと決めたらつまらないんだよっ!」
そうキランと目を光らせる笹原。あぁ、そう言えばこいつって部活動的なイベントに憧れてこの部活も始めたんだっけか……。
「じゃあどうやって決めるんだ?」
「それはもちろん、部長である私の独断と偏見だよ!」
あ、これ絶対こいつに任せたらダメなやつだ。
「すいません。部屋はそれで大丈夫です」
「かしこまりました。それではこちらがお部屋の鍵になります」
すっかり話がややこしくなってきたので、俺は先にスタッフさんにそう言うと、あの棒のようなものに繋がれた部屋の鍵を三本預かる。
「俺と綾子は決まりだから、後は好きに決めてくれ。行くぞ綾子」
「え、良いの兄ちゃん?」
そう言ってその場を終わらせようとした俺だったが、いつの間にか前に立つ人の影。そう、鈴谷である。
「先輩ぃ、ちょっと待ったです」
「なんだよお前まで」
「相部屋と言うのは言わば運命共同体です。そのパートナーを決めるのですから、そう簡単にはいかないんですよぉ!」
「だから俺は綾子と泊まるって言ってんだろ。妹なんだし、これ以上ない共同体だろうが」
「それはどうでしょうか? 例えばほら、私なんかは適任なんじゃないですかぁ?」
「……一応聞いてやるけど、その理由は」
「そりゃもう! 先輩が夜な夜な劣情を滾らせて眠れなくなった時も、私ならすぐさま一晩のお相手にぃいい!! って、痛ーい!」
旅館のロビーでそんな事を叫びやがったので、俺は間髪入れずに頭頂部にチョップをかます。もはや突っ込みではなく武力阻止である。
「だ、だってぇ、旅館と言えば夜にいけないことしなきゃじゃないですかぁ~……」
「そんな決まりはこの世に存在しない。つうかしてたまるか」
「ねえねえ、兄ちゃん?」
すると次は妹が俺の服を引っ張る。
「本当に私とで良いの?」
「良いと言うか、他に選択肢がないだろ」
「でも私だと夜のお相手できないよね?」
「ガッデム!!」
クソ、これだから妹とこいつらを一緒にしたくなかったんだ!
「おいどう責任取ってくれるんだよ。お前らのせいで妹がつけなくていい部類の知識をつけちまったじゃねえか」
「うふっ」
「うふっ、じゃねえ!!」
わぁわぁがやがやとしていると、グィンと自動ドアが開きお姉さんがこちらに歩いてくる。
「あれ、どうかしたの?」
「いえ、ちょっと部屋割りを決めないといけないみたいで」
「そっかぁ。部屋割りねえ」
するとマドカさんはちらりと全員の方を向くと、それからにんまりと口元を緩めて、人差し指を立てる。
「それじゃあ、前田君は妹の綾子ちゃんと。カンナは真昼ちゃんとで、お姉さんは御影先輩と穂乃果ちゃんの年上グループってことでどうかしら」
「んっ? 俺はそれで構いませんけど」
予想外にまともな提案に、俺は眉をひそめながらも、しかし異論は無かったので小さく頷いて残りの鍵を手渡す。
「カンナも真昼ちゃんもそれで良い?」
「もぅ、仕方ありませんねぇ」
「はーい」
と、ここでも意外に大人しく引き下がる二人。
「じゃあそういう事にして、まずは部屋に荷物を置かなくちゃね」
そんなマドカさんの号令で、俺達はそれぞれの部屋へと向かった。
部屋は二人部屋が隣同士で、先輩達の三人部屋だけは少し離れている。
「それじゃあまた後でね」
隣部屋の笹原達と分かれ、俺と綾子も扉を開けて自分達の部屋へと入った。
「おぉ。やっぱり部屋の中も凄いな」
扉を開けるとすぐに広々とした部屋が見える。旅館らしい和室作りだ。
部屋の右側には大型のテレビと、少し段差の作られたところには掛け軸なんかも飾ってある。あれがいわゆる床の間と言うやつだろうか。
部屋の窓際もまたひとつ障子で区切られており、そちらには二つの椅子とテーブルが置かれている。夜なんかに窓を開けると風を受けれて気持ち良さそうだ。
「荷物置いたら少し自由時間だってさ。あ、映るテレビのチャンネルが違う」
綾子は荷物を玄関に置くと、さっそくとばかりにリモコンでテレビを点ける。人が旅館の部屋でしみじみしてるってのに、これだから現代っ子は。まあ俺も現代っ子だけど。
「兄ちゃんはどうするの?」
「俺か? 俺はしばらく部屋でゆっくりしとくわ。まずは砂浜で全力疾走した疲れを回復しないとな」
「探検とか行かないの? ここすごく大きいよ」
「まあそれも良いが、綾子はその前にシャワーでも浴びてこいよ。お前ら海入ったままでべとべとだろ?」
「そう言えばそうだった!」
それから綾子はすかさずシャワー室の方へダッシュする。かと思ったら「兄ちゃんどうしよう! 着替えが無い!」なんて言い出すのだから兄としては溜息だ。相変わらず思い立ったらすぐ行動すると言うか、あまり後先を考えないと言うか。
「こっちに浴衣が置いてあるから、後でそれ使え」
「らじゃー!」
とまあ、そんな感じでようやく静かになったので、俺は畳の上にごろんと寝転がる。あぁ、畳の良い匂いがする。これぞ日本人の癒しだ。
「遊びに来たよ!」
なんて感慨にふけっているのも束の間に、ドアがババンと開いたと思ったら笹原がこちらに顔を向ける。
「えいやっ!」
しかも畳の上で横になる俺を見るや、謎の掛け声と共に、俺の上に思いっきりダイブする。
「ぐへぇ!?」
「畳ってやっぱり気持ちいいよね」
「お前が今乗ってるのは、畳じゃなくて俺の背中だけどな……」
クソ、こいつ自分の体重とか考えないのかよ? どこぞの蟹の妖怪に体重を奪われた、文房具なんかを隠し持ったりしてるツンデレヒロインじゃねえんだぞ。普通の人間は普通に体重二桁はあるっつうの。
「それで、鈴谷は?」
「真昼ちゃん? さっき売店見てくるって出て行ったけど」
「珍しいな。こういうノリの時はだいたいお前らセットだろ」
「そんな人をハンバーガーについてくるポテトみたいに言わないでよ」
「いや誰もそこまで言ってないだろ」
「私のどこが外はカリカリ中はふわふわなのさ」
「しかもお前がポテトの方かよ」
いや俺は好きだけどね、ロッテ〇アのポテト。
「前田君はこれからどうするの?」
「俺はもう少しここでぐーたらやってるわ」
「そうなんだ? じゃあ私はお姉ちゃんのお部屋でも行こうかな。ちょっと気になるし」
「まあ確かに珍しい組み合わせではあるよな。中で何が行われているのかについては少し興味がある」
時宮先輩とマドカさんは同じ学校の生徒会長繋がりだし、御影先生とは顧問と先輩という間柄でもある。何より全員年上だし巨乳……いやいや! 大人びているからこちらとはまた違った空気なのだろう。
そんな部屋でいったい何が行われているのか、興味も関心も示さないほどに無気力な俺ではない。
「つうかお前もさっさとシャワー浴びてきたらどうだ。海水でべどべとだろ」
「あ、そうだった!」
なんてふうに笹原は驚いてみせると、「それじゃあ私もシャワー浴びてくる!」なんて言って部屋を飛び出て行った。
「ったく、おかげでちょっと磯の臭いがするんだけど」
海水に浸った体で散々絡まれたせいで、俺の方はすっかり海の香りがしている。耳からは波の音でも聞こえてきそうだ。そう言えば海岸で拾った貝殻からはそういう音が聞こえてくるらしい。貝殻とか拾ったことないけど。
「あれ? カンナさん来てたの?」
そう言ってシャワー室から出てきた妹は、やはり当たり前のように全裸姿だった。
「今さっき出て行ったけどな。つうかお前、家の中じゃないんだからちょっとくらいは隠せよ」
「へい兄ちゃん! 浴衣パス!」
「パスじゃねえよ。畳んであるもの投げたら変なしわが付くだろ」
「もー。兄ちゃんってば妙なところで所帯じみてるよね」
それから男らしくタオルを首に巻いて、綾子は机に置かれた着物を身に着ける。
「ねえねえ、どう兄ちゃん!」
「ちょっとサイズ小さくないか?」
「じゃなくてさ! ほら、似合ってる?」
「あーはいはい。似合ってる似合ってる」
「やった! ねえ、スマホ渡すから写真撮って。お父さんとお母さんに送るから」
「へいへい」
そう言われて手渡されたスマホで、俺はパシャパシャと妹の浴衣姿を撮影する。
画面越しにこうして見てみると、やっぱり長身の綾子だと浴衣も結構さまになっている。
「笹原も今頃は浴衣か。また見せに来たりしないだろうな」
「いいじゃん、そっちの方がにぎやかだし」
どうやらうちの妹は、俺と違って騒がしい雰囲気の方が好きらしい。まあうちの場合は父親も母親もテンション高めだから、家ではそっちがむしろデフォルトではあるのだけれど。
「そういやお前、部活見学って名目で来てるんだったよな。どうだよ、現時点での感想は」
「私はやっぱり、兄ちゃんが選んだ部活なだけあるなぁと思った」
「それどういう意味? 悪い意味? まさかとは思うけど良い意味?」
「もちろん良い意味の方だよ。だって兄ちゃん、夏休みに入るまでは全然人としゃべらなかったしさ。でも今はこんなに親しい人が居て、私も良かったなぁって」
「……それは、どうも」
なんか改まってそんなことを言われると、少し気恥ずかしいっつうか、どういう顔すれば良いか分からないっつうか……。
「だから私も来年は絶対この部活に入る! だって凄く楽しそうだもん」
「だがお前はまだ知らない。この部活の本当の恐ろしさを」
「なに言ってるのさ兄ちゃん。みんな良い人そうだし、それに優しいじゃん」
「そうか。お前からはそう見えるのか。お前がそう思うんならそうなんだろうな、お前ん中ではな」
「なになに、照れ隠し?」
「う、うっさい」
「と言うか兄ちゃん、そういう漫画のセリフ好きだよね」
「使うタイミングがあまりないからな。使えるうちに使っとくわ」
「そっか。んじゃあ私はお先に探索してくんね~!」
そう言うと妹もどたどた足音を響かせながら部屋を出て行く。
「でもまあ、確かに思ってたよりは平和だな。笹原もゲロ吐かないし、鈴谷も突然脱ぎだしたりしないし。いやまあそれが当たり前なんだけどさ。このまま緩やかに明日まで過ごせれば良いんだけど。ふぁ~……あ」
なんてフラグにしかならないような事をそっとつぶやきながら、俺は畳の上で少しずつ瞼を閉じていった。