ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
「う……ふぁ……?」
鼻息を詰まらせたように目を覚ました俺は、枕元ならぬ頭元から伝わる振動で起こされたのだと気づく。
「スマホ……着信か。にしてもどれだけ寝てたんだ」
窓の外を見ると、先程まで真夏の晴天だった空がすっかりオレンジ色に染まっていた。
頬のを触ってみるとがっつり凹凸ができている。自分の顔にくっきりと畳の跡が付いていることを自覚して、それから俺はスマホを手に取ってメールを確認する。
『兄ちゃんもう時間だよ。今すぐご飯に集合せよ!』
そんなスパイ映画の命令文みたいなメールを読みながら、同じ画面で時刻を確認すると既に17時58分を示していた。
「そういや夕食って6時からだっけか」
それから俺は机に置かれた部屋のキーを持つと、のそのそと扉を開けて鍵を閉める。
廊下に出ると、そこに人の気配は無かった。そもそもこのフロアに泊っている客がそれほど多くないのかもしれないが、おそらく全員が夕食に向かったからだ。
俺はそれからエレベーターで1階へと降りて、フロントで案内された『お食事処』へと向かう。
「何と言うか、普通にどこかの料亭みたいだな」
その入り口を見ると、『お食事処 滝壺』という暖簾がかかっており、自動ドアの向こうには薄暗い照明と細い通路が見える。
開いた自動ドアから中に入ってみると、そこはまるでBARのような雰囲気でもあり、ムーディーと言うか、高級店さながらのしなやかさが演出されている。
どうやら全ての部屋が個室作りのようで、仕切られた形で四角い小部屋がいくつも見えた。頭上には雰囲気を醸し出す提灯がぶら下がっており、壁には木材の年輪がそのまま模様として細工されている。この辺りの洒落っ気も高級感を感じさせる。
「前田君こっちだよ」
しばらく店内をうろうろしていると、ちょうど横の個室から俺を呼ぶ声が聞こえた。
「すまん。遅くなった」
そちらの個室に目をやると、見知った顔がずらりと並んでいる。こちらも他とお同じような個室で、食事処と聞いて少しの不安もあったが、これなら笹原でも問題は無さそうだ。それから時宮先輩か鈴谷のどちらかが配慮してくれたのか、笹原は一番奥の席に座らされている。
俺はそれから念のため周りをちらっとだけ確認し、空いていた一番手前の席に腰を下ろした。
「ギリギリでしたね先輩っ!」
「ごめんなさいね。少し前にも部屋まで見に行ったんだけど、前田くん凄く気持ちよさそうに寝てたから」
「い、いえ……」
見るとそこに座る全員が漏れなく用意された旅館の浴衣姿に着替えている。
薄い生地に青の線が入った模様で、それが赤い帯で締められている。その見慣れない姿に俺は思わず見惚れたように目を止めてしまいそうになり、そしてすぐさまはっと我に返るといかんいかんと視線を泳がせる。
「兄ちゃん、もしかしてずっと寝てたの?」
「まあな。畳の匂いを嗅いでるうちに意識が飛んじまった」
「先輩ぃ、そこだけを聞くとなんだかアブナイ人みたいですねぇ」
「うっせえ」
そんな鈴谷ですらも、浴衣姿だとどこか雰囲気が違って見えてしまう。
時宮先輩もマドカさんも、それぞれが同じ柄の浴衣を身に着けている。浴衣というのは言ってしまえば帯で巻かれただけの布切れであり、やはりどこか心もとなく見えるが、しかしその軽快さこそが浴衣の良いところだ。
ひらひらと揺れる裾や袖、胸元の襟先なんかがやけに男心をくすぐってくる。水着のように肌をただ露出するわけではないが、それでいて妄想を捗らせる魅力が浴衣姿にはあるのだ。なんてさっきからなに言ってんだ俺は。
「ふふん、どうどう前田君? 似合ってる?」
「あ、私もどうですかぁ? 先輩ぃ!」
すると二人はそれぞれが浴衣の袖を持って、腕を広げてみせる。
「まあ、その。似合ってるんじゃねえの?」
やはり普段とは違った感じに目を取られてしまいそうになり、それに気づいて俺はすぐさま視線を逸らした。
「前田くんって、もしかしてこういう和服が好きだったりするのかしら」
それから時宮先輩にそう聞かれ、俺は小さく「そう言うわけじゃないですけど」と答える。
と言うよりも、笹原の周りに座る時宮先輩とマドカさんと御影先生の三人組が、その何と言うか、浴衣姿だとさらに色っぽく見えるというか、胸回りなんかもさらに派手に見えて、そこには艶っぽい大人の色香があった。
正直言って目のやり場にすら困る俺は、仕方なく自分の手元に目を向ける。するとそこには箸とお手拭きだけが置かれていた。
「お待たせしました。こちらが本日のお料理になります」
すると間もなくして、そう係の人が料理を運んでくる。
「わぁ、美味しそう!」
「こんなの家じゃ絶対に食べないよね兄ちゃん!」
「こらこら綾子、そう言うのを大きな声で言うのはやめなさい」
いやまあ、おそらくうちの父親もお袋も似たような反応をするのだろうけれど。
それから次々に運ばれてきた料理の数々に、俺達は目移りさせながら夕食を始める。
旅館の雰囲気から期待を膨らませていたとおり、料理もかなり豪勢で見栄えの良い物ばかりだ。こりゃあこんな旅館の招待券を俺達に流したと知られたら、ゴリマッチョのやつサッカー部からリンチされても仕方ない。まああのガタイだし返り討ちにするんだろうけど。
「「「「いただきまーす!」」」」
揃って手を合わせ、目の前にある品々に手を付ける。
メニューは海老や刺身などの海鮮、それから茶わん蒸しに、釜飯のご飯。肉料理には和牛の他に珍しい鹿肉なんてのも出てきた。
それぞれの香りを殺さないようコース料理のように提供される料理はどれも一品で、最後に出されたサクランボの乗ったシャーベットなんかもとろりと舌の上で蕩ける素晴らしい物だ。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
全員が料理を食べ終えた後、満足げな顔でそれぞれは席を立つ。
ここでも万が一の為に俺は笹原と一緒に席を離れるが、それも杞憂に終わり何事もなくロビーへと出た。
「美味しかったですね。どれもとても素晴らしい料理でしたし」
「うむ。私もウニやイクラは久々に食べたな」
時宮先輩と御影先生は並んでそう口にする。どうやら二人のお眼鏡にもきっちり適うものだったらしい。
「この後はどうします?」
そう俺が聞くと、そりゃもちろん……。という空気が流れ、それからその場の全員が口を揃える。
「「「温泉!」」」
うぁ、凄い統一感だ。とか思いながら、俺もまた温泉という言葉に胸を高揚させる。
それからそれぞれは一度部屋に戻り、用意を持って来るとすぐにまたロビーの廊下の突き当たりにある大浴場の入り口に集合する。
「それじゃあ男風呂はあちらなので」
「またお風呂上りにね」
最後にマドカさんが女湯の暖簾をくぐったのを見て、俺もまた男風呂に入っていく。
「……」
それからもう一度後ろを振り返るが、やはり誰かがこちらに入ってくる様子はない。
「まあ流石にこれだけの人数だしな。ここで男風呂に入ってくるなんて真似はしないって」
俺はプールの時を思い出しながら、しかし自分の考え過ぎだと不安は水に流す。
脱衣所に入ると、壁に並んだラックの中にはわら籠が収まっており、その中のいくつかは既に脱いだ後の浴衣が入れられていた。
「俺もさっさと入って、今日の疲れを癒すとしますかね」
そうして自分も浴衣を脱ぎ籠に入れると、タオルを持って大浴場のドアを横にスライドさせる。
「おぉ~!」
浴場は広々とした空間になっており、湯気でほんのりと視界にもやがかかる。
入って正面にはいくつかの椅子とシャワーノズルが並び、このあたりは銭湯と同じだ。しかし奥のガラス壁の向こうには、でかでかと広がる露天風呂が見える。
「凄いな。ここまで広いと手足も伸ばし放題だ」
俺はまずシャワーを浴びて、それからすぐにガラガラと戸を開けて外の露天風呂に向かう。
「なんつうか、風流な感じだな。しかしこれもまた悪くはない。温泉と言えば日本のわびさびだからな」
そこはやはり和風モダンな景観作りがされており、整備された草木は下からライトアップされている。陽も沈み始めたころで、いかんともしがたいロマンチックな雰囲気が温泉の流れる音と共に広がっていた。
先客もほどほどに居るが、しかし露天風呂がデカイせいかそれも点々と見える。これならどこに入ったって周りに気を遣う必要はないだろう。
「ふぅ~……」
風呂に肩までつかると、そんな胸の内からの呼吸をついた。
その一呼吸で今日の疲れなんて吹っ飛びそうなくらいに気持ちが良い。温泉の質も滑らかで、手なんかを触ってみるとすべすべとする。
「こういう事があるなら、この部活も悪くないな」
なんて我ながら気の抜けたことを言いながら、俺はまた深く息を吐いた。
『……でね、~……がね』
しかし、そこでふと耳に聞き覚えのある声が聞こえてくる。
『~で、その時に~』
「これって、もしかして笹原の声か?」
後ろを振り返ると、そこには高い仕切りが立っていた。どうやら知らず知らずに女湯との境に居たらしい。
「にしてもこっちまで声が聞こえてくるって、あいつらなにをそんなに騒いでるんだ」
幸いにして周りには他の客は居らず、その声を聴いているのは俺だけのようだ。
「なんつうかこうも声がダダ漏れだとあまり一人で満喫してる感じがしないと言うか……。こういう時くらいはのんびりしないと勿体ないよな。一人でゆったり温泉に入れるチャンスなんだし」
聞き耳を立てる趣味も無いし、余計な邪念が入らぬうちに退散しますか。といった具合に、俺は足を立てて別の場所へ移動するべくタオルを手に持った。
『穂乃果ちゃんって本当に綺麗な色してるわね』
『そ、そんなことないですってば』
『ううん。綺麗なピンク色だもの』
『ちょ、やめてくださいってばマドカさん!?』
『あ、お姉ちゃんばっかりズルい』
『時宮先輩ぃ、私にも揉ませてください、それからつねらせてください!』
『あ、そこは、んっ、本当にダメだから!』
「…………」
いやしかし、ここは周りに誰も居ないベストプレイス。わざわざ自分から離れる必要もあるまい。
俺はそんな合理的判断から、再びその場で腰を着けるとお湯の中に身体を浸らせる。
『ほ、本当に私、胸だけは……』
『もしかして弱かったり?』
『その……はい。実は凄く、敏感で』
『うわぁ。その大きさで感じやすいって、もはやチートですよ時宮先輩ぃ』
『穂乃果ちゃん、そのおっぱい前田君にはもう触らせてあげたの?』
『そ、そんなこと……ないですけど』
なにやら裏では時宮先輩があの三人に襲われているらしい。これが現代社会に蔓延る集団イジリというやつか。けしからん。
『時宮先輩ぃ、私のも触らせてあげますから。あ、感度だったら下の方が良いので、そちらにしときますか?』
『そんな物々交換みたいに言われても』
『じゃあ真昼ちゃんにはお姉さんの触らせてあげる』
『うわぁ、すっごく柔らかいですぅ。手が埋もれそうですぅ!』
『私も……そのうちちゃんと大きくなるのかな?』
『大丈夫ですよ笹原先輩。お姉さんがこんなに大きいんですから、全然成長の余地ありです!』
『それにただ大きいだけじゃダメなのよ? 大切なのは色艶と感度なの。そういう意味じゃ、穂乃果ちゃんのおっぱいって完璧なのよね』
『きゃ!? だから、んんっ! もぅ、本当にダメですからぁ~!』
「…………」
そう言えば女子って男子の居ないところだと、結構下ネタとかも言い合ったりするって聞いたことがある。
でもこれは下ネタの部類なのか。なんだか時宮先輩、さっきから凄く甘い声出ちゃってますけど……。
『あっ、んんっ……!』
『これは、もう少しだね!』
いや何がもう少しなんだよ。流石にマズイだろそれ。
『あと一押しですぅ! それっ!』
「やっ、本当に私、こんなところで……!』
『大丈夫、大丈夫だから。だからね、穂乃果ちゃんも遠慮しないで』
『そ、そんなの……』
なんだか本当にヤバい雰囲気になってきてないかこれ。
しかし敷居をまたいだあちら側はもはや別の世界だ。男湯であるこちら側からできることは何もない。だからすまない、時宮先輩……! これは決して見殺しではないんだ。
『あ、あっ、ああぁっ!』
『うわぁ。もう本当にいっちゃいそうじゃないですかぁ』
『本当に弱いのね、ここ』
『じゃあ私はこっち側! えいっ!』
これが女子の世界か。おそろしい。
俺はそれとなく股間部を隠しながら、ずいずいっと敷居の方へ身体を寄せる。
『もう少し、もう少し!』
『もぅ、限界っ……!』
『それそれぇ!』
『あ、あ、あぁあああああっ!!』
「なっ……!?」
ひと際大きな喘ぎ声を出したかと思ったら、あちらは急に静まり返る。
『よし。これで少しは疲れも取れたかな?』
『だから言ったでしょ。お姉さんのマッサージって凄いんだから』
『あ、ありがとうございます。でも胸の方は本当にその、弱いのであまり触らないでいただけると……』
『ごめんなさいね。少し手元が狂っちゃったの』
『スケベ親父みたいな言い訳だね!』
ズルン‼︎
いや分かってたけどね。そういう落ちがつくって言うのは。
『それじゃあそろそろ上がりましょうか』
『そうですね。前田くんも待ってるかもしれないですし』
『お風呂上りには牛乳だしねっ!』
なんてことを言いながら、ぞろぞろと風呂から上がっていく四人。
「……なんつうか、男心的な諸々を返して欲しい気分だ」
期待とか妄想とか。
なんて肩を落としながら、俺は俺でもう少しだけ湯に浸かってから、しばらくして脱衣所へと戻った。