ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
この期に及んでまだ露出プレイだと? 今日の昼に痛い目を見たばかりじゃないか。
こいつは引きこもりだ。それはもう間違いない。外で誰かと言葉を交わすだけで胃液を全部ぶちまけて、その上に気絶して再起不能になるような、人間社会では間違っても生きていけないほどに重症的な引きこもりだ。それがどうしてだ。なぜそこまで露出プレイに拘る…? 好きだからか? そこまでして露出の快楽が得たいのか。
こいつはどこまで正気なんだ。……それとも
「馬鹿言うなよ。ほら、さっさと服を着ろ。それに昼の件で分かったろ? お前にはまだ露出プレイなんて無理だ。そもそもまともに外にさえ出れないんだからな」
「……それでも、服はやっぱり脱いどいた方がいいと思うの」
すると笹原は今更になって恥ずかしそうに腕で胸を隠した。いや、こいつに限ってそれはないな。あれは隠したのではなく、ただ胸に手を添えてるだけだ。
「だって、もしも外でまた今日みたいな事があったら、私、きっと吐き出しちゃうし、そしたら妹さんの服とか汚れちゃうし……それに」
笹原の言い分、それは妹から借りてる服のことを案じてということらしい。まあこいつの言ってる事はもっともと言えばもっともだ。いくら引きこもりとは言っても家に帰るためには一度はまた外を歩かなければならない。その途中に自分にもしもの事があった時、例えばまた昼間のようになれば、借りている服をゲロ塗れにするかもしれない。それは申し訳ないから服は脱いで帰る、と。
それだって冷静に考えれば滅茶苦茶な申し出だ。いくら服が汚れることになるとしても、だからといって全裸で帰るなんて言い出す女子がどこに居る?
しかも笹原の表情、そこには説得力など微塵も存在しない。
「だから、ね……ふぅ、このまま……ふふ、このまま……一緒に出よう?」
そいつの顔から零れる笑みは、まるで小悪魔のように誘惑的で、しかも恍惚とした頬の色が瞳にまで感染しているように、その瞳の中までピンクに染まっているようだった。否、染まっていると錯覚に陥るほどに、笹原の表情からは性的な欲望と、それを抑えきれないといった興奮が見え透いている。
俺の妹の服が汚れるなんてただ都合の良い言い訳でしかない。こいつは本心はただ、ただただ人前に自分の淫らな姿を晒したい。あるいは、晒されるような状況に身を置く事で快楽を覚えたい。こいつはそんな自らの肌を顔も知らぬ他人に晒すという屈辱的で、堕落的で、それから欲情的な行為に心の底から恋焦がれているのだ。
その為ならたとえゲロ塗れで路中で倒れることになっても構わない。だからもう一度、もう一度自分の身体を野外露出という興奮の中に置いてみたい。笹原の顔からは、ただその破滅的な衝動が溢れていた。
俺は思わず身震いする。こいつは、いったいどこまで露出プレイに心を犯されているんだ。
「…………っ!」
無理だ。俺には付き合えない。そう言ってしまいたい。
冷静に考えたって無謀もいいところだ。人に近づいて軽く会話をすることさえままならないこいつが、夜中とは言え全裸で露出プレイだと?
人に見つかったらどうなる。逃げることはできるのか? 途中でまた失神したら? 俺にどこまでのことができる? 精々俺にできるのは倒れた笹原をその場から運び出すことくらいだ。だが全裸のままの笹原をまたおぶって家まで運ぶのか? そんなことをしてみろ、いくら人気が無いとは言え絶対にどこかで騒ぎになる。そうなったら、俺も笹原も――。
「笹原、俺には……っ!」
無理だ。そう言葉を出そうとした時だった。
「……はぁ、はぁ!!」
やっぱり、か……!
俺の意思が笹原の行動を否定しようとした瞬間、全身が金縛りを受けたみたいに強張る。
全身を支配していく感覚。そいつは激しい強迫観念だ。
『笹原を露出調教し、その全てを見届ける』。それが俺が笹原と交わした〝約束〟だった。
「はぁ、んぐっ……!!」
肺が痙攣したみたいに、口から出て行く空気も入ってくる空気も小刻みに震える。呼吸すらままならなくなって、俺の頭の中で『約束は守れ』と、まるで誰かが俺を操ろうとしているみたいに声が広がっていく。
心臓から重い鼓動が響いてくる。そいつは俺自身が恐怖している証だ。俺の身体が、笹原の言動を否定し、自分から交わした約束を反故にしてしまうことを強烈に恐れている。
そうだ。俺はやっぱり……誰かと交わした約束を守れない事が、とんでもなく恐い……!
「っちく、しょう……!」
これこそが俺の持つ体質の正体だった。
俺は一度約束を交わすと、そいつを反故にしてしまう行動や言動を取ることができなくなる。だから笹原を露出調教し、その全てを見届けると決めたのなら、この無謀にもほどがある行動にだって、俺は付き合ってやらなければならない。
俺が誰かと約束を交わすというのはこういうことだ。それを分かっていたつもりだったが、よりにもよってこんな奴と約束をしちまうなんて、俺もどうかしてたんだ……!
ダメだ。言えない。俺の口から笹原の露出プレイを否定する言葉を、出すことはできない……!
「笹原、けど、俺は……!」
「前田君」
体質による衝動。それにより言い淀んでいると、笹原は真っ直ぐに俺の目を見つめて、まるで怯む俺を一刀両断にするように言葉を発した。
「本当にいいの?」
その笹原の一声に、俺の中で一度だけ、鼓動が大きく跳ね上がる。
ドクン、と、まるで心臓だけがどこかに叩きつけられたみたいに全身に
やっぱりこいつは、ただの変態少女じゃない。
「前田君って、とっても家族のことが好きでしょ?」
俺は思わずその言葉に目を見開く。こいつの考えている事、それを察してしまったからだ。
「下の階から聞こえてきたもん。楽しそうな声だったね。それに、前田君って妹さんの事が凄く大切でしょ? それも良く分かっちゃった。少しだけ焼き餅やいちゃうくらい」
「それが、それがどうしたってんだよ……!」
すると笹原はゆっくりと足を弾ませて、扉の横のスイッチへと手を伸ばす。それからパチッ、と部屋の明かりを消した。
一気に視界が黒くなる。何をされるかもわからないこの状況で、俺の中で恐怖が助長されていく。
「なんだ、なんのつもりだよ!?」
「しー……」
とん、と俺の背中に何かがぶつかる。感触で、すぐにそれは笹原の胸だと分かった。
笹原は後ろから腕を回し、俺の腰へ抱きつく。そして耳元に口を近づけて、小さな声で呟いた。
「ここでもし、私が大声を出したらどうなるかな?」
「ッ!!!!」
ドクン、と再び心臓が鼓動する。
「お前、何が言いたい……!」
「私がもしここで叫んだら、きっと妹さんの部屋にも聞こえるよね。もしかしたら親御さんのところまで響いちゃうかも……。それって、前田君にとってはとっても、とってもとってもダメなことだよね」
「笹原、お前……!!」
「うん。ごめんね。こんなことしちゃって……。でもね、私、どうしてもお願いしたいの。今ね、すっごくえっちな気分なんだよ? 体がね、ぽわって宙に浮くみたいになっててね、心の中もいやらしい事でいっぱいなの。だから、この感情を出してあげないと、私、どうにかなっちゃうから……。だから、お願い」
そこまで言うと、笹原はそっと俺の頬に自分の頬を重ねる。
くそっ、どうしてだ。どうしてこうなった。
笹原が言っているのは、つまるところ脅迫だ。それも昨日みたいな遠まわしな脅迫なんかじゃない。もっと直接的で、言ってしまえば『露出プレイに付き合ってくれないと今の状況を家族にバラすぞ』ということである。
迂闊だった。笹原のことを、確かに俺は何も知らなかった。だが、よもやここまでしでかす奴だとは想像外だ。
俺は全神経を張り巡らせる。どうすれば良いのか必死に情報を拾う。それから打開策を講じようと思案したが―。
「……ねえ、前田君」
だが、笹原が背中から押し付けてくる胸と、それと冷たい頬の感触がどうしても頭から離れない。下手に視界が塞がれてるせいで、背中から伝わる弾力も、それからぷるっとした笹原の肌もより強調されてるみたいだ。
卑怯だ。これ以上無く。
「……くそっ」
俺は悪態を付かれたようにそう吐き捨てる。
体質だけの問題じゃない。俺は笹原に、実質的な行動の選択まで奪われてしまった。
もうやるしかない。つまるところの俺の敗北だ。
「笹原。お前どこまで本気なんだ」
「最初から、全部だよ」
「……そうかよ」
俺は根負けしてがっくりと肩を落とす。笹原の中の感情は未だに理解しきれない。だがどうやら、笹原にとって野外露出をするという行為か、あるいは外に出るという事そのものが俺が考えている以上に切実な問題なのかもしれない。それはさっきの『お願い』っつう言葉のニュアンスからも感じ取れた気がする。
こいつにとっては相手が誰であっても、その相手を脅迫してでも達成したいものなのだ。それならもう、仕方が無い。
「あのね、これだけは言わせて欲しいんだけど……。その……」
「もう良い。分かったよ。俺も一度は協力するって言っちまったんだ。そこに二言を挟むつもりは無い。っつうか、お前がやるって言ってんだから、本来なら俺がどうこう言うのは筋違いなんだろうしな」
すると笹原は俺の体から腕を離し、少しずつ体を遠ざける。
「…………ごめんなさい」
「謝るくらいなら初めからするなよ。それにお前が決めたんなら、どんな手段を使ってでも貫き通してみろっての。それが脅迫までした相手に対する最低限の誠意だろうが」
「……うん。そうだね。前田君の言う通りだね」
俺は後ろへ振り向く。そこには笹原の笑みがあった。さっきまでとは違う、柔らかい笑みだ。
暗い部屋の中でもそれが分かるのは、笹原の後ろにある窓の向こうにちょうど満月が昇っているからだろう。ここだけ見れば、どこかの絵画にありそうなくらいに絵になっている。煌びやかに輝く月を背にしている笹原の姿は、とてつもなく
「それじゃあね、あの、これ」
すると笹原はベッドの上に置いていたものを掴むと、こちらにすっと差し出した。
「なんだよ? ……って、それ」
初めは輪郭しか掴めなかったが、それが何かは直ぐに分かった。
「首輪か……?」
そう言えば俺が用意したビニール袋の中に首輪だけが無かったような気がする。笹原が何時の間にか取り出したのか?
「それから、これも」
そして笹原はもう一つ別の物を俺に見せた。
それは、リードだ。飼い犬の散歩で使うあのリードだった。
「お前、いったいどこからそれを」
「それは……、っ、内緒……かな」
こいつはどうしてこのタイミングで顔を赤くするんだ。
「えっと、それでね。これ、良かったら私に付けて欲しいんだけど……」
「…………笹原、お前」
本気か? と聞こうとしたが、聞くまでも無かったので止めた。
そこで笹原は俺の返事を待つより早く、先に自分から首輪を嵌めると、リードを俺へと差し出す。
「お願いです、前田君。私の飼い主さんになってください」
飼い主に首輪、か。
つまりはそういう事だろうな。
「お願いです、ご主人様。私をどうか、お躾下さい」
こいつの中では、どうやらもうシチュエーションが出来上がってるらしい。しかもそこに俺まで組み込んでると来た。
「…………」
俺はただ、無言でそのリードを受け取る。
そう言えば俺はこいつに『露出調教』を頼まれていたのだ。そしてこいつも、それを俺に期待している。
昼間にあれだけ嘔吐して気絶して、なのにこいつは快感を得るためか、それとも別の何かがあるのか分からないが、こいつはまた野外露出プレイをやると決めたのだ。
俺は自分の中に残っていた焦りと迷いを一度体の外へ逃がすように、大きく息を吐く。
どうしてそこまで野外露出に拘る? 引きこもりで、それも外に出て人と話すだけで気絶してしまうような重症な奴が、どうしてそうまでして外へ出る事に拘るんだ。
俺はついそんな事を考えてしまう。こいつはやっぱりどうしようもない淫乱でド変態な奴だけど、それでもこいつが俺に『調教して欲しい』なんて口走ったのは、誰かの後押しが必要だったからじゃないか。
無理やりやらされる興奮ってのもあるのかもしれない。現にこいつはそう言う奴だろう。だけど、きっとそれだけじゃない。
笹原になにがあるのかは知らないが、こいつには協力者が必要で、それを『調教する』って形で俺に求めているのなら、俺も俺の役を演じてやらなきゃダメなんだと思う。こいつを調教する、飼い主としての役を。
「……分かったよ、付けてやるからこっち向いてみろ」
正直、柄じゃないとは思う。けれど、俺は自分の役割を演じるために言葉を発する。
「全身にローターまで仕込んで、人に見られただけでイクようなドスケベ淫乱だったら、もっと飼い主に懇願するポーズってもんがあるだろ?」
「ふふ、あはは、やっぱり前田君って、女の子をいじめる才能があるんじゃないかな」
「うっせえ。早くしろよ」
なんだかこっちまで恥ずかしくなってくるだろ。
「分かりました。ご主人様」
笹原は次に腰を屈めて、姿勢をぐっと下げる。それから両手を頭まで持ち上げて、手首をぐっと折り曲げた。その姿は、犬の芸にある「ちんちん」にそっくりだ。
「…………これで、良いのか」
ジャラジャラとリードの金具が擦れる音が部屋に広がる。そしてカチッと金具が止まると、リードと首輪は完全に繋がれる。
まさかこんな事になるなんて、流石の男子校生の妄想でもそうは無いだろう。
「……じゃあ行くぞ、笹原」
「はい、ご主人様」
すると笹原は両手を床について、四つんばいの格好のまま、俺のリードに引かれて連れられていく。ちらっと笹原の顔の下を見てみると、そこにはたぷんとした胸が笹原の動きに合わせて揺れ動いていた。
ここからでも分かる下に伸びた楕円の形と乳首の突起は、まるで自分は家畜ですと笹原自身が白状しているかのように、無抵抗に、情けなく揺れ続ける。
ヤバい。こんなことをさせられてるのに、俺の方までどうかしてしまいそうだ。
「ご主人様の背中、おっきい……」
「うるせえ、黙ってろ」
俺達はそのまま部屋を出ると階段を降りていく。笹原も四つんばいのまま器用に階段を降りきると、次は玄関で俺だけ靴に履き替えて、そのドアノブを握った。
「えっと、お前の靴とかは持って帰ったほうが良いよな」
「……もぅ、前田君。そういうのはムードが壊れちゃうから、あまり言わないでくれると嬉しいかな」
「ムードってなんだよ……」
「前田君も、もう少し女心が分かると良いんだけどね」
こいつ何故は四つんばいのまま、そこまで勝ち誇った顔ができるんだ。
っていうか女心ってなんだよ変態心の間違いだろうが常識的に考えて。
「……んじゃ、行くぞ」
俺はそのドアノブを下げ、すーっと扉を開けていく。
恐怖心とか緊張が無いといえば勿論嘘になる。もしも誰かに見つかれば、おそらく終わりだ。こんなところは誰一人にだって見せられない。だが、外に行く以上、その保障はどこにもないのだ。
「ご主人様、早く、早くお願いします」
笹原は先ほどまでの偉そうな顔から一変して、餌をねだる飼い犬のようにはぁはぁと舌を伸ばしている。それが駄犬としての演技なのか、こいつの素なのかは判断に苦しむところだ。
俺は呼吸を深く吸って、それからゆっくりと吐き出した。気休めにしかならないが、それで少しだけ精神が安定した気がする。
「行くぞ、笹は……雌犬」
「っ! はい、ご主人様」
どうやら俺は、何の因果か知れないが、今晩だけはこいつの飼い主になり切らなければならないらしかった。
リードの先には、これ以上ないほどにワクワクと興奮した笹原の姿がある。