ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
それから15分ほど歩いて、俺達は近所のファミレスへと訪れていた。
最近のところは夜明けまで開いているところも多いらしく、既に深夜の一時を回っているというのに店にはそれなりに客が集まっている。
「ご注文はいかがなさいますか」
「あ、ドリンクバー二つで」
「すいませーん! このドリームデラックスチョコレートパフェも1つお願いしまーす!」
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
「おい……」
こんな時間にそんなもん食ったら太るぞ。なんて余計なお節介を焼きそうになったが、なんの躊躇いもなくスプーンを握るそいつに言葉を吐く気力すら失う。
だいたいドリームデラックスってなんだ。ドリームなのかデラックスなのかどっちかはっきりしろ。
「先輩も食べます?」
「いらねぇよ。まったく……。それとな、いい加減その先輩っての止めろ。知らない奴にそう呼ばれると気味が悪いんだよ」
「そうですかぁ? でも私も先輩と同じ高校なわけですし、間違ってはいないと思うんですけど。ほら」
そう言って鈴谷が見せてきたのは、うちの高校の学生証だった。
こいつ、本当に同じ学校だったのかよ……。
「ほらね? それにちゃんと一年生ですし」
「はぁ……。たく、それで話ってのはなんなんだよ?」
「それなんですけど、先輩。さっきも言いましたけど、笹原先輩の秘密、知りたくありませんか?」
「秘密、ねぇ……。俺があいつの過去のトラウマ? だかなんだかを知ってどうすんだよ」
そもそもどうしてこいつがそれを知ってるんだって疑問はあるが、それを追求するだけでもかなりの労力を消費しそうなので止めておいた方が無難そうだ。
「先輩って、今は笹原先輩の事、どう思ってるんですか」
「なんだよやぶから棒に。そんなこと、尚更お前には関係ないだろ?」
「もぅ、先輩も意地悪な人ですねぇ」
なんだよもうこいつ。もう瞼がくそ重いんだからさっさと開放して欲しいんだが……。
「どう思ってるも何も、俺は笹原とは昨日に……、っつかもう一昨日か。会ったばっかだからな。互いの事もまだ良く知らねぇし」
「ふ~ん、それにしては仲良さそうでしたよね。二人で夜更けにイチャついてましたし、まるで往年のカップルみたいだったじゃないですか」
「勘違いするな。俺とあいつはなんでもねえよ」
鈴谷には露出プレイの現行犯を見られてる以上、そこについて言い訳しても仕方がない。だが、変な誤解だけはされる前にはっきりさせておいた方が良いだろう。
「俺とあいつは、お前が見た以上の関係でもなんでもない。俺自身も、あいつに思うことはそれだけだ」
「つまり笹原先輩は肉奴隷で、先輩もそれ以上ではない、ということですか」
「お前な、そういう発言は場所を選べっての」
つっても、こんな時間のファミレスに知り合いも居ないだろうし、まばらに客が居るおかげで俺達の会話もさほど目立ってはいないわけだが。まあ、こいつの場合は何を口走るかわからない。注意だけはしておくに越した事はないだろう。
「それじゃあ改めてなんですけど、先輩は本当に笹原先輩の過去のトラウマとか、興味ないんですね」
「まあな」
俺は鈴谷の言葉に端的に答える。
「ふふ、先輩も素直じゃないですね」
だが、鈴谷は俺の目をじっと見つめながら、また唇を悪戯に吊り上げた。
「私、知ってるんですよ? 先輩が笹原先輩とどういう約束をしたのか」
「なに……?」
「これ、なんだと思いますか」
そう言って鈴谷が持ち上げた指先につままれていたのは、小さな四角いチップのようなものだった。
「なんだ、それ……?」
「盗聴器です」
「とうっ、……はぁ!?」
すると鈴谷はにやっとそれを手の中に握りこみ、スカートの中へと仕舞う。
「私、先輩のストーカーなんです。だから、二ヶ月前にこっそり取り付けさせてもらいました。先輩のスマホに」
「…………」
……。
……え?
「なんだって?」
頭がショートするとは、このことだろうか。
俺は鈴谷の言葉を理解しながら、しかしそれを脳が処理する前に思考がシャットダウンする。
「だから、私はストーカーなんですってば、先輩」
ストーカー……? 俺の?
「なあ」
「はい?」
「ストーカーって、あの?」
「はい」
「お前が?」
「そうですよぅ」
「……??」
鈴谷はまるで俺の反応を楽しむように、肘を突いて手に顔を乗せながら、楽しそうにこちらを眺める。
「だから、私は先輩のことを知ってますし、笹原先輩の事も勿論知ってますよ? 二人がどういう関係なのかも」
俺は、絶句した。
今度こそ、本当に。
「……お前、まさかさっき」
「そうです。先輩のスマホで撮影する時に、回収させてもらいました」
「…………」
ダメだ。何度考えようとしても思考が止まって動かない。
と言うか、どうやったってキャパオーバーだ。俺の手に負える状況じゃねえ。
ストーカー? 俺の? それもスマホに盗聴器を仕掛けられてた?
どうなってんだよマジでよ!?!?
「おい、鈴谷」
「ん? なんでしょう」
「お前は、誰が見たって可愛いっつうか、美少女っつうか」
「なっ!? なんですか先輩!? 急にどうしちゃったんですか!?」
違う違う!! そんな事を言おうとしてるんじゃない!!
つうかこいつもこいつで、どうしてここでそんなに目を見開いて驚いてんだっつうの!!
俺が言いたいのは、ただお前みたいなモデルみたいな美少女が、どうして俺みたいな冴えない男子のストーカーなんてしてるんだってその一点だ。だが、やはりと言うか、テンパった俺の頭ではそれを上手く伝えるには限界があるらしい。
そうだ。ここは一度、思考を落ち着かせたほうが良い。
「……コーヒー取ってくるわ。お前、何か欲しいものは」
「えっと、じゃあメロンソーダ……」
未だに目をぱちくりさせてる鈴谷は、そのまま俺の方を見て固まっている。
「……はぁ」
なにがどうなってるんだ。鈴谷が俺のストーカー? しかも二ヶ月前から?
俺はドリンクバーのあるカウンターへ歩きながらもう一度、頭の中を整理する。けどあまりにも疑問が多過ぎてやはりまとまらない。
そもそも俺のストーカーってなんだ。俺は何時からストーカーされるほどの人間になったんだ? 芸能人でもなければ学校のアイドル的存在でもないんだぞ。どこにでも居る、いやむしろやってる事は学校が終われば帰って寝るだけと言う点においては、そこらを探しても見つからないほどに無気力な生活を送っている俺に、いったいどういう道理があればストーカーなんて発生するんだ。
「あの、お客様……?」
「はい?」
「大丈夫ですか……。コーヒーが手にかかってますけれど……」
「あ……あぁ!?」
何時の間にか手に持っていたマグカップでコーヒーを注いでいた俺だったが、トリップ状態だったせいでコーヒーがそのまま手に直撃しているのも気が付かなかったらしい。
「あっつぅ!?」
慌ててカップから手を引いた俺だったが、やはり手が熱でジンジンと痛む。
「火傷はありませんか……? これ、良かったら」
「あ、あぁ、ありがとうございます」
そう言って店員さんは俺に濡れタオルを手渡してくれた。俺はそれで手を覆い、何とか熱を冷まさせる。
見ると多少は手の甲が赤く腫れているが、どうやら火傷と言う程ではないらしい。
「ありがとうございます。大丈夫そうです」
「そう、良かった。今度からは気をつけないとですよ、前田君」
「そうですね。ありが……」
……ん?
「それにしても、こんなところで会うなんて奇遇ですね、前田君」
俺は、恐る恐るにその店員へ顔を向ける。
「今日はお友達とお夜食?」
そこでニコッとした笑みを作っていたのは、他でもない。
つうか、どうしてここに居るんだ。
「笹原の、お姉さん……?」
「はい。笹原カンナのお姉さんです」
その人は、ウェイトレスの格好をしながら当然のようにそこに立っていた。