ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
その後、店を後にしたお姉さんは先に帰宅する事になった。時間はとっくに深夜になり、「家まで送りましょうか?」と言う気概を見せるべきだったのかもしれないが、自分の妹がNTRされてると勘違いした挙句にそのシチュエーションの妄想にふけってはぁはぁと息を巻くお姉さんに俺はその言葉は掛けられなかった。
鈴谷との所を助けられ、後始末まで手伝ってもらった挙句、何時の間にか代金まで払ってもらってここまでならそれこそ天使のような存在だと思えるし、感謝しても仕切れない程だ。しかし、まさかのNTRフェチ宣言をされた挙句、俺の抱いていたお姉さん像を木っ端微塵にする程の残念ぶりを見せられ、こちらとしては戸惑うほかに無い。
結局残された俺と鈴谷は、ファミレスを出た後も誰も居ない夜道を並んで歩く。
「先輩、今日はありがとうございました」
「仕方なくやっただけだ。勘違いするな」
「そんなふうに強気に振舞ってくれる先輩も素敵ですよぉ~」
「黙れっての」
相変わらず馴れ馴れしく体を摺り寄せてくる鈴谷を手で押しのけながら、俺は本題の話を切り出す。
「こっちは言われたとおりやってやったんだ。今度はそっちの番だぞ」
「分かってますよー! それじゃあ今日の朝、先輩のお宅にお邪魔しますね。そこで笹原先輩の事をお話します」
「おいちょっと待て。別に家に来なくても良いだろう」
この期に及んでどうして俺の家を知ってるんだ、なんて徒労でしかない問いかけをするつもりはないが、かと言ってこいつに俺の家まで侵入させるなんてあまりにリスキーな事を容認するなんて今の俺には無理だ。
「先輩の部屋の中じゃないと話しません」
「さり気なく部屋の中まで入ろうとしてんじゃねえよ!」
「だって先輩の部屋ですし?」
「何を当たり前じゃないですか? みたいな顔してんだ。全然その感性がわかんねぇよ」
「別に良いじゃないですか。減るものでも有りませんし」
「俺の平和的な日常は刻一刻と消滅してるけどな」
果たしてこのやり取りに意味はあるのだろうか。
俺は頭痛に苛まれ、思わず頭を押さえる。
こいつには最初から最後まで本当に振り回されっぱなしだ。今後のことを思えばため息が漏れる。
「それじゃあ先輩! また朝に~」
「あ、おいこら!」
鈴谷はふっと体を離すと、にひっと笑いながらステップを踏んで十字路を右に曲がっていく。因みに俺の家は左の方なので、こいつとはここで別れることになるのだが、何時の間にか俺の家にあいつが来ることになってしまったまま奴は闇夜に消えていってしまった。
「……はぁ」
俺はまた大きく息を吐き出し、どっと肩を押す疲れに足取りを重くされながら、とぼとぼと家へと向かった。
「ん、ん~……」
次の日。俺は気が付けば、自室のベッドで横になっていた。
「あぁ、俺、やっぱ寝ちまったのか」
寝起きの頭をかきまわし、あれからの事を思い出す。どうやら俺は家に帰ってから、そのまま直ぐに寝てしまったようだ。見ると服装も昨日のままで、本当に気絶するように寝てしまったらしい。
「ま、あれだけトラブルがあれば無理もないよな……」
この二日間で俺はこれまでの人生でも類を見ない経験を幾度もこなしてしまったわけだ。そりゃ体も心も疲れる。
と、ここで俺はふと、自分の耳になにやら電子音が届いていることに気が付いた。
壁にかけられた時計を見ると、時間は午前の10時で随分と遅い寝起きになってしまったようだが、そんな俺をたたき起こしたのがその電子音らしい。
「今度はなんだ?」
俺は音の鳴る方へと近寄ってみる。するとどうやら机の上にある物がそうらしい。
ベッドから立ち上がってそちらに目をやると、机の上では見慣れないスマホが『ピピピピピッ』と
「綾子のか? でもあいつのとは少し違うしな。……あぁ」
そこで俺は、はっと昨日に笹原が操作していたスマホの事を思い出す。そうだ。これは、あの時に笹原が触っていたスマホと同じ物だ。
「つうことはあいつ、スマホ忘れていったのか」
まあ返る時は全裸だったし無理もないか。なんて淡々と内心で突っ込こむが、だがそれよりもこのスマホはどうすれば良いのか。
画面を見ると、どうやら電話の着信が来ているらしい。だが人様の電話を勝手に取るわけにもいかないしな。
「……ん?」
と、よく見ると画面の下に『自宅』と表示されている。
自宅、と言うことは、笹原の家からと言うことだろうか。
「…………」
ピッ、と、俺はスマホを手に取りスマホの通話ボタンを押して耳に当てる。
『あ、前田君? 良かった、やっぱり前田君の家にあったみたい』
「笹原か?」
『あ、うん。そうだよ。起きたら携帯が無かったから、もしかしたらそっちに置いてきちゃったのかもって』
「あぁ、こいつなら机の上に置いてあったぞ」
『ごめんね、私、前田君の家に忘れちゃってたみたい』
「別に謝るほどのことでもないぞ」
電話越しにそう言うと、なんだかボソボソと擦れるような音がする。あいつ、毛布でも被りながら話してるのか。
『あ、あのね。それとほら、昨日お別れする時に話した事なんだけど……、その、明日も付き合ってくれるって話』
「あ? あ、あぁ……」
『前田君の家も携帯の番号も知らなくて、どうやって連絡取ろうかなって迷ってて……。私から前田君の家に行くのも、その、難しいし……』
そう言えばまだ笹原には連絡先を教えてなかったな。
どうやら笹原はスマホを家に置いてきたことを思い出して、自宅からスマホを通して俺に連絡する事にしたらしい。笹原も意外とそういう機転は利くんだなと少し驚く。
『スマホは置いてきちゃったけど、でもけっかおーらいだよね! ねぇ、前田君。今日はどうすれば良いのかな?』
「今日なんだが、別の予定が入ってな。だから、お前と会うのはまた後日になりそうなんだ」
『え……? あ、うん。用事ができちゃったんだったら仕方ないよね……、うん』
「なんならスマホだけでも今から届けに行くが」
『あ、大丈夫だよ! それにこれからも前田君とは連絡取らなきゃだし、それは前田君の部屋においておいて貰えると助かるかも』
「良いのか? 結構大事なもんだろ、こういうのって」
『大丈夫だよ。前田君なら悪いことには使わないと思うし、それに私って、ほら。引きこもりだから。家に居る時はほとんどパソコンだし』
「そ、そうか」
『それじゃあまたね! 携帯に私の家の番号は入ってるから。また電話してね」
プツン、とそこで向こうから電話が切れる。
「……まぁ、仕方ないよな」
笹原との予定は決めていたものではない。俺も一応、あの日は気が乗ればと言ってある。それに優先順位としてはやはり鈴谷から話を聞く方がどうしても高くなってしまう。
だがそれにしても、スマホを人に預けるってあいつも無用心じゃないか? これってかなり個人情報とか入ってるだろうし。
そこまであいつに信用されるようなことをした覚えは無いが、兎も角として、俺はこの後の予定を着々とこなしていくしかないんだろうな。
『お兄ちゃん、電話だよ! お兄ちゃん、電話だよ!』
っと、今度は俺のスマホか。
どうやらこちらにも着信が来てるようだが、知らない番号だな。
……嫌な予感はするが。
『せんぱーい! 今先輩の家の前に居るんですけどー!」
やっぱりか。
「それで?」
『それでは酷いじゃないですかー! 約束どおり来たんですから、入れてくださーい!』
俺としてはそんな約束を許した覚えは無いのだが、ここでムキになっても何も良いことはないんだろうな。
「分かった。玄関開けに行くから待ってろ」
『はーい!!』
俺はスマホを机に置いた後、部屋の扉を開けて階段を降りる。
「あれ、兄ちゃん?」
と、そこで脱衣所のほうから出てきた妹とばったり出くわした。
「どうしたの? お出かけ?」
「違う違う。ちょっと客が来るだけだ」
「客って?」
「あー。なんて言うかな」
あいつの事をなんと説明して良いのか分からず、俺は取り合えず適当に答える。
「まあ、なんだ。お兄ちゃんの……友達だよ」
俺のはっきりしない物言いに?マークを作って首をかしげる妹。
「兄ちゃんの友達って何?」
「おいおい我が妹よ。勝手にお兄ちゃんの友達と言う概念を頭から消し去らないでくれ」
妹ながらその辛辣な思考はいったいどこで学んでしまったのか。お兄ちゃん凄く悲しいぞ。
「……あぁ!そういう事!」
「そうそう。そういうこと」
「兄ちゃん、今から虫集めに行くんだね!」
「いやなんでだよ!?」
「だって、兄ちゃんの友達って虫くらいしか思いつかなかったし」
「虫が友達だった事なんて一度も無いんだがっ!!」
「あひゃひゃひゃひゃ!! ごめんごめん冗談だってば!」
朝から楽しそうに笑う妹に、俺はなんとも言えない顔になる。
まあ、こんなこんなふうに妹とのじゃれあいも日常の光景ではあるのだが、今日に限ってはそんな場合でもないからな。なにせ先に片付けてしまいたい事が山積みだ。
俺はそのまま階段を最後まで下りて、綾子の横を通り過ぎて玄関へ向かう。
「……って、どうして後ろに付いて来るんだ」
「え? だって兄ちゃんの友達ってどんな人か見てみたいし」
「良いからさっさと部活の準備でもしてろよ」
「今日の部活お昼からだもーん!」
ピンポーン。
と、ここで俺を催促するように呼び鈴が鳴る。あいつ、待ってろって言ったのに、まったく……。
「はいはーい!」
「あ、こら!」
流石運動部と言うか、俺よりも数段早く反応した綾子が玄関へと飛び出していく。
やっぱり、なんだか今日は嫌な予感しかしない。