※この作品はR-18です。

ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか?   作:わずみかん

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第29話

 鈴谷と笹原の父親が同じ……? 

 それも母親は笹原の親父さんの不倫相手だと……?

 

「先輩、どうかお願いします」

「すず、たに……!?」

 

 すると鈴谷は唐突に頭を下げ、指を床に三角にして着き、背中を丸々と曲げた。

 

「どうか、笹原先輩を助けて下さい」

「お、おま、どういうつもりだよ……!」

 

 それは誰が見ようと一目瞭然な、完璧な土下座の姿勢だ。

 

「私の代わりに、笹原先輩を助けて下さい。先輩」

 

 笹原を助けろだと……? どうしてこいつがそんな事を……!

 

「笹原先輩を壊してしまったのは、そのトラウマを植えつけてしまったのは、私の母のせいなんです。だから、娘の私はそのけじめをつけないといけないんです」

「お、おいおい!! ちょっと待てよ!! 昨晩とは全然話が違うじゃねえか!!」

 

 こいつが俺に接触してきたのは鈴谷が俺のストーカーだからじゃなかったのか? それはこいつ本人が言っていたことだし、なにより今日は笹原のトラウマを餌にこいつは俺を自分の飼い主に仕立て上げようとしていたんじゃなかったのか。

 

 それが、それがいったいどうしてこんな話になる!

 

「…………」

 

 鈴谷はただ無言のまま、その額を床に擦り付けた。

 

 つまり、これがこいつの端っからの目的だったという事か? 自分の母親が笹原のトラウマ原因だから、その責任を感じて……?

 

「……いや、違う」

 

 そうじゃない。きっと、そうじゃない。

 俺はこの目の前の鈴谷を見てそれを悟る。

 

 この俺の目の前で恥も外聞も無く土下座し、懇願する少女は、昨日までのあの鈴谷とはまるで別人のようだった。

 

 自由気ままで自分の目的のためなら手段を選ばない。鈴谷には、そんな常軌を逸した雰囲気を感じていた。だが、今のこいつにあるのは、ただただ弱々しいたった一人の女子の姿だ。

 

「……きっちり説明しろよ。どういうつもりなんだ」

「先輩。信じてもらえないかもしれませんけど、私も本気だったんです。本気で、先輩を好きになっちゃったんです」

「分からねぇよ。どうして俺にそこまで固執するんだ」

 

 俺はやはり理解に苦しむ。手で頭の上を軽く掻き回すが、それで頭の中まで整理されるはずもなく、俺はただ鈴谷へと目をやった。

 

「初めは、そんなつもりは無かったんです。私のせいで不幸になってしまった笹原先輩に、どんな形でも良いから罪滅ぼしがしたいって、そう思ってこっそり同じ学校へ入学しました。でも、そこで先輩を見つけてしまって、それからもう、罪滅ぼしも何もかもどうでも良くなるくらい頭の中が先輩の事でいっぱいになって」

 

 でも、と、鈴谷はそのか細い声で続ける。

 

「先輩が笹原先輩の家に行って、そこで笹原先輩と約束をした時、やっぱり思っちゃったんです。これは運命なんだって、きっと私が自分の罪を償うチャンスなんだって。もう、そうするしか無いんだって」

 

 鈴谷はそう言うと、伏せていた顔をゆっくりとこちらへ向ける。

 

 その表情はとても直視できるようなものではなかった。目元は疲れ切ったようにくすみ、髪はまるで額から流血しているかのようにその顔の上からあちこちへ流れていく。唇の色は青く濁り、そのどこにもまともに生きる人間の気配は感じられなかった。あるのはただ、生きる辛さと苦しみに溺れた人間の顔だ。

 

 まるで仮面を剥がしたかのように露になるその顔に俺は怯む。こいつは、いったい今までどれだけの罪の意識を抱えながら生きてきたのか。そして、どうしてそれが昨日には現れなかったのか。

 

「先輩は、本当に本当に、私の希望だったんです。生きる希望で、だけど、そんな先輩と笹原先輩が出会ったとき、私は気付きました。これは自分への罰なんだって。すべき事も何もかもを忘れようとして、先輩に夢中になっていた自分への罰なんだって、そう思ったんです。でも―」

 

 そうか。

 それが、こいつの本心か。

 

 俺は鈍いながらに、鈴谷真昼と言う人間の感情を読み取ろうとする。そしてその一部だけだが、俺の中で理解できるものがあった。

 

 こいつは、鈴谷は、笹原への罪の責任感から同じ学校へ行き、そしてそいつを果たそうとした。だが、どうやら俺という存在がそれを邪魔してしまったらしい。

 

 こいつの中で俺という人間が何者なのか、そんなもんはこっちが聞きたいくらいだが、ともかくこいつの中で俺はそういう存在だったらしかった。しかし、そんな俺が償うべき相手と接触し、あまつさえ露出プレイにまで加担した事実と、その上、俺は笹原のトラウマを解消しようとした。それが笹原へは罪の意識と、そして俺に特別な感情を抱いていた鈴谷にとって、耐えられない事だったのかもしれない。

 

「私は、私は……! もう、どうして良いのか分からなかったんです。最初は、ただ笹原先輩の事と私の事を話して、それで先輩に笹原先輩のことを少しでも助けてもらえればって、そう思ってたんです。でも、でも……! やっぱり、私はどうしようもなく醜い人間だったみたいです。先輩を前にすると、どうしても我慢できなくなっちゃいました」

 

 鈴谷はそう言うと、ふっと唇と瞼を緩ませる。だがそいつは笑みなんかではなく、ただ自責の念で押しつぶされようとしている人間の断末魔だった。

 

「普通の女の子として先輩と話したい。そして先輩に私を無茶苦茶にして欲しい。この話をする前なら、まだそんな奇跡みたいな事が許されるんじゃないかって、そう思ってしまいました。だから、昨日の私は最低です。本当に、最低な事をしてしまいました。笹原先輩と先輩の関係を知りながら、自分の事すら棚に上げて、私は……!」

 

 鈴谷は涙を流す事も、その表情を苦痛に歪ませる事もせず、ただただ虚ろな目でぼやけるように俺を眺めた。

 そうか、つまり、そういうことだったのか。

 

「お前はどうしたいんだ。鈴谷」

「私は……私には、もう先輩にも笹原先輩にも、顔を見せる資格はありません。夏休みが明ける前に転校して――」

「そうじゃねえだろ」

「…………え?」

 

 俺の言葉に、鈴谷はきょとんとした顔をする。

 

「そうじゃ、ねえだろ。鈴谷」

「先……輩?」

「お前はそうじゃねえだろ? だいたいなんだよ、償いとか罪とかって。別にお前が悪い訳でもなんでもねえじゃねえか。それをいちいち根に持って、お前は馬鹿か」

「で、でも……、私は……」

「良いか良く聞けよこの馬鹿野郎。いい加減その似合わねえ面は止めちまえっての」

 

 今のこいつは、仮面を剥がしたのではない。むしろ逆に、呪いの仮面を付けてしまった不幸な人間なのではないか。

 

 と、そう思ってしまった時点で、俺にはもう一つの感情が芽生える。

 鈴谷真昼。そして笹原カンナ。

 この二人に俺は、やはり人間として決定的な何かを変えられてしまったのかもしれない。

 

「鈴谷、よく聞けよ」

 

 俺はこれから、これまでの人生で一番〝俺らしくない〟事をしようとしている。

 だが、どうしてだか分からないが、そうしなきゃいけないというか、そうしても良いんじゃないかって気がしてくる。

 ……あぁ、分かってるよ。本当に馬鹿なのは、俺の方なんだよな。

 

「お前の母親と笹原の父親が不倫して、それが笹原のトラウマだと? あぁクソだよそんなもんは。クソみたいに汚いし、醜いし、あっちゃならない事だよ。笹原っつぅ一人の女子がこれ以上無いくらい傷ついて、不幸な事だよ。でもな、お前はどうなんだよ。お前だってそこまで苦しんで、悩んで、それから罪と戦って、それが本当の幸せなのかよ」

「先輩、どうして……」

「どうしてもへったくれもねえ!! 俺はな、俺は、そうやって自分勝手に不幸になる奴が大嫌いなんだよ。お前のこともだ。ファミレスじゃあ無茶な事につき合わされたし、ストーカーだし何考えてるかも分からんねぇし……。でもな、それでもお前は、お前はきっと悪くねえよ」

 

 俺はその心の中に溜まっていたヘドロを掻き出すように、そう口走った。

 

 鈴谷は自分の母親や親父のことまで全部抱えて、たった一人で罪に抗おうとした。だけどきっとそうじゃないんだ。確かに俺は部外者だ。知らないことだって多いし、鈴谷とも笹原とも深く関わってきたわけじゃない。だけど、それでも……!

 

 こいつが償わなきゃいけない罪なんて、あるはずが無い。そう思ったんだ。

 

「あのファミレスでのお前がお前だって言うんなら、それで良いじゃないか。だから任せちまえよ、俺に。全部任せちまえ。あいつの事は、俺が何とかしてやるから」

「でも、先輩……私は……」

 

 鈴谷は随分と戸惑っているようだ。おそらく、自分が思っていた俺の反応とは随分違っていたのだろう。

 

 自分の正体を告白して罵倒されると思ったのか、それとも(さげす)まれると思っていたのか知らないが、だがこいつの耳に俺の言葉が届いてるなら、それでも構わない。

 

「だから、もうお前はお前のままで良いんだ。それが醜い人間だろうが関係ない。お前はそんな面を下げる必要なんてねえよ。少なくともお前が俺の『飼い犬』になりてえっつうんなら、俺がそんな事はさせない」

「…………せん、ぱい」

 

 どうしてそんな事を言ってしまったのか、俺にも分からない。だが、何故だか急にこいつの顔が見てられなくなった。

 

 それが笹原に関わる問題だからか、それとも純粋に同情心が沸いたのか。どちらにせよ、俺は決めてしまった。

 こうなったら、こいつらにとことん付き合ってやると。

 

「…………やっぱり、先輩はずるいですね」

 

 そう言うと鈴谷は一粒だけ、目から涙を零す。それから直ぐに、こちらへにっと笑みを見せた。

 

「分かりました、先輩。それに私は先輩の性奴隷になるんですもんね。ご主人様の命令には、絶対ですから」

「……今は、そういう事にしといてやるよ」

 

 俺はこのたったの数分の間に、こいつの中を随分と覗かされたような気分になる。

 

 そいつがどう影響してこうなったのか、どんなロジックが働いてそうなったのか。それは説明できないだろうけど、それでも不思議と俺はこいつの言葉や感情に、嘘は無いと思えてしまった。

 

 だからこそ俺の方こそ馬鹿みたいに正直に、そいつを受け止めてしまったのだ。

 

「じゃあ早速、残ってるもんを片付けに行くぞ。お前にも付き合って貰うからな」

「片付け……ですか?」

「ああ」

 

 俺はそう言って鈴谷へと手を伸ばす。すると鈴谷は条件反射にその手を掴もうとして、少しだけ迷って、そして最後に、俺の手を握り締めた。

 

 笹原と鈴谷、か。まったく、とんだ厄介事に巻き込まれたもんだ。

 だが、俺は俺ですべき事ができてしまった。そしてそいつを完遂する事もまた、俺にとっては自分の信条だったりするのだ。

 

「今から笹原の家に行く。お前と笹原の事も全部、今日で決着を着けてやろうぜ」

 

 俺はその手を引っ張って、鈴谷を立たせる。

 

「先輩は、本当に鬼畜ですね。あんな話をしたのに、私を笹原先輩のところへ連れて行くんですか?」

「どうするかはお前の自由だよ。けど、お前は自分を無茶苦茶にしてくれる奴が好みなんじゃなかったか?」

「……ふふ、そうでした。良いですよ、煮るなり焼くなり、私を好きに壊して下さい。最後まで、お付き合いしますから」

 

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