ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
俺は鈴谷の手を引いて、階段を降りる。
「あれ、兄ちゃん?」
「綾子、すまんが今から出かけてくる。帰りは遅くなるかもしれないから母さんに言っといてくれ」
「う、うん。それは分かったけど兄ちゃん、え……?」
妹は何故か驚いたように俺達を見た後、ぽかーんと口を開く。
「兄ちゃん、その手……」
「ほら、行くぞ鈴谷」
「せ、先輩ぃ~! 力強い先輩も素敵ですっ!」
玄関のドアノブに手をかけ、俺は外へと足を踏み出す。
これで良いのか、それとも悪いのか。危険なのか、リスクがあるのか。そんな事はもう頭の中にすら過らない。今までなら意識していたはずのそれらが、今ではどうでも良くなっていた。
気が付けば一歩一歩、笹原の家に向かって着々と踏み進めている。我ながら驚いたのは、その足取りに一切の躊躇いが無かった事だ。
人の人生の、それも家族が関わるような深刻な問題にまで首を突っ込む。究極に面倒事のはずだが、俺は今、それに自ら飛び込もうとしている。
面倒屋。それが自分の個性だとずっと思っていた。だがどうやら一時的にせよ、それがぶっ壊されようとしているのかもしれない。
しかし……。俺は鈴谷の手を引きながら、小さく、ほんの小さくだが笑みを零す。自分の中の何かが崩されていく様子を心のどこかで楽しんでいるような、俺は言葉では言い表せない、そんな高揚感を抱いていた。
「先輩、でも私を笹原先輩の家に連れて行ってどうするつもりなんですか? 笹原先輩は私のこと、まだ知らないはずですけど……」
「まあ、何とかなるだろ」
「先輩もしかして策なしですか!?」
「んなもん直ぐに思い付くかよ! でもじっとしてたって何も始まらないだろ?」
「そんな、少年漫画の主人公みたいな台詞ですけど実際は無謀って事じゃないですか! でも私は、はぁ……はぁ……いったいどんなふうに無様な扱いを受けてしまうのでしょう……」
「お前はお前でいい加減にしろ!」
まったく、さっきまでのシリアスな雰囲気はなんだったんだ。
「……でも、私嬉しかったです。先輩が、そのままの私で良いって言ってくれた事」
「あんなもんはその場の勢いだ」
「そんな!? あぁ、でもそんな先輩の辛辣な言葉もまた……」
「お前は本当にいったいなんなの!?」
なんて鈴谷としょうもない話をしているうちに、俺達は笹原の家の前にやってくる。
そいつはこれまで何度か見た住宅の
「まるでラストダンジョンに挑む冒険者の気分だ」
「先輩、そう言う冗談も言うんですね」
「俺だってこれでも緊張してんだよ。少しは心を和ませようと必死なんだ」
「そうなんですかぁ~? なんなら私が先輩の下半身まで全部緩々に和ませてあげますけどぉ~?」
こいつ立ち直り早すぎだろ!!
「……お前の方こそ大丈夫なのか」
「心配していただいてありがとうございます。でも、私は先輩が言って下さるなら、それだけで十分です」
「……そうか」
思えばこの場ではこいつこそが一番恐ろしいはずだ。笹原にとって自分の父親がトラウマのように、鈴谷にとってはこの笹原の家こそがトラウマなのだろうから。
それでも俺と一緒にここまで来るのだから、それなりに敬意を持てる部分もあるのかもしれない。
「そうですねぇー……。先輩に『一週間洗ってない足裏をその舌で綺麗に舐め取りやがれ豚野郎』なんて言っていただいた日には私……あぁー……」
ダメだこいつ。
つうか一瞬でもそんな事を思った俺が間違いだったのか……?
「はいはい……。んじゃ、インターホン押すぞ」
「はい。どうかお願いします。先輩」
俺は鈴谷の方へ一度目をやり、その表情を見つめる。
そこに有ったのは、先ほどまでとは違う、あのファミレスで見た鈴谷の表情だった。
俺はその顔にどこか安心して、それからゆっくりとインターホンに被せた指先に力を入れる。
『ピンポーン』
その音が鳴り響き、そしてしばらく経って、玄関の扉に人影が浮かび上がった。
「はーい?」
玄関の扉の隙間からひょこっと現れる黒い髪。そいつは主人と同様にぴこぴこと跳ねるように揺れる。
「あれ、前田君……?」
笹原カンナ。そいつは俺の顔を見て、「?」と首をくねらせる。
「今日は来れなくなったんじゃ……?」
「っ!!」
後ろで鈴谷がビクンと体を振るわせた。だが、その気持ちは察せられる。
そりゃ怖いに決まっている。鈴谷にとって、笹原は最も罪悪感のある人間なのだから。
鈴谷は笹原の親父さんが別の女性との間に作った子だ。その正体を知れば、笹原は鈴谷に何を思うのか。想像しただけで、鈴谷は震えが止まらなくなるだろう。
「さて、これからどうしたものか」
俺は武者震いにも似た笑みを零す。鈴谷と笹原。この二人の女の子を、俺はこれから解決へと導かなければならないのだ。