ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
笹原の表情は恥辱で歪められ、ぎゅっと結んだ唇はふるふると震えている。真っ赤に染まった頬と、瞳からは微かに涙を零す。
「野外……セックス……?」
俺は思わず笹原の言葉をオウム返しにする。
笹原はやはりとてつもなく恥ずかしそうで、逃げ出したくなるのを必死で抑えているようで、その心境は悶絶するかのような顔が物語っている。
「セックスって、まさか」
「その……、ね」
これには鈴谷もぽかんと呆気に取られた顔をしている。だが俺からの視線に気付くと、すぐに「はっ!?」と何時ものにやっとした笑みに戻したが、それでも無理やり作ってる感じが半端じゃない。
鈴谷のこの顔は実はかなり貴重なんじゃないかと思う俺だったが、それを言うなら笹原だってそうだろな。笹原はこれまで社会から抹消されかねないような痴態を晒してきたけれど、例えばバイブローターを使ったり、全裸で夜の散歩をしたり……。でも、その時にだってここまでの顔をした事がなかった。
自分の裸を晒す行為よりも笹原にとっては耐え難い感情がある、と言うことだろうか。いやそれにしても、こいつの感覚がそもそも他とは掛け離れているから俺にはあまり想像できないけれど。だとしたら笹原が今感じている恥ずかしさってなんだ……?
「その、どうかな……?」
「ほえ?」
いかん!! つい情けない声が出てしまった。
なんとか頭を落ち着かせようとあれこれ思考を回してみたが、どうやら笹原の言葉を直球で受け止めるには俺の思春期な器ではあまりに脆いらしい。
しかし、その、笹原の言った言葉を額面どおりに受け取るのなら、つまりこいつは俺にこう言ったのだ。
自分と、セックスして欲しいと。
「ぐふっ!」
「大丈夫ですか先輩」
咳き込む俺を鈴谷が笑いながら介抱する。つうかこいつ良くこの状況で笑えるな。
そりゃ、これまでにだって笹原の無理難題には散々つき合わされてきた。笹原にバイブローターを装着したり、露出行為に同行したり、他にはその……、フェラされたりとか、オナニーを見せられたりとか、色々だ。そりゃこれだって一般的な高校生がしていいようなものじゃないと思う。極めて不健全だし、付き合ってもいない女子の胸や陰部を見るなんて、普通じゃ考えられないだろう。
だが、それでもだ。俺はこれまで、最後の一線は踏み越えなかった。それは鈴谷に対しても同じである。
だが今回の笹原の要求はその一線を飛び越えるもので、つまるところ、俺のキャパシティを大きく超えるものでもある。
と言うか、彼女の居たためしがない俺は勿論セックスなんてしたことがないわけで、いやその、エロい動画とかでなら……。でも、まさかそんな体験をここまで早々に自分に課せられるなんて思ってもみていない。
「だ、大丈夫……? 前田君」
は、しっかりしろ俺!! 頭をボーっとさせてる場合じゃない。
「あのね、その、私なんかじゃ前田君のお相手に相応しいなんて、思ってないんだけどね……」
笹原はもじもじと腰をくねらせながら、手の指を合わせてこちらをちらちらと見てくる。
「もしかしたらその、ね? 私が男の人に近づけなくなったのは、やっぱりお父さんと真昼さんのお母さんの事が有ってだと思うんだ」
「そ、そうか。うん、それはそう、だろうな、きっと」
今にしてみれば分かりきってることにも関わらず、やはり精神が揺さぶられてるせいで受け答えもどこかぎこちない。
そんな自分に情けなさを感じつつも、俺は自分の思考を取り戻す意味合いもこめて、笹原に言葉を返す。
「そ、それでどうしてセッ……セックスなんだ。と言うか俺なんだ」
「それはね。私が思うところになんだけど……。お父さんと同じ気持ちっていうのかな。少しは理解できたら、この症状も和らぐのかなって」
「同じ気持ち?」
「う、うん。だから、前田君にお願いしたい事っていうのはね。お父さんの居た公園で、その同じ場所で、私とセ、セックスして欲しいんだ」
「同じ公園の同じ場所で野外プレイ……ね、あぁ、なるほど」
確かにそのシチュエーションなら笹原の親父さんの気持ち、というよりも気持ち良さは経験できるかもしれないな。
って馬鹿か!! そうじゃないだろ!!
「いやいや!! それだとしてもどうして俺なんだよ!? 俺達、つい二日前に会った所なんだぞ!?」
こいつはさっきああ言ったが、俺からすればどうして俺なんだと言うのが疑問でしかない。だって笹原は間違いなく美少女だ。相手なんて選び放題のはずだし、仮に外に出れないって言ったって、今時はネットやなんかも流行ってるんだ。顔が良いイケメンならそこらへんの掲示板にでも募集すれば幾らでも食いついてくるだろう。
それに比べて俺はお世辞にも顔が良いとは言えない。それこそライトノベル主人公が自称するような中の中といったところだろう。目つきの悪さを踏まえれば、もしかしたらそれ以下かもしれないが……。しかもラノベと違って俺は間違いなく中の中なのだ。奴らはそうは言っても表紙や挿絵なんかじゃそれなりの好青年に描かれるが、そんなラノベ主人公とは違って、俺はこの現実世界での正真正銘のどこにでも居るただの高校生なのである。
特技も無し。成績も良くない。おまけに面倒くさがりで、それで居てこの性格だ。世の中の女子から好かれるようそなんて一切ないはずだ。
「先輩。私は先輩のこと、素敵な人だと思いますよ」
「だからお前は人の心の中を覗くんじゃねえよ!?」
鈴谷は悪戯に舌を出すと、ふいっとそっぽを向く。
くそ、思ってみればこいつもこいつでどうして俺だったんだか……。そう言えばまだ理由を聞いてない気がするが。
「やっぱり、ダメ、かな……?」
「いや、その……」
そんな事いきなり言われても困る!!
ってのが正直な心境だ。しかし―。
俺は頭でそいつを否定しようとしても、YES/NOの選択肢でそもそもNOを選ぶことができない。そういう風にできている。相変わらず厄介な体質だ……。
これが『約束を守る為に必要な行為』であり、しかも有効な方法だと俺の方で納得してしまっている。だからこそ、俺はこいつが望むなら、それをつっぱねることなんてできない。
「――聞かせてくれ。お前は俺で良いのか」
「う、うん!! というか、前田君が良いっていうか……」
「……?」
最後の方がやっぱりボソボソ声で聞き取れなかったが、しかしこいつも相当な無茶をするな。
いくら自分のトラウマと向き合うためとは言え、会ったばかりの男子と性行為をしようってんだから。
「どうするんですか、先輩? とはいっても、既に答えは見えてるようなものですけれどね」
鈴谷が茶化すようにそう言う。
「お前は、良いのかよ」
「何がです?」
「……いや、なんでもない」
俺が笹原と野外セックスなんてして、お前は良いのか。と、そう聞こうとしたが、あまりにも無粋過ぎるので一度はぐらかされてしまえばそれ以上聞くことなんてできない。
そもそもそんな質問自体が傲慢もいい所だ。俺は何時からハーレム系主人公になったんだ? 鈴谷の過去が払拭されて、残りは笹原の問題を解決する。それで俺の役目は終わりのはずだ。
「真昼さんもごめんね。急に変な話しちゃって」
「いえいえ、大丈夫ですよ。私ももう、決めましたから」
「決めた? 何をだよ」
「私はお二人の仲を全力で応援します。だから、必要な時は頼ってください。見張りとか、3P要因とか。あ、でも3Pする時は絶対に呼んで下さいね! ペニスバンドで両穴ほじられたりとか、逆にダブルフェラとかおマ〇コサンドとか――」
「はいはいもう良いから。お前はしばらくだまっとけ」
「はひぃっ!」
こいつ、エンジンかかるととことん突っ走るタイプだなやっぱ……。
「で、でね……。その、前田君が良かったらなんだけど」
笹原カンナ。こいつには驚かされてばかりだ。
だけど……。俺も俺で、そんな変人に興味を持ってしまったのも確かなのだ。
もしかしたらこいつには何かあるのかもしれない。灰色の青春ばかり求めてきた俺にとって、必要ななにかが。
すっかりピンク色に染められつつある俺の日常だが、しかし元の灰色に戻る為にも、俺はどうやらこの笹原と最後まで付き合う事になりそうだった。
「……わかった。お前との約束だ。それが必要なら、俺も覚悟を決めるよ」
「ほ、ホント!?」
すると笹原はぱぁっと顔を明るくさせる。そいつはまるで、テストで良い点が取れたとか、お気に入りの漫画の新作が発売されたとか、好みの喫茶店を見つけたとか、そんな日常的な喜びの表情だ。
やっぱりこいつと俺とでは、感覚が決定的にズレているのだと実感する。だが、もうそんな事は関係ないのかもしれない。
どれだけ笹原カンナと言う女子が変態で、露出狂で、暗い過去を持っていたとしても、俺はこいつに露出プレイをさせる。ただそれだけの約束を果たすために、今は居るのだから。
「そ、それじゃあ直ぐに準備するね!」
「準備?」
「うん、やっぱり色々と必要なものがあるから」
必要な物って、やっぱり。
いや、今は考えないようにしよう。こっちはそれどころじゃないし。
「はぁ……」
「やっぱり緊張しますか? 先輩」
「お前はそのにやけ面を止めろ」
「いやですよぉ。だってこんなに先輩が可愛い顔してるのに、にやけない方がおかしいんですって」
「この中で常識のある人間はどうやら俺だけみたいだな」
「分かりきってるくせに」
クソ、さっきから心臓がバクバクする。
本当に俺で大丈夫なのだろうか……。
「にしても、これであいつの事が無事に済めば良いんだけどな」
「きっと上手く行きますよ。私も笹原先輩も、同じように先輩を信じてますから」
どうやら俺は、今日になって守り続けてきた童貞を捨てる事になるらしかった。