ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
笹原との露出プレイ。
本来ならそこには緊張感があって、社会的な破滅が直ぐ傍に迫っている危機感があって、背徳感と言うか、それこそが露出プレイの醍醐味なのだと思う。
けれど今は不思議な安心感が俺達の間に満たされていた。
二人の中で何かが繋がっているかのような不思議な感覚。それは互いに結んだ掌からも感じられる。
笹原の吐息が聞こえる。直ぐ傍に笹原という存在が居る事が、その場の空間を静寂の中から切り離して、俺たちだけの物にしているかのようだった。
「なんだか、恥ずかしいね」
「何言ってんだよ? その為の露出プレイだろ」
「そ、それはそうなんだけど」
おかしなことを言うなと、俺は首を捻る。
「それと、今日は優しい前田君なんだね」
「悪いな。普段どおりで」
「うんとね、でも、私はこっちも嫌いじゃないよ。あっちの前田君もその、良かったけど」
そう言うと笹原はまた照れくさそうに頬に手を添える。
前々から思ってたが、こいつの場合は露出プレイを楽しむ露出狂としての一面以外にも、誰かから激しく責められたいというドM的な変態性もあるよな。
「人、来ないね」
「そうだな。まあこの時間だ。そうすれ違う事もないとは思うけどな」
俺達の住むこの町は、いわゆる衛星都市というやつだ。都心からは電車が数駅となりで、立地的にも人口は少なくない。だが同じ町の中でも土地柄というのだろうか。俺の自宅の近所とは違って、こちらは高級住宅街だけあって夜に出歩く人の姿は少ない。
「ちょっとだけ、物寂しいかも……ん、んふぁ……、ふっ、ぁ……」
隣では性的興奮に息をはぁはぁと荒げながら、快感に縛られた体をよじるように歩かせる笹原の姿がある。それを見て、俺の中でいかがわしい気持ちが生まれないと言えばそうではない。
けれど、少なくとも今はそんな笹原をただ見守る。露出プレイなんてしているにも関わらず、俺はこの空気を壊したくないと、そう思っていた。
「あのね、私の手、熱くない?」
「寧ろ恐ろしいくらい冷たいよ」
「体の方はこんなに火照ってるのにね。なんでだろう」
笹原はまたにっと笑う。
ふいに視線が笹原の顔から胸の谷間や股間部、太股へと移る。ほぼ晒された状態の柔肌は、アクセサリーを纏うようにローターでコーティングされて、男の欲情を刺激する。
「……いいよ。前田君になら、見られると興奮しちゃうから」
「別に。もう見慣れたなって思っただけだよ」
俺は嘘を吐いている。
自分でも分かる。なにせ俺の肉棒は、さっきからズボンを内側から擦るようにギンギンに盛っているのだ。それを、俺は強引に押さえ込んでいる。こんなところで勃起してるところなんて見られたら、また笹原に茶化されそうだ。
なんて、そんな事を気にしてもしょうがないんだけどな……。なにせ、これから俺達のやる事を考えれば、勃起がどうのなんて少しだけ遅れてやってくるだけのイベントに過ぎない。
俺達は今日、これから笹原の親父が鈴谷の母親と不倫セックスしていたと言う公園で、野外セックスするのだから。
「あのね、前田君」
「なんだよ?」
笹原から声がかかったので、何気ないふうに言葉を返す。
「前田君はどうしてここまで私に付き合ってくれるの?」
それは笹原なりの素朴な疑問だったのかもしれない。
「……そうだな。お前からは色々聞いちまったし、俺も話さないわけにはいかないか……。本当なら、誰にも知られたくなかったんだけどな」
頭の上で?マークを作る笹原に、俺は細い目を向けて言葉を続ける。
「俺は、何時からなのか分からないが、妙な体質を持っててさ。一度人と交わした約束は、何が有っても〝守らなきゃいけない〟。そんなふうに考えちまう妙な体質だ」
すると笹原は無言のまま「んー……」と唇に指を添えて、夜空を見上げる。
それが何を意味しての反応なのか分からない俺は、構わず話を続けた。
「だからお前としちまったもんは果たさなきゃならない。理由と言えば、それだけだよ」
「でもね。それって、私と初めから約束なんてしなかったら良かったんじゃないかな?」
「……まあ、そうだな」
「だったら、どうして前田君はあの時に私と約束してくれたの?」
笹原は少し嬉しそうに、頬を緩めて俺の顔を下から見上げる。
「それは――」
正直なところ、その時には俺にもよく理解できなかった。だが、今ならその答えがおぼろげだが言える気がする。
「俺は、ずっと灰色な青春を望んでいた。面倒な事のない淡々とした日々。それが俺の中で模範解答になってた。けど、お前を見たときに思ったことがあったんだと思う」
「思ったこと?」
「一言で言っちまえば、『自分の価値観を根本から超越してる得体の知れないもの』、かな」
俺の世界は灰色で良かった。
白と黒とグレーの世界。色彩の無い世界。それで良いと、俺は思っていた。
それは山も谷もない人生だ。ただひたすらに平坦な人生だ。俺は、ずっとそれを信条にして生きてきた、のだと思う。けど、笹原みたいな変人が居て、白も黒もグレーも、赤も緑も青も黄色も関係ない。混沌とした言い表せないような色。光や闇のような色。そいつを見出してしまった。
今の俺は、そいつを知りたいと思っている。
自分が触った事のない色。その世界、その人生。今まで守ってきたものが馬鹿馬鹿しくなって、全部放り投げてでも掴みに行って見たいと思うもの。
まあ、思春期らしい妄想なのかもしれない。本当はただ世間を知らないだけで、そんな俺が思い上がってただけの価値観なのかもしれない。それが少しおかしな連中に会って、ほんの少し世界が広がっただけのことなのかもしれない。
だけど、それでも俺が笹原に感じたものは、これまでの俺には絶対に見つけられないような風景を見ているような、そんな些細な動揺だった。
「……ふふ、ぷっ、あははは」
「なんだよ」
「前田君って、結構中二っぽい事も言うんだね」
「なっ!? はぁああ!?」
「だって、超越した得体の知れないものって、高校生が真顔で言うんだもん。ぷっ、くふふ」
「この、人が必死に頭ん中の少ない語彙を駆使して懸命に話したってのに」
「でも、なんだろうね。そんなところも含めて、私は前田君に助けられたのかな」
「? どういうことだよ」
「ふふ、内緒っ!」
「なんだよ、ったく」
俺達の会話も雰囲気も、まるで授業が終わった後の、学校からの帰り道のようだ。
この露出狂の女子が傍でとてつもなく卑猥で扇情的な格好をしているのに、制服でも着てるもんだと錯覚すら起こしそうになる。いやもうそう錯覚しそうだってところから、俺の思考はこいつにどっぷりと侵食されてるんだろうけれど。
とまぁ、そんな調子でしばらく歩くが、俺達の前や背中から歩いてくる人影は無い。ここから公園までは距離こそあるが、そこまで人の多い場所はあまり多くは無い。強いて言えば、公園の前にある商店街くらいだろうか。だが、そこにしてもこの時間だ。人の通りは皆無と言っても良いだろう。
どうやら俺達の野外露出は、今回に関しては何のトラブルも山場も無く終えそうである。
「このまま何事も無く行きそうだな」
「そう、かもしれないね。う、んふぅ……」
笹原は時折艶っぽい吐息を吐く。「あ、ぁ……」と性感部の刺激に嗚咽を漏らす。
成人男性恐怖症が為に外に出れない笹原だが、人に見られるというよりも、そもそもこうやって卑猥な格好で外に出る事そのものを感じているようだった。まあ、実際に見られる時があればそれはそれで感じてしまえるんだろうけど。
「もう少しだな」
俺達は闇夜の中で、ついにその公園の手前にあると言う商店街のアーケード、その入り口へとたどり着く。