ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
第45話
「部活がしたい!!」
夏休みの昼間。容赦なく陽の立つ常夏の今日は本当なら家でぐーたらゲームに耽るつもりだった。
「だから部活がしたいんだよ!?」
「だぁああああ!! うるせぇえ!!」
それがどうしてエアコンもない学校の辺鄙な空き部屋なんかで汗を垂らしているのか。原因は目の前で声を張り上げるこの元引きこもりに他ならない。
「部活ってなんだよ!! お前なにが言いたいわけ!?」
「先輩、笹原先輩は夏休みに青春がしたいんですよ」
「お前はお前でなに当たり前みたいに座ってるんだよ鈴谷!!」
「私もお呼び出しされちゃいましたので~」
あれから三日ほど経って、しばらく笹原からの音信が無いなぁなんて思っていた今日の朝。また目覚まし代わりにスマホからの着信で起こされた俺は、笹原から急遽この学校で半ば物置として使われている空き部屋の一つに呼び出された。
部屋、とは言っても普段俺達の使う教室ほどの広さは無い。精々その3分の1ほどの広さに、壁に沿って所狭しと置かれた棚にはもう使わなくなった資料がバインダーに挟まった状態で放置されていた。そしてその僅かな隙間を埋めるように、部屋の中央には事務机が四つ置かれている。
このなんとも不可思議な部屋は元々生徒会室として使われていたらしい。だが数年前にあった校舎の増設工事に伴い、生徒会室も移動して現在では埃を溜まらせるだけの場所となっていると言うわけだ。
校舎四階のそれも一番奥にあるこの教室にわざわざ来る人間は皆無で、このご時勢にエアコンも設置されていないせいか生徒達のたまり場としてすら使われず、ずっと放置されていたらしい。そんな場所にどういうわけで俺達は呼び出されたのか。問い詰めようとしたところでの笹原の言葉である。
「部活ってなぁ。そんなにやりたいなら今からでもどこかに入ればいいじゃないか」
「無理」
「なぜ? ほわぃ?」
「だって私、入りたい部活ないもん」
「だったら別にいいじゃねぇか。無理に部活なんてしなくても」
「やだやだ!! やりたいやりたい!!」
並べられた事務机の一つにちょこんと座る笹原だったが、そう言いながらぶんぶんと頭を振る。するとまるで水浴びした後の犬みたいに長い黒髪から笹原の汗が飛び散った。その水滴は容赦なく辺りに飛び散り、向かいに座る俺の額にも付着する。眉間にシワを寄せながらそいつを手で拭うと、今度は俺の隣に座る鈴谷がにやっとしながら顔を覗き込んできた。
「先輩ぃ~、美少女の汗の味はどうでした?」
「ただただ汚い」
「そんな!? 前田君それはそれで女の子には傷つく言葉だよ!?」
「だったら少しは大人しくしてろっての。ただでさえ猛烈に暑いんだからさ」
「そうですね~。エアコンもついてませんからね、この部屋」
と、鈴谷はそう言いながら凄くわざとらしく胸元を開けてみせた。
「ほら、おかげでこーんなに汗でびっしょりですし」
「見せんでいい」
「え~本当ですか? ほら、白いYシャツが透けてブラジャーにぴったり張り付いちゃってますよ? 胸の谷間だってほら、Yシャツ越しにこうやって」
学校に呼び出されたという事で、俺や鈴谷、笹原も制服姿だ。だがこの二人、何故かYシャツの下に何も着ていない。
鈴谷は狙ってやってるんだろうが、笹原まで黄緑色の玉模様のブラが透けてしまってる。あっちは天然でやってるんだろうな、多分……。
「ほらほら、先輩ぃ~! なんだったらブラジャー外しちゃいましょうか?」
「いらん」
「そんなことよりもだよ!! 部活、部活をやりたいの!」
じゃれついてくる鈴谷はまだにやにやとした口元のまま、ひとまずは俺から離れて笹原へと向き直る。
「笹原先輩、昨日からやりたいって言ってましたもんね」
「おいおい。今度はまたどうしたんだよ。何時もの5割り増しで面倒だぞあいつ」
「きっと昨日まで見ていたアニメに影響されちゃったんですよ」
「アニメ?」
「はい」
何故かにっこりと笑顔を見せる鈴谷を俺は汗がしみて細くなった目で見る。
「『もしも私達が軽音楽部だったら』って知らないですか? 略してもしおんっ! って言うんですけど」
「知ってるには知ってるが、あれ結構古いやつだぞ」
「そうなんですけど、実は私と笹原先輩で見てたんですよ、もしおん。もれなく映画版まで」
「はっ……?」
「なんと言いますか、折角の義姉妹なので仲良くしたいって笹原先輩にお誘いされちゃいまして。笹原先輩の部屋にお呼ばれされてお泊り会してたんですよ。そこで初めは二人でエッチな漫画やビデオのここが良い! みたいな話ですっごい盛り上がってたんですけど、ふと昔のアニメの話になりまして」
嬉しそうにそう話す鈴谷。だが、何? お泊り会? え、お前らもうそんな仲になってたの? っていうかパジャマパーティーでAVやらエロ漫画やらの話で盛り上げる女子高生とかもう色々間違ってるだろ。
っつうか、笹原から三日間も何もなかったのはそういうわけか。
「そこでたまたま私が持ってたDVDを二人で見ようって流れになったんです。それがもしおんっ!で」
「ちょ、ちょっと真昼ちゃん~!」
「笹原先輩、どっぷりハマってた様子なので、アニメのお話みたいに皆でわいわいやりたくなっちゃったんですよ。あ、やりたくなっちゃたと言うのは別に卑猥な意味じゃありませんよ。私的には先輩とやっちゃうのは全然歓迎ですが!」
「もうお前は黙れ……」
「そ、そんなんじゃないってば!」
頬を真っ赤に染めて笹原なりに否定するが、どうもこいつは嘘が下手と言うか。
つまりはアニメの影響で部活を始めたくなった笹原が、俺と鈴谷を呼んでそいつをやってみようとした、とまぁそんな流れか。またそりゃ……はた迷惑な話だな。
「今時に部活作って学校で騒ぎたいって……。ラノベみたいな発想だな」
「私は面白いアイデアだと思いますよ」
「つってもな鈴谷。まずなんの部活をするんだよ? しかも俺の記憶が正しければ、確か部活を始めるには4人必要で、その上に顧問と部室の確保がいるんだろ?」
「はい! そこでこちらを」
すると鈴谷は事務机に置いていた学生鞄から、二枚のプリントを取り出す。
「これは?」
そして物凄く嫌な予感を臭わせるそいつを、俺の方へと手渡した。
「この部屋の使用許可証と、朝倉先生の承認書類です」
「使用きょ、って、はい?」
そのプリント、そいつには確かに『401室を部室として使用を認可する』と書かれている。おまけにもう一枚のプリントには赤い判子の印まで押してあった。
というか鈴谷のこのフットワークの軽さと言うか、この行動力はいったいどうなってるんだ。俺のスマホに盗聴器をしかけてたって話を聞いた時にも感じたが、この手際の良さは尋常じゃない。
「って、しかも朝倉ってうちの担任じゃねえか!!」
「はい。部活動の顧問をお願いしたら、どうせサッカー部で学校に来るからって引き受けてくれました」
「また適当な……。どうせなんの部活かも確認してないんだろうな……」
「これで残りは人数の問題だけですね!」
満足げにピースする鈴谷。お前はいいから早く胸元を閉じるなりしてくれ。
「で、結局なんの部活をやるんだよ?」
「え、えっとね!」
笹原へと目を向けると、ワクワクとした顔で答える。
「露出部なんかどうかなって!」
「馬鹿か!? 馬鹿なのかやっぱり!!」
「私は良いアイデアだと思いますケド」
「いやお前が馬鹿なのはもう知ってる」
「先輩酷い! あぁ、でもそういう容赦のない所が好きです先輩ぃ~!」
はぁ……。
俺は今更ながら笹原の誘いにまんまと釣られてここまで来てしまったことを後悔する。
「ま、部活動の内容に関しては追々決めれば良いじゃないですか! ともかく後は人数さえ足りれば部活成立なんですから」
「あのな。よく考えろよ? そもそも何をするかも分からない部活にいったい誰を入れるってんだ。んなもんいくら誘ったところで入る奴なんて……」
あ、いや。
「どうしたんですか先輩?」
「……はぁ。分かったよ。人数に関しては俺がなんとかしてやる。ただこれっきりだ。こんな面倒事にいちいち巻き込まれてたら俺の身が持たないからな」
「やった、これで部活できるね真昼ちゃん!」
「そうですね笹原先輩。なにやります? 露出部がダメなら雌犬調教部とかにします?」
もうダメだこいつら。
「んじゃ、俺は当てのあるところに行って来るわ。つっても、期待はあんまりすんなよ」
「それにしてもいいんですか先輩? そんなに軽々しく『約束』しちゃっても」
「……だから、これで最後だ」
「もぅ、先輩もツンデレ屋さんなんですね~」
「誰がツンデレだよ!!」
荷物を持って部屋を出ると、笹原と真昼がこちらに手を振る。特に笹原は心の底から嬉しそうと言うか、まるで子供が親を見送るみたいな無邪気さがある。あれで露出部だとか言い出すんだから恐ろしい。
「何が部活だよ。絶対に碌なことにならねぇ」
とはぼやきつつも、結局はあいつらに協力してしまってる以上は何も言えないわけで……。
「そう言えばこれからは笹原を露出調教しなくちゃいけないんだよな。そんで終わったら今度は鈴谷の……。やっぱ部活なんてしてる場合じゃねぇな……」
とは言え、笹原の気持ちがわからないわけでもない。
あいつはトラウマが原因の男性恐怖症のせいで、7ヶ月以上も家の中に引きこもってた。男と鉢合わせるだけでゲロ塗れになっていた笹原だが、それがようやく少しマシになって、こうしてある程度外を出歩けるようになったんだ。あいつの性格からしてきっと猛烈にテンションが上がってるに違いない。
それに鈴谷ともああして仲良くやってるわけだし、今回ばかりは水を差すようなことはしないでおくか。つっても、結局そのツケを払うのは俺なんだが。
「それにしてもなんつう熱さだ。汗が止まらん」
下駄箱で靴に履き替え、俺はこのノリと勢いで結成されてしまいそうな部活へある誰かを誘いに向かう。
後はこれ以上面倒な事にならないよう、祈るばかりだ。