※この作品はR-18です。

ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか?   作:わずみかん

46 / 101
第46話

 汗をだらだらと流しながら俺が向かっているのは、別に特別な場所でも何でもなく、どちらかと言えば通い慣れた通学路だ。

 というのも、その心当たりというのは俺の自宅と同じ町内に有る。もっと言えば家から徒歩1分のところにあるただの一般住宅だ。

 

「正直気乗りはしないけど、しょうがない」

 

 その人物とは普段からあまり親しいわけではない。口数を多く交わしてるわけでもないし、赤の他人と紙一重と言ってもいい。そもそもただでさえ俺には知人や友人と呼べる人間は皆無だ。こんな訳の分からない部活に誘える人間なんてそう易々と居る筈が無い。

 

 だがそれでも目的地へ足を進めるのは、僅かばかりだが可能性があるからだ。

 俺の知る中で唯一の例外人物。俺と辛うじて面識があって、面倒事も快く承諾してくれそうな人がそこに居る。

 

「夏休みだし家には居るんだろうけど、問題はその後だな」

 

 心の準備をしていると、例の目的地である家の前へとたどり着く。

 

 外見はなんてこともない普通の民家だ。二階建てでベランダが有り、ベージュ色の塗装に赤い屋根。笹原のとこみたいに高級住宅なわけでもなく、だからといって古びているわけでもない。どこまでも普通の民家だ。

 

『ピンポーン』

 

 変に躊躇っていても時間が経つだけなので思い切って呼び鈴を押してみる。するとインターホンから返事が返ってくるよりも先に、ガチャリと玄関の扉が開いた。

 

「……ども」

「あら? 前田くんじゃない。珍しいわね」

 

 出てきたのは俺の唯一といっていい「顔なじみ」だ。

 

「今日はどうしたの? あ、もしかして例の話、引き受けてくれる気になってくれた?」

「いえ、それとは別件です」

「そうなの。いいわ、中にどうぞ」

 

 そう言うと扉をさらに大きく開き、その人は俺を招き入れる。

 

「それじゃあ遠慮なく……時宮先輩」

「まだ学校から帰ってきたばかりだから、制服のままでごめんね」

「いえ、こちらこそ急にすいません」

「それにしても何時ぶりかしら、前田くんの方から用事なんて」

 

 いや初めてだよ。

 と内心つっこみつつ、俺は時宮先輩の自宅へとあがらせてもらった。

 時宮(ときみや)穂乃花(ほのか)。俺の一つ上の先輩で、それから元生徒会長だ。

 

 成績優秀でスポーツもほどほど。何よりその外見はまさに生徒会長そのものと言って良い。

 黒くて長い髪は後ろで二つのお下げにして、かけている赤いメガネがトレードマーク。声は柔らかだが包容力があり、そしてどこか凛々しい。まさに漫画から飛び出てきたように生徒会長然としているのが時宮先輩だ。

 

 その外見から校内でも人気者で、特に地味な印象とは裏腹に平均を大きく超える胸部が男子のファンを作る要因の一つになっている。学生服の上からでも丸い形が浮き出ているそれはもはや巨乳の域に収まらず、今も制服姿の時宮先輩はふるっと僅かに胸を揺らしながら「どうぞ~」とたたきから家の中へと上がる。

 

「最近はあまり見なかったから、心配してたのよ?」

「別に時宮先輩とはそこまで頻繁に顔を合わせてるわけじゃないでしょう」

「ま、それもそうなんだけどね」

 

 時宮先輩との関係を一言で言うなら、どうやら「幼馴染」が一番近いらしい。らしい、と言うのは俺のほうはまったくその実感がないせいである。確かに家も近いし同じ町内なわけだから、どこかで接点はあってもおかしくはないのだが、知らないうちに幼馴染扱いを受けている事を受け入れざるを得ないのは、なぜか時宮先輩はうちの両親と変に仲が良かったりするからだ。

 

 中学から高校にかけて俺は時宮先輩と同じ学校に通っているせいで、たまに一方的に話しかけられては軽い世間話に付き合うことはあった。だからこそ俺からすれば「顔なじみ」程度の付き合いだったはずだが、なぜか向こうからは妙に興味を持たれている。

 

「生徒会の引継でもしてたんですか?」

「うん、私も今年の夏で生徒会長は引退だから」

 

 リビングに入ると、そこもやはり庶民的な内装だ。少しゆったりしたソファがあって、ダイニングがあって、それから一般的なサイズのテレビが置かれている。

 俺はソファに腰掛けると、時宮先輩もその隣に腰を下ろした。なぜ向かいではなく隣なのかは俺にはわからない。

 

「それで、用事ってなにかな?」

 

 時宮先輩はそう言うと、横から興味深そうにこちらを覗き込む。

 どうして俺が時宮先輩のところにわざわざ来たのか、それは俺にとって唯一の知り合いであるというのもそうだが、同時に以前に同じように時宮先輩から勧誘を受けたことがあるからだ。

 

 生徒会の副会長。俺は高校に入学した一年の時に、その席に着かないかと時宮先輩から誘われていた。

 流石に一年から副会長は荷が重いし、そもそも部活にすら入る気がなかった俺はすぐに断ったが、時宮先輩はそれから事あるごとに俺を生徒会に誘っていた。

 

「実は、折り入って頼みたいことがありまして……」

「いいわよ」

「新しい部活の……ん?」

「前田くんからの初めての頼みだもの。私は断るなんてしないわ」

「…………」

 

 今世紀最大級の勇気を以て口を開いた俺に、時宮先輩は一蹴するかのようにそう返事した。

 

「まだなにも言ってないんですが」

「何でも良いわよ、言葉通り……何でも」

 

 なんだろうか。この猫のように鋭くて怪しげな視線は。しかも言葉尻もなんかねっとりとしてるような。

 

 俺は昔からこの時宮先輩という人の事がわからない。これだけ優秀で人望もあるのに、どうしてわざわざ俺になんて絡んでくるのだろうか。時宮先輩の隣なら、副会長ぐらいやりたがる連中はごまんと居るはずなのに。

 

 とは言え、今回ばかりは慎重に事を進めなければ。相手に妙な不信感を与えてはならない。なにせ人と接しないようにと生きてきた俺にとっては部活に勧誘できる唯一の人物なのだ。ここは笑顔で、笑顔でいくんだ。

 

「じゃあ……えっと……」

 

 ニチャ、なんて効果音が聞こえてきそうな不気味な笑みが我ながら挙動不審極まりない。こんなことなら営業スマイルの練習くらいしておくんだった。

 

 ただそれでも時宮先輩は怯える素振りすら見せず、うんうんと頷きながらこちらの目をじっと見ている。

 

「それでそれで?」

「え、いやあの……実は友人が部活動を始めたいと言ってまして、ぶっちゃけるとその人数合わせに時宮先輩に入っていただけないかと」

 

 相変わらず不慣れな具合でそう言うと、やはりというか、時宮先輩は驚愕に満ちた顔を作る。

 

「……え?」

 

 そのリアクションは「この時期から部活なんて作るの?」なのか「前田くんが部活なんて入っちゃうんだ」のどっちだろう。まあ多分どっちもである。

 

「前田くんに友達……?」

「いやそこからかよ!!」

 

 はっ!? 思わず突っ込みが口から出てしまった……!

 というか妹といい時宮先輩といい、いったい人をなんだと思ってるんだ。

 

「ふふ、冗談冗談。前田くんは良い子だもんね。友達くらいできると思ってたわ」

「その言い方が絶妙に引っかかるんですが」

「でもそうね。私も生徒会を引退した身だし、時間もできるからちょうどいいかも」

 

 そう言うと時宮先輩はまたうんうんと頷く。

 頼んでおきながら思うのもなんだが、本来ならば三年生は受験前のこの時期が一番勉学で忙しくなるはずだ。しかしちょうど良いなんて言ってしまう辺り、やっぱり時宮先輩からは余裕を感じる。まあこの人の場合は常に学年トップの成績を取ってるのだから、その点は今更驚くほどでもないのかもしれないけれど。

 

「それじゃあ、代わりに私の方からも一つだけお願いしても良いかしら?」

「お願い、ですか……?」

「うん。お願い」

 

 また少し時宮先輩の体がにじりよってくる。肩と肩が触れて、時宮先輩の体温を感じる。なんだかやけに近いような気がするが、きっとこれが時宮先輩の普段からの距離感なのだと今は信じる。

 

「だって、私のお誘いはあれだけしても聞いてくれなかったんだもん。前田くんの頼みを聞くんだったら、何か一つくらい私もお願いしてもいいと思わない?」

「えっと、それは」

 

 言われてみればそれもそうだ。しかし肝心なのは――。

 

「ほら、私ももう卒業しちゃうじゃない? だから最後に思い出作りがしたいなぁって」

「……それで、そのお願いってなんなんです?」

「今はひ・み・つ」

 

 くっ……。

 ここに来てとんでもなく面倒なことになった。

 

 つまり、俺は笹原との部活を作るために時宮先輩を誘わなければいけないが、その代わりに時宮先輩の頼みを一つ聞かなればならない。それも内容が不明のまま。

 

 内容がわからないのに約束を取り付けるなんてのは、俺にとっては一番やってはならない行為である。なぜならいくら後出しで無茶を言われても、俺にはその約束を反故にできないからだ。

 

 まさに自殺行為に等しいが。しかしまあ、時宮先輩は俺の体質は知らないはずだ。そこまで脅迫紛いなことは言ってこないとは思うが。

 

「……わかりました。良いですよ」

 

 俺はしばらく悩んだ後、ぐったりと首を落としながらそう言葉を返す。

 

「本当? 嬉しい!」

「確かにそこは筋を通すべきなんでしょうから」

 

 俺が渋々ながら承諾すると、時宮先輩は両手の指を合わせて「やったぁ!」と嬉しそうに笑った。

 

 時宮先輩の誘いをあれだけ断っておいて、いざとなったら俺の方の頼みは聞いてくれと言うのも考えてみれば虫のいい話だしなぁ。とはいえ時宮先輩の頼みってのが不安過ぎるが……。しかし今回は腹を括るしかなさそうだ。

 

「前田くんのそう言うとこって、凄く良いところだと思うわ」

「別に、俺は俺の都合でやってるだけですから」

「うんうん。それじゃあ前田くんの言う部活、私が入ったげる」

 

 それから時宮先輩はソファを立つと、嬉しそうにしながら手を後ろで組んで、俺の方を見下ろした。

 

「これからまたよろしくね、前田くん」

 

 そうやってお下げと胸を揺らす時宮先輩だが、やっぱり俺にはそんな時宮先輩の考えがよくわからない。しかしそれでもなんとか、これで笹原の思いつきは実現することになりそうである。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。