ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
時宮先輩は手でスカートを押さえると、汗まみれの二人とは違い艶やかな仕草で椅子に座る。
因みに笹原の場合は「あじぃ~!」と言いながら倒れ込むように椅子にダイブし、鈴谷の場合は「見えてるんじゃなくて見せてるんですよぉ~?」とでも言いたげにニヤ付きながらスカートたくし上げ、そのままM字開脚で着席するという残念加減である。
「お前な。時宮先輩の前で失礼だろうが」
「私なら気にしないから大丈夫よ前田くん。それにこれだけ暑いんだから、少しくらい着崩したくもなるわよね」
そう言う時宮先輩は黒いロングヘアをじめっぽくさせる事もなく、この部室の中でもサラリと揺らす。立ち振る舞いも凛々しさがあり、たぷんと揺れ動く胸はこれでもかと制服を押し上げながらその輪郭を強調するかのように張っているが、そちらも汗で透けているなんて事は無い。この辺りも二人と比べるとどこか大人びた雰囲気を感じる。
「皆熱そうね。この部屋は私も来たことが有るのだけれど、エアコンも付いてないし大変じゃないかしら?」
地獄の亡者のようにへばっている俺達に比べ、その御淑やかさを微塵も崩さない時宮先輩の姿は流石とも言うべきである。もしも大和撫子を挙げるならこういう人の事だろうなと思う。決してどこかの変態露出魔ではなく。
「それで、この部活は何をするところなの?」
時宮先輩は首を小さく傾けると、微笑みながら俺の顔を覗きこむ。
「えっと、その事なんですが」
いきなり核心を突かれて俺はただ苦笑いを返すしか出来ない。
「あれ、先輩言ってなかったんですか?」
正直、罪悪感が無いと言えば嘘になる。
なにせ俺は時宮先輩に聞かれなかったのをいいことに、この部活がそもそも何をするために作られたのか、その説明すらしていないのだ。
「実はですね時宮先輩。今はああいった感じなんですよぉ」
すると鈴谷はトントンと俺の背後にあるホワイトボードへと指を向けた。
「あぁー。ふふ、なるほどね。そういう事だったんだ」
何故か時宮先輩はそれを見ると嬉しそうな表情を作る。
この人、やっぱりこういうところが俺とは正反対だ。
時宮先輩はなんというか、昔から俺とは違ってこの手の面倒そうな話題が好物なんじゃないかと思える言動をよく取っていた。というよりも自分から面倒事を積極的に引き受けるというか、誰かのために何かをする事を躊躇わない性格のように見えてしまう。実際、時宮先輩はそういう人だと思う。じゃなければ生徒会長なんて面倒臭さをこれでもかと寄せ集めたような仕事には就かないだろう。
この人と距離を縮めようとすらしなかったのはまさに俺達が水と油だったからというのもある。面倒を自分から引き受けてしまう時宮先輩と、面倒をとことん嫌う俺。相反する二人が一緒に居ても不幸にしかならないと、俺はどこかで決め付けていた。だからそんな俺が言うのもおこがましいのかもしれないが、時宮先輩には普通の人間なら嫌がって近づこうともしないものに率先して手を触れさせるというか、危険物としか思えないものでも楽しんでしまえる容量の深さみたいなものを感じるのだ。
俺が時宮先輩をこの部活に誘ったのも、別に俺の知人がこの人だけだったという理由だけではない。言葉の通り、この深夜の思いつきで作られたような部活でも有意義な時間として消化してしまえそうな人間など、時宮先輩を置いて他に思い浮かばなかったのだ。
「やっぱり面白そうな事をしてるのね。あ、それはそうと、お二人のお名前を先に伺ってもいいかしら」
そう自然な流れで時宮先輩は鈴谷と笹原の方へ目を向ける。
この二人は時宮先輩とは初対面のはずだし、当然の流れと言えば流れだ。逆に時宮先輩の方は生徒会長の仕事で何度か全校集会で挨拶はしているから、二人とも顔くらいは知っていると思う。なによりこの人はこの学校じゃ有名人だ。
「ふふん、そうですね。分かりました」
すると時宮先輩の言葉に鈴谷はにぃっと口角を吊り上げさせる。ヤバイ。あの顔、絶対に何かやらかすつもりの顔だぞ。
「私は鈴谷真昼って言いますぅ~! えっと、趣味は前田先輩に苛められてぇ~それから雌奴隷として調教してもらうことですっ☆」
やっぱりやらかしやがったこいつぅううううう!?
鈴谷はVサインを顔にかざしこれでもかと決め顔を作ると、まるで舞台に上がったアイドルの如くテンション高々にそう言い放つ。
「おま、初対面の人に何言って……!?」
「わ、私は笹原カンナって言います! えっと、趣味はエッチな漫画を読むことで特技は外でお散歩(意味深)することですっ!」
終わった。
言うに事欠いていきなりそれか!! そんな自己紹介されて「へぇ~凄いね! 実は私の趣味も肉便器扱いされてから精子塗れの身体でハメられることなの」的なノリが返ってくるとでも思ってるのかこいつらは!
いったい何考えてんだよホント……。恥じらいとかないわけ?
「……なんちゃって」
とか思ったら、笹原に関してはやっぱり少し恥ずかしそうだ。視線をわざとらしく逸らして誤魔化そうとしてるけどどう見ても顔赤いぞあれ。まぁあいつの考えは単純だからな。きっと鈴谷の後で「この流れならいける!」とでも思って自己アピールしてみたはいいものの、やっぱり後になって気恥ずかしさが出てきた感じだな。
「へぇ~」
ほら見ろ。時宮先輩のあの薄く冷めた目を。今の時宮先輩の反応は至って当たり前と言うか、むしろあからさまに引かれて部室を出て行かれないだけでありがたいくらいだ。
「あ、あのこれはなんと言うか、こいつらもこの熱さでしょ? だから色々と思考回路が捻じ曲がってるんですよきっと」
と言葉では出してみるが、そもそもが変態露出女子に破滅願望狂人なのでこれがこいつらの素だというのが悲しくなる。
「あら、別に大丈夫よ? だけど、ごめんなさい。私も何か話が合うような趣味が有れば良いんだけれど、残念ながら持ち合わせがなくて」
「いやそれで良いんですよ。こいつらと話しが合うってことはあまり好まれたことではないので」
「あ、ひどーい前田君!」
「先輩ぃ~もう一声だけ罵ってもらえればそれだけで私いけちゃいそうなんですけど! 夏の日差しで火照った身体がさらに火照っちゃいそうなんですけどぉ!」
「お前らマジでいい加減にしろ!!」
「ふふ、ふふふ」
笑った?
「あはは、ふふふ」
見ると、時宮先輩は本気でおかしかったのか、笑いすぎて零れた涙を嬉しそうに手で拭っている。
「二人ともありがとうね。なんだろう、前田くんが誰かとここまで仲良くしてるのって、あまり見てなかったから」
すると時宮先輩は椅子を少し横にずらして、身体も二人の方へ向けると、手を膝に置いて背筋を伸ばす。それからまるで母親が子供を諭すような眼差しを向けると、その口を小さく開いた。
「私は……私の趣味は、読書と、それから誰かの為に何かをする事です。えっと……その、エッチなもので好きなジャンルは……カップルが幸せそうにしてるキスとか……かな?」
なんという涙ぐましい努力だろうか。
別に無理に合わせなくてもいいものを、時宮先輩は二人の為に顔を真っ赤にしながらそう自己紹介に付け足す。なんだか絶妙にズレてる辺りが本当に手馴れてない感じで逆に新鮮だ。
「それから、これからも前田くんのこと、よろしくね。鈴谷さん、笹原さん」
時宮先輩はそれだけ言うと、また俺の顔を見てニコリと微笑む。
「……よしっ! それじゃあ自己紹介も終わったところだし、お話の続きをしましょうか」
それから時宮先輩はパッと立ち上がると、俺の方へ周ってきてホワイトボードの前に立つ。それから『パンッ』とそのボードを軽く叩いた。