ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
「それじゃあ会議を始めましょうか」
きゅぽんとマーカーの蓋を取ると、時宮先輩は意気揚々に俺達を見渡した。
「会議って言っても、どこから話すんです。時宮先輩?」
「こういうものはまず、それぞれのアイデアを出すところから始まるの」
おぉ、なんだかそれっぽいぞ!
俺一人でこのバカ二人をまとめようにも収拾付かなかっただろうからな。やっぱり時宮先輩を誘って正解だったかもしれない。
なにせ元生徒会長だ。こういう物事を決める場はお手の物だろう。
「はいはーい!」
そこでまず手を挙げたのは笹原だった。
元はと言えばこいつの思いつきで始まった部活だ。何かやりたい事はあるのだろうが、あの無垢な表情が逆に心配でならない。
「私は露出部がいいかなっ!」
「そろそろ殴ってもいいか?」
「ダメですよ先輩。DVになっちゃいますから」
「そうかそうか『ダメなヴァカ』略してDVだな」
「そのヴァカって私のことじゃないよね!? しかも馬鹿じゃなくてヴァカって若干捲き舌入ってるよね凄く貶されてるよねそれ!?」
「そりゃそうだろ。何せ部長が部活の内容さえまともに提案できないんだからな」
「だから提案してるよっ!」
「露出部のどこがまともなんだよ!!」
そらみたことか。第一声からこの有様だ。
「じゃあ次は私の提案良いですかぁ~?」
「…………」
「いやん、先輩のそういうジト目凄く嬉しいです」
次は鈴谷か。こいつに関しては確信犯なぶん笹原よりも心配だ。
「こういうのはどうでしょう。先輩が学校中の女の子を順番にオトして種付け中出しセックスを――」
「それなんてエロゲですか!?」
やっぱりこいつはホントどうしようもねぇ!!
「え、えっと~、た、種付け中出し……っと」
「いや時宮先輩もいちいち書かなくて良いですからね!?」
しかもかなり恥ずかしそうに頬を赤く染めながらだし! 別にそこまで無理しなくてもいいですって!
いかん。このままじゃ時宮先輩に対するただのセクハラ行為だ。
「今のところは露出と、それから性行為を行う部活って案が出てるわね」
時宮先輩はホワイトボードに書かれた文字を見ながらあくまでも淡々と告げる。
やはりこのカオス空間に時宮先輩を巻き込んでしまった責任は大きい。
このままでは一般人な時宮先輩が穢れに穢れきった変態馬鹿二人に蹂躙されてしまう。ここはなんとか俺が流れを変えなければ……。
「ごほん、じゃあ次は俺だな」
「あれ、先輩も何か考えがあるんですか?」
「そりゃお前らに任せてたら埒が明かんからな」
「それで前田君はどんな提案があるの~?」
「俺の提案……それはズバリ、『読書部』だ」
読書部。つまりはこの部室で本を読む部活。
我ながらいいアイデアだと感心するぜ。読書なら万人に共通した娯楽だし、そして何よりこの二人が勝手に騒ぎを起こすようなことも無い。なにせただ黙って部室で本を読むだけの部活なのだから。
それに俺も読書は結構するほうだ。ラノベから一般文芸までを嗜み、なんならおススメの作品をジャンルごとに何作か紹介できる程度には読み漁っている。加えて時宮先輩も読書家ということだから、現状この場に居る人間にとって最善の策と言って良い。
「却下」
「なんでだよ!?」
「だってつまらないもんっ!」
見ると笹原はぷすーっと不貞腐れたようにほっぺを膨らませている。
そ、そうか。この会議、ただ最善の手を打てばいいだけではない。
この部活は笹原という人間の思いつきで始められたものだ。つまり、どれだけ優れたアイデアでも笹原を満足させられるものではなければ意味を成さない。
この部活の存在意義、それは笹原を満足させるためのものだと言う事を失念していた……!
「な、なんてことだ……」
俺は失意のあまり肩を落す。このド淫乱少女を満足させつつ、世の中の皆さんに迷惑をかけない部活内容など果たして存在するのだろうか。
「じゃあまた私から一つ提案良いでしょうかぁ!」
すると目の前で鈴谷が大きく手を振り上げる。
「鈴谷……」
見ると鈴谷はどこか自信満々に俺と視線を合わせる。
(大丈夫です。ここは私に任せてください)
鈴谷はそうアイコンタクトで俺に意思を伝えてくる。
(鈴谷……! できるのか……!?)
俺もそうアイコンタクトを返すと、鈴谷は静かに、そして力強く頷く。
思えばこいつには色々と助けられた側面もある。前回の笹原との露出プレイの時も、こいつの助けがなければあの三人組に襲われていたかもしれない。さらにはこの部室や部活の申請なんかも鈴谷がやってくれた事だ。こいつは不思議とそういう手際がやたらと良い。もしかしたら今回も何か画期的な発案を見せてくれるのか……?
俺が固唾を飲んで見守るなか、鈴谷はすぅーっと大きく息を吸って、それから口を開く。
「露出調教拘束言葉攻め肉便器中出し種付けプレス妊娠腹ボテコスプレ娼婦媚薬責め奴隷陵辱オナホ同好会なんてどうでしょうか」
「……もう……いやだ」
俺は垂れそうになる涙を必死で堪える。
「え、え? ダメですか? これならこの場の全員が満足できると思うんですけど」
「特殊性癖的な意味の話じゃねぇよ!!」
こいつの頭にはエロいワードしか入ってないのか!?
「ごめんなさい。聞き取れなかったからもう一度お願いしても良いかしら」
時宮先輩に至ってはその大半が理解できなかったらしい。
「いやいいんですよこいつらは無視しましょうもう」
「酷いですよ先輩ぃ!」
「俺には中々良い案が思い浮かびません。時宮先輩は何かアイデアがあったりしますか?」
両手をバタバタさせて駄々をこねる鈴谷はスルーし、俺は時宮先輩にそう投げかけてみる。
「そうねー。部活動の内容っていったら普通はスポーツだったり、部室でできることなら囲碁や将棋とか、うちの高校だと他にパソコン部やゲーム研究会っていうのもあるわね」
「スポーツに囲碁にゲームですか」
確かにそれが部活動の定番だろう。しかしこいつらが爽やかに汗水垂らしてテニスだのバスケットボールだのに勤しんでいる光景はどうしても想像できない。
だからといって囲碁に将棋は尚更難しい。なにせ落ち着きのかけらも無い人間が半数を占めているのだ。同じ場所に座り続けるような室内遊戯はほぼ不可能だろう。絶対に途中で飽きるか集中力が尽きるのは目に見えてる。ゲームに至ってはアダルトノベルを張り付くようにプレイする笹原が想像できてしまうので考えるまでもない。
まず大前提として、この我侭の権化となった笹原の承認を得なければならないのだ。囲碁だの将棋だのスポーツだのというのは笹原という関門をまず通過できないだろう。
「私も何をするか決めないままに部活動に入ったことは流石に無いから、どうすれば良いのかは正直分からないところではあるのだけれど……。けれどこういうのは誰かの好きな事から始めてみると良いんじゃないかしら」
「好きな事、ですか」
この場合は笹原の好きな事、と言うことになるんだろうな。だが当たり前だが高校生の部活動で露出が活動内容だなんて部活は認められるわけが無い。
「そうね、だったらこういうのはどうかしら」
するとおもむろに時宮先輩は手をぽんと叩いて、ホワイトボードにマーカーでなにやら書き始める。
きゅっきゅと音を鳴らしながら文字を綴っていくマーカーがホワイトボードから離れ、そこには大きくこう書かれていた。
「『屋外活動研究部』?」
「ええ。さっき笹原さんが特技は外で散歩する事ですって言ってたでしょ? だからそれに合った部活にしたらどうかしら」
屋外活動研究部。もしも字面をそのまま読み取るなら、つまりは屋外での活動を研究する部活、と言う事になる。
「ちょうど折角の夏休みだし、皆で色々なところを見に行ったり、その場所の雰囲気とかを楽しみながらお散歩するの」
なるほど、要するに外に出てあちこちを歩いて周る部活、ということか。
しかしそれはそれで、元引きこもりの笹原にはちっとばかり荷が重い気もするが……。
「良い、凄く良いです! 私は賛成っ!」
だが意外にもその笹原は目を輝かせながら、これでもかと手を伸ばして賛同している。
「私も良いと思いますよぉ? 先輩とお出かけできて楽しそうですしっ」
「それじゃあ、他に案もなさそうならこれで良いかしら?」
時宮先輩はそういうともう一度俺達の顔を伺う。
まあ、ただ外に出て歩くだけならさして問題も無さそうだし、面倒な事もそうそう起こらないだろう。
この辺りは流石の時宮先輩と言うか、永久に決まらないままかと思っていた部活内容をこうもあっさりと結論に導いてしまった。
俺は時宮先輩に頷き、この意見を支持する。他の二人も同じくうんうんと縦に首を振った。
「それじゃあ私達の部活は『屋外活動研究部』にけっていー!」
笹原が元気良くそう声を張り上げると、同時に鈴谷が手元に置いていた書類にスラスラと文字を書き込んでいく。
「書類もこれで完成です。後は顧問の許可が下りれば本格的に活動できますね」
「うんうん、それじゃあ三人とも、改めてこれからよろしくね」
時宮先輩はやっぱり嬉しそうにそう言うと、表情を和らげる。
あれだけクラスメイト達の青春が云々かんぬんと言っていた俺が、まさか野外での活動がメインになる部活に入るなんてな。だがこれも日常の変化として受け入れざるを得ない、きっとそうなんだろうな。
それに屋外での活動なら笹原のリハビリにはもってこいだ。これでこいつの男性恐怖症がまた少しでも治まれば、俺と笹原との間の約束もまた完了に近づく事になる。
「それじゃあここに『屋外活動研究部』の立ち上げを宣言しますっ!」
笹原は旧生徒会長席、もとい部長席からがばっと立ち上がると、誰を指すでもなくピンと指先を張りそう高らかに宣言する。