ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
笹原の高らかな言葉で我らが笹原と愉快な仲間達は名称を改め、正式に『屋外活動研究部』としていよいよ夏の部活動を始める事になった。
……のだが、今回はまだ初日と言う事もあり、結局その後は暑苦しい部室内で毒にも薬にもならない雑談をしばらく交わしただけで解散する運びとなった。
顧問である朝倉先生に書類を提出しなければならないというのもあり、本格的に活動が始まるのは明日からになりそうだ。
「それじゃあ私はお先に失礼しますねぇ。ついでに朝倉先生には私が渡してきますよ~」
と言って鈴谷は一足先にと部室を後にする。
「あ、それとももっと私のこと、じっと観察されますか? 顔とか太股までびっしょりと汗で蒸れてむんむんとしてますし、シャツなんてべったりと身体に張り付いちゃって、下着まで見えちゃってますよ。ほら、今日の下着は緑と白の縞々で~」
「いいからはよ行ってこい」
「はーい」
そう言うと鈴谷は何食わぬ顔で廊下を闊歩していく。きっと透けてるのがわかっていながら敢えて隠してないんだな……。とか無駄に推測してしまう。しかし下手に突っ込んでも体力の無駄になるだけなので、俺はただそのまま見送ることにした。
しかし普段はしつこくまとわりついてくる鈴谷が誰よりも先に退出するのだから、この常夏を通り越して熱帯ジャングルに迷い込んだかのような室温がいかに高校生に耐えかねるものか伺える。
エアコンが無いのはまだ仕方ないとして、この近代社会にまともな扇風機すら見あたらないってどうなってるんだよ。
「それじゃあ私も今日はちょっと用事があるから、そろそろ失礼するわね」
次に時宮先輩がそう言って席を立つと、荷物を手に持ってがらっと扉を開ける。
「今日は楽しかったわ。また明日ね、前田くん。笹原さん」
「あ、はい。今日は急に誘ったのにありがとうございました」
「ありがとうございました~!」
俺達が手を振って部室から出ていく時宮先輩を見送ると、笹原と二人になった室内はいっきに静まり返る。
「はぁ、今日も疲れたな」
さっきまでは雑談で意識していなかったせいか、ふと耳元にはセミの鳴き声やら野球部の掛け声などが聞こえ始めてきて、いやに夏を思い知らされる。
「あじぃ~よぉ~」
笹原がぐったりとした姿勢で机に頭を付け、小さな手持ち扇風機の風に髪を撫でさせている。しかし僅かに送られてくる空気もこの部室内ではもはや熱風とかしている。
「じゃあ俺も帰るとするか」
「え、もう帰っちゃうの?」
「これ以上このクソ暑い空間に何の用があるんだよ」
時刻は昼過ぎの二時くらいだろうか。俺も笹原も既に三時間はこの部屋に居るせいで、制服が重くなる程に汗を吸い込んでる。鈴谷と時宮先輩も帰ったことだし、これ以上この環境に身を置きたくないというのが本音だ。
「でもほら、外はもっと暑そうだよ?」
「むむぅ……」
笹原に言われ窓の外を見ると、そこにはギンギンに照りつける日光が容赦なく降り注がれている。今のへばりきった身体でそこへ飛び込むにはいささか勇気が必要だ。
「なら、これからどうするよ」
成す術もなく、俺は暑く蒸された事務机に顔を擦り付け、笹原の方へ首を曲げる。
なにせ極力家の外には出ない生活をしていた人間と、半年も家に引きこもっていた二人だ。ただでさえ外に出ると体力を消耗するというのに、この気温では毒を食らったRPGキャラのようにHPを削られてしまう。おそらくは家に辿り着く前にゲームーバーだ。
「どうしよーねー」
笹原のほうもどこか抜けた声でそう返してくる。
ぐーたらとした俺達を包んでいるのは、この状況下であっても動きたくないという究極の自堕落ムードだった。
しかしだからと言って、このままでは緩やかに死へ向かうだけ。いずれはここから移動しなければならない。だが少なくとも今は外へも出たくない。そうなると自ずと選択肢は限られてくる。
「涼しくなる夕方までは学校のどっかで時間でも潰すか」
「そうだね、それがいいかも」
俺の提案に笹原は力なく同意する。
「っつうと、どこかクーラーの利いてる場所だな。思い当たるのは……」
夏休みの学校で常にエアコンががんがんに利いていて、なおかつゆったりできて、適度に暇がつぶせる場所。
「図書室だな」
「しょーがないよね。本当は動きたくないけど」
「つっても、このままここに居たら蒸し上がりそうだからな」
「外出て干からびるくらいならここで蒸し上がった方がマシかも」
その言動に俺はふと思う。笹原と出会ってから此の方、こいつの非常識な行動ばかりを目の当たりにしてきた。だからこそ俺はこいつとはまったく別の人種だと思っていたが、どうやらそんな俺達にも共通点は有ったらしい。
俺も笹原も、こうしてみると根っこでは怠け者のだらけ屋なのだ。今日みたいな真夏日なら、本来は動物園のシロクマみたいにぶてっと転がって一日を終えたいところなのである。
それが何時の間にか『屋外活動研究部』なんてものを作ってしまったのだから、思えば皮肉な話だ。
「ねぇ、おぶって」
「無理」
「嫌だおぶって」
「我が侭言うな。お前なんて背負ったら俺の方が潰れかねん」
「……トイレ行きたい」
「行けばいいじゃん」
「このままだとここで漏らしちゃうよ」
「お前は自分のションベンでここをサウナにする気か」
「前田君が連れてってくれないならそうなっちゃうかも」
果たしてこの問答にどこまで意味があるのか。
しかしそれをどうこう考える気力は俺には無く、ただ流れに任せて「……しゃーねぇーな」と重い腰を上げる。
「とは言っても、流石におぶっていくのは無理だからな。俺の方が先に潰れちまう」
「そ、そんなに重くはないと思うんだけど?」
「体重の話じゃねえよ。どっちかって言うと俺の体力の話だ。けどまぁ、どうしてもって言うならちょっとくらいは手を貸してやるよ。ほら、とっとと立てよな」
「前田君って中途半端に親切だよね」
「それ、絶対に褒め言葉で言ってないだろ」
「そんなことないよ~?」
「いいからさっさと立て」
しょうがなく手を差し伸べると、そこにしがみつくように手を絡めてくる笹原。その時にぐっと自分の方へ俺の手を寄せたせいで、胸元に手の平がぎゅっと入り込む。
「あっ」
笹原はあっけからんとした顔をしたまま、しかし変に反応したりはせず、そのままじっと俺の手で握られた胸元を見ている。
「あ、あの……。手を離すか立つか、早くしてくれ」
そんな格好のせいで、少し指に力を入れれば笹原の胸の柔らかさが感じられる。相変わらず背丈の割にはデカいって言うか……。くっ、ダメだダメ! いくら暑さで朦朧としてるからって、そんなこと考えんなって!
「前田君。いまエッチなこと考えてたでしょ?」
「別に」
「ホント?」
「ホントホント」
上目遣いにジト目を向ける笹原に、俺は赤べこのように機械的に顔を揺らす。
「前田君の手、汗でなかなか掴めないんだけど」
「そりゃお互い様だろうが」
とか言いつつ、笹原は俺の手を杖代わりにして立ち上がると、そのまま身体をぺたりと寄せた。
「前田君の身体熱いね」
「じゃあ離れたらいいだろ」
「別に嫌いじゃないからいいけど」
笹原はそう言うと、俺の身体に抱きつくようにして手を回した。
「お前本当にそこまでしないと歩けないのか?」
「ホントだよ。だからこうしてるの」
「……はぁ、ったく。どこまで手がかかるんだか」
そんなこんなで、俺達も荷物を持つと部屋を後にした。
夏休みで校舎の中にはあまり生徒が居ないからいいものの、汗だくの美少女に抱き着かれながら廊下を歩くとか、普段の学校なら絶対に許されないだろうな。というよりも俺がまず許していない。
「ほらトイレの前だぞ」
部室を出て直ぐのところにあるトイレに着くと、俺はそう言って笹原に行ってくるように促す。
「前田君も一緒に来て」
「いや無理だろ」
「じゃなきゃ私一人だと立てないもん」
「無理ったら無理だ!」
「ここまで来てそんなふうに言うなんて、前田君ってけっこー意地悪なんだね。それとも私が漏らしちゃうところが見たいとか?」
「いちいち人の行動を性癖で見るな。俺はいたって健全だ。つまりはお前のお漏らしにも興味は無い」
「ホント?」
「当たり前だろ」
「……どうしても嫌?」
「無理ったら無理だ」
だって考えてもみようぜ。笹原を連れて俺が女子トイレに入るだろ? 笹原の身体を支えながらこいつが用を足すところを俺は眺めていなければいけないわけだ。この時点で既に犯罪臭が半端じゃないが、もしも万が一、そんな状況に別の女子生徒が鉢合わせてみろ。俺は高校二年生にして人生に幕を下ろす事になる。
「なんなら男子トイレでもいいんだけど」
「いや、そっちの方が寧ろ問題だろ!」
「どうして?」
「どうしてって、それじゃあ俺が連れ込んだみたいになるっていうか……」
「私は前田君になら……見られてもいいんだけど?」
そうこちらの顔を覗きこんでくる笹原。相変わらずぷにっとした頬や唇はロリっぽいというか、その童顔は見惚れるほどに美少女だ。
そんな顔で懇願されたんじゃ、やっぱり心が揺れ動かないはずもないわけで……。いや、これ以上の面倒事はごめんだ! しっかりしろ俺! 相手が美少女だからって中身はド変態淫乱露出狂だぞ。そこんとこは超大事だ。
「ともかくトイレの世話まではできん。一人で行けないなら我慢しろよな」
「……じゃあ、そうする」
なぜか少しむすっとさせる笹原に俺は額に皺を寄せる。こいつ我慢できるんなら始めからそう言えよ!
若干の無駄足を踏んだが、俺はそれからも二人分の体温を感じながら、へとへとと廊下を歩いていく。