ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
そうして俺達は俺達の部室がある本校舎の四階から、図書室のある別館までは向かうことにした。
しかし図書室まで移動するにはそれなりの距離がある。まずは二階まで降りて、そこからさらに渡り廊下を通って別館まで行かなければならない。
うちの高校はおよそコンパクトという概念がまったく通じないらしく、敷地のあちこちに校舎の他にも実験棟やら学生食堂やら教材用の倉庫やら用途不明のものも含めて無数に建築物が立ち並んでいる。しかもその一つ一つがまた無駄にデカイせいで移動も大変だ。
生徒としては授業や部活の度に建物を横断しなければいけないのでハタ迷惑な話である。
「暑い、だるい。どうして俺は休みの日にまで学校を徘徊してるんだ」
長い道のりについボヤキながら、のっそのっそと足を進めていく。
しかも横には俺に抱き着いて体重を預けてくるお荷物娘までいる。疲労は倍増どころではない。
夏休みの校舎はまるで世紀末のように人気が無く、教室の中も全て無人だ。誰とも会わないのはこの学校が広いせいもあるのだろうが、部活で登校している生徒は別館のさらに奥にある部室棟へ行っているからだろう。因みにあちらは全部屋エアコン完備である。羨ましいことこの上ない。
「そら、そろそろ着くぞ」
渡り廊下に差しかかった頃合いで、周囲からは吹奏楽部の演奏やバスケット部のボールが跳ねる音なんかが聞こえてくる。
そうした夏休みの風物詩を耳に入れながら、俺は人の気配も出てきたところで笹原に自立を促した。
俺達の格好は傍からすればカップルにでも見えたりするのだろうが、しかし実際に行われているのは互いの汗を擦り付け合っているだけだ。密着してくる笹原を、俺がただ介抱しながらつれて歩いているだけである。
俺も笹原も汗だくの制服を互いに容赦なく重ねているせいで、肌を伝うこの冷たい感覚がどちらの身体から分泌されたものなのか、その判断も難しい。これではまるでカップルが手を組んで歩いていると言うよりは、介護されている病人とその付き添い人のようである。いやまあその通りなんだけど。
「図書室まではあと少しだ。ここからは一人で歩けるか?」
「うん、ありがとう」
念のためそう聞いてやると、笹原の方もすくっと自分の両足に重心を移し、俺から身体を離す。
そうして渡り廊下を終えると、その先にある図書室の扉の前にやってくる。
図書室の扉からはどこかひんやりとした空気を感じる。きっと中は部室とは比べ物にならないくらい涼しいんだろうな。
「せめて夕方になるまではここで暇を持て余したいところだな」
「そうだねー」
俺は扉に手をかけガラッと横に開く。すると思わず身震いする程の冷気が身体に吹きかかり、その中の極楽さを身に染みさせる。
「ようやく人がまともに活動できる場所に来たって感じだな」
図書室には当然だか大量の本棚があり、中には専門書や小説なんかが詰まっていて、それが数多く並んでいる。入り口の直ぐ傍には受付カウンターとオススメ本の紹介棚なんかがあり、その前のスペースでは読書机が列を作っている。さらに向こう側では規則正しく置かれた2メートル以上も高さのある本棚が人一人歩けるぶんの隙間を残してずらり隊列を組んでいた。
「やっぱうちの学校の図書室ってやたらとデカイよな。まぁ空調さえしっかり利いてるんなら俺としては文句は無いけどさ」
そこには本がまるで森のように生い茂っている。一度入れば人の姿なんて書棚の奥に隠れてしまいそうで、友人と再会するにも一苦労ってところだろうか。
見ると図書室には受付に生徒が一人。他にもちらほらと生徒の姿が見える。しかしその大部分が読書机に齧りついており、立ち歩いている生徒は多くはない。いかにも夏休みの図書室って感じの、物静かな雰囲気だ。
「って、おい笹原?」
図書室の様子を眺めながらしばらく身体を温度に慣らしていると、ふと笹原は本棚の方へと身を傾け、ふらりと俺の手を引いたまま歩き始める。
「前田君。こっちこっち」
笹原はそう言うと、脇目も振らずに俺を図書室の奥へと引き連れていく。
三列目、四列目、五列目と、俺達は本棚の中をぐいぐい進んでいき、そしてとうとうその最後尾にたどり着いた。いったいなんのつもりだ?
「おいおい、この辺りは古文書やら歴史書のコーナーだぞ? お前そんなもん読んでどうするんだ」
「……えっとね、前田君」
なかば茶化すようにそう言うが、笹原は視線も合わせないまま、俺の手をぎゅっと繋ぐように握り締める。
「どうしたんだよいきなり」
「私……えっと、が、我慢できそうもなくて……」
「もしかして本当にトイレか?」
「ち、違うってばー!」
「じゃあなんだよ」
「……ここでその、ね」
もじもじと肩を揺する笹原。そこで俺は気付く。
笹原の息遣いが、より深く長いものになっている。
それはまるで、押さえ切れない興奮を無理やり手懐けようとしているみたいだった。
「私ね、やっぱりどうしても我慢できないみたい」
「だから何をだよ」
「……ここにはその……人も居て、もしかしたら見つかっちゃうかもしれないけど」
すると笹原は俺の手をそっと自分の頬に近づけて、ぴとっと触れさせる。
凄い熱だ。さっきの部室で相当堪えたのか。
初めはそう思った。しかし直ぐに違うと分かる
こいつは気温による熱じゃない。
「私、私ね……ん、あぅ、ふぁ……」
笹原の表情。それはあの日の夜に、初めてこいつを『調教』した時と同じ顔をしていた。
その恍惚とした瞳は理性を失い掛けており、内側から湧き上がる欲求が徐々に身体の表へ押し上がろうとしているような、破裂寸前の顔だ。
物欲しそうに口を開け、涎を零しながら俺の方を見つめる笹原は、まるで餌に飢えた飼い犬のようだった。
「いけないってわかってるんだよ……? だけど、どうしても前田君にして欲しいって思っちゃうんだ。さっきまで前田君をずっと抱きしめてたからかな。体がね、さっきからずっと疼きっぱなしなの」
すると笹原はゴクリと喉に唾を通しながら、劣情に緩んだ瞳を俺に向けた。
はぁ、はぁ、と深く呼吸をする笹原。その状態がどうなっているのかはもはや明らかだった。
「だけど、前田君ならきっと分かってくれるよね……?」
そこには破滅と肉欲の狭間に溺れる、一人の少女が居た。
そして俺は思い出す。こいつはそういう人間で、俺の役目はこいつの欲望を叶えてやる事だと。
「だから……ここで私とエッチ、しよ……?」