ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
そして翌日―。
俺達はまた昼頃から、学校の部室へと集まっていた。
部室の隅では鈍い音を立てながら扇風機が回転している。それから誰が持ってきたのか知れない風鈴がチリンと音を鳴らしていた。両方とも誰かが部室に持ち込んだらしい。
「それじゃあ第一回目の活動内容を決めるよっ!」
それぞれが昨日と同じ事務椅子に座るなか、笹原は元生徒会長席、もとい現部長席に座り、くるりとこちらに椅子を回転させてそう宣言する。お前はどこぞのSOS団の団長か。
「決めるっつってもな。活動内容にしても『屋外活動研究部』、つまり外でふらふらしようってだけだろ? これだけ雁首揃えて何か決めるようなものか?」
俺がそう口を挟むと、笹原はぷすぅー! と頬を膨らませてむくれる。
「先輩ぃ~。そういうところですよ? まったくこれだから先輩は」
「なんだよ鈴谷」
「あのですね? これはミーティングとは銘打っていますけど、ようはみんなでどこかお出かけしようって話なんです。その場所を決めるんですから、全員で集まってワイワイ盛り上がりながら決めなきゃダメなんですよ。なのに先輩ったら水を差すようなこと言っちゃって」
「悪いな。俺にはそういう仲間との青春~みたいな経験が浅いからよ。どうせ万年ボッチだったし」
鈴谷に指先を向けられ注意喚起されると、今度はこっちが少し拗ねたようにふっと首を振る。
俺のこれまでのスタンスで言うなら、部活のミーティングなんてどうせカッタルイだけのもんで、話し合いなんて1秒でも早く終わらせたい。なんなら俺が居ないところで決めてもらっても構わない。なんて思っていた所だ。
正直に言えばそれはたいして変わっていないのだが、どうやら笹原はこういった会合も含めて「部活らしさ」を求めているらしい。ならこの部活においてはもはやそれが正義で、俺の個人的事情なんてものは道に落ちている小石程度の考慮価値もないのである。
「で、どうするんだ? 散策っつっても、そう遠くまでは考えてないんだろ?」
うちには超級のトラウマ娘こと笹原が居る。当の本人はもとより、鈴谷もその辺りはわかっているはずだ。となると、必然的に人が多い場所と遠方は難しい。なぜならそれだけ笹原のトラウマが再発するリスクがある。いくらリハビリも兼ねているとは言え、最初は適当な近場で問題無いだろう。
「でも折角の記念すべき一回目の活動なんだし、町内の公園って言うのも少し物足りないかもしれないわね」
「そ、そうなの! うん、私もそう思う!」
しかしどうやら、肝心の本人は部活っぽい事をしてる楽しさとテンションの高さからかその事がすっぽりと頭から抜け落ちているらしい。
時宮先輩の提案に便乗するように手を上げると、笹原は何時の間にやら事務ロッカーに貼り付けていた関東都市圏の地図を指差す。
「前田君に問題です。ここはどこかな?」
「そこって……」
笹原が指差したのは、ちょうど日本の千葉県の辺りである。千葉駅を少し上がり、モノレールと総武本線に囲まれた半楕円状の敷地の、その中央の部分。ようは俺達の通うこの高校を指差している。
「高洲ノ宮高校だな。それがどうかしたか?」
「ここから半日で行ける範囲を今回の対象とします」
「は……い?」
笹原はそう言うと、おもむろに地図に丸い円を書き込む。
「わー、結構広いですねー」
なんて鈴谷は気の抜けた調子だが、笹原が引いた円がどれほどの物か本当にこいつは分かってるのか?
北は埼玉の春日部、東は銚子、西は東京の立川。房総半島なんてほぼ丸々入ってんぞ。
「馬鹿言うな。第一そんなに広いと決めようにも決まらんだろ。それに県を跨ぐとなると公共の交通機関を使う必要がある。うちの部活のポリシーとしては徒歩で行ける範囲にすべきだ」
「ポリシーって?」
「あ、あのな……」
笹原があまりにもキョトンとした顔を向けてきたので、俺は冷や汗をかきながら口に出す。
「この部活はそもそも歩いて散策するってところからスタートした部活だろ。あくまでも活動範囲は徒歩で行ける場所に限定すべきだ。ましては電車やバスなんてもってのほかだ」
もしそうなってみろ。笹原を連れて都心の電車になんて乗ったらゲロのカーニバルになっちまう。
「でも、あくまでお散歩が目的なんだし、散策する場所くらいは多少遠くても良いんじゃないかしら」
「い、いや、あのですね時宮先輩。そうは言ってもここには社会不適合者すれすれの連中も居るわけで、公共機関とかそういうのは荷が重いって言うか」
「気持ちは分かるわ。ずっと家と学校を往復するだけだったんだし心配にもなるわよね。でも安心して、私がしっかりサポートしてあげるから。ね、前田くん」
あれ、これ何時の間に俺が電車にも乗れない引きこもりニートみたいな流れになってんの?
「先輩の仰る事も分かります。でも、この範囲ならちょうど打ってつけの場所が有りますよっ」
すると今度は鈴谷がぴょこんと椅子から立ち上がる。因みにその際に無意味にスカートの裾をつまみあげて隣の俺に見せてきた点についてはノーコメントを貫く。今日は黒のレースか。
「ほら、この辺りなんてどうです?」
そう言って鈴谷が指差したのは、千葉周辺から下にぴょこんと飛び出るようにして広がる房総半島、その南側だ。
「こちらの方なら電車に乗ると言ってもさほど混雑は有りませんし、それにのんびりと散策するならピッタリの場所だと思いますよ」
「う、むぅ……」
房総半島の内側を回る内房総路線。確かにその路線なら、途中いくつか乗降者の居る駅はあるが、基本的な利用者はさほど多くない。
「山と海の両方の自然が楽しめる千葉の好スポットです。皆さんで行くなら絶対に楽しめると思いますよ!」
鈴谷は天真爛漫と言った言葉が似合いそうな笑みを向ける。
「そうね。房総半島って普段はあまり行く機会も無かったし、私も是非」
どうやら時宮先輩も結構ノリ気なようだ。時宮先輩はまだ笹原のトラウマ事情を知らないだけに、こういう時のブレーキ役は望めないしな……。
だが鈴谷の言う通り、公共機関にしても混雑は無く、また南房総の方なら人ごみの中を掻き入るような事態にもならないだろう。
千葉の自然が詰まっている場所であり県民にとっての秘境……それが房総半島だ。
「まぁ、そんじゃあ俺も特に異論はないよ」
しばらく考えた後、俺がそう言うと笹原は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる。
「やったー!」
それを見ていると「とは言え房総半島もなぁ」なんて物言いするのも躊躇われてしまう。
正直言って、俺はアクアブリッジのある木更津より南には行った試しが無い。正真正銘の未開の地だし、第一高校生が行くような場所かと言われれば千葉駅周辺以外に娯楽を知らない俺にとってはなんとも回答に困るところだ。
しかも外見が既に子供っぽいのに子供みたいにはしゃぐのだから、なんだか小学生を相手にしているみたいで、普段の愚痴っぽい言葉すら飲み込んでしまう。
「…………」
「あれ、どうしたんですか先輩?」
「いや、なんでも」
笹原を見ていると、ふと昨日の事が脳裏を過ぎる。
昨日の図書室での笹原の様子は明らかにおかしかった。しかし今日はこれまでどおりの笹原だ。
笹原は図書室でいったい何を考えてあんな行動を取ったのだろう。それともあの言動にしても、笹原の言うシチュエーションや気分作りの一環だったのだろうか……。にしては些か強引だった気もする。
昨日の笹原の行動、中出しを懇願する笹原の表情がどうしても脳裏に焼きついてしまっている。子供っぽい仕草と図書室での行為とのギャップに、そう俺はつい盛り上がりそうになる股間に手を当てる。
俺の方こそいったい何を考えてるんだ。笹原のあの手の表情なら今までにだって見てきたじゃないか。なのに、今更――。
「前田くん、本当に大丈夫?」
「あ、えぇ……。別に、なんともないです」
「そう? それじゃあ、第一回目の活動場所は南房総って事で」
時宮先輩はきゅきゅっとペンでホワイトボードに書き込んでいく。
気が付けばこの人もすっかり書記っぽい立ち位置に納まってるよな。まぁ似合ってると言えば似合ってるから良いんだけど、上級生にこの役目をやらせるっていうもなんだか申し訳ない気がする。
「それじゃあ日程は早速明日ってことで!」
笹原の要求に反論を唱える者も居らず、その後はいつも通りに軽く駄弁ってから夕方には部室を後にした。