ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
ピピピピ。
セットしていたスマホのタイマーが鳴り、俺は気だるく身体を起こす。
今日は朝っぱらから『屋外活動研究部』の活動で外出する予定になっている。夏休みなのにと思う気持ちを一旦は引っ込めて、うるさく響くスマホのタイマーを止めた。
「……6時か」
何日振りに見たのかすらわからないその時刻を目にし、俺は瞼を擦りながら深くあくびをする。それから軽く手で寝癖を整えて、寝巻きから外着へと着替える。
「あれ、兄ちゃんじゃん」
ガチャリと扉を開けると、ちょうど荷物を担いで隣の部屋から出てきた妹と鉢合わせた。
「おう」
綾子はバレーボールのユニフォーム姿だ。この早朝から練習へ行くらしい。どうでも良いけどバレーボールのユニフォームってかなりぴちぴちなんだな。なんと言うか、妹ながら身体のラインがこうも出てるとついガン見してしまう。
「どうしたの? ラジオ体操でも行くの?」
「そんな歯磨いた? みたいなノリで言われても。だいたい今時の高校生ってラジオ体操行かないだろ」
「じゃあどうしたのさ」
「あぁ、いやちょっとな。部活で出かける事になって」
「そっかそっか、そう言えば兄ちゃん部活に入ってたんだよね。でも兄ちゃんが部活かぁー」
綾子はトンと廊下へ足を伸ばすと、持ち前の長い足で大きくステップを踏みながら、俺の傍にぎゅっと身を寄せる。
「ふーん」
背中から抱きつかれて肩に顔を乗せられ、まるでじゃれる獣のように手足を絡ませる。それから憎たらしく目を細め、俺の心中を弄ぶように言った。
「それで、今日は彼女さんも一緒なの?」
「な……、か、彼女!?」
「だって、その部活ってこの前の人も一緒なんでしょ? 兄ちゃんの彼女さん」
「彼女って、お前凄い早とちりしてるぞ」
「そう?」
「そうそう」
「……なーんだ。違うのか」
するとまるでオモチャに関心を無くした猫のように、綾子はぷいっとそっぽを向いて身体を離した。
「面白くないのー」
「だいたい、俺に彼女が出来る可能性なんて生活習慣から考えてもこれっぽっちもないだろうが」
「それを自分で言えちゃう辺りが兄ちゃんの兄ちゃんたる由縁だよね」
「うるさい。そういう恥や外聞は不必要だからと捨てて生きてきたのが兄ちゃんだ。カッコイイだろ」
「別に。それ、巷ではこういうんじゃないの? 高二病だっけ」
「ぐぅ!!」
「まあ、そんな兄ちゃんだからこそ楽しみにしてたのになぁ。結局なんの進展も無しか」
「生憎とこれでも灰色の青春を送らせればプロフェッショナルだ。なんなら新書か何かで『灰色の人生の送り方』みたいな本でも出せるくらいには専門家だ」
「それって自慢になる?」
「少なくとも将来思い出して『うわぁあああああ!!』とか叫べちゃうくらいには自慢できるぜ」
「それ間違いなく黒歴史になってるよね? 自慢と言うよりも自白だよね?」
妹に呆れられてジト目を向けられたところで、俺は兄貴としての体裁を保つべく戦術的撤退に出る。
「というわけで、今日は帰りが遅くなるから。母さんと父さんには言っといてくれ」
「ほいよー」
妹が先に階段をたったと降り始めたところで、俺も後に続いて一階へ降りる。
「そんじゃまたね~!」
妹は朝食を既に済ませていたのか、その足で玄関で靴を履いてすたこらと学校へ向かっていって走っていった。元気の良いやつめ。
「ん?」
リビングのテーブルを見ると、そこには三人分の朝食が並べられている。簡単なサラダに昨日の残りであるカレーが皿に盛られてラップに包まれていた。
「あいつも朝から部活で忙しいってのに、ホントこう言うところはしっかりしてるよな」
俺は綾子が用意した朝食をありがたくいただいて、それから軽く身支度を済ませると家を後にする。
家から30分ほど歩き、本千葉駅へと向かう。距離的にバスを使うか迷ったが、ここのところ運動不足だと言うのと、久しぶりに早起きしたので気分的に歩いていく事にした。
にしても千葉駅と新千葉駅は近いのに、同じ親戚っぽい本千葉駅は少し離れた場所にある。まるで姉妹から仲間外れにされる長男のようでどことなく可愛そうだ。その哀愁漂う辺り親近感すら覚えてしまう。
朝の千葉周辺を歩いていると、やっぱり物静かな雰囲気だ。通勤ラッシュにはまだ少し早く、道行く人も疎らである。こういった長閑な朝の空気は結構好きだったりする。
時間もまだあるので近くのコンビニで缶コーヒーを買って飲みながら、千葉駅の前を通って線路沿いに歩いていく。
「おーい、前田君ー!」
駅前に着くと、既に三人が改札の前で待っていた。笹原は俺を見ると大きく手を振って呼びかける。
見ると笹原は水色のワンピースに麦わらの帽子と、夏に似合う格好をしてきている。鈴谷は太股を大きく見せたデニムのパンツに、チェック柄の肩出しのトップス。時宮先輩は清楚っぽい白のコットンシャツに藍色のスカートを履いている。
「もう揃ってるのか。時間通りに来たと思ってたんだが、もしかしたら待たせてたか?」
「いえいえ、私と笹原先輩は二人で先に合流してから来ましたので。因みに一番乗りは時宮先輩ですね」
「時宮先輩もおはようございます。もう少し早く来れば良かったかもですね」
「おはよう前田くん。ううん気にしないで。こう言うのって遠足みたいでワクワクして、朝も5時くらいに起きちゃったのよ」
時宮先輩はそう言うと照れ隠しのようにふふっと頬を緩ませる。時宮先輩ってそう言えば生徒会長時代からイベント好きで有名だったのを思い出した。この人の代、つまり去年の文化祭はかなり盛り上がったし、元々はお祭りとか遠足とか、そう言う行事が好きなのだろう。
「それじゃあぼちぼち行くか」
「「おぉー!」」
早速
「今日はよろしくね、前田くん」
「いえいえ、こちらこそ。きっと迷惑とかかけちゃうと思うんで」
主にあの二人の事とかで。
「それはお互い様だと思うわ。私も最近まであまり外出とかしてなかったから、迷惑をかけちゃったらごめんなさい」
時宮先輩はそう言うと、鞄から財布を取り出して改札でかざす。そして俺と並ぶようにピコンと開いたゲートを通った。
「そうですか。でも時宮先輩なら勉強で忙しいでしょうし、出かける暇とかも少なかったんですかね」
「ふふ、私のことを高く買ってくれてるのね。でも、別に勉強が忙しかったから外に出かけられなかったわけじゃないのよ」
「そうなんですか?」
「うん。でも今はこうやって前田くんとお出かけできて楽しい」
一歩前を歩いていた時宮先輩は、くるっとこちらに振り返る。三つ編みにした髪がふさっと宙に漂うように揺れて、それから時宮先輩は満面の笑みを向けた。
「いえ、俺の方こそそこまで楽しませられるような人間じゃ」
やっぱり、俺はこの人が少しだけ苦手だ。
なんでも楽しんでみせる器量の大きさは素直に感服するし、要領の良さや人望の厚さは俺には決して手に入らないもので、そんな人からこうやって好意を寄せられているなんて喜ばしい事のはずだ。なのに、なんだろうか。胸のどこかでシコリが取れないというか、微妙に残る違和感が拭えない。
この人はどうしてそうまでして俺に構うのだろう。
「あ、ちょっと待って下さい! 笹原先輩が改札通れてません!」
「みんなぁ~!ちょっと待って~!」
さっそく騒ぎを起こしたのか、振り返るとそこには赤いランプを点灯させてゲートに締め出されてる笹原の姿があった。
「なにやってんだ。どうせ残高不足とかだろ?」
涙目になりながらおたおたとする笹原を救い出しつつ、俺達は内房総路線のホームへと移動する。
そんなこんなで、この奇怪な房総半島散策は始まるのだった。