※この作品はR-18です。

ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか?   作:わずみかん

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第60話

 南房総行きの列車が到着し、俺達は車両へと乗り込んだ。

 案の定ほとんど人は乗ってこない。これで曲がりなりにも千葉を冠する駅なのだから普段の利用状況が伺える。

 

「人、少ないね」

 

 笹原がきょろきょろと見ながら近くの座席へと座る。鈴谷と時宮先輩もそれぞれ笹原の左右に腰を下ろした。

 

「アレ、先輩は座らないんですか?」

「俺はこっちでいい」

 

 何となく女子三人の隣には座り辛くて、俺は正面の席に一人腰掛ける。

 

「折角だから隣に座ってくだいよ~! なんなら私の膝とかも空いちゃってますよ」

 

 そう言いながら自分の膝をポンポンと叩く鈴谷だが、俺は奴に苦い顔を返しながら首を横に振った。

 

「いいよ。俺はこっちで」

「今更恥ずかしがる事もないでしょ。お互いの恥ずかしいところまで見せ合った仲じゃないですか」

「は、恥ずかしいところ?」

「馬鹿、公共の場でそういう事を言うなっての」

 

 時宮先輩がきょとんとした顔で俺達を比べるように見つめる。こういう仕草を見ちゃうと本当に先輩に対しては申し訳ない気持ちになってくる。

 

 にしても鈴谷にはそろそろ一度言って聞かせなきゃならんな。こいつの言動はいちいちが公害レベルだ。台風か何かかよホント。

 

「なんでもないですから。こいつの何時もの戯言です」

「なんだ、そうだったの。私はてっきり眼球の裏側でも見せ合ったのかと思ってしまったわ」

「なんですかそのグロテスクでバイオレンスな状況!?」

「だって恥ずかしい場所でしょ?」

 

 それがどうなったら眼球の裏側になるのか。

 

 前にも思ったが、もしかしなくとも時宮先輩はあまりその手の性的なモノに対する知識が無いのかもしれない。だから「恥ずかしいものを見せ合う」と言われても邪な発想が出てこないのだ。だがその代わりに思いつくのが眼球の裏側っていのも常人の発想ではないとは思う。実はスプラッターな映画とか好きだったりするのだろうか。

 

「あぁ、でもちょっと分かるかもです。そう言う絶対に見せられないと言うか、見せちゃったら色々と後に支障をきたすと言うか。でもなんだかお互いの眼球の裏側を見せ合うなんてロマンチックですよねっ!」

 

 それに同意してる鈴谷に関してもやっぱり常人の理解の及ぶ範疇には居ないようだ。

 

『お待たせいたしました。この列車は木更津経由館山行きでございます。それでは扉がしまりますのでご注意下さい』

 

 早速摩訶不思議空間となりつつある中、列車の扉が閉まりゆっくりと動き始める。

 

「私、この路線って初めて乗ったかもです」

 

 鈴谷は後ろに顔を向けると、興味深そうに車窓から外を見渡す。

 

「まあ確かにあまり乗る路線じゃないよな。俺もたまに木更津に行く時くらいしか乗らんし」

「前田くんって案外活動的なところもあるわよね。木更津と言えばアウトレットパーク?」

「まあ、はい。けど俺の都合っていうよりはアレですよ。妹が連れてけってせがむんです」

「そうなんだ。変らずに仲が良いのね」

「別に。それほどじゃないと思いますけど」

 

『変らず』……ねぇ。

 

 時宮先輩ににこりとした笑みを向けられ、俺は思わず視線を逸らす。

 

 時宮先輩と妹とは一応面識がある。だが、妹と俺の仲なんてそこまで時宮先輩が気にする要素でも無いってのに、いったいどこからそんな情報を入手してるんだろうか。

 

 それからしばらく他愛の無い雑談を交わしながら電車に揺られていると、40分ほどで木更津駅に到着した。

 

 それまではまばらに乗客が乗り込んできていたが、ここでまた一気に人気が少なくなる。見ると俺達の乗る車両では他に3人、つまり合わせてもたったの7人しか乗り合わせていない。

 

「また少なくなったね」

 

 笹原がぽつりと零すようにつぶやく。

 

「ま、その方が良いだろ。お前の事を考えりゃな」

 

 笹原の男性恐怖症は幸いにもまだ発動していない。ここに来るまでに男性客が乗り込んでくる事はあったが、閑散とした車両の中では笹原と接近する機会もないままだ。

 

 笹原の恐怖症がだいぶ解消されているというのもやはり事実らしい。あの日に野外露出を試みて、サラリーマンの男に声を掛けられただけで気絶していたところから思えば大きな改善である。だが依然として完治したわけではなく、男性に触れると再発してしまうようだ。それを考えると、やっぱり都心の込み合う路線なんかに乗るのはまだ当分無理だろうな。

 

 それからしばらくの待機時間を経て、再び動き始めた車両は房総半島の北側を沿うように進んでいく。

 

「わぁ! 見て見て! 海が見えるよ」

 

 海の沿岸を走る電車からは東京湾が見渡せた。天気が良いこともあり、かなりオーシャンビューと言える景色が広がっている。

 

「遠くに千葉の辺りも見えますね。あちらは東京の方でしょうか」

「位置的に横浜じゃねえか?」

「先輩先輩っ! あれってもしかして富士山じゃないですか?」

 

 ほとんど初めて見る房総半島からの景色は新鮮で、笹原も鈴谷も楽しそうに騒ぎ出す。

 生活のほとんどが千葉駅の周辺で事足りる俺達にとって、この辺りはまるで未開の地だ。田舎の方だとは聞いていたが、にしてもこの路線から見える景色はまさに絶景と言えるものだ。

 

 進む列車の左側には長閑な山間風景、そして右側には海が太陽の光を吸い込んでキラキラと輝いてる。そしてその向こうには仄かに映る横浜と千葉の街並みと、はるか彼方には鎮座するように富士山が溶け込んでいる。

 

 思いもかけない絶景にテンションが上がっていくが、時宮先輩はその静かな相貌でただじっと隣ではしゃぐ二人の様子を微笑みながら眺めていた。

 

「そう言えば時宮先輩はあまりこちらの方には来ないって言ってましたけど、千葉の生まれなんですよね」

「えぇ、とは言っても一度関西の方に引っ越してるから、千葉へは中学生の頃からの方が長いわ」

「あ、私もです! 一度九州の方に引っ越してるので、千葉へは高校から」

 

 話題に首を突っ込むように鈴谷が手を挙げて答える。

 

「そう言えばお前って今はどうなんだ? 一人暮らし?」

「はい、下宿を借りてそこに住んでます」

「私も一回遊びに行ったけど、すっごく大きなお部屋だったよ。漫画も沢山あったし」

「ふーん、そうなのか」

 

 鈴谷の場合は、家庭の事も有って一度千葉を離れたのだろう。

 

 だがそれにしても、鈴谷の下宿先って結構広かったりするのか。笹原の家もそうだし、こいつらの父親っていったい何の職業に就いてるんだ。それなりの高収入っていうと医者とかだろうか。

 

「今度は先輩も遊びに来てくださいよ。なんならずっと私の部屋で寝泊りしてもらっても構いませんよ。もちろん私の御奉仕付きで!」

「遠慮しとく。朝起きたらショ○カー戦闘員とかに改造されてそうだ」

「イーッ! ってそんなことしませんってばぁ!」

 

 なんて他愛の無い話をしているうちに、列車の外はますます緑を濃くしていく。

 

「ん、いや待てよ……」

 

 次の駅に到着するアナウンスが流れ始め、車両のスピードが緩やかに下がっていくさなか、俺は頭の片隅でふっと湧き出るように違和感を覚えた。

 そうだ。一つ、この会話の中におかしな点がある。

 

「あの、時宮先輩」

「ん? どうかしたの?」

「……あ、いいえ。すいません。なんでも」

「?」

 

 相変わらずのクールフェイスで不思議そうに顔を傾ける時宮先輩。

 だが、やっぱりだ。やっぱりおかしい。

 

「俺と時宮先輩は幼馴染……なんだよな」

 

 俺は誰にも聞こえない小声でぼそっとつぶやく。

 

 時宮先輩と俺の接点と言えば、中学から通う学校が同じというところだ。もちろん、だから俺は時宮先輩と中学から知り合ったという事になる。

 

 だが、それならわざわざ幼馴染だなんて言われるだろうか。

 

 まあ、それも分からない話ではない。もしかすると中学からでもそう呼べる間柄だという人も居るかもしれないし。だが、普通幼馴染と言えば幼稚園とか、小学校からとか、そういう小さな頃からの付き合いで言うことなんじゃないか。

 

 現に俺は時宮先輩との記憶は中学に入ってからのものしか存在しない。そして時宮先輩も、千葉へは中学校へ上がってから戻ってきたと話していた。

 

 だがそれでは辻褄が合わないのだ。

 そもそもだったらどうして妹の綾子は時宮先輩の存在をあそこまで明確に知っている? 俺の記憶の中で妹と時宮先輩が会って話したり、そういう接点はほとんどないはずだ。

 

 俺はてっきり、俺が知らないだけで時宮先輩との交流は昔からあるものだと思っていた。両親も変に時宮先輩とは仲が良いし、綾子にしてもどこかで時宮先輩との間にも何かしらの接点があるものだと、そう思っていた。

 

 待て……なんだ。なんなんだこの違和感は。そもそもどうして俺と時宮先輩は、幼馴染だなんて思われてるんだ。

 

「前田君?」

 

 はっと我に返ると、正面の席から笹原が心配そうな眼差しをこちらに向けていた。

 

「大丈夫?」

「あ……? あぁ、大丈夫だ。なんでもない」

 

 もしかしたら考え過ぎなのかもしれない。だが、綾子の時宮先輩への態度といい、何か気になる。

 

「そろそろ次の駅に着くみたいだけど、これからどうする?」

「折角ですし、一度適当な場所で降りてみてはどうでしょうか。ほら、風も気持ち良さそうですし」

 

 時宮先輩の言葉にそう返した鈴谷は、とてっと席から立ち上がる。

 

「うんうん。電車の中も面白いけど、折角だもんね」

「ふふ、そうね。それじゃあ次の駅で一度皆で降りてみましょ」

 

 続いて時宮先輩と笹原も立ち上がると、駅のホームに到着し開いた扉から足を伸ばして降り始める。

 

「ほらほら、先輩も早くしないと置いてかれちゃいますよ?」

 

 どこかぼーっとしていた俺の手を掴むと、鈴谷はぐっと引っ張って立ち上がらせて、嬉しそうに外のホームへと飛び出した。




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