ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
ロッカーの中にはいくつもの禍々しいピンクローターが転がっている。そして網目状になったローターのケーブルの上には、男性器の形を模した何本ものバイブが無造作に置かれていた。
いったい幾つあるんだ。そこには眩暈がするほどに夥しい数のローターとバイブが詰め込まれている。
「おま……、どうして、こんなものがロッカーに入ってるんだ……!?」
「それはですねぇ。昨日のうちに私が入れておいたからですっ!」
鈴谷はまるで曇り一つない満面の笑みで返す。それを見て俺は妹に誕生日プレゼンとをやった時の事を思い出した。心の底から幸せを感じているような、そんな邪悪さが一欠けらもない笑みだ。
鈴谷はロッカーに手を突っ込むと、おもむろにローターを一つ取り出してみせた。それこそ渡されたクリスマスプレゼントを手に取るように、ロッカーに入った大量の淫具を背景にしても鈴谷は健やかな少女らしい顔を見せる。
「先輩とは、その……笹原先輩の一件が片付いてからって約束でした」
すると鈴谷は肩をピタンと合わせる様にして、耳元に口を近づける。
「……まあ、そう言う話だったよな。だったらこいつはどういう事だよ」
「でも、やっぱり私にもご褒美が欲しいんです。ふふ、いけない子ですよね、私って。先輩の素敵な肉奴隷になるんなら、『待て』の一年や二年くらい我慢しなきゃいけないのに」
鈴谷はボソッと耳打ちしながらこちらへ半身を密着させる。こっちはロッカーの中身が通行人に騒がれないか気が気じゃないっていうのにっ……!
「でもやっぱり駄目みたいです。私、どうしても先輩にいじめて欲しくなっちゃいました」
「確かにお前には感謝してる。けど……」
俺はちらりと笹原の方に目をやる。なぜ笹原が気になったのか、そりゃこの通行人の数だ。勿論成人の男だって居るし、今の笹原には安全とは言い難い。でも、本当にたったそれだけで俺は――。
「私、先輩のいう事ならなんだって聞きます。どんな事だってできちゃいます。笹原先輩にも幸せになって欲しいし、先輩達の為ならなんだって協力します。だから……、だから私にもほんの少しだけ、少しだけご褒美を下さい。先輩」
そうだ。鈴谷はこういう人間だった。
ここ最近は笹原の事ばかりで疎かになっていたが、鈴谷真昼はこの手の『邪道』を平然とやってのけるのだ。いくら常識的には
露出調教。それは俺と笹原の目標だ。しかし今は鈴谷こそがそいつを望んでいる。笹原ではなく、自分が俺の調教対象となろうとしている。
「どうしたんですか? 私はこんなに先輩の事を想ってるのに、先輩は私に何も与えてくれないんですか」
「でも……そいつは」
鈴谷の願望は俺からの調教を受ける事。でも、そいつは笹原との約束事項でもあるのだ。いや、それよりも俺は……もしかして。
もしかして、臆病になってるのか。笹原以外の人間と、関係を持つことを。
「ふふ、やっぱり迷ってるんですね、先輩は。でも安心して下さい。私〝達〟は先輩だからこそ調教して欲しいんです。滅茶苦茶にして欲しいんです。先輩の喜ぶ事ならなんでもやります。なんだったら今ココで入れても良いですよ……?」
照れるように頬を赤らめながら、鈴谷はわざとらしく目を泳がせる。
駅の往来のまっただなかで、まるでその注目すら集めるように、手には派手なピンク色のローターが摘まれている。
というか、いや待て。それよりも――。
「〝達〟……?」
「はい、私達です」
そこを確認し、俺はそーっと笹原へと目を向ける。
「えっと、その……」
すると笹原は恥ずかしそうに目を細めると、さっと目線を横へ泳がせた。
え? どういうこと?
「ははぁん。先輩騙されちゃいましたね! そうですよ、これは笹原先輩の希望なんです。また私がわがまま言っちゃったと思いましたぁ?」
「……」
鈴谷はぺろっと舌を出して、してやったりと手に持ったローターを俺に向けてかざしてくる。
「っつうと……」
俺はまた痛くなってきた頭を掻き毟る。
「……うん。えっとね、この前見た漫画でね、女の子二人が男の人にペットみたいにされちゃうの。それでね、その漫画を読んでたら、なんだかこういうのも良いかな~って……それで」
「私もお呼ばれしたってわけです。さぁさぁ先輩! これで心置きなくいたいけな女の子二人を甚振れちゃいますねっ!」
鈴谷が豪気に親指を立てる。というか、待って欲しい。
「え? 何、俺はつまり、お前ら二人を相手にしなきゃいけないってことか……?」
「YES!」
「う、うん」
ふらっと体から力が抜けていく。
そいつを寸前のところで踏ん張って、立ちくらみを起しながら俺は思案する。
え、マジ? 一人でも大変なド変態を二人いっぺんに?
思えば今までこいつらを同時に相手する事なんてなかった。しかし一人でも精一杯と言うか、気力体力共に限界なのに二人同時?
「お願い、前田君。どうしてもその、二人一緒にしてみたいっていうかね、えっと……。なんだかそっちもエッチそうだから!」
笹原が上目遣いに両手を結んで願い込む。
「分かります。分かりますよぉ! 二人一緒だと余計に雑に扱われてるって感じがして萌えますよねぇ! あぁ、私って数いるペットの一人に過ぎないんだ、すっごく軽い存在なんだって。そんなふうにぞんざいに扱われてる感じが凄くキますよね~!」
鈴谷がエキサイトし始めて、俺は次第に絶望の淵へ立たされていく。
あぁ、これ、俺にとっては間違いなく地獄だ。全国の男子の全てが俺に失望しようとも、こっちにはそう言い切るだけの資格がある。
これならまだ笹原を背負ってあの地獄登山コースを往復した方がマシだ。考えてもみろ、この人目のつく構内で、超高校級のドスケベを二人相手にしなきゃいけない。それも露出調教なんて危険度MAXのプレイで。
俺の社会的安定なんてかなぐり捨てて、地雷原に放り投げるような行為に等しい。つまりは、絶対にただでは帰れないという事だ。
『うん』なんて軽々しく言えるわけがない。わけはないのだが……。
「……ぐ、ぐふっ」
拒絶したい。拒否したい。それがどれだけいやらしいことで、淫らに蜜の匂いを漂わせていたとしても、俺の性分がそいつを否定する。だが、それは絶対に叶わない。なぜなら、俺にはこの厄介な体質があるのだ。
「ぐっ、はぅ!」
頭痛は予感どおり大きくなる。まるで巨大な鐘が幾度も鳴り響くように、ズキンと鈍く痛む。
心臓の鼓動が早くなる。発汗が半端じゃない。口で「嫌だ」と言うことが生理的に不可能になっていく。
「私からもお願いします、先輩。それが笹原先輩の願いなんです」
「……んはぁ、はぁ」
相変わらず厄介な体質だよ本当に。だがそいつも、一度は俺が覚悟して決めたことだ。それなら、俺は俺なりに筋を通すしかないのだ。
それが例えどれだけの変態行為であろうとも、俺はこいつらを調教しなければならない。
「……分かった。分かったよ……」
苦渋の思いで俺はそう言葉を搾り出す。本当なら絶対に言いたくない同意の言葉を吐いて、死にそうな目になる俺を目の前にしても慌てふためかないこちつらはマジで鬼だ。
「分かったよ、この破滅志願者どもめ。こうなったら徹底的に付き合ってやる」
どうやら俺は、とんでもなく淫らで破廉恥で、そして歪な色をした青春に片足を突っ込もうとしているのかもしれない。