ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
朝目が覚めると、見ていた夢の内容と一緒に昨日の事を思い出す。まさに夢のような時間と言って差し支えないだろうが、それが吉夢なのか悪夢なのかは俺の中で議論が分かれるところだ。
「ふぁ~あ……」
情けないあくびをしながらベッドを立ち上がり、パジャマ姿のまま部屋を出る。
廊下から階段の下を覗くと、人気も無くしんと静かだ。
「あれ、もしかして寝過ごしたかな」
もしかすると昼中まで寝過ごしてしまったかと思い、昨日笹原に言われた「また明日」を思い出してほんの少し焦る。だが時計を見ると時刻はまだ午前6時半で、どうやら珍しく早起きしたらしい。
「あれ、兄ちゃんじゃん。やっほー、おはよう」
「おう」
にょきりと隣の部屋から顔を出したのは妹の綾子だった。綾子も起きたところなのか、水色のスエットを着てあちこちに寝癖を跳ねさせながら目をこすっている。
「珍しいね、兄ちゃんが早起きなんて」
「そっちは朝練か?」
「うんー。毎朝早くて困るよねホントに」
そのまま廊下で合流した俺達は、ドテドテとのろまな足取りで階段を下りていく。そしてパチリとリビングの明かりを点けると、綾子は冷蔵庫からフルーツ牛乳の紙パックを取り出した。
「そんなにのんびりしてて良いのか。遅刻しちゃうぞ」
「良いの良いの。朝練なんて半分ランニングだし、学校まで走っていけば問題ないから」
我が妹ながら社会的にはあまり認めてもらえなさそうな理由を付けると、腰に手を当ててグイっとフルーツ牛乳を一気飲みする。その姿はとても男らしいのだが、口から洩れたオレンジ色の液体がスウェットにまで零れている。そんなところまで男勝りしなくてもいいのに。
「ぱはぁ! やっぱ朝はこれに限るわぁ!」
「お前は風呂上がりのおっさんかよ」
「兄ちゃんも飲む? ほらまだ残ってるし」
「いらねぇいらねぇ。つうかそんな大胆な飲み方された後に渡されても、正直あんま飲む気になれんし。それにもうほとんど残ってねぇじゃん。描写的なあれじゃなく文字通り一滴くらいしか残ってないじゃん」
「じゃあ残りも私が頂くね~!」
すると妹は望遠鏡を見るように紙パックの底を一度覗くと、そのまま真っ逆さまに紙パックを向けて、口をやたらと大きく開ける。
「んーっ」
ピチョン。と一滴だけ落ちてきた液体を飲み込むと、妹はぱぁ! とまた満足げに声を漏らした。
「お前、普段からそんな感じなのか?」
「そんな感じって?」
「例えば飲みさしのペットボトルを男子に渡したり、男子がまだ残ってる教室で着替え始めたり、そう言うデリカシー的なところだ」
「ん? ん~、まぁ男子から変に遠慮されることはあるけど」
「なぁ綾子。兄妹揃っていい年なんだし、そういう男女間の距離感? みたいな感性は身に着けとかないと、大人になってから困ると思うんだ」
「そぉ? 私は別に気にしないけど」
「お前が気にしなくたって俺が気にするんだよ」
「うーん。なんだか良くわからないけど」
首を傾げて難しそうな顔をする妹。こいつの場合、いくら兄妹とはいえ男である俺の前を平気で裸で通るくらいだし、外でも同じ感じじゃないか少し心配になってくる。
なので俺はそいつを確かめるためにも、妹に少し問題を出してやることにした。
「では問題です。ある日、会社のオフィスビルでお前は男の上司から、自販機の紅茶を奢ってもらったとしよう。正しい対応はどっち。A:お礼を言って胸を揉ませる。B:お礼を言いながら尻を触らせて、かつ同時に胸も揉ませる。さぁどっちだ!」
「ねぇねぇ、兄ちゃん。私そういう男女の距離感? 的なのってよくわからないんだけどさ。その問題って本当に答えあんの?」
「もちろんだ。兄を信じたまえ」
「うーん……」
綾子は首を傾げて、しばらく考えた後に不安気に答える。
「じゃあ……Aかな?」
「ファイナルアンサー?」
「うん」
「よしよしそうか……。ところで綾子よ、フルーツ牛乳の次は暖かい紅茶なんか飲みたくないか」
「あのさ兄ちゃん。兄ちゃんは男女のうんたらを学ぶ前に、妹に対するセクハラ問題についてそろそろ真面目に取り組むべきだと思うんだけど」
「何を言う。兄ちゃんはこう見えても真剣だ」
「そ、そうかな……?」
「そうだ」
俺が真面目な顔で見つめると、綾子もむにゃむにゃと口元を歪ませながら、「そうなのかなぁ~……」と苦心する。
「うーん……」
まだ疑わしい目でこちらを見る綾子だが、頭を指でつんつんとつつきながら、次第に「まぁそういうものなのかなぁ」といった思考に傾いていく。
「本当に信じていいの?」
「あぁ当然じゃないか。分かったら兄ちゃんの暖かい紅茶を飲んで大人しく胸を揉まれろっ!!」
ビシッ。
「兄ちゃんってたまに目が血走ってるけど、最近欲求不満なの? 悪いんだけどさ、私は兄ちゃんの欲求に関する問題までは解決できないよ?」
調子に乗りすぎたところを妹にチョップされる。脳天が超痛ぇ。
「それで兄ちゃんは何か飲まないの? 同じのならまだもう一つ残ってるけど。それとも暖かい紅茶にする?」
「悪いが兄ちゃんは朝は甘ったるいコーヒーしか飲まない主義だ」
「さっきまでの問答なんだったの!?」
とまぁ、こうして俺達は兄妹の朝の団らんを迎える。
『ピンポーン』
「ん、誰だろ?」
朝食を終えて、互いに着替えを済ませたところで玄関のチャイムが鳴る。
綾子がすたすたと玄関に赴き、俺もそれとなく顔を出すと、ガチャリと開いた扉の前に立っていたのは時宮先輩だった。
「おはよう。今日も部活あるみたいだから、迎えに来たんだけど」
見ると制服姿の時宮先輩がカバンを手に下げてにこりと笑みを作る。
「時宮先輩? わざわざ迎えに来てくれたんですか」
「うん。迷惑じゃないと良いんだけど」
「別に迷惑なんかじゃないですけど、先輩から来てくれるなんて思ってなかったので。ちょっと待っててくださいね、すぐに準備するので」
「うん。玄関で待ってるね」
そうして俺は慌てて自分の部屋に戻り、最低限の物だけ入ったカバンを持つと、また階段を下りていく。
「……どういうつもりなんですか」
だが、階段から玄関へ行こうとしたとき、そんな妹の声が聞こえてきた。
「っ……」
何故だか分からない。だが俺は瞬間的に、壁に背を付けて物陰に隠れる。
「どういうつもりって?」
「最近お兄ちゃんと会ってるみたいですけど、どういうつもりなんですかって聞いてるんですよ」
「会ってるって、前田くんから聞いてないの? 私、前田くんに誘われて同じ部活に入ったんだよ」
「それは……聞きました……けど」
「それに、私はただ前田くんに付き合ってるだけだから。これも私なりの人助けって言うのかな。卒業まではちょうど暇も持て余してたし」
「本当は、何を考えてるんですか。まさか、まだあの事……」
「本当に何もないよ。綾子ちゃんが心配するような事は何も」
何やら軽い口論になってるようだ。しかも話の内容に俺が含まれてる……?
そもそもあの二人が面と向かって話してるところなんて滅多にみないのに。いったい何を話してるんだ。
「それじゃあ私達、学校に行くから。綾子ちゃんも早く部活行かなきゃだめだよ?」
「私は、私は兄ちゃんの事、ずっと心配してるんです……。時宮さん。あなたが何をしようとしてるのか大体分かってますけど、それって本当に兄ちゃんにとって良い事だなんて、私には思えません」
「ふふ、綾子ちゃん? 綾子ちゃんももう高校生になるんなら、お兄さん離れしないとね」
「…………お願いですから、もう兄ちゃんには」
「大丈夫だよ。私は私でちゃんと考えてるから。だから、もう一度言うね。早く部活に行った方が良いよ、綾子ちゃん」
「…………私は」
なんというかどんどん物々しい雰囲気になってくる。
「あ、あぁ~……。すいません、お待たせしました」
俺はそんな妹が見ていられなくなったというのもあり、わざとらしく階段から姿を現すと、靴に履き替えて玄関から外へと出る。
「それじゃあ行ってくるから。学校行く前に母さんと父さん、起こしてやってくれ」
「……うん。いってらっしゃい」
その時の綾子は普段通りと言うか、いつも俺に見せる元気そうな顔をしていた。
にしても、本当に何を話してたんだろう。俺にはよくわからない。