ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
その日の放課後、女子組は水着を買うとかで、御影先生も連れて駅前までショッピングに出かけていった。
俺も同伴を強要されそうになったが、そう言うのはラブコメ小説でやるようなイベントだ。何より俺は帰ってゆっくりラノベでも読みながらベッドで過ごしたいし、なんならそのつもりでさっさと帰ろうと部室を後にしたのだが、何故だか気が付くと俺まで一緒に連行されていた。
「にしてもいったいどこに行くんだよ?」
「駅前の水着屋さんです。種類も多いですし、可愛い柄が多いんですよぉ」
学校から向かう道すがら、俺は心配になってそう鈴谷に聞くと、鈴谷は珍しく普通の女子高生っぽい反応を返す。
「言っとくが駅前のショッピングモールはアウトだからな。あんな場所にこいつ連れて行ったら三回は吐いて倒れるぞ」
「大丈夫ですよぅ。今から行くお店はそれほど人も居ませんし、なによりお客さんから店員さんまでほぼ女性ですから」
因みに俺達の歩いているこの学校近辺の道にしても、駅前とは違い幅が狭いため笹原的にはデンジャーゾーンである。そのおかげでこちらは常にあちこち目配せしながら歩く羽目になっている。
「なんだかんだ言って先輩も笹原先輩の事、ちゃんと気にかけてあげてるんですね」
「別に、後始末が面倒なだけだっての」
昨日のように人が居なかったり少ない場所であればそれほど不自由は感じないが、笹原の持つトラウマによる体質は極めて厄介な代物だ。
人が多い場所は勿論アウトだし、男と密着したり極端に近くなる場所もアウト。とは言え何時までもこのままってわけにもいかないので、多少は死地に赴いて慣れさせる必要がある。今回のプールはそういう意味でも良い機会だろう。
「笹原先輩の水着姿、楽しみですね」
なんて言って鈴谷は道案内を続ける。そうしてやってきたのが駅近くにある件の水着ショップである。
「なあ。本当に俺も入らなきゃダメ?」
「駄目ですよ先輩。女の子の買い物に男の子が付き添うのは、万物において古来からの決まり事なんですから」
「そっか古来からじゃしかたな……とはならないだろ絶対!」
「そうそう、これはいにしえからの決まりなんだよ? ほら早く早くっ!」
嫌そうな顔で抵抗する俺を鈴谷は強く手を引き、背中からも笹原がグイグイ押してくる。
そうして俺は否応なしに中へ引き込まれ店内を見ていると、案の定ピンクだとか水玉だとか、フリルだとかビキニだとか最新のおしゃれコーデとかで満ちていた。
「何と言うか、化け物の胃の中に入ったみたいな戦慄があるんだが……」
慣れない雰囲気に肩を震わせる俺。できる自衛手段と言えばせいぜい「俺はあくまでこいつらの付き添いですよー」という雰囲気を出すことくらいである。
それに俺のような男子が女子モノの水着ショップに入るなんていかにも不審だし、現に店員さんもこちらをちらちらと見ている気がする。それとも店員さんの視線は俺の自意識過剰で、この空間に居る恐怖のあまり被害妄想している説も拭いきれない。そうでなければ店員さんは俺が見ている幻の精だ。
「あ、これとか可愛いですよ」
「私あっちの方見てくるね!」
キャッキャと騒ぎ始める女子達について行くように、俺は店内をばつの悪そうな顔でうろつく。
まるで子供が迷子にならないよう母親の背中にぴったりついて歩くように、俺もまた時宮先輩や鈴谷の背中をばっちり追って行った。こいつを見失うと俺は帰り道はおろか、野獣に囲まれた夜の森で取り残されたかのように怯えて身動きすらとれなくなってしまう。だからこそそれとなく、だが内心では必死に前の女子達の背中を追いかける。ボッチ男子をこんなところに引っ張り出すとかこいつら本当に人間かよ……。
「なぁ。俺、別に必要なくないか? なんだったら外のベンチで缶コーヒー飲んでて良い? 大人しくしとくから」
「もぅ、だから駄目ですよ先輩ぃ? 先輩には私達にどの水着が似合うか見てもらうお仕事があるんですからぁ!」
これ以上入り込んだらいよいよ後に戻れなくなる。その前になんとか逃げ出せないかと最後のチャンスに賭けたが、こいつらどうやら一度噛みついた獲物を離す気はさらさら無いらしい。
そして俺は為す術もなく、ついに更衣室の前に陣取る羽目となってしまった。
「それじゃあ先輩はしばらく待っててくださいね。あ、それとも私と一緒に更衣室入ってぇ、互いの吐息が聞こえるくらい近くで生着替えとか見ちゃいます? 私ならむしろ歓迎と言うかぁ……」
「頼むから早くしてくれ」
勝手に頬を染めて発情モードになる鈴谷に間髪入れずそう言葉を返す。お願いだから早くここから出して。もうこれ以上は本当に精神が持たないから。
「じゃあ折角だし、前田くんにも見てもらいましょうか」
鈴谷と笹原、そして時宮先輩がそれぞれ店の水着を持って更衣室に入っていく。疲弊した顔で待っていると、中で布の擦れる音をさせながら、最初に笹原が声を出した。
「じゃーん! ねぇねぇ見て。これとかどうかな」
更衣室のカーテンが開くと、笹原が着替えたての水着姿をこちらに見せる。
それは店内を象徴するかのようなピンク色で、胸にフリルの付いた水着だ。笹原は長い髪を左右に鞠のようにしてくくっている。
その水着は良く言えば可愛らしく、また別の言い方をすれば小学生が着ていそうというようなデザインだったが、笹原には妙に似合っていた。
「お、おう。結構良いんじゃね?」
「良かったぁ。こういうのって少し子供っぽいけど、次はもうちょっと大人っぽいのも着てみるね」
俺は笹原に色香ただようグラビアアイドルが着てそうな水着を当てはめて、いやいややっぱ違うわと首を振る。
「今みたいなやつの方が似合うんじゃねえか?」
「そうかな? じゃあビキニとかどおっ!」
笹原にビキニ……。何と言うか、犯罪臭い。
「分かった分かった。見てやるから、早めに頼む」
「はーい」
「前田くん。私の方はどうかしら?」
笹原のカーテンが閉まると、次は隣の更衣室が開く。すると時宮先輩が腰に手を当てて背筋をまっすぐに伸ばした恰好で、黒と白の縦縞模様柄の水着姿を見せる。
「に……似合ってます」
「そう?」
「何と言うか、先輩がそういう水着を着るなんて意外でした」
と言うのも時宮先輩の水着、何というか布面積が少ないと言うか、ブラ部分が四角い眼帯のような形になっているのだが、そこの面積がかなり際どいおかげで大きな先輩の胸がより強調されてしまったような格好になっている。
「あ、前田くんったらまた見てるでしょ?」
「す、すいません」
「まぁでも、しょうがないわよね。こういう水着だもん」
「その、先輩はそういうのが好みなんですか?」
「うーん。あまり肌を露出するのは好きじゃないんだけど、たまには良いかなって思って」
先輩にどういう心境の変化があったのかは知らないが、俺は正直に胸の内を言葉にする。
「そういうのも似合うと思います。むしろそういうのだからこそ似合ってます」
「前田くん。そういう下心見え見えのお世辞はどうかと思うわよ? 私だから素直に喜んであげるけれど、他の女の子にするときはもう少しオブラートに包んであげてね」
それから「別のも着てみるね」と言ってカーテンが閉まる。
「先輩私のも!」
「お前のは落ちが見えてるからいい」
「えぇ! そんなことないですよぉ」
さらにその隣の更衣室から鈴谷の声が聞こえるが、大方想像が付いてしまうのがちょっと嫌だ。
「どうせまた異様にいかがわしいデザインの水着とかだろ」
「ふっふっふ。ハズレです!」
ジャジャーン! とカーテンが開いて現れたのは、意外にも穴あきビキニでも下半身露出スク水でもなく、どちらかと言うと露出は控えめな普通の水着姿だった。
「どうですか? 私って結構水着には自信あるんですよぉ?」
鈴谷がくるりと背中を見せる。黒色の水着は前から見るとワンピースのように上半身が覆われているが、後ろは紐で結ばれており、ビキニのようにも見える。
それで背中とわき腹とのところがぱっくりと空いているので、腰のくびれや体のスタイルなどが目立ちやすいデザインだ。鈴谷が着ると肌こそあまり出ないが、スタイルの良さが全面に出ており、まるでモデルのような着こなしである。
「なんつぅか。お前はホント黙ってれば凄いよな」
「……駄目なんです。私、常に地上波で放送すれば打ち切られてしまうくらい卑猥な言葉を発言し続けないと死んでしまう病気なんです」
「うん。病気である事は間違いないな」
シリアスな表情と言ってる事がまったくかみ合ってない鈴谷に落ちも付いたところで、俺はカーテンをしゃーっと戻す。
「あ、酷いです先輩せめて着替えるところまでは見てくだ――」
あーあー聞こえない。
にしても三者三様と言うか、やっぱそれぞれのキャラで似合う水着も違うんだなと、少しだけ水着の世界に関心を持つ。
店内には所狭しと水着が並んでいて、この中から自分に似合うモノを見つけるのはそれなりに至難に思えるが、自分のスタイルや好みから絞り込めば案外そこまでの数は無いのかもしれない。
「君はあれだな。意外と女子から好意を持たれる人間なんだな」
「御影先生。って、またどうして水着姿なんですか」
「時宮に無理矢理着せられたんだ」
いつの間にか横に立っていた御影先生はじっと更衣室の方を見ながら、誰か出てこないかと待っているようだ。
身につけているのは青色のビキニで、上は胸で一度クロスさせ、そのまま首に巻き付けるようにして着けられている。どちらかと言えば大人びた雰囲気の水着だが、御影先生には不思議と似合っていた。それも大きくに発達した胸部のせいだろうか。髪はおろして左右に束ねている。
「好意とはまた違うような気もしますけどね」
「そうか? ほかの男子が今の君を見れば、血涙を流しそうなものだが」
「それは当事者じゃないからこそできる芸当ですよ。そもそも人の眼から血は流れませんし」
「相変わらず面白味の無い人間だな君は」
御影先生は俺の言葉にじっとこちらを見ると、仏頂面のままぷいっとそっぽを向いてしまう。
「君はソニッ○ブームとサマー○ルトでひたすら相手を待つようなタイプだな」
「人をどこぞの米国軍人みたいに言わないでください。俺はマーシャルアーツの達人でもなければ箒を逆さにしたような金髪でもありません」
強いて共通点を言うならコーヒー好きってところくらいだろうか。
「そうでなければ弱パンチをガードさせて投げハメに持ち込むようなタイプだ」
「格闘ゲーム好きなんですね。というか何時の時代の人ですか」
そう言葉を返すと、なぜか御影先生は満足げな顔で「ふんっ」と鼻を鳴らす。
「前田君ー! 次はこっちこっち」
「あぁ。分かった分かった」
「その前に誰か更衣室を代わってくれないか。そろそろ肌が冷えてきたのだが……」
そんなこんなと水着を選び終えると、買い物を済ませて俺達は来たるべき明日を待つのだった。