ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
それから俺達はフードコートを探しドームの二階へと上がった。
この『スーパービーチ・サンシャインプール(略してスパサン)』は貝殻のような階層構造になっており、一階部分がプール、二階がフードコートや休憩室、そして三階が温水施設とそれぞれ分けられている。フロアを仕切る壁なども無いため、二階からは手すり越しにプールの様子を見渡す事ができた。なんともオーシャンビューな解放感である。
「どんなのがあるか楽しみだね」
笹原が隣で歩きながら笑顔を作る。そのハニカんだ顔は小さな子供のように健やかだ。こうしているとホントにサークル仲間でプールを満喫してるようにしか思えないが、しかし笹原の真の姿はいつ大爆発してもおかしくないギリギリ状態の時限爆弾だという事は忘れてはならない。言うなればガソリンが大量に入った缶を脇で抱えながら、静電気が起きないように細心の注意を払っているのが今だ。ちょっとでもパチリとなればたちまち周囲を巻き込んでの大惨事である。そうなってしまえば、俺達は帰りにプールの水ではなく笹原の胃液をシャワーで洗い流すハメになるだろう。
「先輩先輩っ、フードーコートってあの辺りじゃないですか?」
見てみると、鈴谷が指さす先には多くの屋台が軒を連ねていた。
まるでお祭りの縁日みたいにのぼりが上がり、鉄板で肉を焼く音や煙なんかが空腹感をくすぐる。
「美味そうな匂いだ」
御影先生は相変わらずな無表情で屋台をじっと見つめる。しかしその口からはほんの少量の涎が零れている。この人もこの人で子供っぽいところがあるな。
「しかし先ほどから気になっていたんだが、あれらはどうやって購入するんだ? 財布はロッカールームの中だぞ」
「ほら、これですよ先生。ロッカールームの鍵に付いてるバーコードでお金を払うんです」
「これか。最近のレジャー施設というのはよく出来てる」
時宮先輩が御影先生にそう説明すると、先生は興味深そうに腕に着けたロッカーキーを眺める。
「温泉施設なんかでも良くあるよなこういうの。で、誰かが決まって使い過ぎてたりする」
テンションに任せてはしゃぐと後で膨れに膨らんだ額を見て足を震わせることになる。後払いの恐ろしさである。俺はこれをクレジットカードの原理と呼んでいる。
「わーい! ご飯だご飯だ~!」
例えばああやって嬉しそうにダッシュしていく奴なんてのは施設側からすると恰好のカモである。これあれだ。後でロッカーキーごと預かった方が良いやつだな。
「あ、待ってください笹原先輩ぃ!」
「ほらほら、皆も早く早く!」
にしてもさっきまでこの世の終わりみたいに青ざめてたってのに、今じゃ何時も以上に楽しそうと言うか、ワキャワキャしてる。
「あいつ、自分がトラウマ体質だって自覚してるのか?」
屋台に向かってひたすらに走っていく笹原の背中を見ながら、俺は呆れた苦笑いを作った。
俺達もその背中を追って屋台へと歩いていくと、ところどころにパラソルの刺さった白い円テーブルがイスと一緒に置いてあった。ここはどうやらフードコート形式で、それぞれで買った物をテーブルに持ち寄って食べるらしい。
辺りを見ると既にいくつかのテーブルでは宴会のごとく料理が並べられていて、中には顔を真っ赤にしている客も居る。でも分かる、分かるぞ。こういう所のってついついアレもコレもと買い過ぎちゃうんだよな。俺も使い過ぎには注意しないと。今のところ予定があるのは焼きそばだけだけど。
「それじゃあ席はここにしましょうか」
手近な席に時宮先輩と御影先生が腰掛けると、俺達は順番に屋台へと繰り出した。
テーブルの間にはレストランのような敷居は無く、代わりに壁のように南国っぽい草木が垣根のようにして生えていた。それが結構複雑に入り組んでいて、さながら俺達はジャングルに迷い込んだ遭難者の勢いだ。雰囲気作りにしてもここまでされるともはや感嘆すら漏れる。
「あいつ何も考えずに飛び出してったけど、屋台の店員が男だったらとか考えてないのか? まぁ、考えてないんだろうなあの様子じゃ」
「大丈夫ですよ先輩。笹原先輩もそれぐらいはしっかり頭に入ってるでしょうし、無理はしないと思いますから。それよりも先輩! 私も買いたいものが有るのでお先に失礼しますねっ!」
そう言うと鈴谷はひゅっとどこかへ消えてしまった。相変わらず行動が早い奴である。
「にしても、だからって一人にしとく訳にもいかないよな。まったくどこいったんだよ笹原のやつ」
俺は周りに首を振りながら、我先にと飛び出していった華奢な背中を探す。
「って、冷たっ!!」
「じゃじゃーん! これは前田君の分ね」
背中にひんやりとした感触が伝わってきて、ひゃっと体を翻すと、そこでは笹原がこちらにかき氷の入った器を差し出していた。器にデカデカと赤文字で書かれた『氷』と言う文字がなんとも業務用っぽい。因みにレモンミルク味である。
「さっきはありがとうね。また前田君にお世話になっちゃった」
「そう思うんなら、ちっとは自分の問題点ってのを自覚してくれよ?」
「ご、ごめんね。でもこれでも少しは分かってるつもりだよ?」
「さっきも無我夢中で走り去ってたじゃん」
「でもでも、今は他のお客さんもほとんど居ないし、大丈夫かなって」
「じゃあ例えばこれ、店員が男だったら買えなかっただろ」
「ふにゅ?」
笹原は目を白い点にさせて首を捻る。
「まさかお前、そこすら考えてなかったのか……」
俺は辺りを探してかき氷の屋台を見つける。案の定、店員は女の人だった。
「そ、それくらいはちゃんと分かってたよっ!」
こいつ、さては楽し過ぎて自分の症状とか丸々すっぽり忘れてやがったな。
「先輩、見てください~!」
そして今度はまた別の方から鈴谷が戻ってくる。
しかもその手にはたこ焼きにフランクフルトにアメリカンドッグにチュロスにチョコバナナと、これでもかと食べ物がてんこ盛りに乗っかっていた。
「お前、まさかそれ一人で食うのか?」
「実はこう見えても結構食べちゃう方なんですよ。あ、でも食べても太らない体質なのでそこはご心配なくです!」
「そういや前に運動してるって言ってたよな。いわゆるアスリート体質ってやつか」
「そんな大それたものじゃないですよぉ。それにほら、一つ一つはそれほど大きくありませんし」
そう言うと鈴谷はおもむろにフランクフルトを持ち上げ、先っぽをパクリと甘噛みした。
「ん、ちゅ……。ほら、ね?」
「何が、ね? だよ!」
「もぉー! 真昼ちゃん? それは流石にはしたないよ?」
お、笹原が珍しくまともな事言ってるぞ。そうだ、姉としてもっと言ってやれ。
「こういう時はまずチョコバナナから!」
「いやその指摘は色々とおかしくない!?」
「そうですよね、まずは溶けて垂れるチョコレートを繊細に舌で舐めながら、筋をなぞる様にそっと……」
「あーあー。俺は知らない。タニンナノデカッテニドウゾ」
「あ、先輩ぃ! 待ってくださいよぉ!」
俺は慌てて他人のフリをしながら距離を取る。
そう言えば持ってる物に棒状の物が多かったような……。その上たこ焼きって、まさか考えてじゃないよな? 流石の鈴谷でもそこまでとち狂ってないよな?
「先輩-! あぁんもう、折角次はたこ焼きをかぷりと食べて頬で転がすところ見てほしかったのにぃ」
やっぱりかぁああ!
こいつ、やはり鈴谷はどこに行っても鈴谷なんだな。まあ知ってたけど。