ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
状況が掴めない。っつうか、こんな状況掴めてたまるか。
何かの悪ふざけか? それとも性質の悪い冗談か? でもいずれにしても、そんな事を時宮先輩がするとは到底思えない。
だったら残された可能性は一つだ。これまでの時宮先輩の発言が、その一言一句違わず本心だと言うまさに前代未聞の可能性である。
しかしそれこそ曲がり間違っても、時宮先輩のような人がしでかすようにはどうしても思えなかった。つまり、俺はまだ心のどこかでこれは時宮先輩の演技だと信じたがっている。
「と、時宮先輩。俺には時宮先輩の言っている事の意味が分かりません。俺、何か悪い事でもしちゃったのでしょうか。やっぱりプールでの事怒ってます? もしそうならもう少し早く言ってもらえると俺としては嬉しいのですが……」
なんてビクビクしながら言ってみるけど、時宮先輩はその笑みを崩さないままだ。正直言ってかなり怖い。
「ではあたふたとしてる前田くんに一つ問いです。前田くんはこういうこと考えたことあるかな? 例えば、自分がいったいどういう人間なのかって事とか」
「どういう人間、ですか……?」
「うん。私はね。自分の事が結構嘘つきだなぁって思う事が有るの」
そう言うと、時宮先輩は俺から手を離さないまま、まるで社交ダンスのように器用に腕を回して体を回転させた。そして俺と向かい合うように体を向ける。
「だから自分の事があまり好きじゃないし、正直になれない時はみじめだなぁって思う時もあるの。でも、それでも私は周りの人に嘘をつきながらでないと生きていけない。そんな気がしてならないのよ」
時宮先輩はまるで思春期の高校生が言いそうなことを、思春期の高校生にしてその言葉が最も似合わない人間でありながら、そう自問するように話した。
「で、でも先輩は何時も優しいですし、人に親切で、頭も良くて、だったら少しくらい嘘をついたって、誰も咎めないんじゃないですか」
俺は何が何やら分からず、テンパった頭のままでそう言葉を吐き出す。それがどれほど正しくて、時宮先輩にとって心地の良い言葉かなんて考えてる余裕すらない。
すると時宮先輩のまるで別人のような眼がぎょろりと動く。そしてその眼で俺を見据えると、唖然とした顔を見せた。その迫力に、俺は狼に睨まれた子犬みたいに体を動かせなくなる。
「ぷ、ふふ、ふははは」
だがそうやら、俺の選択した言葉は時宮先輩のどこかには的中したみたいだった。
「ふは、ふふ。やっぱり面白いね、前田くんって」
「そ、そんな事ないですよ。俺はつまらない人間ですから」
「ふーん。じゃあ、もう一回さっきの質問をしてみるね。前田くんは、自分がいったいどういう人間か考えたことはあるかな? と言うよりも、自分がどういう人間なのか聞かれたときに、前田くんならなんて答えられる?」
相変わらず時宮先輩の意図が見えない。どうして俺をこんな場所に俺を連れてきてまでそんな質問をするのか。どこまでが本気で、どこまでが嘘なのか。
「お、俺は……。俺はもし答えるなら……。俺と言う人間は薄情だし、根気も無くて、だから人に優しくできなくて……。誰とも付き合えずに、友達も居ない。そう言う典型的な根暗少年だと思ってます」
「違うよ」
だが、時宮先輩は俺の答えを一蹴するようにそう言い切った。
「今のは全部嘘。その裏返しこそが君なんだよ」
「裏返し……?」
「そう。君は情に厚くて、根気強くて人に優しくて、誰とでも付き合うことができる。それが君」
「そ、そんなわけないじゃないですか。だって俺、学校じゃずっと一人なんですよ? 友達も居ないし、遊びにだって行かないし」
「それは君が本当の君を知らないからじゃないかな?」
すると時宮先輩は、俺の手を引いたままそっと足を踏み出す。
「ちょ、どこに行くんですか!?」
「私は中学の頃からずっと君を見てきたけれど、前田くんは本当はもっと凄い人間なのに、その事を忘れちゃったみたいに勘違いしてる」
「ちょ。ちょっと! そっちは!?」
時宮先輩は俺の手を引いたまま、公衆トイレへに向かってぐいぐいと進んでいく。
「ねぇ、前田くん」
まただ。さっきからずっと変わらない。
時宮先輩の頬が緩む。しかしその笑みは張り付けられたみたいに不気味で、その目も俺を見ているはずなのに、まるで何も見えていないかのように感情が無い。
「私ね、前田くんと一つ約束したよね」
「約束……?」
「もぅ、忘れちゃったの? 私が笹原さんの部活に入る代わりに、私のお願いを聞いてくれるっていう『約束』。ね? したでしょ?」
それを聞いて俺はハッと思い出す。そう言えば確かにした。あの時、時宮先輩の家のリビングで……!
「どうして、どうしてそんな事、今になって……?」
「だって今からその約束、守ってもらおうと思って」
するとついに時宮先輩は俺の体ごと、公衆トイレの中へと引きずり込む。
「せ、先輩、こっちは!」
「大丈夫。きっと誰も来ないから」
男子トイレの中に入った俺と時宮先輩は、そのまま手洗い場の前で向かい合うようにして立ち合った。
「君は自分に友達が居ないと言ったけど、それは出来なかったんじゃなくてあえて作らなかったんじゃないのかな?」
時宮先輩の言葉にまた俺の心が揺らぐ。それは時宮先輩の言葉が俺の『核心』を突いていたからに他ならなかった。この人は本当に、いったいどこまで見えているんだ。
「え、えっと、それはどうして、そう思うんですか……?」
「ふふ。だって簡単な事よ。もし私が君と同じ立場なら、きっとそうしただろうから」
俺と同じ立場? 時宮先輩は一体何を言ってるんだ。
俺はしばらく時宮先輩の言葉の意味に悩む。だが、その悩みが晴れるより前に、時宮先輩は言った。
「だって君、約束を破れないんでしょ?」
その瞬間。
『ドクン』
と、俺の心臓が破裂しそうなほどに膨張する。否、鼓動した。
戦慄、悪寒、恐怖。まるで絵の具のようにそれらがグチャグチャにかき混ぜられた様な衝撃が、俺の全身を駆け巡っていく。
「ど、どうして……それを」
冷や汗が出る。指先が痺れる。緊張で足が笑う。
「どうしてそれを、知ってるんですか」
「あら。だって見てれば気付くもの。君だって言ってくれたでしょ? 私はほら、優秀だから」
時宮先輩はまるで舌なめずりするように口を開け、舌を出す。それはもしかすると茶目っ気を見せるジェスチャーだったのかもしれないが、今の時宮先輩からは恐怖しか感じ取れない。
「だから君が誰かとした約束を破れないって事も知ってるし、そんな君が笹原さんや鈴谷さんと何かを約束をしてるのも知ってる。ふふ、どう? 当たってるでしょ。まぁ、流石にその内容までは分からないけれどね。……だけど。だからこそ君はあの二人に付き合ってるんだよね?」
「そ、それは……」
それは本当の事だ。だが、俺の口からは一切言葉が出てこなかった。
この人は、本当に一体何者なんだろう。まるで全知全能の神みたいに、少しでも隙を見せれば全てを見通してしまいそうな凄みを感じる。まるで俺が一言でも言葉を発してしまえば、それだけで心の隅々まで、それこそ嘘すらつけないくらいに丸裸にされてしまいそうな予感がする。
「だから私があの子達と並ぶには、もうこうするしかなかったのよ。だからお願い、前田くん。前田くんなら、私が今からするお願いも、きっと守ってくれるわよね?」
なんだ。なんだよこれ。
どうして、時宮先輩がこんなことをするんだ。だって、時宮先輩はこれまでだってそんな事、しなかったじゃないか。
いいや、いいや違う。
俺は時宮先輩を知ってから5年こそ経つが、その中で一度としてこの人を知ろうとした事はなかった。知る切っ掛けすら自分で作ってはこなかった。だから俺と時宮先輩の付き合いなんて、本当はこの数日間の事でしかなかったんだ。
分かるはずがない。知れるはずがない。時宮先輩の、本当の素顔なんて。
「ねぇ、前田くん?」
「……!」
逃げようとした。しかし緊張で強張った体では、時宮先輩の手を引きはがせない。
もしかするとこうなる事も見越しての会話だったのか? どうであれ、俺の体は緊張と恐怖のあまりまったく言う事を聞かない。
「前田くん。それじゃあお願い、言うね?」
俺は思わず耳を塞ごうとした。そんな事で身を守れるのかなんて分からない。ただ本能や防衛反応みたいな、突発的な動きで手が耳を塞ごうとした。
「ふふ。駄目よ? 折角女の子が君に素敵な告白をしようとしてるのに」
しかしその腕すら時宮先輩にあっさり掴まってしまう。時宮先輩はそのまま関節を動けなくするように俺の腕を回し、手で要所を掴む事で身動きを取れなくした。
完璧にきめられた俺の両腕は見事に動かなくなる。だけど、これって関節技? しかもなんだこの速さは。少なくとも常人がちょっとやそっと習ってやったような動きじゃない。
「前田くん。これでもう逃げられないわよね?」
俺はそれでも逃げ出そうともがく。でも、それは蜘蛛の巣にかかった蝶のようなものだった。
足も、腕も、そして心臓すらも支配されてしまった俺の体では、どれだけジタバタもがこうと、結局のところ絶対に逃げ出す事はできない。
「クソ、クソぉおお!!」
吠えるように叫ぶ。汗が目に入ってしみる。額から何筋も汗が垂れてくる。手のひらもグチョグチョだ。
怖い。怖い。怖い――。
「じゃあ、しっかり聞いてね」
時宮先輩の声が耳元で囁かれる。その口調はまるで捕まえた俺をどういたぶってやろうか、そんな妄想に胸を膨らませているかのようだった。
言葉、表情、雰囲気。その全てが、順番に俺の正気を奪い取る様に組み立てられたものみたいだ。まるで突き立てたナイフがじわじわと刺さっていくみたいに、俺の体からは血の代わりに力が零れ落ちていく。
そして時宮先輩はゆっくりと、まるで俺を雁字搦めにするように、そっと囁く。
「前田くんには、今この場で、私のことをレイプして欲しいの」